《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

両片想いじゃなければ妃の意地っ張りな性格を熟知した狼陛下による ただのセクハラ。

狼陛下の花嫁 9 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第09巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

後宮内の廊下でパニックになった末、陛下と事故チューしてしまった夕鈴。動揺で仕事も手に付かない夕鈴に、陛下が投げかけた言葉とは? 一方、瑠霞姫の企画したピクニックでは美女集合で波乱の予感!?

簡潔完結感想文

  • 「互いの色々な努力により甘さ上昇中です」と自ら これまでとの違いを訴える厚顔無恥
  • わざと夕鈴に試練を与えて その人の嫁に相応しいか見極める内容は2巻連続だよね…。
  • 契約で貞操こそ守られているがセクハラは保証対象外。演技を盾にしたパワハラ陛下。

下、それパワハラとセクハラの性加害コンボですからね、の 9巻。

『9巻』も相変わらず同じ内容が続く。特に身内の嫁として相応しいか見極める女性に夕鈴(ゆうりん)が振り回されるという内容は2巻連続で重複するという最悪の配置だと思う。舞台と人間が違うだけで本当に同じことを繰り返すから作品の中盤は評価が低い。

内容が同じなら読者は自分で視点を変えて読むのが正しい読み方なのだろうか。私の中で『9巻』は陛下が気持ちのギアを一段 上げているのが印象的で、その理由は陛下の気持ちが抑制が効かないほど昂ってきていると考えられる。

未だに陛下には周囲からの結婚圧力が絶えず、その一方で夕鈴とはビジネスライクであれ と李順(りじゅん)に言われる。夕鈴は常に陛下から一線を引かれていると感じているが、陛下の方も また夕鈴へ一線を感じ続けているのだろう。それは隣国に嫁いだ叔母との別れの挨拶で、このままでは いられない と言われたことも影響している。

陛下の方も夕鈴と一緒に居続けるには、バイト妃との演技合戦を続けなければ ならなくて、自分の中にある本気の愛情や好意が ちゃんと伝わらないし、それを公にしてはいけない。少女漫画として夕鈴側の悩みが中心になっているが、2人の悩みは実は共通点が多く、夕鈴の悩みは そのまま陛下に置き換えられる。

陛下だって「演技」を越えてはいけないという葛藤を抱いているし、自分が対応を間違えると大好きな夕鈴の気持ちを乱してしまうし、時には泣かせたり家出させたりと望まぬ結果が起きている。夕鈴は それを自分のキャパオーバーだと思っているが、実は陛下の気持ちが演技以上にオーバーフローしてしまった陛下側の失敗でもある。


うして陛下は好意が積もり重なって、ギアを上げて彼女に接する。

だが そこで起きている事象を また視点を変えて見てみると陛下のしていることがセクハラにしか見えなくて幻滅した。読者だけは夕鈴と陛下のビジネスライクな関係の中に本物の感情が生まれているから陛下の過度になったスキンシップは「甘さ上昇中」などとポジティブ変換されているが、陛下もまた夕鈴に自分の気持ちを伝えてないし、相手の気持ちを確認していない。だからこそ陛下のしていることがパワハラとセクハラのコンボに見えてしまう。

夕鈴の性格を利用して、陛下は やりたい放題。身分差・能力差が悪い方向に出てる。

狼陛下というのは恐怖の対象で、本来は怖いはずの人の言動に夕鈴がドキドキしてしまうのが本書の妙味だったと思うが、いつの間にかに陛下は俺様(セクハラ)ヒーローに なり始めている。特にジコチューでキスを終えれば、その後のキスは夕鈴の意志なんて お構いなし。これは1話で俺様がキスする意味不明な行動と あまり変わらない。
その後も夕鈴の性格的弱点を突いて、彼女がビジネスでは頑張り屋さんなのを利用してスキンシップをしている。しかも陛下は夕鈴の家に余裕が無く、借金を背負っている背景を知っているから、夕鈴が声を上げられないことを知っている。イケメン無罪と白泉社的な上級国民の治外法権が適用されているが、これが単なる一般男性だったら嫌悪の対象。

陛下という最高権力者とバイト妃という身分差もパワハラとセクハラの構図を強めていて良くない。陛下が本当に優秀で 夕鈴を思い遣っているのなら、彼女に きちんとした身分を与える足場を整えるか、そうでなくとも夕鈴に自分の気持ちを伝えるべきなのだ。作品上、その場面は まだ先だからという理由だけで そうせず、陛下は夕鈴にベタベタと触る。まだ夕鈴が絶対に好意を口に出せない理由の方が分かりやすく、彼女の方が切実だ。

こういう構図を私は甘いとは思えない。それなのに堂々と「甘さ上昇中」とか書いてしまうから作品との相性が非常に悪い。ジコチューはハプニングだけど、2度目のキスは性加害。これは夕鈴が可哀想で、陛下がデリカシー無さすぎる。陛下は陛下であるから良いのに、俺様ヒーローのような行動は誰も望んでいない。やっぱり本書は色々と塩梅を間違えていると思う。


