あなしん
春待つ僕ら(はるまつぼくら)
第12巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
清凌VS.鳳城の新人戦直接対決を終え、永久に告白した美月。永久の答えは……? さらにあやちゃんはアメリカに!? 少しずつ変わっていく2人の関係が周りのみんなも変えていって…。映像化もされ、累計部数は410万部超!(紙+電子)笑えてトキめく青春ラブコメディー☆ 激動の新展開スタートの第12巻!
簡潔完結感想文
- バスケ部の交際解禁の翌日には交際相手がいると答える永久をファンは どう思うか…。
- 亜哉のアメリカ行きは美月の初交際を濁らせないため!? 彼なら それぐらいのことしそう。
- また それにより2人の男性が交互に頂点を極め、両者が敗者にならない事前準備が整う。
いつも通りの表紙と思わせて、こっそり手を繋いでいる 12巻。
やっぱり終盤戦は、世界はヒロイン・美月(みつき)のため、主要キャラのためにあるような偏った世界観が見え隠れするのが苦手だ。
例えば美月への想いが届かなかった亜哉(あや)がアメリカに行くことを決意したのも、自分の存在が美月の心を不用意に痛めたりしないように、亜哉は物理的距離を取って彼女を安心させたいからのように思う。それぐらいのことをするのが亜哉という人だ。全知全能の最強キャラだから亜哉は自分の敗戦すらも見越しているようだし、そして終戦処理すらも自分で手筈を整える。だから美月が何もしなくても亜哉が この世界の環境保全をしてくれる。この展開のために亜哉の父親は ずっとアメリカに居たのだろうか。大人になったら美月の居る日本に戻ることを夢見た亜哉が、自分の役割が終わったことを知りアメリカに戻っていく。亜哉の転校生人生、流浪の旅は これからも続きそうである。
そして亜哉が日本に不在になることで生まれるのが永久(とわ)たちの高校の勝機である。亜哉のいた高校は ただでさえ強豪校なのに そこに亜哉が加わり鬼に金棒。結局、作中では この学校に勝利することは一度もなかった。
だが来年度は違う。それを作者はプンプン匂わせている。まずコーチに その強豪校でも指導していたという永久の祖父を迎える。それに加えて永久たちと気心の知れた1学年下の廉太郎(れんたろう)の加入も準備されていて、永久たち4人に加え3学年5人の真のレギュラーが決定している。これによって来年度の母校は優勝の可能性がグンと高まっている。
これも作者が愛するキャラたちのため。物語における1年目で永久たちは どの大会でも優勝することは出来なかったが、2年目は輝かしい未来が待っているよ、と準備を整えている。最大の障壁となり得る亜哉は国内大会に参加しないから勝利の確率は高まる。
そして ここで大事なのは永久を勝たせるために亜哉を負けさせるということがないということ。国内大会の成績としては永久も亜哉も同等になる可能性があり、そして同時に亜哉の無敗記録は破られることはない。亜哉は物語の中で最強の人物であり続けることが出来る。それは永久は亜哉に(試合がないので)勝てないことを意味し、亜哉は勝負に負けて試合に勝った状態となるのだ(永久はその逆)。
これによって美月にとって大切な2人の男性は どちらも負けて終わることはなく、勝って終わるという彼女が一番 喜ぶ形が可能になる。どうも物語の後半は、ライバルの自主的な撤退が続いたりして、美月一人のために こんなに世界の環境を整えなくてはダメなのか??と その過保護っぷりに辟易するばかりだった。
バスケ部の指導体制の変革が、部則にも影響し、部員たちの恋愛は解禁される。永久なんて翌日には彼女がいる発言をしていて、事情を知らない人たちから見れば部則を守ってたか怪しむところである。
