南 塔子(みなみ とうこ)
恋のようなものじゃなく(こいのようなものじゃなく)
第02巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
恋をしたらだめなんだ 千耀(ちあき)と話していると今まで知らなかった気持ちが溢れてくるのを感じる未仁(みに)。ところが…千耀には遠恋中の彼女がいることが判明! 未仁は、「恋」をしていたわけじゃなくて「恋」をしたいから相手に千耀を当てはめて見ていただけと気持ちを手放そうとするけれど――。
簡潔完結感想文
- 恋であっても なくても、彼女持ちの男性には意識的に距離を置くのが恋愛のマナーでは??
- ヒロインが無自覚にやっていることと同じことを、交際後に受ければ、そのイタさが分かるよね。
- 堀兄妹も千耀も、相手の人が自分の思い通りではないとヘイト(作中の言葉)するとか勝手すぎ。
無自覚という罪に無自覚なヒロインの どイタい行動の連続、の 2巻。
好意を持ちつつあった千耀(ちあき)に彼女がいることに衝撃を受けるヒロイン・未仁(みに)。その予想外の展開は面白いものの、『2巻』はずっと これは恋じゃなくて大事な幼なじみとしての接近だから、許してね という言い訳じみた展開が続く。『1巻』の感想でも書いたけれど、こういう点が本書にネガティブな印象を生じさせ、そしてヒロインを過保護に守ろうとする わざとらしさに繋がっている。
どう言い訳しても今回の未仁の行動は、彼女持ちのイケメンを諦め切れず、彼との繋がりを維持しようと敗者の必死な行動である。作品は、未仁は まだ恋が どういうものか分かっていない純粋無垢な人間だから、分かってないんですー、という言い訳を用意して どうにかヒロインが頑張って恋をしている人間に描こうとしているが、ちょっと無理がある。


私が今回 思ったのは、どうせ千耀と付き合うことになる未仁が、その交際後に かつての自分のように恋人がいることを知りながら千耀に接触し続けるウザい女を用意して、この頃の未仁が今の千耀の彼女にとって どれだけ我慢ならない行動をしているかを示せばいいと思う。
元カノから受けたトラウマによって未仁は恋愛の被害者にすることで同情を得る仕組みを最初に構築している。そして幼なじみ設定を用意することで、未仁の行動に逃げ道を用意している。そこまでしないと、未仁が ただウザくなってしまうことを作者は承知しているのだ。でも結局、ウザい。
千耀の彼女を遠くに配置しているのも あざとい。彼女に直接 見られたら不快に思うことも、彼女は それを見ない状況だから許される。ヒロインの未仁様は恨まれたり羨まれたりしない。作中で未仁は清純な存在なのだ。千耀からガンガン特別扱いされても その恩恵を受けるだけで、周囲の反発は受けない。そういう世界なのだ。
結局、彼女持ちのヒーローを好きになる作品は奪略愛になるという根本的な問題を抱えている。その奪略過程を少しでも軽減するために、その彼女は他校や遠方に追いやられるのが一般的。思い浮かぶ作品として咲坂伊緒さん『ストロボ・エッジ』(年上・世界が違う)、ななじ眺さん『コイバナ!-恋せよ花火-』(他校)、相原実貴さん『青天大睛』(年上・世界が違う)が挙げられる。唯一、同じ学校でバッチバチに戦ったのが南波あつ子さん『スプラウト』だろうか。宿命的に好感度の低いヒロインになってしまうが、だからこそ強い印象を残している。
本書は良い子を維持しようとして、かえって戦わずして勝利しようという狡猾さが目立っている。
未仁は彼女の目が近くにないから接近し続けているが、本当に周囲に気遣える人間なら、遠方にいる彼女が困るだろうことを想像して、自分から千耀とは距離を置くのがマナーではないか。そういう配慮が出来ないで、ガンガン千耀と接触し、彼のことを明らかに好きなのに好きと認めない愚かさが痛々しい。作者の描く未仁の優しさは とっても浅はか。読者が全員そのことを言語化できなくても勘付いているから、本書は いまいち受けが悪いのではないだろうか。
また未仁の護衛隊になりつつある双子の堀(ほり)兄妹も、そしてヒーローである千耀自身も自分が気に入った展開にならないことを許せないで、相手をヘイト(作中で使用)するという狭量さが気になる。そもそもヘイトという言葉が嫌だ。現在の若者らしい言葉のチョイスなのかもしれないが私は好まない。
特に堀兄妹は未仁に対する千耀の態度に腹を立てるのに、後半では千耀の味方をして未仁と くっつけたがる。相手に対いて自分の希望や感情をぶつけること、その態度を変えること、そして堀兄妹が未仁の願望を叶えるための道具に成り果てていることに呆れる。ヒロインの未仁様が心穏やかに過ごせる世界を構築するために この作品があるかのようだ。堀兄妹は完全に未仁の手下ではないか。
恋をしてから彼女持ちが発覚するのは『ストロボ・エッジ』などと同じ展開だが、本書の未仁は付かず離れずで、恋じゃないからと言い訳し続ける。同じ展開になるから回避したのかもしれないが、彼女持ちでも告白した『ストロボ~』は潔かったなぁ、その衝動が恋だようなぁと思ってしまった。
