《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

彼にとって私は幼なじみのようなものじゃなく、初恋の相手って聞きましたけど…??

恋のようなものじゃなく 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
恋のようなものじゃなく(こいのようなものじゃなく)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

この気持ちが何なのか知りたいと思う 小山内未仁(おさないみに)、14歳。付き合っていた彼氏と昨日お別れしてしまった。ドキドキして好きだと思っていたのに…違ったの? 傷心で行った高校の文化祭で絡まれていたところを見知らぬ男の子が助けてくれた。そして、春。高校に入学した未仁は、あの男の子にもう一度会いたいと思い…。「恋」がわからなくなった未仁の運命が今、動き出す――!

簡潔完結感想文

  • すぐに思い出す出来事、すぐに明かされる共通の過去。だが このリズムは やがて失われる。
  • 恋だと疾走しかける気持ちを、恋じゃないと言い聞かせるネガティブな感情が押さえつける。
  • 順調な交流は全て衝撃の事実への前振り。一度 否定されたことで安心したから盲点が生まれる。

いカードから先に出してしまうジリ貧、の 1巻。

一言で言えば、全体的にネガティヴ、陰気、マイナスベクトルの作品だと思う。

私にとって南塔子さんの長編作品は4作目。ヒロインが一層 フワフワした人間になって、作画は作者の作品だと一発で分かる個性が出てきた。何となく「南作品」というブランドを確立しているように見えるが、一方で作者の作家的な技量が向上しているとは思えなかった作品だった。

幼い頃の出会い、高校入学前の出会い。2つの出会いが彼らの運命を補強するッ!

本書には思わず膝や机を叩いてしまうほどのキュンとする展開や心理描写が ほとんどなく、ただただ「恋をしない/出来ない」理由が並べられているだけのように思えた。そこにネガティヴな印象を受ける。
恋の障害が多いほど少女漫画は面白くなる傾向は確かにあるとは思うが、本書は後ろ向きなベクトルを並べただけ。ヒロインには障害を正面突破する勇気もm誰かを傷つける覚悟もない。それでいて内罰的な思いを持ち続けることが償いだと勘違いするヒロインの自己愛や自己憐憫が鼻についた。ヒロインを綺麗な身体と心で両想いにさせたかったのは分かるが、これによって作品が無駄に停滞した。

読み返すと『1巻』は飽きっぽい現代読者に受け入れられるように謎を早めに解明したり、恋愛が上手くいっている幸福とショックを受ける不幸を巧みに配置していてテンポが良い。けれど このテンポは最初だけ。中盤は『1巻』のテンポなど無かったかのように停滞する。最初に手持ちの強いカードを使い切って、ジリ貧になっていくようなゲームメイクで、余計に失速感を助長させているような構成が残念。作者が作品の端々まで全て支配しているとは決して思えない。もっと密度や世界観を拡張できる余地があると感じてしまう。


たヒロインの造形が困っている人を思わず助けてしまう良い子、で終わっているのも残念。そりゃ良い子だけど、それ以上の肉付けが全くないのは作家生活の長い人のキャラだとは思えない。優しさの中にも、人間関係を円滑にし続ける気配りとか、もっと人との衝突を丸く収める賢さとかあるだろうに、作者はヒロインの性格を目の前の、物理的な親切だけで表現しようとする。読者はヒロインに良い子であって欲しいけど、それよりも その子らしくあって欲しいのではないか。

実際、面白い!と感じられる場面が少なかったし、あれほど悩んだ割に交際後は恋愛脳丸出しで彼氏のことを肯定し続けるヒロイン像が残念だった。長編1作目の『360°マテリアル』から私は作者の技量について疑問視していたが、それから10年経った長編4作目でも同じような不安定さが垣間見られる。作画に関しても登場人物の表情に覇気がなく、私は このフワフワ感は手が震えてるのかなと思ってしまう。好みとしては『ReReハロ』の頃の少女漫画らしい絵柄が好きだった。

