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少女漫画と小説の感想ブログです

バイト妃だった夕鈴が今や 王宮インフルエンサーとしてカリスマ性を獲得する。

狼陛下の花嫁 17 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第17巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

多忙な陛下のために政務室に通うようになった夕鈴の前に怪しげな官吏・恵紀鏡登場! さらに、陛下の謎の咬みグセが発動して!?

簡潔完結感想文

  • 残り2巻のスケジュールは詰まっているので、ここで最後の個人回が連発される。
  • 陛下がトラウマに囚われつつあるので、動くのは周囲の人。ヒーロー行動は少ない。
  • 究極のワンパターンだが最後の新キャラとも和解し夕鈴は国母になる資格を得たか。

終回を見据えて逆算で話が構成されていく 17巻。

全19巻中の『17巻』なので作者的は もうラストスパートだったのだろう。クライマックスは夕鈴(ゆうりん)と陛下の2人の関係がメインになることが分かっているため、『17巻』は ほぼ個人回の連続。これまで登場したレギュラーキャラクタの到達点や現在地が描かれる。

この構成の意味は私のように完結後に読むような人には分かるけど、リアルタイムで追っていた読者には『16巻』に引き続き、新しい展開が見えない暗中模索の時期で疲弊や辟易してしまったのではないだろうか。それでも私が終盤の展開に否定的ではないのは、作者が第2部に挑んだ意味が分かるから。また この頃になると長すぎる物語に終わりが見えたので、読者としてもラストスパートで一気に読み切るだけだったからだろう。

そして少女漫画のクライマックスといえばヒーロー側のトラウマや過去。それに向けて本書も少しずつ陛下の心にトラウマが再発していく様子を描いている。

咬(か)み癖という幼児退行のような行動が見受けられるのは明らかな異常。だからなのか本書の陛下は あまり行動的ではない。普段なら自分から進んで解決や制御するような問題に首を突っ込まない。全体的に意欲を失っている鬱状態なのだろうか。
ただし陛下は積極的に動かなくてもカリスマ性を発揮している。後述する夕鈴と同じようにイメージ戦略として「狼陛下」を利用してきたが、今はもう誰もが自然と陛下のことを認めるような存在になっているように見える。

作り話に頼らなくても陛下は もうカリスマ性を獲得している。そこに水月も敬服した。

女漫画ではヒーロー側の心の問題はヒロインが輝くチャンスでもある。陛下が少しずつ病んでいく一方で、夕鈴は最後の新キャラとも和解することで聖女としてのレベルを上げ終える。そのカンスト状態の夕鈴だから陛下の心を、狼状態の彼であっても竦(すく)まずに触れることが出来るのだろう。この国を建て直した陛下をも癒やす最高の存在として夕鈴が君臨する準備は出来ている。

面白いと思ったのは その前から夕鈴は噂の中で狼陛下と対等な存在になっている点。陛下は若くして、そして期せずして国王に就任する際に周囲を威圧しコントロールするために「狼陛下」という虚像をイメージ戦略とした。それは本性でもあるが一種のキャラ付けであり、まずイメージで国を支配した。

一方で夕鈴は等身大の妃を心掛けながらも様々な偶然があったり、妃の素性が見えないからこそ想像の余地が入り込み、臣下や国民のイメージの中で夕鈴は実体以上の存在となる。「妖怪妃」と畏怖されることで狼陛下と釣り合いの取れた存在になったと言える。
また様々な噂が飛び交うということは一種のカリスマ性の獲得なのではないかと思う。そのイメージが先行し過ぎると王宮内でのパワーバランスを崩しかねないが、今の夕鈴は、彼女が体当たりして構築した人間関係がある。王宮内の最後の夕鈴の反対勢力も鎮静化され、夕鈴は名実ともに唯一の妃になろうとしている。本人は望んでなくても、そういう噂が立つほど周囲から一目置かれる存在になりつつある。

夕鈴は周囲から何かをしてくれる、そんな期待を背負った存在になったのだ。それは正妃への一つのステップのように思える。


頭は柳 方淵(りゅう ほうえん)が陛下に絶対的な忠誠を誓ったエピソード。方淵が家柄や兄の存在があり型に はまった生き方をしていることを陛下は見抜き、彼本来の才能をフルに発揮する場を与えてくれた。だから方淵は陛下に ついていく。ちなみに方淵の兄は、闇商人との関わりのため、ひっそりと地方に左遷されたらしい。物語を濁らせないためか、刺客や悪者の処分について あまり語られない本書において、こういう後日談が語られるのは珍しい。恵 紀鏡(けい ききょう)が言う通り、これは何かが起こる布石なのだろうか。

そして夕鈴は李順によって定期的に政務室に顔を出すスケジュールが組まれる。結局 バイト妃時代と同じで王宮を歩き回り、人や事件に遭遇することを望まれている。
この頃、陛下の咬(か)み癖は悪化する一方。政務室に顔を出すようになった夕鈴は陛下が人前でも狼陛下になって大胆な行動に出ないか冷や冷やしている。


