
池山田 剛(いけやまだ ごう)
小林が可愛すぎてツライっ!!(こばやしがかわいすぎてツライっ!!)
第07巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
蒼の過去を知る男・上杉が現れ、めごと蒼の恋に波乱が訪れる。蒼を敵視する上杉はめごを無理矢理デートに連れ出す。「触れられもしない蒼のどこがいいんだ」とめごに迫る上杉。それでも一途に蒼を想い、必死で彼を守ろうとするめごの姿を見て、上杉の気持ちに変化が訪れ・・・。新キャラ登場で、奇跡の恋は三角関係に突入!! 一方、十と梓は徐々に気持ちが近づいていき・・・、まさかのキス・・・!? ますます目が離せない、今一番萌える胸きゅんラブコメ!
簡潔完結感想文
- 知永が関わると物語がスローモーションになる。時間を歪める特殊能力なのか…。
- 小林兄妹は作中で無敵。女性主人公が強すぎるとヒーローが男ヒロインになりがち。
- 主要4人が関わらずバラバラの2つの話。新キャラに押し出され遂に紫乃が作品追放。
秘密を「話す話す詐欺」警報が鳴り響く 7巻。
少女漫画は長くなると性行為をするしないで話を引っ張り始めて「するする詐欺」が発生する。本書は愛(めぐむ)と蒼(あおい)の2人が30センチ以内に接近できない制約があるので当然「するする詐欺」は起こらない。
ただ50、40と着実に距離を縮めてきた2人が30センチで足踏みしているのと同じように、物語は動きを見せない。その理由が物語の大きな秘密とされる「蒼の眼帯の下」について語られることがないから。
その秘密を物語にもたらすのが新キャラの知永(ちはる)。後発キャラで当て馬である彼は、あっという間に物語の主導権を握る。そのために必要なのは情報。後発キャラなのに瞬時に全知全能になる。その急成長には目を見張るが、こういうピークがある当て馬やライバルは撤退が約束されているような気がする…。


しかし蒼が話そうとしない秘密は彼の口から語られるまで待つ、と知永が秘密を話すことを愛が禁ずる。恋を知って強くなった愛は知永をも魅了する存在となり、彼女の意思が作品の意志になる。いつの間にかに最強キャラになっている。
ヒロインが強くなると相対的にヒーローが弱体化して、蒼は いつまでも秘密を話すか話さないか逡巡する弱い人間になっている。もう蒼は男ヒロインと呼ぶしかない。そして男ヒロインが覚悟を決めるまで「話す話す詐欺」が終わらない。
しかも男性キャラの秘密やトラウマは終盤に明かされるのが定番の流れなので、まだまだ語られないのだろう。繰り返しになるけど、池山田作品で同じテーマを引っ張るのは残念。これまでなら こんなに秘密を大事にしなかっただろう。
作中で小林(こばやし)兄妹が最強の存在となり、彼らは人を脅かす脅迫や脅威に対して厳然と立ち向かう。小林兄妹が主役なのは間違いないのだけど、いよいよ双子のエピソードが分離して、それぞれ別個の話となる。交わることのない2つの世界の話は、話が単調になりそうな時に場面転換として使われている気がしてならない。紫乃(しの)の代わりに知永が投入されたように見えるけど、知永は愛側の人間で十(みつる)とは関係を持っていない。登場人物たちの横の繋がりがないし、その上 それほど希求性が高くない蒼の秘密をもったいぶる。作者のスキルが高いから読み物として ずっと面白いのだけど、作品として つまらない、という評価になってしまう。
知永(ちひろ)が ようやく動き出して、これまで作中で意図的に無視されてきた蒼の「眼帯の下」に焦点が当たる(ただし秘密は次巻以降に持ち越し)。
蒼と過去に因縁があるらしい知永は対決を望むが、蒼は無駄な戦闘をするつもりはない。その争いに愛が巻き込まれそうになった時、蒼が本気を出して知永を制止した。そこで知永は蒼にとって愛が特別であることを知る。
そして特別だからこそ蒼は愛を知永との関係に巻き込ませたくない。だから彼女に迷惑だと言い遠ざけようとする。この互いに思い遣るが故の すれ違いに知永の入る隙が生まれる。知永は あっという間に愛が女性であることを認識する。後発キャラが あっという間に状況や人間関係を把握していくのは漫画世界の お約束。知永は愛が口を滑らせたことで蒼の弱点まで握る。


知永は、蒼が愛を女性だと公言できない状況を利用して、同性として愛に接近する。蒼も自分が下手に騒ぐと愛に害が及ぶと思い それを黙認する。愛はショックを受けるものの、それが蒼の優しさだと理解できるだけの聡明さも持ち合わせている。その上で愛は蒼を心配して彼と関わろうという姿勢を示す。その強さを目の当たりにして蒼は愛への愛おしさが募り、窓越しのキスを交わす。愛がいつも強い存在でいてくれるから蒼は守られる自分を許容できる。それは痛みを分かち合える前例となる。
しかし情報強者となった知永は愛の入れ替わりをネタにして彼女を言いなりにさせる。そこで知永は愛にデートを約束させる。脅迫されたこともあり愛は蒼に何も言わない。また独力で対応することが蒼を守ることと愛は信じていた。
愛はオタクファッションで知永を幻滅させる作戦に出るが、少女漫画の お約束である男性が服を買い与えるシンデレラ行動によって かえって美貌を際立たせてしまい、知永の目を奪う。そして知永と一緒にいることで愛は彼の中にある優しさを発見し、どうして彼が蒼に執着するのかが分からなくなる。
それでも知永が蒼本人から聞いていない彼の秘密を話しだそうとすると それを制止する。知永は蒼が愛を信頼していないと傷つけようとするが、全てを知らなくても その人を好きになれると愛は反論。そして相手を信じているから相手が話を切り出すまで、彼の秘密を いたずらに暴こうとしないという信頼感を見せる。その愛(あい)の強さは愛(めぐむ)の強さ。そんな彼女に知永は惹かれていくのだろう。
梓(あずさ)は自分が四六時中監視されていることに動揺する。梓が不安になるほど彼女にとって十の存在が大きくなっていく。2人での時間が長くなると、心理的にも身体的にも接近する。十は梓が両親と わだかまりがあること、そして事故チュー(ほっぺ)をした際の梓の反応で十は彼女が女性であることを強く意識する。
