《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

3巻で三角関係成立が定番の少女漫画。だからヒロインは3と3の倍数巻だけ おモテになる!?

春待つ僕ら(6) (デザートコミックス)
あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ドキドキな夏休みも終わり、2学期突入!! 早速永久たち清凌とあやちゃん率いる鳳城の合同練習が始まる。バスケも美月にも攻めまくりのあやちゃんに永久は…? 一方美月も文化祭実行委員を頑張ろうと決めて…。大ヒット! 笑えてトキめく青春ラブコメディー☆ 合同練習に文化祭!! 本気がぶつかる第6巻!

簡潔完結感想文

  • バスケ男子の技量の差を恋愛の判断材料にしないためヒロインは試合が見れない!
  • ヒロインが試合を見れない真の理由や、重複する部分は割愛するなど 構成が良い。
  • 時間差があるだけで誰もがヒロインを好きになる!? サークルクラッシャー一直線。

って「逆ハーな僕ら」ではない 6巻。

白泉社作品の悪口ではないが、恋愛は決してトップ オブ トップの人とだけするものではない。その基本を本書は徹底しているように思えた。

本書で成立したヒロイン・美月(みつき)を巡る最初の三角関係は、永久(とわ)と亜哉(あや)という2人のバスケ男子が残りの二角となる。バスケの世界では亜哉は最高の存在。しかも美月と最初に出会っていたのは亜哉で永久はディスアドバンテージばかりである。

しかし その永久が決して作中で格好 見えないようにするための配慮が直接対決の最小化のように思えた。『5巻』で初めて2人のバスケ男子が同じコートに立つことになるのだが、その場面を作者は何かと理由をつけて美月に見せないようにしている。それは永久よりも亜哉が実力が一段 抜けていることを見せない、と同義で、美月にとって永久が惨めに映らないことが大事なのである。だから練習でも試合でも美月が見るのは大切な一瞬だけとなる。

これは美月が全部を見てしまうと、この後で亜哉を好きになるという世界線になった場合、バスケの実力の差で人を好きになったと思われる恐れを回避している とも言える。高校バスケ界のスターである亜哉が一番 輝く場面を描くことは、誰にとってメリットがない。永久は作中で最高の存在ではないと読者に思われ、ヒーローの座が危うくなる。そして美月は試合一つで恋心を決める人になる。亜哉にとっても大事なのはバスケではなく、自分が長い間 美月を本気で想っていることが伝わることであって、バスケで美月の気持ちが動いて欲しくないだろう。

ヒロインの一声 は、その声が必要な人に その声が届くタイミングで発せられる。

から美月を練習や試合の場面から極力 離す必要があるのだが、その中でも美月がバイトの助っ人のために試合観戦を諦め、戻ってきた時に一瞬だけ試合の様子を見るという構成が素晴らしかった。

これは美月が試合を見続ける必要はなく、彼女の存在で勝負は左右されないことを再確認しているように思えた。前述のバスケの実力差もそうだが、作者は経験者だからこそ、バスケを真摯に扱おうとしているのではないか。ヒロインの応援があって日本一になる、日本一の選手だから人を好きになる、というのは低年齢向けの少女漫画誌の中だけで十分だと思う。

しかも作者は美月が試合観戦に遅れた理由をもう一重 用意していて、これが彼女の自立や成長のためにあることが分かった時は本当に感心した。自分のすべきことを先に、立てた目標をまず達成するという美月の基本姿勢が よく表れていると思う。恋愛脳ヒロインのように彼が世界の全てではないのだ。


て『6巻』になって瑠衣(るい)がヒーローにとっての第二のライバルとなる。『6巻』で六角関係(という言い方で合ってるのかな?)が成立し、いよいよ「逆ハーな僕ら」が現実味を帯びてくる。この調子だと『9巻』で恭介(きょうすけ)が、『12巻』では まさかの竜二(りゅうじ)も美月のことを好きになって、美月は四天王を全員制覇、そして絶好調だったはずのバスケ部は内部崩壊を起こすというサークルクラッシャーヒロインが爆誕するのかもしれない…(嘘)

私も最初は今更 瑠衣が参戦することが よく分からなかったけれど、きっと これは絶対的なライバルである亜哉とは違う立ち位置のライバル出現のために あるターンなのだろう。

マイペースな永久にとって瑠衣は負けたくない相手ではない。どちらかというと瑠衣は永久を そう思っている。でも そんな瑠衣が永久が美月を好きで本気ならば彼女を託してもいいと言ってくれたことが永久にとって喜びで、この恋に邁進する良い意味での原動力になるのではないか。
きっと亜哉だけがライバルだったら彼に勝つために無茶をし続け、そして劣等感を抱き続けてしまったのだろうが、瑠衣という明るいライバルがいることで永久は いつもの自分でいられる。

もしかしたら瑠衣は恋愛ペースメーカーなのかもしれない。明るい彼が居るから永久も気を楽にできる。亜哉をライバル視するあまり、美月を放置したりする本末転倒がないように、瑠衣という2人の様子を見守るコーチが必要なのかもしれない。だから友達の中から一人 ライバルが出てくる必要があったのではないか。