ただ2人の間に残っているのは、亜哉の存在と部則という2つだけだったとはいえ、交際に至る道のりで2人が(特に美月が)何もしていないのが気になった。美月は永久側の環境が整わない内から告白しているし、自分が強くなったという実感のないまま、雪崩れ込むように交際に突入している。これまで散々 引き延ばした割に、それに見合わない努力の皆無で呆気なさと物足りなさを感じた。


そして交際しても美月が他の人より永久の人物像の理解が浅いのも気になる。なぜ他の人の方が永久のことを分かっているのか、と何も分かっていない美月が気になった。どんどん発言も当たり障りのない良い子ちゃん発言になっている感じで、キャラとして魅力が減っているような気がする。それも仕方がないと思うのは、作中で美月は いつの間にかに お姫様になってしまったからだと思う。作者は いつから彼女を そんな身分にしてしまったのだろうか。
長期連載によって作者のキャラへの愛着が募っていき、過剰な配慮が物語を歪めてしまったように思う。結果、美月が動くべきところで動かない緩急のない物語となっている。オートマティックに幸運が続く様子は お花畑感が満載で、こんな話じゃなかったのにと思わざるを得ない。亜哉の怪我のターンが丸々要らなかったのでは?と思ってしまう。
強くなった具体的な成果はないけれど、永久と一緒に強くなればいいという結論に達した美月。これまでの躊躇を全部を放り投げてフライングしているのが気になる。亜哉の件が片付いて、永久が倒れたから思わず ということなのだろうけど、行動が軽率さが否めない。
いつも通り、いい雰囲気になったら邪魔者が登場するとか、告白などの言葉に答えを求めないとかが続いて本書は なかなか先に進まない。ただ この時の美月が すぐに結果を求めないのは良いことで、永久側が受け入れる態勢が整うまで待つし、何度だって言い続ける覚悟もある。永久も部則を破るような人じゃなし、そういう人だから美月は信頼できる。
残りの新人戦に永久は問題なく出場。一方で亜哉は温存という形になっている。これは怪我が完治していないのに動いたからなのか、そういう部分は不明のまま。でも何となく描かないとこと=亜哉が言わないこと は、美月を傷つける内容だからで、彼女を守るために今回も黙っている気がしてならない。
大会終了後、永久は監督に頭を下げて優勝という条件なしの部則の撤廃を懇願する。永久と並んで竜二(りゅうじ)たち他の3人も頭を下げるが、監督は拒絶。これは来月から外部コーチの新体制になるためで監督の一存では決められないし、監督は今の体制で強化を続けたいという。
が、その新コーチが登場するなり、即座に部則を撤廃した。新コーチは永久の祖父。亜哉の高校を指導したこともある名伯楽という設定は ここに活かされるようだ。来年度こそ この学校のドリームチームが完成するということなのだろう。
こうして事態は急に好転して、永久は美月に交際を申し込む。この展開のために『11巻』で雑音となる2つの横恋慕を自然に消滅させている。でも交際までの最後の難関に頑張った感覚が無くて、勝手に視界が開けていく印象で惜しい。
こうして始まった交際だが、バスケ部の練習場所には恋愛解禁情報により、ギャラリーが一気に増えていた。永久に告白する人もいたが、彼は誠実に断ったという。この時、永久が「付き合ってるコがいる」と正直に答えたのはいいが、恋愛解禁と同時に交際しているのは印象が良くない。アイドルが脱退と同時に結婚を発表みたいな、裏では色々やってたのね的な祝福しにくい状況ではないか。
美月は その情報をくれたクラスメイトに その交際相手が自分だと伝える。近しい人は祝福してくれるが、その他の人は美月が永久の交際相手だと漏れ聞こえた瞬間から美月への あたりを強くする。ぼっちというマイナスがイケメンパラダイスの免罪符になっていた『1巻』と同様、交際に周囲の反感でバランスを取っているように見える。なんだか美月の被害者ムーブが酷い。しかも彼女は誰一人傷つける=加害者になることなく、自分を被害者側に ずっと置いている。
