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少女漫画と小説の感想ブログです

温泉回で、男性たちが本当に回復して欲しいと願うのは彼女の笑顔。接待旅行です

春待つ僕ら(10) (デザートコミックス)
あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第10巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

美月をかばってケガをしたあやちゃん。あやちゃんが心配な美月だけど、そんな2人を見て永久が療養のために温泉旅行を提案!!  みんなで出かける旅行はワクワクハラハラだけど、いつもと違う旅先であの人もこの人も意外な一面が!!?  大ヒット!  笑えてトキめく青春ラブコメディー☆ みんなが大集合! 温泉旅行が未来を変える!? 第10巻!

簡潔完結感想文

  • 収録4話中3話が温泉回。人気長編作品になると1イベントも長期化するのか!?
  • 温泉回は丸々 美月のための姫プレイ感があるし、美月の言動も好ましくない。
  • 周囲の人には仲良くなって欲しい、ケーキを食べて欲しい姫の願いは成就する。

敗は成功のもとだから、いつまでもヒロインは失敗するんだぞ★の 10巻。

正直に言うとヒロイン・美月(みつき)の あまりのヒロインっぷりに苛々した巻だった。
その中でも最も頭に「?」が浮かんだのは、『10巻』の大半を占める温泉回にて卓球対決に負けた永久(とわ)を美月が追いかけるシーン。これは美月が永久の敗北に関わっていて責任を感じての行動なのだが、その時に目の前にいる亜哉(あや)を放置したのと、2人の男性から永久を選んだような行動を取ったことが あんまりにもデリカシーがなくてビックリした。

亜哉の怪我の完治までは恋愛を お休みするとか徹底した考えがない刹那的ヒロイン。

この温泉界全体が2人の男性の美月の気晴らしのために協力するために企画・実行されたものだということを美月は遅れて気づく。旅の途中で ようやく自分の様々な配慮の無さに気づいて、再度 成長を誓うという内容だから美月が失敗することも織り込み済みなのは理解できる。けれど最近の美月の行動は自分のことばっかりで よく分からない。最初に元ぼっち とかトラウマとかを用意して、それらを男性たちに囲まれることへのエクスキューズとしていたが、その効力も切れてきたところに、美月の「お姫様っぷり」が描かれるから彼女に対する好感度がグンと下がっていく。

特に美月が亜哉を放置したことが悪目立ちするのは、その直前で、永久は亜哉に再度 宣戦布告状態になりながら、亜哉の怪我を気遣って、彼から美月を奪い去るような真似をしなかったのに、という悪い前振りがあるからだ。永久が出来た配慮を美月が出来ていないということが鮮明になる。しかも永久を追いかけることで心理的に亜哉も傷つけている。病院に付き添ったり甲斐甲斐しく亜哉の身の回りのことを手伝っているが、その動機が罪悪感でしかないことを証明している。せめて この旅では どちらの男性かを選ぶような行動をしない、ぐらいの誓いを立てていて欲しかった。男性2人が想いを突き詰めているのに対して、美月はフラフラしているし、考えも想いも浅い。いつまでも人間関係が下手だから ということを言い訳にするのも良くない。特に読者にとっては10巻分、連載では現実時間で5年も追っている読者もいるのだから、いつまでもスタンスが同じであることは反感を買ってしまうだろう。


もそも上述の通り この温泉回自体が美月という お姫様のためにあるというのも居心地が悪い。
永久は美月の笑顔を取り戻すには亜哉の怪我の完治が必要だと思って温泉旅行を発案したし、亜哉は決して乗り気じゃない企画に対して自分の怪我を気にする美月の心が別方向に向けばいいと思って温泉旅行に参加している。

