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少女漫画と小説の感想ブログです

眠ると情報更新する本書で 初めてヒロインが寝たら、性格の面倒くさい少女漫画ヒロインが覚醒す。

君は春に目を醒ます 6 (花とゆめコミックス)
縞 あさと(しま あさと)
君は春に目を醒ます(きみははるにめをさます)
第06巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

弥太郎からの告白に動揺しまくりの絃は、千遥への告白を断念し、弥太郎にはぎこちない態度をとってしまう。そんな二人の様子をみた千遥は、弥太郎に詰め寄るのだが……?そして三人は、悶々とした関係のまま、修学旅行の日を迎えてしまい……?

簡潔完結感想文

  • 絃の弥太郎に対する戸惑いは、千遥の絃に対する それと酷似。認識の変えるのは大変。
  • これまでとは逆で初めて絃の眠る姿を千遥が見つめる。枕元で囁く彼の本音とは…?
  • 7年前に開かなかった扉が開いて めでたし めでたし。ここからは蛇足に近いのが残念。

白してきた相手に気を遣うあまり、好きな相手を避け始める 6巻。

以前から書いている通り、本書においての睡眠シーンは重要である。これまではヒーロー・千遥(ちはる)が眠る度に彼の意識がアップデートして、人工冬眠前には7歳年下だったヒロイン・絃(いと)のことを少しずつ現在の同年齢として意識してきたように思う。これは眠ることで彼の中で空白の7年間が埋まっていくからだと思われる。

そして この『6巻』では初めて絃が眠るシーンが出てきた。
しかし 絃は眠ることでバージョンダウンしたように思う。自分に告白してきた幼なじみの弥太郎(やたろう)で頭が いっぱいになる。そして彼に気遣うあまり、自分は千遥と一緒に居ない方が良いと考え、千遥を遠ざけようとする。それによって千遥が イジけてしまうことも知らずに…。

これまでも千遥の7年間の空白の意味が よく把握できずに もどかしさを覚えた本書だが、これまで一途だった絃に迷いが生じたため、登場人物 全員 面倒くさい人間に なってしまった。それによって必然的に これまではハラハラと見守っていた三角関係も こじれにこじれていき、袋小路に入ってしまったかのような窒息感を覚えるようになる。これまでは切なさの中に どこか飄々とした雰囲気が漂っていたが、ここからは重々しい こじれた人間関係が続く。

起きてる時に聞かせれば良い話だよ。そして絃は この眠りで千遥のことが頭から抜け落ちる。

ちょっと先の話まで語ってしまったが、『6巻』の中でも絃の行動に説得力を感じられない場面がある。それらが全て絃が作中で眠った後に起こるから、彼女にとって貧血というイレギュラーな入眠が、間違って弥太郎の脳内配分を大きくしてしまったのではないか、と そのバグを疑う。

どうやら絃は、弥太郎の前で千遥とイチャイチャするのは傷口に塩を塗ると考えて、千遥の方を遠ざける。そして千遥を遠ざけるあまり、弥太郎と接近して、千遥の心を無駄に傷つける。どうも絃は、それをしたら相手がどう思うのか に思い至らない浅慮が欠点のように思われる。千遥から離れたいからと言って別の男と一緒に過ごすなんて ただのビッチにしか見えないじゃないか。

それに絃は弥太郎のいる場所では幸せにならないと本気で思っている訳ではない。クラス替えのある3年生になるまで弥太郎のために千遥と両想いになるのを禁ずる という強い覚悟がある訳でもなく、ただ当面の間、弥太郎に配慮しようというだけである。そして弥太郎に配慮するあまり千遥を蔑(ないがし)ろにする。どうして こうも不器用なのか。

ただし、絃のことを擁護するとしたら、彼女には千遥しか いなかったのが原因ではないか。千遥が眠りについてからの7年間、絃は彼の隣に立つ資格のある自分を目指してきた。それが彼女を強くもしたが、一心不乱になるあまり、千遥以外の人との恋愛を全く思い描くことがなかった。憧れに近い初恋を大事にし過ぎて、彼女には恋愛スキルが一切ないまま17歳を迎え、今回、予想外の方向からの弥太郎の告白があり、自分の立ち位置を見失ってしまったのではないか。

予想外の方向から相手との関係が急変してしまい、それを なかなか受け入れられない不器用さ、という点では絃の弥太郎に対する戸惑いは千遥の絃に対する感情と同じに見える。…ん!? ということは絃も ここから何巻も弥太郎との関係を見つめ直すのか(実際それに近いものがある…)。

