《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

メインカップルの心理よりも高解像度で狡猾に描かれるライバル・遠藤の胸の内

恋のようなものじゃなく 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
恋のようなものじゃなく(こいのようなものじゃなく)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

このままずっと忘れられなかったら私どうするんだろう―― 文化祭でぐっと距離が縮まり、幼なじみ・千耀(ちあき)への未仁(みに)の想いは最高潮。ところが文化祭に千耀の彼女・遠藤が現れ…「好きな人に彼女がいること わかってるつもりで 全然 わかってなかった――」 傷を抱えたまま2年生になり、皆は同じクラスに。そこに現れたのは…謎のチャラ男子・流絃(るいと)! 「千耀くんを忘れるまで 俺の彼女ね」 強引すぎる流絃の言動に、振り回される未仁。それを見て千耀の気持ちにも変化が…!? 運命加速する第4巻。

簡潔完結感想文

  • 千耀の彼女を傷つけた罰を一身に受けることが私の禊だというヒロインの美しい涙。
  • 先に浮気心を抱いているのに、彼と綺麗に別れるために流すライバルの あざとい涙。
  • 自省しつつも未仁に近づく男に反応する中途半端な千耀。ってか伊鶴どこ行った??

う一度 言おう、伊鶴はどこへ消えた?? の 4巻。

何より面白かったのは、今回の文化祭で作品世界に初めて顔を出す千耀(ちあき)の彼女・遠藤(えんどう)の狡猾さ。サプライズで千耀の学校を訪れた彼女は臨機応変に行動することで、自分が傷つかない未来を手に入れている。そして その置き土産として千耀と未仁(みに)に罪悪感を残し、彼らの関係は膠着状態に突入していく。文化祭に彼女(または近しい女性)が登場するなんて いよいよ『アオハライド』咲坂伊緒さん)である。

遠藤が何をしたのかを考察・検証していくと『4巻』は数倍 面白くなる。ここまで展開が凝っているのは『1巻』以来ではないか。そして ここから物語が停滞するので、もしかしたら最後の輝きかもしれない…。


前提としてあるのは、この日 文化祭を訪れた遠藤の目的は、千耀に別れ話を切り出すこと
その根拠となる証拠は幾つかある。まず『3巻』で遠藤は千耀の友達である男性に惹かれ始めていることが描かれている。第二に、この日 彼氏に会いに来たと未仁に報告する表情が曇っていること。

遠藤が交通機関を乗り継いで4時間もかけてきたのは、ちゃんと顔を見て別れるため

そして第三に この日、遠藤が千耀が作ってくれた指輪を通したネックレスを身に付けていないことが挙げられる。遠藤の通う学校では禁止されているアクセだが、この日の遠藤は学校から遠く離れた遠方で私服でいる。指輪をはめたり、ネックレスを付けるのが通常だと思われるが、彼女はネックレスをバッグに入れたまま。それは最初から返却を目的としているからではないか。
千耀の学校でネックレスを紛失して取り乱すのは、それが千耀の「愛の象徴」で大事な物だからではなく、この日 その愛を返すために わざわざ来た目的を果たせないからだろう。


して遠藤は、千耀が未仁と接触しているのを目撃する。その際の千耀の表情に自分に向けるものとは違うものを感じ取り、すぐさま それを利用し始める。この時点で遠藤は自分の心が離れたから千耀を振るのではなく、千耀の心が離れていくのに耐えられない被害者ポジションに立つことを心に決める。
この日の状況に応じて急に方針転換を出来るぐらい遠藤が賢く、そして千耀をコントロール出来ることは中学時代の交際序盤の回想で証明されている。

だから未仁の見ている前で自分は今もずっと千耀が好きな彼女を演じ続ける。そうして、らしくない行動を連発して千耀に違和感を持たせ、千耀の方から自分への愛情がないことを自白させる。これで遠藤の勝利確定だ。
最後に予定通りネックレスを千耀に返却し、そして別れ間際に涙を流し、いつか千耀の本物の彼女になりたかった、けれど なれなかった悲恋を演出する。

これによって遠藤は当初の目的を完遂する。しかも千耀が心変わりをしているプライドを傷つけられる事態を利用して、彼に罪悪感を植えつけた。それは自分と別れた後、千耀と未仁が すぐに交際することを阻止したい 遠藤の最後の置き土産である。
彼女の作戦は ことごとく成功し、千耀だけでなく未仁も この破局の加害者意識を持ってもらうことで、彼らは心理的に身動きが取れなくなる。


