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少女漫画と小説の感想ブログです

募集:冷酷非道な狼陛下のバイト妃。1年間の頑張り次第では正社員登用制度あり。

狼陛下の花嫁 13 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第13巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

闇商人・韋良を捕らえ、企てを阻止しようと、妓館への潜入を開始した夕鈴。柳経卓の動向から、韋良を突き止めた克右達はいよいよ敵を追い詰めようとしていた。一方、妓女に扮した夕鈴は、何故か妓女に囲まれた狼陛下と鉢合わせ…!? 運命が動き出す、感動の第一部完結!!

簡潔完結感想文

  • 一件が落着したら陛下に会える希望、戦いに向かう別れ際のキス。死亡フラグ!?
  • 正式に妃を迎えるための王宮内での いざこざを見せたくないから牢屋に幽閉。
  • 1年間という長期の恋愛リアリティショーも、告白と婚姻届の提出にて演技終了。

1年間の交際を経て 見事にゴールイン、の 13巻。

作者のコメントで初めて知ったけれど、本書の表紙に描かれている花は『1巻』が初春の梅で、それから大雑把に季節順に並んでいるらしい。そして この『13巻』で一巡し また梅に戻っている。1巻が1月というように巻数と月は決してリンクはしていないのだけど、夕鈴(ゆうりん)のバイト妃の1年間が12冊でまとまり、そして2巡目に突入するのが13冊目という構成は なかなか美しい。内容的に薄くて、興味が持てない時期もあったけれど、終わり良ければ総て良しで、作中の1年間の時間経過や12巻で一巡することなど色々な要素が綺麗に第1部の大団円と繋がっている。

特に『12巻』で一度はバラバラになった王宮の人々が、夕鈴を中心にして順々に再会していく様子は旧友に会えたような懐かしさと安心感を覚えた。これまで まるで乙女ゲームのように王宮内の様々な人々(有能でイケメンに限る)と交流して、好感度を上げていった夕鈴が、その自分への好感度や信頼度を使って彼らを主導的に指揮していく様子はカタルシスを覚えた。

そして序盤から気づいていた恋心を やっと互いに吐き出したことも胸の つかえが取れた感じがした。そのためは一度 関係性をリセットして、その状況の中で生まれる自分の気持ちに素直になることが必要だったのだろう。そして この冷却期間が2人の間に演技という意識を消滅させている。きっと王宮内にいては2人は素直になれず、また それにより相手の言葉も信用できなかっただろう。だから2人の再会は王宮外なのかもしれない。季節が巡るように、もう一度 出会い直すことで2人は新しい関係を築けたのだろう。

そういえば本書の第1部(『13巻』まで)は「恋愛リアリティショー」と言えなくもないのか。演技の中で生まれる本物の恋愛(もしくは そう思えるような筋書き)に熱狂する人は この世の中に少なからずいる。少女漫画自体がショーの要素を含んでいるが、本書は まさに人に見せる演技がメインだった。何となく本書が読者の人気を獲得した理由が分かった(私が それほどハマらなかった理由も)。


下は今回の騒動で これまでよりも盤石な政治体制を手に入れた。自分の敵になりかねない蘭瑶(らんよう)と柳(りゅう)大臣の2人の存在は、自身や身内の罪によって大きな声を出せなくなった。何だかんだで陛下は王宮内の主導権を握り続け、そして反対勢力を自壊させることで自身の権力を掌握していく。そして夕鈴のために そこに固執しているようにも見えた。正式な家族が出来た時、陛下の判断に偏りが生じないか心配である。

また夕鈴は人情主義だから陛下の異母弟・晏 流公(あん りゅうこう)と その母・蘭瑶のに もっと身内である温情を含んだ処遇を望んだ、けれど この時に夕鈴が泣いて陛下に訴えるのは少しズルい。陛下の隣に対等に立ちたいなら、陛下の寵愛を利用しないで欲しかった。寵愛する妃の意見に左右されるのは、結局 政治的判断を狂わせる最初の一歩である。その意味では夕鈴は陛下に政治的な意見を述べてはならない、という冷静な判断は やはり必要なのではないかと思った。