いては氾 水月(はん すいげつ)の個人回。相変わらず出仕拒否の姿勢が見える水月。彼が陛下を恐れるのは狼という演技を目の当たりにしているから。しかし いつもは陛下を巧みに避ける水月が陛下と遭遇し、少し腹を割って話をしたことで水月は陛下の圧倒的なカリスマ性を見抜いてしまう。それは水月の能力の高さで、自分が陛下を王と認めたからには真面目に働かなくては ならなくなる。水月のモラトリアムも終わったということか。

水月の妹・紅珠(こうじゅ)。名門 氾(はん)家の末っ子で たった一人の娘。だから大切に育てられてきたが両親の仲は決して良くない。名家だからこそ政略的な結婚が なされたようだ。紅珠は自分が母親と同じように政略的な結婚の駒として使われるはずで、相手は陛下だったかもしれない。
その紅珠の運命を変えたのは夕鈴。突然 現れた夕鈴の影響もあり陛下への縁談は進んでいない。本来は後宮で陛下の寵愛を競い合うような間柄になる女性2人は仲良く交流している。そして陛下が夕鈴以外の妃を望まない限り、紅珠は自由。いつか別の人との縁談が組まれるまで紅珠には猶予がある。その時間を精一杯 使って紅珠は物語を紡ぐ。それは自分の人生の物語を描く逃避の手段であるようにも見える。紅珠が恋愛に夢を見るのは、結婚に夢がないことを知っているからだろう。

作品には紅珠ぐらいしか若い女性が登場しないから そう見えてしまうが、このところ紅珠と方淵のフラグが立っているように見える。若い男女が話しているとカップリングしたくなるのは少女漫画読者の悪い癖かしら。


紀鏡はバイトならぬ甦るゾンビ妃を退治したい。それが隠居した祖父たちの願いであるから。だから夕鈴が本当に妖怪の類なら退治されるよう呪符を仕掛けたりもする。

そんな彼の行動を見抜き、釘を刺すのは周(しゅう)宰相。直接 大御所たちにも会談の場を設け、動きを牽制する。老人たちにとっても陛下の働きは国にとって良いものに映る。ただ一点 理解が出来ないのが夕鈴という素性不明の妃。だから それを排除しようとする。だが周宰相は夕鈴を失った場合の陛下と この国を心配する。陛下の心が壊れてしまえば、この国は再び荒廃する。それが周宰相が予感する未来なのだ。

いつもなら恵 紀鏡や老人たちの動きは陛下が釘を刺すところだが、陛下は今 少々動作異常が認められるため、夕鈴を含めて他の者たちが動く展開になっている。

周宰相の天気予報と合わせれば、夕鈴は天候を操る妖怪妃の噂を もっと拡散できるッ☆

夕鈴は恵 紀鏡に呪符について問い質そうとするが、その前から恵 紀鏡は戦意を喪失。ここで夕鈴が聖女になる展開が始まると思ったところでの恵 紀鏡の行動は笑える。が火に油を注ぐことになり、夕鈴は怒髪 天を衝く。
いつもとは違い今回は恵紀鏡のピンチに陛下が登場する。でも それは夕鈴が恵紀鏡のピンチを救う展開のためだった。彼の罪、もしかしたら陛下から一生 赦されないような罪から守ることで恵紀鏡は夕鈴に一生 頭が上がらない。こうやって次世代のエース官吏と仲良くなるのも妃の資質なのだろう。

陛下は夕鈴が恵紀鏡を庇ったことを見抜いているが、深く追求しない。そして周宰相が釘を刺したからか大御所たちは妃追及を止める。それにより素直な恵紀鏡は純粋な夕鈴への興味だけで妃に接することとなる。

この恵紀鏡との戦い(?)の末、夕鈴は一定のカリスマ性を持ったと言える。狼陛下が演出を利用して恐れられたように、夕鈴は偶然が重なり底の見えない人物に格上げされていく。もしかしたら周囲の噂の中では釣り合いが取れていくということなのか。


後は蘭瑶(らんよう)。自分の過去を反省し、陛下と穏やかな気持ちで会話をする。そして今の蘭瑶は、自分を教育係に指名してくれて、生きる意味を与えてくれる夕鈴がいる。かつて毒と称された本性は陛下から見ても もうないように思える。蘭瑶の毒を分解したのは夕鈴なのだ。

「特別編1」…
些細なことで喧嘩する いつも通りの日常。陛下が自分の願望を絶対に譲らないところに頑固さが見え隠れする。

「特別編2」…
お酒に強い陛下と一緒に飲むために、お酒に強くなりたい夕鈴。でも そういう夕鈴が陛下は好きという話。