だし、これらの全ては これまで述べてきたように、未仁(と千耀)は悪くないというエクスキューズである。遠藤が これまでしてきた計算高いことを わざわざ描くことで、未仁たちを被害者側に置こうとする。作中で未仁たちは反省し、遠藤を傷つけた罰として恋を お休みする。だが実際は遠藤は こんなに悪い奴なんですと暗に訴えることで、未仁たちに同情を集めようとしている。

遠藤によって未仁と千耀は それぞれに思うところがあるのだが、その反省の仕方が いまいちで、ここから長い停滞期間に入る。しかも未仁は自分の都合に また男性の新キャラを引き込んでいるから目も当てられない。曖昧な感覚で誰かと一緒にいる失敗は中学で経験し、それがトラウマになっているのではなかったのか。こういうキャラがいないと本当に話が停滞して、連載作品として面白みがないからなのは分かるが、未仁を嫌いになるような手法を選ぶ作者のセンスを疑う。

ってか伊鶴(いづる)どこ行ったんだよ、と思わずにはいられない。告白後の文化祭準備でも生存が確認できたのに、その後は行方不明。未仁への想いを持ち続けるって言ってたのに。この後 また出てくるのかもしれないが、それなら新キャラのポジションに伊鶴でもいいのに、彼の出番は奪われる。千耀との再戦は新鮮味がないのか、読者人気がないのか、気性が荒くて悪役になってしまったからか分からないが、伊鶴は消える。

主役カップル以外は いい加減に処理してしまうのは作者の作品の悪い特徴だと思う。


化祭が始まる。少女漫画の文化祭といえばコスプレ。未仁は赤ずきんのコスプレをするが、この格好のせいで余計に傷つくことになる。

自分の当番を終えた未仁は千耀を見たくて彼のクラスに行こうとする。やっぱり恋を自覚しても男女の空気が流れても遠慮しないだね。その前に、校内で迷っている女性を見かけて、親切で純真な未仁は声を掛ける。彼女の名は遠藤 飛鳥(えんどう あすか)。遠藤といえば千耀の彼女である。彼女の名前を覚えていなくても、端々に遠藤が千耀の彼女であるヒントは散りばめられる。未仁が それに気づくのは誰よりも遅い。

トイレに行った遠藤を待っている際に現れるのが看守(ポリス)のコスプレをした千耀。彼とスキンシップしている時に遠藤が帰還し緊張感が漂う。


藤は色々と親切にしてくれた未仁に恩返しをしたいと、ショックを受けて その場から離れようとする未仁を逃さない。遠藤が笑顔を崩さないのは、親切心ではなく、自分の彼氏に近づく かまとと女を見せしめるためだろう。実際、遠藤は2人のスキンシップを目撃していて、そこから未仁を責めるような視線を隠さない。

千耀がクラスでのトラブルで呼ばれている最中も、遠藤は未仁を試すようなことばかり言う。そして未仁から「友達」だという言質を取って、彼女の動きを封じる。
この場面、遠藤を加害者にすることで未仁を被害者っぽく描いているが、実際は逆である。何度も言うけど、未仁は千耀との交際後に同じことをされればいい。どれだけ気持ちが濁るか思い知るだろう。

こうして遠藤は未仁が自主的にこの場を離れるように仕向けて、千耀と2人きりになる。
遠藤の仕打ちも酷いが、遠藤が目の前に現れなければ この文化祭でも千耀との時間を確保しようとしていた未仁も遠藤以上の悪女に違いない。遠藤が千耀に未仁は「偽善者」だと評するが、その通りだろう。紛れもない真実なのに、遠藤が未仁を悪く言って、千耀は その悪意から未仁を守ろうとする。千耀も遠藤が わざわざ遠方から来ているのに、彼女の聞こえるところで未仁の心配をしたりして、手に負えない悪質な人間に思える。


仁は いつも自分のしたことや、自分の感情に遅れて気づく。その愚鈍さこそが彼女の罪だろう。遠藤の出現前は千耀に自分から会いに行こうとしていたのに、遠藤と一緒に居る千耀を見たくないから逃避する。

だが それが裏目に出て会議室にいる2人を目撃してしまい思わず身を隠す。更に 遠藤が目立つ赤ずきんの恰好をしている未仁が隠れていることを察知して千耀とのキスシーンを見せつける。その光景に未仁は大粒の涙を流す。それは自分の罪を自覚する懺悔の涙でもあるのだろう。