コチュー後、きちんと話し合えないまま、陛下は仕事に向かっていまう。夕鈴は妄想と暴走でクビを覚悟するが、陛下は事故として処理。女性側のメンタルを気遣い「あれくらいのコト」と軽く流すよう促す。だが その発言が夕鈴は気になっていまい蒸し返す。キスの重要性や価値観の違いが露わになってしまった。

そんなメンタルが揺らいでいる時に陛下の叔母が大規模な催し物を開く。それが この国の有力な家柄の女性を集めた陛下の お見合いパーティーであることを夕鈴は気付かない。いつだって間抜けなのだ。いい加減、この夕鈴の描き方は止めて欲しい。

この回で唯一の妃である夕鈴は見世物になり、多くの女性から値踏みされる。そして叔母からも夕鈴のような下位の妃ではなく、狼陛下に相応しい正妃を迎え、後宮を整えるべきだと考えている者が多くいることを指摘される。今回、叔母が集めたのは夕鈴のライバルとなる女性たちなのである。
その牽制といえる発言に対して、ピンチに滅法強い夕鈴は本心から陛下の味方であり続ける意思を伝える。これを陛下に言えれば物語は前進するのに…。

得意なのはゲストキャラに自分を良く見せること。そのためなら苦手な嘘もつくんだよ☆

鈴 居るところに陛下あり で、何も知らない陛下が現れ、そこで叔母の目論見を見破る。陛下は美貌と家柄を併せ持った女性たちを無視し、夕鈴だけを選ぶことで答えとしようとするのだが、夕鈴が そこで意地を張り、陛下を困らせる。

この場にいることが妃の務めだという夕鈴に対し、陛下は事故ではなく自らの意志でキスをして、自分の意志を夕鈴と その周囲の者に示した。叔母が設定した、夕鈴の仮想敵は彼女が敵だと認識する前に陛下によって鎮圧される。その意味では陛下は夕鈴にとって紛れもないヒーローだと思うが、やっぱり性加害者だと思う。ジコチュー以降はキス解禁したと一方的に思うなよ(陛下と作者)。

その夜、ジコチュー同様に夫婦間でキス問題が議題に上がる。陛下は叔母の目論見を一瞬でムダにする一番 効率的な方法を選んだと夕鈴に伝え、彼女を怒らせる。この頃の陛下は様々なストレスから一段ギアを上げておりスキンシップを多用するのだが、夕鈴は平常心でいるために陛下に捨て台詞を吐いて退却する。


婦仲はギクシャクするが、夕鈴が叔母の心を掴み、彼女は陛下が語らない、母親との後宮の暮らしについて語る。自分は国王の妹で後宮暮らしとは縁がない叔母だが、後宮の暮らしは女性の生き方を翻弄する。それを知っているから夕鈴を試した。そういえば陛下が香料等が あまり好きではないのは、後宮という香りに包まれた場所の記憶が あまり良いものではないからかもしれない。
陛下の過去を聞いた夕鈴は狼陛下が捨てた心を彼に代わって痛めることで一層 彼からの寵愛を受ける。

唯一の身内である叔母は、帰国時に夕鈴が側にいれば甥の心も安泰だと、陛下を託して帰っていく。いつだって夕鈴は人間的に合格を与えられるという結論の連続。これは夕鈴の妃としての働きや地位が、正式な妃になる前から周囲に認められていたという後々の布石になるのだろうか。陛下に対して逆ギレ or ポンコツで、それなのに周囲は夕鈴を聖女のように扱うという展開に無理が出てきている。


下は自分の気持ちが滲み出てスキンシップ過多になっているが、夕鈴はプロ妃になる一環として陛下に寄り添うようになり、それが陛下には罠に感じられる。そこで手を出したら逆ギレか家出か泣くか怒るか。ラインを越えた瞬間に情緒不安定になる嫁に陛下は手を こまねいている。

最近、陛下が機嫌が良いことに気づいた夕鈴は、いつものように張元(ちょうげん)と浩大(こうだい)に そそのかされて、浮気を疑う。つい この間、陛下の叔母に「心ひとつで あの人の味方です」とか言い切ったのに…。こういう性格の不一致は、夕鈴の中に強気兎と弱気兎の二面性があるということなのか…!?

夕鈴が暫く悩んだ後、陛下に恋人が出来たなら言ってくれと伝えると、陛下が何に時間を使っているかを見せてくれるという。ここで夕鈴は「浮気現場」を見せられると考えるが、夕鈴こそ偽物で新しい相手には本気と考えるべきではないか。それを浮気と認識するところに夕鈴の勘違いが浮かび上がっている。

当然、浮気などではなく李順が陛下のストレス発散のため、武道の達人である克右(こくう)を相手に訓練して身体を動かしていた、というのが真相。克右は潜入調査員であり軍人らしい。

陛下が夕鈴の勘違いを指摘してもビジネスを持ち出すのを見て、陛下はグイっと夕鈴に迫る。陛下側からすれば夕鈴にだって相手に立ち入らせない一線があると感じられるのだろう。陛下は過去や責務を、そして夕鈴は恋愛感情を見せまいとして一線を引く。この一線問題は いつの日か解決するのだろうか。

そこから狼陛下の演技に一段と熱が入り、夕鈴は もっと妃らしい仕事を強いられる。それが私にはセクハラにしか見えない。肉体的な距離の接近で読者を繋ぎ止めようとしないで欲しい。