なんだか作品全体が、そして この国全体が夕鈴が望む世界になる第一歩のように思えてならない。蘭瑶が息子を使って国を支配しようとしたように、陛下によって国全体が夕鈴の倫理観を基準にして動き出しそうではないか。彼女自身は無自覚だったとしても、寵愛が歪な形で噴出しそう。これで最後だと思うが、今回の夕鈴の無茶な行動は その前例を作ったようにも見えた。


イト妃、掃除婦、使用人と素性や経歴を隠して ある場所に潜入することが得意な夕鈴は、今回も闇商人の捕縛のためトントン拍子に妓館(ぎかん)に潜入する。ここでは単独行動ではなく水月(すいげつ)と方淵(ほうえん)も一緒。彼らは小楽団一行を装う。水月は芸術方面に長けているけど、方淵も楽器が演奏できるという設定が出てきた。育ちが良いので習い事で習得したのだろうか。一応、紅珠(こうじゅ)のツテも使っているので全員の協力ということになっている。

方淵の兄と闇商人の密談場所への突入と制圧は、軍人・克右(こくう)と隠密・浩大(こうだい)の役割となる。克右は、この問題が終わったら陛下との対面を約束してくれるが死亡フラグに見えてならない。

夕鈴は素直に待機組になる。その判断が彼女の成長に見えるが、これは夕鈴が、彼女と同じく情報を掴んで妓館に潜入している陛下と会う展開のための物分かりの良さだろう。ここでも いつぞやの お見合いパーティーのように(『9巻』)、陛下は多くの女性の中から夕鈴ただ一人を選ぶ。

陛下は夕鈴が妓女(ぎじょ)に転落したと勘違いし怒り心頭に発するが、その陛下の怒りを夕鈴は言葉と涙と抱擁で鎮める。間もなく克右たちの登場で妓館で騒ぎが起き、陛下は夕鈴にキスをしてから仕事に向かう。これも死亡フラグになりかねない。

陛下の言葉はヒロイン称賛だけど割と女性に失礼。アイドルの本音だったりしたら幻滅。

商人確保の現場に陛下が現れ敵も味方も大パニック。
呆気なく闇商人が捕まると、夕鈴は なぜか連行され監禁される。夕鈴が連れていかれたのは後宮内の牢屋。そこで張元(ちょうげん)と再会する。これは陛下が夕鈴にだけ下した罰。他の人は仕事を続行中。

キスやら誤解が起こるのは いつも大きな騒動と同時期なので、今回も夕鈴は陛下からの説明がないまま数日間を牢屋で過ごす。今回は忙しさというよりも陛下の気持ちの整理に時間が かかっているようだけど。陛下が夕鈴を檻に入れるのは束縛欲求や二度と彼女を失いたくないという恐怖の表れ。

その後、いよいよ王宮内で陛下との対面の時間が訪れる。夕鈴が隠したかった陛下の異母弟・晏 流公(あん りゅうこう)の母・蘭瑶(らんよう)の企ては陛下に伝わってしまっていたが、夕鈴は自分が潜入して見聞きした あの母子のことを伝える。その陳情とも言うべきフォローに対し、狼陛下の態度は揺るがない。だが陛下を狼にさせているのは彼の立場であると考える夕鈴は せめて身内にだけは その頑なとも言える態度の軟化を希望する。


だし夕鈴の言葉がなくても陛下は晏 流公の表立った処罰はしないつもりだった。陛下にとって大事なのは闇商人で黒幕は彼なのだ。王宮内の情勢も自由に支配しつつあった彼の早期の捕縛によって、穏便に片づけられる目途も立ちそう。そして それは夕鈴の行動があってのこと。別離を言い渡されても陛下の役に立ちたい夕鈴の思いは美実。

そして陛下は初めて夕鈴が問うのではなく、自発的に自分と後宮の関わりについて話し出す。それは地方の踊り子の一人だった母親の、王や権力に翻弄され続けた運命。父親の一人の妃への寵愛は後宮内のバランスを崩した。慣れない環境でのコントロール出来ない状況に体調を崩した母親は後宮から解放される。だから陛下は後宮における寵愛の危険性や女性にとっての後宮暮らしに人一倍 気を配っていた。

陛下が正妃を迎えなかったのは、内政の安定を優先したという事情の他に、彼自身が狼陛下の治世が長くないと思っていたから。世情が安定したら、しかるべき者=晏 流公への禅譲を陛下は考えていたのだ。その話を聞いた夕鈴が想いを馳せたのは語られない陛下の孤独だった。


