《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

相手は涙一つで全部を察してくれるからヒロインが傷つける必要なし。It's automatic!!

春待つ僕ら(11) (デザートコミックス)
あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第11巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★★(6点)
 

少しずつ変わっていく美月、そして永久。自分の中の“気持ち”もどんどん大きくなって…。みんな試合モードに入るなか、新人戦がやってくる!!……でもでもその前に、ある試練が!? 実写映画化も決定でますます大ヒット! 笑えてトキめく青春ラブコメディー☆ いよいよ運命の直接対決(!?)な第11巻!

簡潔完結感想文

  • 自分から立候補しないけど代役を務めて周囲の人からの好感度アップは3度目?
  • 長らく続いた2つの三角関係だけど、両方 ヒロイン力で自然消滅。後腐れなし!
  • 全知全能だから この結末も分かっていたけれど、きっと何度でも俺はこうする。

わずして勝つ、というヒロインのスキルが発動、の 11巻。

終盤になって作者のヒロインへの過保護が過ぎるような気がしてならない。『11巻』は何度も「おめー、なにもしとらんやんけ!」と関西人でもないのに、ヒロイン・美月(みつき)に対して関西弁で文句を言いたくなった。

『11巻』は周囲の人が勝手に動いて、その人の中にある美月への執着や わだかまり を勝手に浄化していく場面が多かった。まるで美月の恋愛成就の前に環境を整え、清浄な世界を構築するかのようで、その自動的に作動する大きな装置の中に ただいるのが美月という お姫様であるような印象を受けた。

随分前から仕込んでいたマキの恋心も、美月のヒロイン力で一気に浄化されてしまう。

ネタバレになるけれど、今回で美月と亜哉(あや)の関係は終わる。
私は三角関係において、ヒロインが ちゃんと自分で「お断り」が出来るかを、ヒロインの持つ勇気や覚悟の指標にしているけれど、美月は残念な結果に終わった。いや、美月が自分から何も言わないことは正解だし、それが亜哉への配慮なのも分かる。でも作中で全知全能とも言える亜哉が察した後は、ちゃんと自分の言葉で「お断り」をするべきだと思った。私も美月に亜哉を否定して欲しい訳じゃないんだけど、自分が永久(とわ)を好きぐらいは自分で言っても良かったのではないか。

ハッキリ言って断り方がズルい。亜哉が先回りしてしまったのだけど、最後まで自分の手を汚さず、中途半端な行動をしているように見えた。特に最後に亜哉の怪我が完治していないという状況や、美月が それに無自覚ということで、美月の亜哉への寄り添い方が自己満足に終わっていることが鮮明になってしまっている気がした。

一方で亜哉が全部を察するというのは、彼らしい振られ方だなと大いに納得できる展開。上述の通り、亜哉は全知全能っぽい立ち位置だから、最初から何もかも見通していたような印象すら受ける。でも結果が分かっているから諦めてしまうような愛ではないことも彼は分かっていたのだろう。

亜哉の反省点としては、小学生の頃に誓った美月を守ってあげたいという根源的な願いを持ち続けてしまったことだろう。そして それは亜哉の方こそ、美月のことを女性として見られず、ずっと悲しみに膝を抱えている小学生の美月のまま、認識を改められなかったということだと思う。美月には時間の経過を理解させようとしたのに、自分は あの時のまま。初恋の前に愛を知ってしまったから仕方がないけれど、美月からしたら、自分が過去にしたい黒歴史にずっと焦点を当てられているような居心地の悪さがあったのかもしれない。


う一つ、美月が戦わずに、自覚すらせずにオートマティックに消滅したのが、永久を巡る女子バスケ部員・マキとの三角関係。

結構早い段階からマキは登場し「ドロドロの予感」がありながらも、美月は そのヒロイン力でマキの中にあるドロドロとした感情を浄化してしまった。美月が自覚すらしないのなら この要素は必要だったのか今となっては疑問に思う。
ここ、作者の美月への過保護が発動して展開が変わったとかだったら嫌だな。マキと仲良くなった後、同じ人を好きなことが発覚し、美月の人間関係へのトラウマや苦手意識が再発するという展開の方が自然に思えるが、作者は美月に苦難を与えずに、心の美しさで相手の撤退を促している。こんなに聖女だったか?と美月のキラキラパワーに疑問を持つ。

