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少女漫画と小説の感想ブログです

暗殺犯が絞り切れないので、自白強要を目的とした 姫様による拷問の時間です。

狼陛下の花嫁 15 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第15巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

遂に本物の「狼陛下の花嫁」となり、妃修業に励む夕鈴。そんな中、隣国・炎波国から外交使節団が派遣され、その中に第二王女・赤朱音の姿が…!?

簡潔完結感想文

  • 三者の助言に翻弄されて、なぜか事態が悪化してしまう夕鈴(という再放送)。
  • 陛下が威圧して、その後に夕鈴が優しさを見せることで心を開かせる連係プレー。
  • この3人の中に犯人がいます! …からの推理も論理もない暴力による自白強要。

の犯人捜しの方法では かの国の将来が心配になる、の 15巻。

『15巻』で最も残念なのは今回の暗殺未遂事件で、犯人候補を3人に絞った後に真犯人が あっという間に登場してしまうところ。候補を絞ってから夕鈴(ゆうりん)と隣国の第二王女・朱音(しゅおん)が動機やアリバイを調べ、最後に名探偵役で陛下が登場したら、これまでとは全く違う感触になったのに、そこに全く工夫が無かった。勝手に期待してしまったのが悪いのだけど、本書で一番 落胆した展開である。

作中 何度目かの刺客。罪を憎んで人を憎まず だから誰が犯人でも構わないのだろう。

今回の使節団交流は、第2部の始まりの、ほぼ2巻分使ったものだったのに全体的にエピソードが淡白、というか味気ない。国同士の話になってスケールアップしたと思いきや、話の作り方は いつも通りだし、夕鈴の働きも これまでと変わらない。2つの背景の違う国という新たな取り組みなのに、作品から文化の匂いが全く感じられなかった。これでは国の違いが全く出ていない。そもそも言語は どうなっているのか、とか そういう問題を一切 無視しているのも気になる。

また朱音を含めて相手国は5人の新キャラがいるのだけど、朱音以外の4人はキャラクタを出せないまま終わった。これは国の背景と同じく作り込みが全く足りないように感じた。暗殺未遂の犯人との朱音の間にエピソードの一つも用意すれば、犯人が それに至った動機とか、犯人が暗殺を企てたことへの朱音のショックとか描けるのに、そういう読者の心を掴むようなエピソードが用意されていない。

スケールが大きくなったはずなのに、結局 異色の妃・夕鈴の人間性を称賛するような内容に留まっているのが残念だった。架空の国を扱う作品の質は、作者の想像力が どこまで行き届くか、いわゆる解像度の違いだと思うのだけど、本書は大雑把すぎる。特産品と国内情勢が その国の情報の全て。これでは これまでの地方視察などと質が全く変わらない。2巻使ったエピソードが これかと残念に思った。


かったのは、『14巻』の感想でも書いたけれど、朱音の登場で夕鈴が焦燥を感じたり、疑似的な後宮バトルが見られた点。朱音は「正妃」になれる立場の人で、それを目標にしている夕鈴にとっては夢の断念に繋がること。その意味では朱音は第2部の最初に相応しいゲストと言える。

そして夕鈴が陛下と正式な夫婦となったからこそ朱音という外国の要人に接する機会を持てるようになり、今回の隣国との交流の中で一定の役割を果たしている。
陛下は政治的に時に狼として朱音に接し、夕鈴は お節介ヒロインとして どこまでも朱音に食らいつく。おそらく これは第2部初の夫婦としての分業である。この飴と鞭の使い分けのように見える2人の朱音への態度の違いが面白いと思った。朱音の場合は性別の問題もあるが、朱音の内情に対して ここまで探りを入れられるのは夕鈴ならではのこと。そして扱う事柄は朱音個人の問題に見えるが、彼女は隣国に未来を担うキーパーソンに違いない。だから夕鈴も外交の一翼を担っていると言え、彼女が王宮内で一定の成果を上げていることが嬉しい。

今後、何色か分からないけど隣国や近隣の国から王族の男性キャラが登場した時、夕鈴と陛下が どう対応するのか知りたい。でも その男性王族が夕鈴に色目を使ったりしたら、陛下は彼を暗殺しかねないか…。そして両国は戦争に突入するというバッドエンド(苦笑) そうならないためにも男性王族は来訪しないで欲しいものだ。現実的な話、男性王族がいる間、夕鈴は後宮に下げられ、交流はないだろう。今回のような お節介も不可能になるから男性王族の登場は ないだろう。
そう考えると夕鈴は正式に妃となってから やっぱり行動範囲が狭まっていて、これまでのような自由を失ったと言えよう。新キャラとの交流は女性の、そして一定の身分の人ではないと叶わないのだから。