人間関係や心理描写も『1巻』で ほぼ出揃っている。これは前作『テリトリーMの住人』と同じかもしれない。どんなに長編作品になっても作者が最初に設定した以上の濃密な人間関係を描けないのが作者の作品の欠点な気がする。悪い言い方をすると人に血が通っているように見えない。
特に本書は最初からヒロインの友人関係は固まっており、そこから新たに展開しない。この人は友人、この人は好きな人、そこから関係が発展しない。友人Aと より仲良くなったり、新キャラBと お互いのことを理解し合ったりなど、作中での変化がない。最初からヒロインを取り囲む友人たちがヒロインを常に味方し、フォローしているので、どんだけヒロインが苦しんでいるように描いても、常に彼女は お姫様のような存在なのが気になった。

ヒロインとヒーローの幼なじみ設定も序盤の縁以外では上手く機能していないし、終盤には設定が消滅しているように見える。この2人の過去も新しく人を知って世界が広がることを阻止する要因になっているから無くても良かったように思える。同じ人間関係がずっと続いていて、やはり発展性に乏しい。

人と衝突しないのが2020年前後のトレンドで、読者はそういう作品を望んでいるのかもしれないが、そこを重視するあまり、ヒロインが手を汚さない人間のようになっている。確かに、人に嫌われないヒロインと作品が完成しているが、そこに面白さは見つけられなかった。全体的に悪い意味でフワフワし過ぎて読み応えがない。


一つの作品の感想で別の作品を出すのはマナー違反かもしれないけれど、私にとっては咲坂伊緒さんの『ストロボ・エッジ』『アオハライド』を足して20倍に希釈したような作品、だと思った。

少女漫画では よくある展開なので意図的とは思わないけれど、問題は その過去作よりも少しも改良点が見受けられない点だと思う。咲坂さんの2作品も苦しい展開の多い作品だったけれど、端々に恋をするキラメキや喜びが溢れていて、この人を好きになること、この恋を忘れられないこと、1mmまで接近した2人が離れていく もどかしさが描かれていた。一方 本書は構成が似ているだけで長所は似ていない。

読者を作品に引き込む力強さや技術が どうしても足りてない。全体的にヌルッとした作風の上に、今回は上述の通り、衝突やヒロインが悪く映ることを過剰に回避したために、化学反応が何も起きず、序盤と何も変わらない、毒にも薬にもならないものになっていないか。

作者は いつからか画面に極力 手書きの文字を書きたくないのか吹き出しと同じようにテキストで補足の台詞や状況説明を入れる。それが一層 作品を無機質にさせているし、テキストによる補足説明は言い訳っぽく見える。テキストで書くぐらいなら、それを入れなくてもいいように、もっと場面転換や心情をスムーズに出来ないのかと思ってしまう。ここの部分は年々 酷くなっていないかと思う。


学3年生の小山内 未仁(おさない みに)は学校見学を兼ねた志望高校の文化祭前日に交際相手の男性と別れてしまった。原因は何となく交際した相手に未仁が好意を抱けなかったから。4回のデートを重ね、彼がキスをしようとした時に拒絶してしまったのが彼のプライドを傷つけ、その体験が未仁に自分が恋する資格がないと落ち込ませる。これが未仁の恋愛のトラウマとなる。

その文化祭中の学校内で、揉めている男女を発見する。親切な未仁は そこに介入し男性に連れ去られる危機に陥る。そこに未仁の顔見知りの振りをして一人の男性が助けてくれて、その後も親切に接してくれた。彼も同じ受験生だと分かった未仁は高校の入学で彼に会えることを期待する。

高校入学直後の描写では未仁に高校で出来た友人が登場するが、この人たちは後半戦にはフェイドアウトしていく。最初から未仁の友人として登場する双子の男女の堀 七音(兄)・七緒(妹)(ほり ななお・ななと)だけが未仁の友人枠として生き残る。せめて堀兄妹を未仁とは別のクラスに配置するとかすればいいのに、ほぼ彼らと一緒に居るので作品と未仁の世界は小さくまとまってしまう。堀兄弟と未仁が仲良くなったエピソードとか作れなかったのだろうか。なので実質的に高校入学で広がるのはヒーローとの出会いだけである。