幼なじみで自分の恋愛相談もしていた弥太郎が、本当は自分のことを好きだった。絃は弥太郎を友達としか思っていなかったから弥太郎を恋愛対象として認識を改めるのが難しい。そこから彼と どう接していいか分からなくなるが、絃は弥太郎が自分を避けるのを嫌がる。これは絃の自分への恋愛感情が分かった千遥が逃亡したのとは違いますね。この比較では絃の方が精神的に強いと言える。

『6巻』のラストでも絃が7年前の自分とは違う行動をしたことで千遥のトラウマを解消した。幼かった自分が開けられなかった扉を開けて、千遥の弱さが招いた後悔は消えた。そして泣きそうな千遥を同じ年の絃が抱きしめることで名実ともに2人は同じ地平に立つ。それは『1巻』で冬眠から目覚めたばかりの足腰の弱っている千遥を絃が抱きしめた場面に似ていた。扉の話といい抱擁といい、1話を連想させるエピソードが続いて、その扉の先には輝く未来が待っている、で終わって良かったのに。なんで素直に終わらないんだろう。ここからは作者と出版社が招いた迷走だと思います。


太郎からの告白だったが彼は絃の答えが分かっているので絃の返事を聞かない。

そして絃は自分がしてきた恋愛相談で弥太郎を苦しめていたことを知る。その可能性に思い当たった時もあるが意識的に蓋をしていたことを反省する。これが絃の弥太郎に対する負い目になるのだろうか。

また弥太郎も、自分の告白がエゴであることに気づいており涙する。自分が千遥の幸せを妨害できたこと、絃の告白の前に彼女の気持ちを濁らせたことを嬉しいと思う自分を嫌悪する。絃の幸せを純粋に願えない自分が汚く思える。
根は優しいのに行動が いじめっ子という心と行動の不一致が弥太郎の悩みだろう。雨村(あまむら)が励ますように、みんな そんなもんなのだ と言っているけど まさに その通り。でも弥太郎は純粋だから気にしてしまう。

なんだか絃も弥太郎も内罰的になっていくなぁ…。


遥との待ち合わせで告白するつもりだったが、弥太郎の告白で混乱する絃は告白を無しにする。
その直前に千遥の方は気持ちを固めて、交際の中で絃を好きになる準備をしていたように見えるが、彼の心の準備は無駄に終わる。絃が平常心でいるなら、この時の千遥の戸惑いを察知できたはずだが、絃は別の問題を抱えている。物語が終わっちゃうから登場人物に簡単には告白させないのが白泉社である。

絃は弥太郎への罪悪感で頭が いっぱい。
翌日、始業ギリギリに教室に入ってきた弥太郎は いつも通りに見える。絃は彼と少しでも話そうと努めるが、休み時間と度に弥太郎は姿を消す。弥太郎の姿ばかり追う絃に千遥が声をかけようとするが、絃は弥太郎のことしか考えられない。絃の千遥への告白も未遂に終わらせ、自分のことで頭がいっぱいになる という状況は弥太郎の思惑通りだ。


くに迫った修学旅行の班分けの時間に、弥太郎が教室を出るのを見た絃は彼を追う。逃げようとする弥太郎を壁ドンで追い詰め、告白の返事も話し合いも一方的に拒絶する弥太郎を叱る。

この会話で初めて弥太郎は、昨日 絃が千遥に告白できなかったことを知る。もしかしたら弥太郎が この日、逃げ回っていたのは絃だけではなく、千遥と絃が両想いになっているかもしれない現実を見たくなかったのだろう。そして弥太郎は告白の未遂を喜んでしまう自分にまた嫌悪するのだろう。

絃は自分の言動が弥太郎を苦しめていたことを謝罪する。そして弥太郎も絃との交流には苦しさの中に嬉しさがあるアンビバレントな感情を素直に話す。それは弥太郎の率直な気持ちなのだけれど、絃は優しいフォローだと感じる。でも弥太郎は自分が優しくないことを知っているから その絃のフォローも苦しい。

絃は弥太郎の決断を尊重するが、自分としては とにかく避けるような真似はしないで欲しいという要望を弥太郎に伝える。それを了承させようと迫り、弥太郎に身体を密着するが、それは弥太郎にとってはドキドキMAXの行動。バカ正直な弥太郎は、異性としてエロい目で見ている自分に気やすく接近するな、と絃の行動をたしなめる。

眠る前の絃の 在りし日の強い姿。貧血で変なアップデートしなきゃ誤作動もしなかったのに…。

遥は 今日の2人の行動を見て、昨日 何があったのかに思い至っていた。

弥太郎を探し出し、彼の口から昨日の事情を聞く。だが今の弥太郎は自己嫌悪でいっぱいで、その分 千遥にきつく当たる。どうしても絃のことが好きかどうかも分からない勝者の千遥と、絃が好きでたまらない敗者の自分という構図に苛立ち、千遥が同じ年になったことを呪う。
千遥は そこに傷つくことなく、その後も淡々と弥太郎に接することで彼の幼稚さに起因する攻撃性を思い当たらせ、間接的にダメージを与える。こういうところが いつまでも千遥が一枚上手で年長者に見えるところである。