談を持ち込まれるような隙を与えないために国王は夫婦で朱音に接することになる。陛下はナチュラルに夕鈴とイチャイチャして作戦は成功。その交流の中で朱音が連れてきた3人の臣下を紹介する。ここで夕鈴からは完璧に見えた朱音が、実は活動的な人だということが臣下から次々と発表される。これは脳筋フラグだったのだろうか…。この3人の特色や朱音との距離感や過去などを滲ませられたら もっと面白くなっただろうに、どうにもエピソードが淡白。

そして夕鈴は、教育係の蘭瑶(らんよう)から朱音は正妃候補になり得る存在と聞かされ危機感を覚える。またも第三者の助言で空回る予感。その予想通り、夕鈴は空回って、あまり上手くいかない上に、陛下に もっと甘いことを囁かれるという展開はバイト妃時代と変わらない。
しかも夕鈴が策を弄していることが陛下に筒抜けになってしまい、言い訳に窮している夕鈴を陛下は笑顔で許すのだが その笑顔が怖い。陛下が夕鈴に驚いたのは、前向きな内容とはいえ彼女に隠し事をされたから。この頃から陛下はクライマックスの展開のためか、これまで以上にナイーブな傾向が見える。


治戦略として仲良くしなければ ならない時に仲良くなれず、そこに生じた距離感がライバルの付け入る隙になる。

朱音が陛下と2人きりの会話を望んだ際、陛下は それに乗ってしまう。こうして夕鈴は陛下を朱音に奪われることで初めて、自分が妃になっても正妃が迎えられることへの怖れを感じる。もちろん実際は陛下に その意思はないが可能性としての話。妃となって初めての危機感。こういう恐怖を描くのも大事だろう。

几鍔(きがく)と同様、朱音はライバル「っぽい」人。それっぽい働きはしてもらう。

いよいよ朱音は臣下の3人の意見をもとに計画的に陛下を落としにかかる。だが その計画中に朱音が何者かに呼び出され、襲撃を受ける。今回の刺客はターゲットは別の妃だった。
襲撃された朱音を守るのは、かつて夕鈴を狙った刺客・マナ。その後に都合よく夕鈴が朱音を見つけ、夕鈴の優しさに触れたことのあるマナは、夕鈴の言うことを聞いて保護される。マナは第2部の最初に登場した最初のキャラなのに、いまいち活躍がないし、どういう経緯で朱音に仕えているのかなどの背景が見えない。もうちょっとマナのエピソードが欲しかったところ。


撃は、対外的には朱音の体調不良と発表されたが、紛れもない暗殺未遂で、朱音の行動を熟知している内部犯だと考えられた。その犯人が分からないまま朱音を使節団に返す訳にはいかないので、陛下が朱音の安全を確保する。

そこで夕鈴は朱音の身の回りの世話をしたいと陛下に願い出る。一緒に入浴したり、接点を多く持つことで夕鈴は朱音を心配する。新キャラには親切にしたがるのがヒロインは第2部でも健在だ。

使節団は この国の者に朱音を奪われた形になり、彼女の無事を確認したい。しかし それが本心なのか暗殺を狙ってのことなのか判別が出来ないので李順が面会を断り続ける。ここから暗殺が起こったら陛下の失態になるのだ。


々 強引な夕鈴の交流ではあったが、そこで朱音は自分の国が好きなことを打ち明ける。だから守りたいのだけど、自分が志願した使節団で自分が暗殺未遂に遭遇してしまった。

朱音は隣国同士の衝突を未然に防ぐために陛下に嫁入りしようと考えていた。それが国のために第二王女である自分が出来ること と朱音は考えていた。彼女にとっての嫁入りは夕鈴とは違って国そのものを背負っているのだ。けれど その成就の前に暗殺未遂に遭い、朱音は犯人捜しを自分でしようと怒りに震えていた。

犯人候補は陛下に有力臣下として紹介した3人。そこから犯人捜しミステリが始まるのかと思いきや、次の回で あっさり犯人が捕まる。しかも推理も論理もなく。考えるより先に動いて どうにかしようとする朱音の性格なのだろうけど、作品として もう少し内容を濃密にして欲しかった。
その自白の際に、犯人もまた国と そして朱音のことを考えて行動していたことが分かる。この自白で犯人の一派は国内にも協力者がいると分かり、朱音は急ぎ帰国することになる。夕鈴は戦わずに勝ったという感じだろうか。犯人が国で どういう断罪のされ方をするかは不明だが、朱音自身は犯人を再度 登用しようとしている。

朱音の国王には娘しかおらず、第一王女である朱音の姉の伴侶選びから権力争いが始まっている。物語前半の この国と同じような状況なのだろう。けれど陛下の慧眼では朱音が姉を支えていれば国は安泰ではないか、という。いささか脳筋すぎるような気もするが…。

物語的には当初の目的通り、2つの国は ちゃんと交流をし、その経験が平和の礎になるのだろう。