《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

咬みつかれるように愛されて、名実ともに狼陛下の花嫁になったことを実感する。

狼陛下の花嫁 16 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第16巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

親善交流を終え、朱音姫は炎波国へと帰国。平和な日常の中、陛下の狼と小犬の顔の間で翻弄される夕鈴は…!? 腹違いの弟・晏流公と陛下とのやり取りや、李順の休日等、それぞれの日常も!

簡潔完結感想文

  • 妃になって暫く経ったから起こる変化の数々。夫婦になっても また君に恋してる
  • 新キャラや政治的な問題に接触させるために、妃は王宮を歩き回る必要がある。
  • 陛下の乱暴なキスにドキドキする夕鈴。それが陛下のストレスやトラウマを暗示。

婦になっても恋をするんです、の 16巻。

『16巻』はオール日常回。もちろん その話の中に次の展開への布石が打たれているのだけど、基本的にイチャラブしているだけ。色々エピソードを工夫しているけど、基本的には2人が仲良しというお話で、溺愛モノならではの虚無感が漂う。
私は1巻につき4ページ好きな場面を感想文に貼っているのだけど、今回は選びたいと思ったシーンがない。だって ほとんど以前と同じ内容(に見える)なんだもの。

その中で良かったのは、作中の時間が夕鈴が妃になってから ある程度 経過して、そこでの変化が描かれていること。例えば夕鈴が正式に妃になった「第2部」は夜になると陛下が後宮に顔を出し、本物の夫婦の時間を過ごす。それが当たり前になってきた『16巻』で陛下が多忙になり後宮に顔を出せなくなる。妻に会えない陛下は仕事の効率が極端に落ちるので、以前のように夕鈴が政務室に顔を出して陛下の やる気を回復させる。以前は偽装夫婦の演技を他者に見せることが目的だったが、今は夕鈴は妻として夫を支える役割になっている。

再び夕鈴が王宮を闊歩するようになることに私は反対なのだけど、そこで夕鈴は幾つかの新しい顔に出会う。1つは新キャラ。夕鈴が政務室に顔を出さない間に新キャラが転属してきて、また関わりが生まれる。この人員の配置は時間経過があれば自然である。そして この新キャラから夕鈴は陛下の結婚前後で違う雰囲気を聞かされる。この第三者の意見によって結婚が陛下にもたらした影響が語られて、読者も それを知ることが出来て嬉しい。

新キャラは仮想敵。でも きっと お妃様は彼にも認められるんだろうなー(遠い目)

また夕鈴が政務室で、久々に陛下の夫としての顔ではなく、仕事中の狼陛下、国王としての顔を見ることで、狼陛下の夫を初めて目撃する。

陛下は後宮までの道中で気持ちを切り替えるのか、結婚後は いつも にこやか。だから夕鈴は陛下が狼と呼ばれ、自分が彼に畏怖していたことを忘れるぐらいに。けれど政務室で会った陛下は狼の雰囲気を残し、自分への愛情表現も少し乱暴。以前と違うのは、今の夕鈴は彼に愛されている実感があること。だから これまでとは別人のような彼に接することで これまでとは違うドキドキを感じる。

夕鈴が異国の衣装を着て陛下をドキドキさせようとしたように、陛下は夫婦となって初めて狼陛下として彼女を愛する。つまり『16巻』はマンネリ気味の夫婦関係を打破する新たな刺激が描かれている(違う)。

日常回の中で好きだったのは李順(りじゅん)の初めての休日。折角ならサブキャラで1本 話を作って欲しいが、全く夫婦を描かないというのは作品のテーマから外れてしまうのだろうか(2人でいなかったのは離婚期間ぐらいだし)。夕鈴の陛下への気持ちの種類が違うのは何となくわかるが、基本的に同じに見える。今回の内容はファンなら楽しめる ≒ ファン以外は同じに見える、という印象が拭えない。

ここから大きな流れが生まれるのなら、実は今回は最後の貴重な日常回なのだろうけど、演技夫婦でしていたことが正式な夫婦で焼き直されているだけに見える。溺愛モノって内容に変化・発展性がないのが弱点で、そこが好きになれない。


音(しゅおん)との交流を通して夕鈴は自分の理想像を明確にする。本物の姫、本当に妃になるような人に接することで夕鈴は更なる努力を誓う。こういう点が夕鈴の長所だろう。一つの問題に取り掛かると陛下を放置気味なのは問題だけど。

