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少女漫画と小説の感想ブログです

仕組まれて 仕方なく 成り行きで 偶発的に始まる千耀との交流 part2(今度は追われる身♥)

恋のようなものじゃなく 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
恋のようなものじゃなく(こいのようなものじゃなく)
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

手遅れとか言われても俺は、あきらめる気はないから。千耀(ちあき)への気持ちを忘れるまで限定で、流絃(るいと)の彼女(…のひとり)になった未仁(みに)。“絶対に合わなさそう”だからこその関係だったけど、いつも明るくて、たまに抜けている流絃に釣られて、不思議と、心の明るさを取り戻していく。一方、千耀に言葉をかけたのは、未仁の親友・七緒。「立場がない!? ないならさっさと作ればいいじゃん!」 そしてふいに訪れた、千耀と未仁、ふたりきりの時間――…「好きなんだ 未仁ちゃんのことが」 未仁を抱きしめながら、切り出した千耀。終わったはずの恋が、速度を上げて動き出す…!

簡潔完結感想文

  • 未仁。自分に都合の良い相手だから流絃を利用する絶望的に心が汚いヒロイン(無自覚)
  • 七緒。未仁の恋愛が上手くいかないと その相手をヘイト。そして今度は援護。自分勝手。
  • 千耀。元カノとの別れの際に恋心の在り処を教えられる未仁の同属。悪い意味で お似合い。

こまで登場人物たちに「ヘイト」が溜まる作品も珍しい、の 5巻。

まず言いたいのは、お前 何もしとらんやんけ!ということ。

これは未仁(みに)と千耀(ちあき)どちらにも言えるが、特に未仁である。ここまでの5巻、彼女は本当に何もしない。恋人がいる男性を好きになる作品において大切なのは、それでも好きと伝えることで恋心の強さを表すことだと思う。その一生懸命さと、逆境の中でも到来する絶対的な感情に読者は共感する。その共感が、どうしても奪略愛になってしまう作品のマイナスの印象を打ち消していく。

だから彼女持ちの男性を好きになる際は、最初の告白と失恋が必須ではないか。
…が、本書には それがない。未仁は ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと千耀の前をウロチョロしているに過ぎない。告白した際に千耀に彼女がいることを知って失恋するとか、彼女がいても想いだけは伝える強さを持つとかせず、言い訳を並べて何もしない。

『5巻』で未仁の友人・七緒(ななお)が千耀に、「立場がない!? ないなら さっさと作ればいーじゃん 立場っ」「いつも未仁を思ってる風だけど ほんとは拒否されて自分が傷つきたくないだけなんじゃないの!?」と八つ当たりするのだが、この台詞、全部 未仁に当てはまる。

本書を読んでいて爽快感を全く感じないのは、こういう作品内のダブルスタンダードに ぶつかるからではないか。七緒は何もしない未仁を擁護する一方で、未仁と両想いにならない千耀には事情を無視して暴言を吐く。この場面こそ、作品にとって未仁は不可侵で神聖なものであることを証明している。未仁の周囲は いつも彼女に理解があり、彼女を悪く言わない。そうやって未仁を綺麗に描こうとすることの連続に辟易する。

千耀に彼女がいたら「ヘイト」して、彼女と別れても八つ当たり。七緒さん、頭おかしい

に言えば、未仁は何もしていないから、元カノ・遠藤に罪悪感を抱く必要がない。告白した事実や奪略しようとした野心がないにもかかわらず、遠藤との出会いで未仁は自分の感情を全リセットするぐらいの罪の意識を持つ。そのアンバランスが読者には理解できない。

ターニングポイントとなった『4巻』からは未仁が千耀を追うターンから、千耀が未仁を追うターンへと変化する。作者的には その攻守交代が面白く、いよいよ未仁が追われる立場になることで読者の承認欲求を満たそうとしたのだろう。
けれど2人の交流への話の進ませ方が相変わらず未仁は純真ということを強調しようとして わざとらしい。未仁は受動的なのに千耀との接点が出来るのは、未仁は悪くないという前半戦のエクスキューズの再来である。本当に こんな言い訳がましい作品も珍しい。