化祭のヒーローと やっと出会えた未仁だが相手は自分のことを覚えていなかった。しかし怪我の手当てで渡されたタオルを差し出すと彼は思い出してくれた。

そこから彼との接触が続く。下校中に未仁が親切を発揮して、自分の知らない土地に迷い込んだ際、1軒の美容室を発見する。そのまま入店しカットをしてもらい、シャンプーに工程が移った時に現れたのがヒーローだった。その美容院で未仁は恋をする資格がないことを自分語りするのだが、それをヒーローは聞いていて、ありのままの未仁を肯定してくれる。文化祭で未仁の危機を守っただけでなく、トラウマからの回復を手伝ってくれた彼は真正のヒーローである。そのヒーローは名前を楠瀬 千耀(くすのせ ちあき)という。

この台詞を中盤で もう一度 言えば、あの地獄のような停滞は回避されたんじゃ…??

分を心身の危機から救ってくれたヒーローの名前を知って未仁の日常は輝き出す。そして千耀の存在を知ってから、千耀が学校で注目の男子生徒であることが描かれる。競争力の高い男はそれだけで価値がある。
けれど それは同時に未仁の心を苦しくする。彼は自分だけが注目している訳ではなく、彼が実家の美容院で時々働いていることは自分だけの秘密ではない。それが未仁を落ち込ませるが、千耀の友達によって未仁だけは千耀が話しかけるという情報を知り舞い上がる。

そんな休日、駅で七緒と待ち合わせしていた未仁は また困っている女性を助ける。しかし その綺麗な女性は現れた千耀を呼び捨てたことで未仁は千耀が学校で人気のない場所で通話する「彼女」が この女性であると理解する。そして誤解する。その人は千耀の姉。その安堵に未仁は自分の彼への特別な気持ちを理解し始める。


れど未仁には自分が恋だと思っていた感情が恋ではなかったという経験と痛手がある。だから千耀にも慎重になってしまう。そんな時、中学時代の元カレが新しい彼女を作って幸せらしいという情報が入り、未仁のトラウマは また軽くなる。そして ある日、学校帰りに元カレと遭遇し、未仁は怯えるが、彼は未仁に未熟な自分を謝罪してくれた。デートやキスが思い通りにならないことを未仁に当たっていたと頭を下げ、未仁の罪悪感は払拭される。

一方、幼い頃の未仁が音楽教室で手を振り払われた苦い記憶がある「ちぃちゃん」という女の子が千耀であることが彼の回想で明らかになる。その頃の千耀は母と姉の おもちゃにされ女の子の恰好をさせられていたため未仁は ちぃちゃんを女の子だと思い込んでいる。だが千耀にとって音楽教室の「ミニーちゃん」は「はじめて家族以外で大好きって認識した女の子」だという。

ともすれば交際後や最終回まで引っ張ってもいいエピソードだが、あっさりと共有

最初の訪問から1か月、再び千耀の実家の美容院を訪れた未仁は、音楽教室の2人の写真を見て、千耀が「ちぃちゃん」であることを理解する。この際、千耀が恥ずかしさもあって一度 嘘をつくターンが挿まれるのだが、それは作品的に連載のページ稼ぎの意味もあるのだろう。
そこで千耀は当時の自分の言動の動機を未仁に ちゃんと説明する。こうして幼い頃の心の傷も当人によって塞がれていく。元カレによる傷もなくなったし、今の未仁は無傷。しかも千耀との誰も入り込めない過去の交流があると分かって、未仁は世界中の誰よりも千耀に近しい存在となったと思ったはずだ。

最強の絆を手に入れた状態で1泊2日の校外教室が始まる。初の学校イベントである。
この日の夜、少し方向音痴の気がある千耀を未仁が見つけて、接触の機会を得る。自然の多い場所に出ると天候が急変するのが少女漫画。急に降り出した雨に自分の服を貸して守ってくれた千耀に、未仁の気持ちは決壊しかけるのだが…。