千耀には彼女がいた。その衝撃の事実に未仁も読者も驚きを隠せない。一度、千耀の姉を彼女だと思い込むことでショックを受けさせてから もう一展開用意しているのが面白い。
自分の千耀に対する気持ちが抑えきれなくなってきていた未仁には一層ショック。それに千耀には自分だけに見せる顔があると未仁も自惚れていた。
千耀は中学2年生の終わりに この土地に戻って来て、そこから1年以上の遠距離恋愛を継続させていることが判明する。
未仁は自分では平気と言いながら、周囲に気を遣わせている。分かりやすく困っている人に親切にすることは出来るが、自分が誰かを困らせるほど分かりやすい態度を取っていることには気づかない。そういう点が未仁の薄っぺらい部分だと思う。堀兄妹も未仁にとって千耀が有益だと仲良くし、有害だと嫌な態度を取るという失礼な態度で ちょっと首を傾げる。
しかし堀兄妹に気遣われていることに気づいてからは しっかり気持ちを切り替えられる。ここで未仁が告白しないで良かった、振られないで良かったというのは自分を慰める精一杯の言葉のようで辛い。
千耀と距離を取る日常を送ろうとする未仁だが、通う千耀の実家の美容院が人手不足で困っているのを知り、手伝いを申し出て、そこから臨時のバイトを頼まれる。押し切られる形で始めるが、ここでキッパリと断らないのは未練と取られても仕方がない。
ただし千耀との時間は増えない。彼は実家の手伝い以外のバイトをしていて美容院には顔を出さなくなるからだ。
この男日照り期間(笑)を埋めるのがクラスメイトの伊鶴(いづる)。球技大会で接近したり、バイト先である美容院に現れたり接触の機会が激増する。まるで出会った頃の千耀のような不自然な接触過多である。
伊鶴は未仁の「良い子」の部分に惹かれたようだ。未仁の唯一付加された性格だが、女性に幻想を抱く この頃の男子にとっては聖女に見えて、自分を受け入れてくれると変換してしまいがちなのだろう(おそらく中学時代の元カレもそう)。
ただし千耀との接触も完全には無くならない。なぜならヒーローだから。千耀にとって未仁は運命の再会を果たした幼なじみだからか、気軽に声を掛けてきて、それが未仁を少し苦しめている。彼も鈍感な面があり あまり周囲の状況を理解できない人のように思える。
伊鶴は千耀に勝手にライバル意識を燃やして、球技大会では未仁を賭けたバスケ対決が伊鶴の中で始まる。チーム競技とはいえ勝者は千耀。これが伊鶴の現実なのだろう。ただし当て馬として株を上げる期間なので伊鶴は未仁の前で良いところも見せる。
こうして未仁と急接近する伊鶴の存在は、千耀にも目に付くようになり、友人たちが伊鶴の未仁への好意を推測するのを聞いて、千耀は面白くない表情を浮かべる。
そんな心境が影響しているのかは不明だが、千耀は少しバイトが延びた未仁を駅まで送り、その途中で自作のオブジェをキーホルダーにして未仁に贈る。この時に大事なのは千耀の思わせぶりな行動ではなく、千耀にアクセ作りの趣味と特技があることの発表と、指輪だけは自作ではないという点だろう。
未仁もまた千耀を忘れると言いながらも球技大会の時は自ら接触してタオルを渡したり、態度が中途半端。渡されたキーホルダーも大事に持ち歩き、事あるごとに取り出しては微笑んでいる。彼女持ちであることを知りながら、好感を持ち続けるなら、覚悟と態度を決めればいいのに、表層的に「良い子ちゃん」であろうとするのが未仁の いやらしさだと思う。無自覚がまた罪深い。友人の堀兄弟は千耀が彼女持ちなのに距離感が近くてヘイトしているようだが、逆もまた然り。未仁もまた彼女持ちの千耀への気持ちを抱き続けて接近している。


千耀は、自分は未仁にとって同性の幼なじみという認識だから距離感バグっている面があった。だが伊鶴や第三者が そう受け取っていないことを知り、千耀は未仁との距離を努めて取ろうとする。
そこから千耀は分かりやすく未仁と目を合わせない。彼の異変を感じ取った未仁は直接 問い質す。千耀は笑顔を保ったまま その疑惑を否定し、未仁は安心する。いい加減、未仁は自分が距離を詰めている行動を取っていることを自覚した方が良い。この後も千耀と喋れないことに落ち込んでいるし。
そして夏休みに突入する。そこで伊鶴を含めたクラスメイトと行動するが、千耀と遭遇すると、やはり彼の態度がおかしいことを もう一度 聞く。結局、自分を特別扱いして欲しいだけだろう。
千耀は思わせぶりな自分の態度について話すとナルシシストっぽくなるので、この場を切り抜けるために未仁を捜している伊鶴にバトンを渡す。そしてバトンを渡された伊鶴は未仁に告白する。ただ彼は返事を急がない。まず翌週の花火大会での自分で見定めてほしいと願う。断る方針だが、それを どう切り出すかを迷う未仁。
そんな時、夏休みに千耀が彼女に会いに行っていることを知る。自宅以外のバイトは その資金を確保するためであった。こうして未仁は再び現実を突きつけられる…。