の話の構成で作者が やりたかったことも薄っすら分かるけれど、上手く話を組み立てられておらず大失敗、そして大炎上してしまったように思う。

千耀もまた、かつての未仁と同じように恋人に先導されるままに交際して、本当は恋が何だったか分かっていないことが発覚する。千耀も恋に似た感情を相手に抱いていると錯覚していたのだ。おそらく作者は これによって2人の「真の初恋」は まだ、という未仁と千耀の恋愛の純粋性を高めたかったのだと思う。最初の「恋のようなもの」から本物への到達、それが作品の面白さになるはずだった。けれど その試みは外れる。

作者の描き方では、未仁も千耀も恋愛可能な精神年齢に達していないまま、自分の意見を持たず、流されるままに人に従い、それが相手を傷つけたという印象が残る。そして その罪悪感が作品内の全恋心をリセットする。彼らは人を傷つけて ようやく自分の罪に気づくのだ。それなのに未仁は今度は流絃(るいと)に流されるままに従う。その愚かさに呆気に取られる。
千耀に関しては遠藤に「お別れ劇場」を開かれて、より一層 間抜けになってしまった。せめて千耀が交際にハッキリとした態度を示す形には出来なかったのだろうか。中途半端に優しく、そして決定的に利己的な人間に見えてしまう。

今回、ようやく千耀が動くことで物語は進展したが、それを喜ぶ前に2人の未熟さが溢れるほど描かれていて この恋愛が くすんでしまった。「真の初恋」を描く前に、どうしようもない2人を意図せず描いてしまったようだ。

色々な人に協力してもらって、色々な人を巻き込み、幸運が降ってくるのを待って お姫様ポジションに収まり続ける未仁と、元カノとの交際中から未仁に想いを抱いて浮気男に成り果てた千耀。この2人が幸せになろうがなるまいが、どうでもいい。どうして こうなってしまったか、作者も分かっていないだろう。


絃の謎理論に従って、千耀を忘れるまで流絃と つきあうことになった未仁。自分に都合の良い相手だから流絃を使おうとする未仁さんの心の汚さに絶望する。
どうでも いいけど木から降りられなくなった猫を助ける流絃の善人エピソードで、流絃がコンテナの上に乗る時、どうして底面を上にせず、そのままの向きで淵に乗っているのだろうか。私なら こんな頭の悪い乗り方はしない。転ぶ結末が欲しいのなら、猫に暴れてもらえばいい。謎の描写だ。

コンテナの向き、野球部から拝借という注釈の挿入、作者のセンスが よく分からない

最初は流絃を警戒していた未仁だが、彼の人となりを知ると自然に交流し始める。流絃は他の「彼女」と一緒に居れば未仁のことは放置するぐらい、本当に未仁のことを気の向くまま じゃれ合う。傷心の時に こうやって寄り添ってくれる男性がいると好きになってしまう、というのも王道展開である(それって七緒(ななお)における牛尾(うしお)のことか)。

この「恋人同士」を千耀は遠くから見ることしか出来ない。
この時、未仁が流絃に近づくことを快く思わない七緒が千耀に発破をかける。七緒は彼女持ちだった千耀を「ヘイト」していたはずが、未仁と くっつかないことにイライラして千耀に当たり散らす。自分にとって都合の良い状況じゃないから相手に感情をぶつけるなんて幼稚すぎる。


も離れようとしても離れられないのが千耀との関係。彼女持ちだと知ってからの『2巻』以降でもあった偶然の出会いを再度が繰り返される。ただし今度は追われる身、というのが以前との違いなんだろう。