序盤でレイナとの関係構築に苦労して以降、美月が人間関係に悩んだことがあったのだろうか。人との関係が難しいことを身をもって知っているはずなのに、永久と亜哉という水と油を混ぜようとするのも意味が分からない。

こうなると最初に消臭したはずの「乙女ゲーム感」が また漂ってきている。しかも後半になるにつれ周囲が美月は凄い、美月は偉いねと彼女を持ち上げている場面が目立つ。永久の初恋の相手、亜哉が愛を誓う唯一の人。そういう肩書も美月の特別性を演出する。読みたかったのは等身大の高校生活と恋愛なのに、いつの間にか お姫様の物語になっているように思えてならない。全員が自分を持て囃す学校生活は さぞ楽しいでしょうよ、と悪役令嬢のような感想を抱いてしまう。


年。大会に向けて元日から自主的に練習をする永久たちバスケ部員。美月は その見学や手伝いをする。こういう美月の行為に他の生徒は何も思わないのだろうか。相互監視するようなバスケ部の熱烈なファンは いつの間にかに存在が消滅している。

美月は冬の新人戦が終わったら2人の男性それぞれに気持ちを伝えるつもりでいる。今回ばかりは不幸や順延フラグではないはず。美月は永久に中途半端に気持ちが漏れてしまい恥ずかしさで彼を直視できず避けるような行動をしてしまうが、そんな弱い自分を克服しようと努力する。

大会を順当に勝ち進んで亜哉の高校と同じ会場での試合となるが、以前のように亜哉は美月のいる観客席に来ない。それは亜哉が美月を避けているということなのか。彼の中でも、永久の初夢のような悪いイメージが生まれていたりするのだろうか。


して いよいよ直接対決が決まる。

もう一つ、ずっと保留になっていた美月と女子バスケ部員・マキの直接対決も始まりそうな気配を見せたが、始まらなかった。マキは少々の悪意を含めて美月を牽制しようとするが、美月が新歓祭の委員長に選ばれてしまったマキを庇って交代することで、どちらがヒロインか決まる。美月に嫌味を言うはずのマキは、その方針を転換し、美月の良いところを褒める。ライバルの敵意を奪うのもヒロインのスキルといえよう。ここでヒロイン様に楯突いた時点でマキの恋愛成就は絶対にないし、物語からも追放される可能性すら出てきた。
この委員長就任で美月は新歓祭のスピーチという大役を任される。これは最終盤の布石である。

試合の前日、カフェで英気を養ったバスケ部員たち。竜二(りゅうじ)は直接 ナナセにリストバンドにメッセージを頼み、永久は美月を送るという これまでとは違った積極性が見られる。その積極性は亜哉も見せていて、彼はカフェの前で2人に遭遇する。

亜哉は美月は自分が送ると言い出し、永久は美月と話を済ませてからなら良いと優先権を譲る。亜哉に対抗心を燃やすとする自分の気持ちを永久は克服している。そこで永久は美月の好意が詰まったリストバンドを返却する。それは永久からの拒絶にも感じられたが、永久は美月に亜哉と全身全霊で向き合うために自分への気持ちを返した。美月の亜哉への返答次第では、そのリストバンドが永久に巡ってこない可能性もあるのだが、永久は自分の気持ちは変わらないと伝える。
永久がリストバンドを返却したのは美月にとっての「運命」と呼べる亜哉に対して、間違いのない選択をして欲しいから。永久の願いは美月の幸せなのだ。

でも この時、リストバンドを返すのは、リストバンドをすると大事な試合に負けるという新しく生まれつつあるジンクスの返上のようにも見えてしまう。自分で書いてと言いながら、それを返却する意味も あんまり通ってないし、ジンクス返上で亜哉への勝利への執着のようにも見えてしまう。美月の心をフリーにするための儀式なんだろうけど、その物質的な品がリストバンドなのかというと ちょっと違う気がする。