中で初めて永久と亜哉の直接対決となる練習試合がある。亜哉は美月に少し本音を滲ませながら、彼女の覚悟を待つ方針は変わらず。一方で永久も積極的に美月の存在を力に換える。

この時の練習で私が望んでいた亜哉と恭介の会話がある。何でも見通す2人の神のような2人だが、今回は敵同士で恭介の負けん気が見えた。学力や恋愛など様々なステータスが4人の中で最高の恭介が互角の存在というのも珍しいということか。

練習中の 1 on 1で亜哉は永久を指名する。だが亜哉が「宣戦布告」をした その直接対決を美月が見ることは無い。美月が目撃したのは亜哉との練習で倒れ込んだ永久の姿だけ。こうなるのは永久と亜哉が しのぎを削る様子として後に同じ展開を使うためで、重複しないように1回目を割愛したのだろう。こういう構成の整理は好ましい。

また これは以前も推測で書いたけれど、バスケの実力を恋愛の材料にしないという作者の方針が表れているような気がする。わざわざレイナが録画した動画を手違いで消去させているから、美月には男の戦いから距離を置いてもらっているのだろう。
ただ負けたといっても亜哉には永久が本気を出していないように思える。これは以前も亜哉が指摘した通り、永久は相手を押しのけてまでボールを奪う気概が不足しているということでも あるんだろう。亜哉には それが永久の美月への態度とダブるのだろう。


の 1 on 1 は練習試合の前哨戦。お互いに心に火が点いて、試合に本気で挑むことになる。しかし亜哉の学校は、亜哉の希望で彼は出場するもののベストメンバーではない。インターハイ優勝校が、予選途中で敗退するチームに練習で全力を出すことはないのだろう。

この時、バイトのヘルプで練習の見学を途中で抜け出した美月が試合を見られたのは試合全体の中盤から。バイトの助っ人だけなら試合に間に合ったはずの美月が、文化祭のために情報収集をしていて遅くなったという理由付けが二重に効果的で良い。自分の成長のために動く美月は、ただの恋愛脳ヒロインではない。ここで美月が自分がいなきゃ負けちゃう、みたいな思考をしたら幻滅だった。それよりも彼女は自分がすべきことを優先していた、というのが良い。

美月が到着して、初めて応援の声が永久に届き、彼のギアは上がる。そこで 1 on 1 で亜哉がやったのと同じことを永久も亜哉に やり返す。だが そのプレーが原因で永久は負傷交代、そして亜哉もベンチに下がる。ここでも美月が2人が出場する様子を見たのは一瞬だけとなる。試合も亜哉の学校の勝ち。ベストメンバーでないけれど勝てない、というのが母校の実力ということなのだろう。

練習終了後、亜哉は永久に再戦を約束させる。今後の宣戦布告(予告)といったところか。亜哉は美月との別れ際に彼女の頬にキスをして帰るが、その後 永久もまた同じことを美月にする。これまでならしない過剰なスキンシップも亜哉に負けないためなら恥ずかしさを後回しにして する、というのが永久の現在の心境なのだろう。


哉が美月の頬にキスをした場面を目撃して以降、瑠衣は美月への執着心を持つ。それは瑠衣もまた美月の心の中心に亜哉がいることに気づき、その対抗心が生まれたからだった。でも亜哉が美月に迫っているだけではなく、美月も亜哉の存在を望むなら、瑠衣は考えを改めようとしていた。女性を守りたいという優しさが根本にあるのだろうか。

だから瑠衣は美月に今の気持ちを聞く。そして永久はドア越しにそれを聞いている(ドアに遮音性などない)。
美月は あやちゃん に助けてもらった自分が自信をもって彼に向き合えるようになろうとしていた。瑠衣は美月の発言が いまいち分からないが、永久は その真意を しっかりと理解している。これは読解力の差ではなく、永久もまた同じ気持ちだからだろう。2人の亜哉に追いつきたい気持ちは基本的に同種なのだ。そして美月が そう考えるのは永久の存在があるのだが、そこまでは永久は見通せない。そういう鈍感さは悪いものではない。


月の練習試合に遅れた理由が後で明かされるように、永久のリストバンドに誰かからのメッセージが書かれていたことが女子バスケ部員のマキと、彼女から情報を得た瑠衣に知らされる。

ここは瑠衣が ぼんやりと美月への好意を抱きながら、同級生で一番 負けたくない永久が恋のライバルになるという展開も ほろ苦い。27話が瑠衣の恋の始まりと前途多難でまとめられているのも良い(永久の好きな人が誰か分かるのは28話だけど)。永久にとって瑠衣がライバルになりそうな展開は困ることもあるが、瑠衣の存在によって肩に入り過ぎていた力が抜けるところもあるだろう。瑠衣の参戦は美月のモテモテ逆ハー展開というよりは、永久にとって大きな影響があるように思う。

大切な友達のためにも この恋を大事にしたい。そういう柔らかな覚悟が永久に生まれる。

『5巻』から開催が予告されていた文化祭の準備は順調。少女漫画の王道である文化祭のコスプレの衣装作りで採寸によるスキンシップもある。美月は文化祭委員になってから、この準備期間で充実感を覚えていた。そして その挑戦には永久の影響があるというのも良い。けれど美月は仕事を引き受けすぎて連日無理をしてしまい…。