絃は弥太郎が避けなくなっても、今度は自分が彼に対する態度に悩む。彼女には自分を好きだという人への態度は分からない。

そうして悩んでいる際に、体育の授業中に貧血で倒れ保健室で眠らされる絃。千遥は その話を聞き絃を見舞う。本書の中では千遥が眠っている場面は1話から度々 描かれていたが、絃が眠っているのを千遥が見るのは初めてか。

千遥はベッド脇に座り、眠っている絃に声をかける。自分の躊躇が絃や弥太郎を悩ませ苦しませていることを千遥は知っている。ただ冬眠前の自分の後悔と決意が、自己を兄だと定めてしまう。どうしても意識の改革が進まない。それが千遥の苦悩であろう。


して修学旅行回。場所は京都。

千遥は この旅行でフィルムカメラを持参していた。可愛いと思った絃の姿を撮りまくる。ここでフィルムカメラなのはデジタルとは違い、消去や編集が出来ないもので、千遥の心が動いた瞬間がシャッターチャンスに直結している表現なのか。千遥は絃を異性としてフォーカスしているのだろうか。

この旅行で、弥太郎が少し冷静なのは、絃の方が緊張していることが見て取れるから。パニックの人を見るとパニックが落ち着くのと同じ心理かもしれない。そして自分には もう隠す気持ちがないという解放感もあるだろう。

自由行動の際、絃は男女で一緒に回る提案がされるが、千遥と弥太郎が同じ班のため、弥太郎を気遣うあまり千遥を遠ざけようとする。

そんな絃の心は千遥に筒抜け。告白の待ち合わせといい偶然 話を聞いてしまうことが多いなぁ…。

千遥は絃が自分を遠ざけるのは彼女の心が弥太郎に傾きだしたからと解釈する。だから千遥も絃を遠ざけ、弥太郎と お似合いだと突っぱねる。一方で千遥からの突然の冷たい言葉に動揺した絃は、必要以上に強い言葉で、弥太郎とのことに部外者の千遥が介入しないよう言ってしまう。
この時、2人は同じボートに乗っているが、2人が それぞれオールを使って漕ごうとするから上手く進まない。2人の心境的にも そうなのだろう。お互いが強情になって意思疎通すら計れなくなり、船は山にも登りそうな勢いである。


うして顔色が曇る絃を見かねて、弥太郎は絃を京都の街に連れていく。2人で着物を着て自由行動をする。絃は弥太郎の優しさに今は甘える。
絃の気持ちも分からなくはないが、千遥の目の前で弥太郎に手を引かれるのは千遥の心を傷つける。上述したが絃には相手の気持ちまで慮れるような視野の広さが見られない。今は弥太郎を傷つけない、というミッションしか考えられないのだろうけど。これでは本末転倒で ただのビッチである。


千遥もまた絃と弥太郎が お似合いという心にもない自分の言葉を悔いていた。
そこで宿泊部屋に1人でいる絃に千遥がドアの外から声をかける。それは さながら7年前の人工冬眠前の最後の別れの場面のようであった。

あの時と同じく絃からの返事はないが千遥は絃に声をかけ続ける。自分が 弥太郎を絃に あてがおうとしたのは、絃に否定して欲しかったからだと千遥は自己分析する。自分を選んでほしいから、気を引こうとして弥太郎の名前を出した。これは弥太郎と同じような照れ隠しと強情さである。千遥もまた そこまで大人ではない。なんてったって彼も17才だもの。

絃が部屋から出てこないことは千遥のトラウマを再発させることになる。また自分は絃を傷つけてしまったのか。自分の見ていない所で泣かないよう気にかけているはずが、自分が彼女を苦しめている。

だが今回、絃は千遥が帰る前に扉を開ける。それは7年間で培った彼女の強さ。そして7年前に千遥を悲しませたことを知っているから今度こそ彼を助けるために扉を開く。

そこで7年前には見れなかった、扉の向こう側の千遥の表情を初めて知る。泣き出しそうな彼の顔。絃は思った以上に子供っぽい考え方をして、子供のような無防備な表情を見せる彼を抱きしめる。それは2人が本当に同じ年になった瞬間なのかもしれない。

これによって初めて本書は7年前から前進する。扉の先の光の中には どんな未来が待っているのだろうか。