けて陛下は本心を語る。それは偽りの妃だったはずの夕鈴への好意。何とか離婚という踏ん切りをつけたのに、夕鈴は舞い戻ってきた。その再会に陛下の心は揺らいでしまった。

そして夕鈴に選択の自由があることを確認した上で自分の思いの丈をぶつける。そして2人は5度目の、そして初めて気持ちを通わせたキスをする。それは季節がまた動き出す合図。長い冬は終わり、再び春が到来する。でも やはり陛下は浩夢中に何度も夕鈴に会いに来る陛下の寵愛は、色恋に溺れているように見える。これは危ない兆候だ。

しばらく夕鈴の牢屋暮らしが続くのは、陛下が夕鈴を今度こそ きちんと後宮に迎える準備が必要だからなのだろう。その間の政治的な駆け引きや交わされる会話を絶対に夕鈴に見聞きされないためにも彼女は隔絶される必要があるのだろう。

夕鈴の正式な妃待遇を反対すると思われる方淵の父・柳(りゅう)大臣は闇商人と繋がっていた長子の愚行を詫び、そして責任を取って身を引く意向を示す。彼を権力に執着する者だと思っていた陛下は驚く。そして柳大臣の苦言の数々は、長年 王宮に仕えている身として陛下の父王や兄王のような時代を作った責任の一端を感じていたからだった。陛下は彼の辞任の意向を取引に使う。素性の分からぬ妃を迎えることに対しての反対を骨抜きにしようとする。陛下は政治が上手い。


鈴が離婚して王宮を離れて以降、最後に再会するのは李順(りじゅん)。鬼姑とのネチネチした嫌味(真実)を聞かされるが、夕鈴が無茶をするために従えた4人のイケメンたちが自主的な行動と発言したため、夕鈴の責任は不問とされる。
そして李順は陛下が正式な妃として夕鈴を迎えたいと希望を出したことを告げるが、李順は思い止まるよう夕鈴に助言する。

これは李順なりの思い遣りだろう。バイトと違って正式な妃となれば これまでのような自由奔放な振る舞いは出来ない。少なからず自由が奪われることを加味して熟考せよ、というのが李順の言いたいこと。それに対し夕鈴は、嘘だらけのバイト妃生活があったからこそ自分の生き方に後悔しないよう努めたいと困難に負けない自分を誓った。


宮内での反対の最大勢力と言える柳大臣を御することになった陛下は、別の派閥の制御に動く。それが地方から王弟・晏 流公を呼び戻すというもの。その場面に夕鈴は陛下の唯一の妃として挨拶に出る。邸の使用人だった女性は実は妃だったという事実に母子は呆気に取られるが、今の母・蘭瑶に発言権は無い。
建前上は闇商人と蘭瑶の繋がりは処罰されていないが、監視と王都への呼び戻しが それに関連してのことと蘭瑶には察しが付いている。彼女は自分の子を王にする目的を果たすために王都への帰還を夢見ていたが、今回は そんな大望を持たないよう直接的に監視されるために呼び戻された。蘭瑶に下されるのは事実上の軟禁であり隠居生活なのである。

一方、晏 流公は無邪気。今回の采配は王弟の望みを全部 叶える形となったと言える。

嘘は苦手だわ、なんて言っていた嘘つき女は相手を反論できない状態にしてネタばらし。

捕らえられている闇商人と陛下との会話で、闇商人側の計画と動機が語られる。そこで陛下が夕鈴のために権力に執着しているように見えるのが残念。何となく これからの彼の政治的判断に夕鈴の存在が介入しそう。官吏試験のことなど、明らかに夕鈴の弟が不利にならないようにしたい という気持ちが透けている。


よいよ夕鈴は正式に後宮に入りとなり、改めて妃として1年間世話になった人々への挨拶周りに忙しい。陛下は夕鈴を一気に正妃として迎えたかったらしいが、それは色々な事情で無理らしい(よく分からないけど)。きっとバイト妃が妃になったように、今度は妃が正妃になるのが夕鈴の目標になるのだろう(そこまで描くことが第2部となるのか)。

そして夕鈴は これまで陛下に言えていなかった告白をする。もう玉砕覚悟では ないものの、これを目標に離婚期間を乗り越えてきた。お互いに立場があって言えなかった相手を愛おしく思う気持ちを告げて第1部は堂々の完結を迎える。