その自分の事情を二の次にする彼らの行動に対して、美月の考えは「みーんな ともだち!」という低年齢少女漫画ヒロインみたいな お花畑思考なのも頭が痛い。これは三角関係に終止符を打った後も、その どちらの男性とも仲良くなって、どの友情も失わないようにするための準備にも見える。例えるなら美月が選んだ彼との結婚式に、選ばれなかった方も招待できるような状態、が美月の理想なのかもしれない。これは少女漫画特有のヒロインの確保力といえる。女性ライバルは物語の外に即座に放逐するのに、男性キャラは いつまでも作品内に閉じ込める。ヒロインが何も失わないことは読者の安堵にも繋がるんだろうけど、その準備のために物語が消費されている現状は望ましくない。これは作者のキャラへの愛着も関係しているのだろうか。

美月が また成長する機会となるのが文化祭に続く新しい委員というのも二番煎じ感がある。再読すると作者が意図していたことは分かるし、その意味も分かるのだが、文化祭での成長も即座にリセットされて、(事情があるとはいえ)優柔不断ヒロインになっているので本当に成長するのか怪しんでしまう。

またラストのケーキの話といい、美月の願いは男性(イケメンに限る)が全部叶えてくれるんだよ、という内容に読めてしまい『10巻』は あまり楽しめなかった。男性たちの行動に思い遣りがあることが後々発表されるのなら、美月にも深い考えを用意してあげてほしい。今回の内容だと美月が一人だけ浅はかで、男尊女卑感が生じている。物語の後半で、一番ヒロインの立ち回りが難しいところだから、もう少し美月が反感を買わないような配慮のある内容が良かった。

恋愛的には2巻分ずっと停滞している(最後に進展が見られるけれど)。その埋め合わせとして男性たちの肌の露出が多いのかなとか考えてしまった。


哉に啖呵を切った永久だが、そこで強引な行動に出ること(=美月を奪い去る)はしない。亜哉は負傷中だし、何より美月を悲しませる。永久は自分が彼女を奪いたいのではなく、美月に笑顔が戻って欲しい。そういう想いが永久の恋なのだ。そして この時の永久の気持ちはナナセの推理によって美月に間接的に伝わる。周囲の人の協力があって2人の恋が成立していくような感じだ。

美月の笑顔の復活には亜哉の回復が必須だと考えた永久は温泉療養を思いつく。温泉回の始まりである。美月経由で話を聞いた亜哉は、敵に塩を送るような永久の天然行動にアレルギーが出る。この時、美月も皆が仲の良い世界を夢見ていて頭が お花畑。そんな状況に亜哉は拒否反応を示していたが、当日、待ち合わせ場所に亜哉は来た。参加者は美月・レイナ・ナナセの女性3人とバスケ部4人組と亜哉の男性5人。レイナは必要なのかとか、高身長の男性たちには車内は窮屈じゃなかろうかとか、同じ姿勢は足に悪そうな気がするとか色々と思うところはある。

これまで突発的に遭遇することのあった男性たちだが、この旅行で初めて ゆっくりと会話を交わす。


の日の夜の卓球大会(亜哉は当然参加しない)で永久が負けたのを自分のせいだと考える美月が、罰ゲームの おごり のために財布を取りに行くのを追いかける。亜哉が その美月を制しようとするのを恭介が制する。
ただ この状況、永久が気を遣って止めた、怪我で追いつけない亜哉を一人にする展開で、亜哉のために旅行に来たのに自分の気持ちを優先し、亜哉を色々と傷つけている美月のデリカシーの無さが悪目立ちしている。自分が声を掛けた1ポイントで負けただけなのに、自分のせいだ、という考えも勘違いが甚だしい。美月の想像力が足りない部分は今後の彼女の成長分野になるんだろうけど、あまりにも配慮が足りなくて、人畜無害・無個性なキャラだったのに段々と欠点が目立つようになってきている。

恭介は亜哉が上機嫌で この旅行に来ていることには裏があると踏んでいた。この高度な心理戦に思い当たるのは何もかも見通す神様のような2人ならでは という感じである。この2人の会話が見たかった私は大満足の展開だ。恭介が亜哉に汚い企みを促進するのは自滅を狙ってのことなのか。恭介は永久の純粋さを信じているのだろう。けれど亜哉の理論は強いほうが勝つというもの。それは愛の強さなのだろう。