その後、美月は試合の前に2人に余計な心理的負担や時間をかけていると考え、亜哉を逆に家まで送ることを提案する。これは自分の家族に亜哉を紹介して少女漫画的な結婚フラグが立たないようにしたんじゃないか、と深読みしてしまう。

男性たちが格好いい行動を取るほど、自分ばっかりの美月の浅慮が悪目立ちする

して試合当日。永久は美月と亜哉の間に どんな時間が流れても気にしない。美月の中の亜哉という存在があっても気持ちが変わらない、それが永久の辿り着いた境地と強さなのだろう。

試合は亜哉の存在感が際立つ。永久は亜哉にマークされていることもあり調子が悪い。それが前半戦でダブルスコアの点差という結果に繋がる。それでも勝利を純粋に信じられる美月を見て、美月の隣で観戦していたマキは またも心理的に敗北する。マキは美月が亜哉を応援する可能性も考えていたが、美月は純粋に母校を応援している。その迷いの無さ、永久への信頼にマキは白旗を上げ、永久とお揃いのリストバンドを外す。戦わずに勝つ。それがヒロインの勝利の方程式である。

試合が終わったら整理しようとしていた美月だが、亜哉とは試合前に決着をつけていたことが明かされる。だから美月は永久を純粋に応援できたのだ。敢えて重要な場面をカットして、時系列順を変えて真相を語る手法は以前にも見られた。


の日、亜哉を自宅マンション前まで送った後で美月、返却されたリストバンドのことで悲しみの涙を流していた。その涙を美月がずっと何かを我慢していることに気づいていて、後ろから追ってきた亜哉に見られる。美月は亜哉の負担にならないよう誤魔化そうとするが、全知全能の亜哉は何もかも お見通し。その涙が どうして流れるかも亜哉には分かる。

亜哉は どんな時も悲しみから美月を守ってくれる。それで自分が悲しんだとしても。でも美月は守られるばかりの自分ではダメだと考える。厳しい言い方だが、亜哉の優しさは美月の毒になりかねない。そういう直感があるのではないか。そして美月にとって永久は一緒に自分を高め合える人なのあろう。

その後、亜哉はアメリカ行きを美月に伝える。そして離ればなれになっても、美月が永久を選んでも、自分にとって一番大事なのは美月であると変わらない気持ちを伝える。自分の根幹には美月の存在がある。それは永久(えいきゅう)に変わらない亜哉の気持ちなのだ。

最後に亜哉は この話を永久には内密にするよう美月に頼んでいた。恋愛の勝敗と試合の勝敗は別。そこを混同するのはリストバンドを返却した永久の気持ちを汚す行為になる。亜哉は自分の気持ちを隠すのが本当に上手い人なのだ。


哉側のリードは変わらないが、少しずつ点差をつめてきた最後の1分。永久のボールへの執着で、コートの外に出ようとするボールを亜哉と取り合う形になり、コート脇のパイプ椅子に激突する2人。
順々に立ち上がり、試合が再開されようとするが、亜哉は永久が自分を庇ったことを知っている。そういう永久の甘さが亜哉には許せない。けれど永久が そうしたのは まだ足に痛みがある亜哉が無茶しようとしたから。今日は亜哉の全力ではなかった。それでも勝てないのが亜哉との実力の差なのか。亜哉と会話してから すぐ永久は倒れる。

永久が目を覚ましたのは試合後。そして結果もすぐ聞かされる。湧き上がる悔しさに膝を抱える永久のもとに美月が到着する。そして永久のリストバンドを返却する。そこには「スニ」と書いた そこに「\」を一本足してあった。美月が自分の好意を初めて形にする。

試合後、亜哉は母親に念のため診察に連れていかれる。その車内で亜哉は自分の失恋の総括をしている。アメリカに行ったばかりの頃も今も亜哉の相談相手は母親なのである。スタイリッシュな親子だから気にならなかったが、こう書くと亜哉はマザコンっぽい。これからも自分の恋愛を全部 話しそうな勢いだ。