この時、美月は自分が傷つけられるより、風評被害で永久が傷つくことを恐れる。それも立派な相手への思い遣りだ。しかしナナセが言うように永久は何を言われても動じない強さを もう身に付けている。ナナセが分かることを美月が分からないというのが残念でならない。自分の思い込みや視野狭窄で何も状況が見えていない美月には辟易する。
ナナセに こういう問題は2人で話した方が良いと言われ、美月は永久に連絡をする。すると永久は連絡を発見し次第 すぐに飛んできてくれた。こういうことが可能なのが交際という特別な関係。そこで美月は自分の疑問から ぶつける。それが永久の余裕について。美月は ずっとフワフワした夢心地の中にいるが、永久は自然体。そこに不平等(?)を感じるが、実は永久もドキドキしていると自分の心臓の音を聞かせる。目的があるとはいえ結構なスキンシップだ。それに この日、永久が弁当を忘れたのは平常心じゃなかったからかもしれない。
それだけ話すと寝不足だった美月は永久の胸の中で寝てしまう。以前も冬の屋外で永久が寝てしまったが、そんなに すぐに寝れるか、と少女漫画展開に首を傾げる。この時、美月は自分が嫌な目に遭ったことは言わないままで終わる。交際開始直後にトラブルは不必要なのだろう。
そして永久は亜哉と話す機会を設ける。
亜哉は永久を からかって遊び、バスケの実力で追いつけないとマウントを取る。永久としては高校での再戦、それが叶わないのなら大学での再戦を願っているらしいが、亜哉の夢は果てしない。
それでも「今は」美月に選ばれたのは永久であると ちゃんと認め、永久を美月の彼氏と呼ぶ。そして美月のためにも自分の存在が2人にとって余計なことにならないように願う。もしかしたらアメリカ行きを決意したのは、美月の表情を曇らせないためなのかもしれない。
しかし永久は亜哉のことを忘れないという。亜哉は目標で、抜け目のないライバル。だから自分を律し続ける必要があると永久は考える。亜哉をひっくるめて永久は美月を好きになったのだ。
同じ頃、美月は永久宅で他のバスケ部員たちとバレンタインチョコを作っていた。この時、永久の祖母とも対面し、いよいよ婚約成立状態となる。
美月の企画は絶対に成功する甘ったるい世界なので、瑠衣(るい)の誕生会も含め楽しい一日になる。だが途中でパーティーは終わり、全員で空港に向かった。この日が亜哉の出発日だと永久は亜哉の学校の人に聞き出していたのだった。
そこが亜哉との別れになるが、美月が亜哉に特別な言葉を発することはなかった。何を言っても角が立つから、何も言わせないのが亜哉のスマートさか。


永久のために作ったチョコは、練習が休みの翌日に渡すことになる。時間がたっぷりある初めてのデートとなりそうだ。
この日、竜二もナナセにチョコを渡す予定だったが、彼女が男性と親しく話しているのを見て退散する。あれっ、こんな展開が前にも なかったか? 誕生日を祝いたい竜二の前に元カレが出現した『9巻』との既視感が否めない。長編化すると重複も多くなるか。
その後に おうちデートが始まる。この日、祖父母は温泉旅行に行き不在。廉太郎が言う「連れ込み放題」は本当だったらしい。今回は徹底的に邪魔者が登場する可能性は全て排除されている(亜哉だっていない)。
だが家には荷物を置いただけで永久はミニバスの練習場に向かうという。ミニバスは永久の祖父がコーチをしていたが、祖父が高校のコーチになったため、後任のコーチが新しく やって来る。それが竜二の兄だった。美月は彼に竜二のチョコの顛末を聞く。どうやら家で食事に手を付けなかったり物静かだったり異変があったらしい。ただ翌朝には復活し、竜二は勝負を挑もうとしているようだ。
その話を聞いて2人は永久の家に戻る。そこで永久が美月の緊張をほぐすために咄嗟にミニバスに向かったことが明かされる。永久はチョイスを間違えたと思っているようだが、美月は永久に縁がある場所を見られることは嬉しいと応じる。これからは そういう当たり前を重ねていくのだと確認し、2人は唇を重ねる。