新キャラの次は王宮内の様子を描く。基本的に新キャラ → 王宮内の諸問題 → お出掛け回、の三本立てで やっている。どうやら この国には五大家という5つの家柄があるようで、そのうちの3つの家の隠居たちが王宮に顔を出す。彼らは陛下の父王の代で働いており、党首の座は譲ったものの、己の影響力を維持する気持ちは衰えていないようである。

この頃、陛下は異母弟・晏 流公(あん りゅうこう)と王宮内で接触するようになり、夕鈴が想像するようなフランクな兄弟関係ではないものの、少しずつ会話が始まっていく。実は陛下は家族とは関係が薄かったため不慣れ。夕鈴の期待に応えるのも難しく、陛下なりにストレスを感じているようだ。そんな陛下の心を理解せず、自分の理想を押し付ける夕鈴は愚妻なのでは…??


前、夕鈴がバイト妃時代に休暇を申請したことがあったが、今回は陛下の側近・李順(りじゅん)が1日だけ お休みを取るという本書初めての展開となる。

李順は姑ポジションだから夫婦 水入らずの一日になるはずが、この夫婦には姑が必要。

その李順が休みの日、夫婦間で名前呼びについての会話が交わされる。きっかけは陛下の異母弟・晏 流公のことを夕鈴が名前で読んだから。そこに嫉妬した陛下が名前で呼んでと迫ったため、夫婦でトラブル発生。陛下に執拗に迫られて夕鈴が自室にこもったことで李順が呼び出されるという情けない展開となる。元々 李順は自宅で仕事をしていただけだったのだが、夕鈴から事情を聞き出して呆れる。陛下が夕鈴を困らせた、という事情を察しながら、同時に陛下の強情さも熟知している李順は夕鈴に順応を求める。

その昔、陛下が陛下になる以前は李順も陛下のことを名前で呼んでいたが、今の李順は陛下を名前で呼ぶことは許されない。現時点で唯一それが許されるのは夕鈴だけ。そんな人が陛下に現れたことが李順は嬉しく、そして少し寂しいのではないか。


前、『8巻』で会った陛下の叔母で隣国に嫁いだ女性から夕鈴に贈り物が届く。
最初は露出の多い服に夕鈴が戸惑い、そこに張元(ちょうげん)の助言で空回るという いつもの展開。だが陛下は その贈り物の中に叔母の夕鈴への気遣いを読み取る。

以前 登場した人を夕鈴が妃になった第2部で また活用するのは悪くない展開。叔母の心も嬉しい。夕鈴は夕鈴で築いた人脈があり、それが外交に繋がる。そういう今後の夕鈴の役割を予感させる話でもある。


下が多忙になったため、結局 第1部のように夕鈴は政務室に出向いて陛下と束の間の逢瀬をする生活になる。折角 第2部は妃が後宮から出るなんて展開が無くなったと思ったら、元の木阿弥。結局、夕鈴を物語に介入させるには政治的問題に巻き込まれないとダメなのだろう。
ちなみに王宮と後宮の距離感は どの程度なのだろうか。作者の頭の中では設定があるんだろうけど、本書は そういう設定を読者に伝えない。王宮の全体図を見せるとか読者に伝える工夫が欲しい。これだけの長期連載でも いまいちスケールが伝わってこない。

そうなったことで出会うのが恵 紀鏡(けい ききょう)。先日、政務室へ配属になった男性で五大家の隠居の孫という立場。彼は祖父から国王夫婦の情報の入手を命じられているようだ。

この恵 紀鏡を通して夕鈴は陛下が正式な妃を迎えてから穏やかになったことを知る。以前は財政難から渋っていた宴の開催が許されるなど変化は一目瞭然だという(儀式的なものだけ らしいが)。


鈴は妃になってから妃修行に精を出していたし、後宮でご機嫌な陛下しか知らないから、彼の変化に気づかなかった。

それを夕鈴は陛下の変化ではなく、陛下が自分に上手に彼の中の狼を隠しているだけだと思って涙が溢れる。どうやら夕鈴は妃になった自分が狼状態の陛下に少し乱暴に触れることにドキドキするらしい。夫婦になっても まだ恋をしているよ、という新しい発見なんだろうけど、私には以前と どこが違うのか分かるけど分からない。
夕鈴は陛下にドキドキする自分を発見して涙したのだが、陛下は また自分が夕鈴を驚かせてしまったと反省する。

その誤解に夕鈴は落ち込む。そんな心の隙間に入り込むのが恵 紀鏡。夕鈴に接触し、彼女の素性を探るような視線を向ける。夕鈴は また狙われようとしているのか。夫婦は いつも通り仲直りする。