池山田 剛（いけやまだ ごう）
小林が可愛すぎてツライっ!!（こばやしがかわいすぎてツライっ!!）
第08巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
200万部を突破してますます人気絶好調のミラクルラブコメ！ 8巻の気になる内容は…。上杉の罠にハマるめご！二人きりの部屋で上杉がめごに迫る！ 蒼はめごの元へ走るけど…？ 一方、十と梓、意地っ張りな恋にも進展が。ついに梓が十へ告白…！ 激動の8巻をお見逃し無く！！
簡潔完結感想文
- 作品が大事にする秘密は当て馬に暴露される訳にはいかないのでヒロインが口を封じる。
- ピンチを独力で切り抜けられる強さを持ったら、そのヒロインの強さに当て馬が惚れる。
- ピンチを協力で乗り切ろうとする心持ちになったら、自分の想いを言葉と行動で伝える。
小林は鈴木の そっくりさん、の 8巻。
前作『鈴木くん!!』も本書と同じように男女4人の群像劇で、意図的に2組のカップルや2人のヒロイン・ヒーローが似せられている部分があった。
『8巻』では蒼（あおい）に続いて梓（あずさ）も小林（こばやし）兄妹には敵わないと白旗を上げる部分が似ていた。蒼と梓は自分の都合で自分の好きな人を危険に巻き込むことを恐れた。その意味では蒼と梓は独力で問題に対処・解決しようとする精神的な強さ、または頑固さが よく似ている。そして彼らは相手を好きだからこそ わざと傷つけて遠ざけようとするのだけど、小林兄妹は相手から絶対に離れない。自分のこと以上に相手を考えられるのが小林兄妹の強さと魅力なのだ。その強さに触れたら、蒼や梓も信念を曲げずにはいられない。自分の心に相手の居場所を作ること、それが本書における恋なのかもしれない。
小林兄妹の強さに抗えないのは新キャラで あからさまな当て馬である知永（ちはる）も同じ。『8巻』は彼が愛（めぐむ）への恋愛感情を認めるまでの道のりでもある。
けれど知永が愛を好きになるのも、梓が十（みつる）に素直になるのも読者の予想範囲内のこと。少女漫画は恋心が変化している限り物語が死ぬことは無いらしいので、知永が物語を支えていると言ってもいい。特に知永の登場は、愛と蒼の関係が盤石になってからで遅すぎるので今後の展開に期待が持てない。
おそらく梓が極端にツンデレなのは、彼女の性格を利用して愛・蒼カップルとの歩みに差を持たせるためだろう。全15巻中の8巻という物語の折り返し地点で素直になったのは満を持してなのかもしれないけど、これもまた遅い。スピード感の失われた池山田作品は ただうるさいだけ。彼女の恋を動かすのが脅迫犯というのもスケールが小さい。一気に梓の家族問題などに踏み込んで、その過程で十の大切さを再確認するではダメだったのだろうか。本書は引っ張った割にコレ？？というエピソードが多い。
『鈴木くん!!』は短いスパンで物語が次のステージに進んでいたけど、本書は ずっと同じステージを周回している印象を受ける。絶対に こんなに巻数が必要になるような話じゃない。
そして作品的に小林兄妹が最強の存在で どんな困難も乗り越えられてしまう気配が漂うのもワクワク感を相殺している。もはや俺TUEEE！状態になっていて、小林兄妹が物語のバランスブレイカーになりつつある。ヒロインが弱すぎる少女漫画は好きじゃないと思っていたけれど、強すぎると物語に不安を持ち込むことが出来なくなるのか、と感じた。今後、作品が小林兄妹が格好つける場面を集めたような物語にならないか心配だ。
望まれてデートしていたはずが知永に拉致・監禁されて蒼を呼び出す人質にされた愛。監禁場所は知永の自宅。そこで愛は知永が蒼を好きすぎること、彼が何かの病気を抱えていることを知る。このところ ずっと知永が情報を入手してばかりだったけど、今度は愛。知永の部屋から彼の弱みを見せるような情報が続々と出てくる。話の運び方も不自然だし、愛がヒロインになる物語という感じがして好きになれない。そして この作品は愛が蒼との関係を不必要に協調・演出されるばかりで、ページが無駄に浪費されていく。
知永は愛の強さが手に負えなくて部屋から放り出したのに、最後に見たことを絶対に言うなと脅迫する。愛の方が精神的に強いのに、それは無駄ではと思ってしまう。ただし愛は知永の言葉を取引の材料にする したたかさを見せ、蒼の秘密を拡散しないように知永に約束させる。
愛は巻き込まれた事件から自力で脱出して、自分の足で蒼と再会する。助けられるのを待つのではなく自分で動き続ける。いよいよ愛が強くなり始めた。
知永は蒼の秘密を口外せずにいてくれたが、愛が自分の前に女性として再び現れた時、今度は彼女を自分の計画に巻き込むのではなく、好意を動機にして奪おうとする。やっと読者の望む形の三角関係が始まるが、結果が見えていてツライっ!!
梓はボディーガードをしてくれる十への お礼に手作り弁当を用意する。それを渡す直前、十が紫乃（しの）と仲良く隣に座って話しているのを目撃し、梓は お弁当を引っ込める。半年ぶりに紫乃と会うことで未練を自覚するのではと思っていた十だが、その心配はなく十は初恋がちゃんと終わったことを確認していた。それは正式に梓ルートに入ったことを意味するのだけど当然 梓は そこまでは分からない。梓が弁当箱ごと ゴミ箱に捨てるという それだけで嫌いになりそうな非常識な行動を取ったことで、お弁当は無事 十の手に渡る。
ボディーガードになった十に守られる日々に梓は喜びを感じていたけれど、自分を守るために十が怪我をしてしまい、浮き足立っていた自分を反省する。そして十が怪我をしたことで彼を巻き込みたくないという気持ちが湧き、遠ざけようとする。この辺は蒼の愛に対する態度と よく似ている。
そして愛が蒼の意図を汲んで、それでもなお彼と一緒にいることを選択したように、十は梓からクビを宣告されても離れていかない。守る／守られるという関係ではなく、対等に素直な言葉を交わし合って2人は共闘する。
突き放しても自分を見捨てない、そういう十の性格が強情だった梓の性格を溶かしていく。幼い頃から自分だけを信じてきた梓が初めて信じられる他者。それが十。そして その人には強がらない自分を見せられる。だから梓は言葉と行動で十に自分の想いを伝える。