そして天然の永久に苛立ちながらも亜哉が ここに来たのは美月の願い(亜哉の言葉ではワガママ)を叶えるため。永久は美月の笑顔のために温泉を企画し、亜哉は美月の意向に沿うため渋々でも参加する。つまり美月の お姫様旅行なのである。確かに自分の視界に入る人たちの全員が仲良くなる世界を夢見ているのは お花畑が満開である。ワガママと言われても仕方がない。けれど亜哉は美月が自分の怪我を気に病むのではなくて、違う方向で楽しみを見つけていることが分かった。だからワガママが嬉しくて参加した。これが亜哉の愛の強さなのだ。その愛の感触を理解した恭介は亜哉を悪者に仕立てるようなことを止める。

美月の思考は亜哉が毛嫌いする永久に近い気がする。それも乗り越えるのが亜哉の愛!?

うして この神レベルの2人は理解を深めあったが、亜哉は永久への理解は出来ない。実は永久は高校進学時、地域で最強の亜哉の学校から誘いを受けていたが、先に進学した恭介たちのいる学校を選んだ。自分が強くなる場所、誰と強くなりたいかを永久は考えて選んだ。永久の仲間ありきの考え方は亜哉には分からない部分となる。それは亜哉がアメリカで個人で本場のバスケに食らいついてきた過程とは全く違うものだから。

その後、美月は瑠衣を通して、亜哉が自分のために無理をしている可能性に思い当たる。そこで亜哉と話すために美月は彼を捜す。亜哉と対峙した美月は自分の至らなさを反省する。怪我の時といい亜哉は隠し事をするのが上手い。それは亜哉の中の美月が いつも悲しんでいる美月だからだろうと推測する。自分の中で亜哉が あやちゃん であり続けたように、亜哉の中の美月は子供の美月のままなのかもしれない。

そこから脱却しているところを見せたくて、美月は今の自分を取り囲む人たちを亜哉に紹介したかった。それが亜哉の重荷になったと美月は思っているが、前述の通り、亜哉を動かしたのは美月のワガママが見られたからだった。


哉は美月の周辺の人たちと仲良くなれそうだが、永久に美月を渡せないという気持ちだけは保持していた。

そこに永久が現れ、旅行中に言っていた永久は この旅行は自分のために来たという発言の真意が語られる。永久は美月の中の亜哉の存在に退行したり排除しようとしたりするのではなく、それを含めた美月を受け入れようとしていたのだ。
この旅行で自分が優しさに甘えている部分を感じた美月は再び成長することを決意する。


してインターハイ予選の時のように冬の大会が本格的に始まる。なので永久との接点は消える。

美月は永久に当たった新歓祭の委員を引き受ける。文化祭と同じような展開だ。というか美月は自発的に立候補はしないのか? 新歓祭とは新入生歓迎会が規模を広げたもの。今年からの新イベントらしい。また この委員の活動が美月の成長の種になるのだろうか。

また美月はクリスマスに永久たちがカフェに来店した時に出すケーキを用意する。試合前のハードな時期はカフェに来ないことも多いが、それでも美月は永久たちに何か喜んで欲しいとレイナとケーキを作った。当日、彼らは店に来なかったが、美月は永久たちの部活に懸ける情熱を理解できるから割り切れる。

でもヒロインの願いは大体 叶えられるのが少女漫画だから、美月の顔を見に来た永久が来店し、彼が仲間を招集することでケーキは彼らの胃袋に収まる。永久が立ち寄ったのは、リストバンドに美月からのメッセージを再び書いてもらうため。インターハイ予選の時のは洗濯などで消えてしまったらしい。

バスケコートのベンチで語らっている最中に永久は寝落ちする。その隣でメッセージを書く美月は彼への気持ちが溢れ出し、リストバンドに「スニ(キの書きかけ)」と書いてしまう。それを永久に起きた見られ、大会後に気持ちを伝える約束を交わす。これが新たな不幸フラグにならないことを祈るばかりである。