突然の雨で千耀の傘に入れてもらった未仁は、その時に彼から告白を受ける。ようやく少しだけ物語が動いたが、そもそも千耀が未仁を ハッキリと好きだと自覚するエピソードがないよね?? 元カノ・遠藤(えんどう)を好きになり切れなかったことと未仁を好きになっていくことはリンクしているようでしていない事象だ。それに遠藤との破局前に千耀が未仁を好きだと思っていたのなら、それなのに彼女と交際を続けていた千耀が自分勝手な男になってしまう。

何だか2人とも遠藤との交際の自然消滅を待って、自分の有利になるまで待つ臆病者に思える。千耀から告白されるという大きな展開でも素直に喜べない下地は これまでの2人の行動の いい加減さにある。


こで活きてくるのが、今度は未仁に「彼氏」がいるということ。この状況を作りたいがために、未仁は流されるまま流絃を受け入れたのだろう。でも流絃との関係も心情的に理解が出来ないものなので、さっさと流絃との関係を終わらせればいいだけだと思ってしまう。未仁が抱く罪悪感に説得力が足りない。

この後の未仁の逡巡や躊躇、行動を私は理解できない。未仁は千耀を避けるために流絃を隠れ蓑にする。千耀から逃れるためなら流絃のスキンシップも彼との時間も確保する。どれだけ自分勝手な人間なのか。

千耀が告白したことは、堀(ほり)兄妹にも流絃にも本人の口から語られる。特に千耀が流絃に語ることで、流絃の立場がどうであれ、千耀が障害を乗り越えて未仁にアプローチするという少女漫画読者の夢のような状況が完成する。


の中で流絃は未仁が全く千耀を忘れられていないことを察知。未仁が「彼氏」である自分に千耀に関することを言ってくれないことを少々 糾弾する。そこで未仁に罪悪感が生まれ、流絃を裏切るような行為 = 千耀への気持ちの暴走が事前に阻止される。流絃は千耀にとっては障害であり、未仁にとっては安全装置なのだろう。

その後、未仁が望んではいないけど、千耀と一緒に行動する場面が続く。未仁の恋を積極的に応援する七緒の手配によって、未仁は千耀と地域貢献活動で2人きりの幼稚園訪問をすることになったのだ。未仁は望んでいないけど、千耀と多くの時間を過ごすって展開は もうやったから…。

この幼稚園の園児との交流で、未仁は千耀の前でも色々な感情を出せるようになった というリハビリ回だろうか。その未仁の変化を目敏く見つけるのが観察者の流絃。そのことを指摘して、未仁が逆に逃げることで千耀を意識していることを気づかせる。鈍感で無自覚な未仁を注意してあげるのが流絃だろうか。七緒といい、皆に手を引っ張ってもらって千耀の前に立つのが よちよち歩きの未仁なのか。そこまで してもらうヒロインを どうやって好きになればいいのか。


耀と幼稚園児と触れ合った後は、流絃と幼稚園児と触れ合う。その幼稚園児は流絃の義理の妹。親同士の再婚によって妹が出来たようだ。前回の園児との交流で手慣れているからか未仁は流絃の妹とも上手に交流する。流絃が未仁を好きになるフラグが何本も立っているように見える。

そして「両手に花」状態は続いて、堀兄妹と流絃、千耀と一緒にレギュラーメンバー5人で買い物に行く。こういう時に牛尾も登場すればいいのに、作者は必要な時にしか彼を召喚しない。伊鶴(いづる)といい、キャラの扱いが雑なのは作者の悪い癖だろう。

この買い物でも偶発的に未仁は千耀と2人きりになってしまう、という わざとらしい展開が起きる。一時 別行動していた流絃が それを発見し、2人の間に流れる良い雰囲気を壊す。進展を送らせようというのが作者から与えられた流絃のミッションなのかもしれない。
ラストの展開も しょうもない。流絃に洗脳される未仁の頭の弱さに頭が痛くなる。