さすがに千耀は自分の気持ちを理解しており、ここで遠藤に気持ちがないことを伝える。それは遠藤も薄々勘付いていた。元々 遠藤が告白し、千耀は それに流されただけ。遠藤は友情の延長として軽い感じで千耀が交際できるように計らいながら、同時に学校中の噂になるように外堀を囲んでいた。千耀に好かれるような言動をして、誰よりも早く千耀を確保した自分に優越感を覚えた。

千耀は遠藤の恋愛テクニックに絡めとられただけ。彼に自発的な愛情はなかった。それが遠藤には分かるから、今日の未仁への視線や態度で思い知らされたから、遠藤は千耀から贈られた指輪を返却する。自分では千耀の本当の心を手に入れられなかった無力感と後悔で遠藤は涙を流して別れを告げる。ここで泣くのも相手への復讐を計算済みだからである。

「遠藤劇場」のラストは計算し尽くされた台詞と涙。最後まで千耀は遠藤の手のひらの上

仁は自分の感情が誰かを傷つけたことを知り、今度こそ千耀への気持ちを封印するために千耀から贈られたキーホルダーをクローゼットの中に仕舞う。

そこから半年が経過し、新年度を迎える。未仁のクラスメイトには堀(ほり)兄妹と、そして千耀がいた。未仁は この半年間、千耀に事務的な対応を取り続けていたことが窺える。既に未仁は千耀が遠藤と別れたことを知っている。けれど自分を罰するために もう心を動かさない。彼女がいることを知って封印しようとしていた気持ちだけど、そのままズルズルと千耀に接近した。けれど目の前に彼女が出現して初めて、想像力のない未仁でも自分の罰を意識できたのだろう。

ここでは2度同じターンが続くが、今回は未仁の意思は より強固。千耀の実家の美容院のバイトも成績の低下を理由に辞める。


のことを知った千耀は、未仁が遠藤と何かあったと心配になり、その責任が自分にあると反省する。そして千耀は、中学時代の未仁と同じように、自分が流されるままに交際して結果的に遠藤を傷つけたことを反省し、次の恋に踏み出す心境になれない。未仁が自分から距離を取るなら、千耀は その意思に従おうとする。

ただ千耀も、伊鶴の登場で未仁に距離を取ったのに、なし崩し的に距離を縮めた。その心境の変化が分からなかった。けれど未仁と同じく千耀も今回は強情。反省期間なんだろうけど、物語的には不必要に長い停滞としか思えない。


して新年度は新キャラ投入の機会。それが鹿乃 流絃(かの るいと)。彼は文化祭で号泣する未仁を見て以降、彼女に興味を持っていた。

席替えで未仁の隣になった流絃はガンガン距離を縮める。今回の男日照り期間を埋めるのは流絃である。そして流絃との接近が、千耀に やきもちを焼かせる。それ伊鶴で やったよね…。そして伊鶴は存在が自然消滅したよね…??

後発キャラは あっという間に全ての事象を把握する。未仁も流絃に簡単に自分の心境を洗いざらい話す。

流絃はチャラ男の本領発揮で、未仁を自分の彼女だと一方的に宣言。
翌日、その流絃の決定は学校中に広まっていた。未仁は流絃の何番目かの彼女。その彼女軍団は共生しており、新入りの未仁も快く歓迎する。その状況に未仁は声を上げて抗議するが、その様子を見て堀兄妹は、半年間 死んでいた未仁の感情が動き出したことと理解する。

そのまま未仁は流されるままに流絃のことを名前で呼ぶようになる。そして流絃の、千耀を忘れられるまでの期間限定で交際しよう、という提案に乗ってしまう。流絃は自分は傷ついたりしないから利用してと言ってくれる。

少し形は違うが、伊鶴の時と同じように未仁がモテ続けることで、彼女のヒロイン性を確保しているようにしか見えないし、結局、未仁が意志と頭の弱い子に見える。作品として何らかの動きが欲しいのは分かるが、未仁は今度は千耀を無自覚に傷つけている。それに自分の思いに他者を巻き込むことの罪は、中学の時の交際で思い知ったのではなかったのか。傷つかないと宣言しているとはいえ自分が楽になるために流絃を利用することが未仁が何も学んでいない証拠のように見える。

自分では意識しないけど男性は常に未仁に関心を寄せる。なんだ順々になっているだけで、ただの逆ハーレムか。