《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

オババから始まりオバで終わる『8巻』は、デコチューで始まりジコチューで終わる。

狼陛下の花嫁 8 (花とゆめコミックス)
可歌 まと(かうた まと)
狼陛下の花嫁(おおかみへいかのはなよめ)
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

几家の小間使いとして働く夕鈴であったが、おばば様に気に入られ、几鍔の嫁候補に!? 小間使い生活が無事終わり、後宮へ戻った夕鈴を待っていたのは、よそよそしい態度の陛下。不安な夕鈴は周宰相の助言に従い、陛下を後宮デートに誘うが、思わぬトラブルが起きて──!?

簡潔完結感想文

  • 自分で断るのは縁談であって恋愛ではない。誰も傷つけない聖女ヒロイン様。
  • 春の次は夏イベント。王宮・下町・離宮と舞台は違えど同じ内容を繰り返す。
  • 陛下唯一の身内との交流。今回もバイト妃が踊らされる姿を楽しめばいいのか…。

下の助言は聞かないが、それ以外の助言は全部 聞く の 8巻。

本書で主人公・夕鈴(ゆうりん)は どんな身分の人にも一目置かれる聖女として描かれているが、その一方で作品世界で一番 間抜けな人に描かれているのが気になる。例えば『8巻』で交流する2人の女性に対して夕鈴は対等ではない。序盤の下町編では几鍔(きがく)の祖母の計画の上で踊らされただけだし、後半の陛下の叔母に対しても彼女に腹蔵があることを見抜いていない。

それを見抜けるのは この世界の最高権力者であり絶対無敵のヒーローである陛下、というのは少女漫画としては正しい構図なのだろう。でも そうなると結局、夕鈴は陛下とも対等ではない。陛下が見通していることを夕鈴は絶対に理解していない。陛下にとって夕鈴はアホ可愛い存在なのだろうか。これは本書だけでなく白泉社の男性絶対上位の世界観への反発なのだと思う。努力ヒロインが空回っている様子に年々 違和感は増すばかりだ。その中でも夕鈴は、学園モノならば学年1位の陛下をライバル視する学年2位のヒロインではなく、最下位ヒロインなのに勝気だから応援しにくい。いや、通っている学校からして違うか。夕鈴に そういう能力格差の認識がないのが痛々しい。

ここで陛下に「それはバイト妃の考えることじゃないと思うよ(ニッコリ)」と言って欲しかった!

鈴が陛下の有能さを認めないような動きをするのも読んでいて悲しくなる。

意地っ張りヒロインの典型的な行動だとは理解するものの、彼女は陛下の助言を聞いたことがあっただろうか。夕鈴は物事を見通している陛下の提案は拒否し、自分の やり方を通そうとするだけ。その空回りでページが埋まっていくのだろうけど、人の助言を聞けない人の話など面白くないし、成長も信頼もない。

その反面、夕鈴の間抜けさを面白がっている不誠実な人たち(張元、浩大、今回登場の叔母)の助言はホイホイと聞いて、露出の多い服を着たり、陛下の部屋に夜 訪問したりと自爆している。夕鈴は自分の意志があるんだか無いんだか分からない。

陛下の提案を拒絶した結果の反省と改善が見受けられないから、再放送感が一層 増す。舞台や人を変えても、心境や心情が同じなら それは同じことの繰り返し。そこの塩梅を作者が間違えているから中盤は酷く退屈だ。

また『7巻』での私の懸念通り、下町に行ってしまい国王と妃が不在という事態は「王夫妻は後宮に数日間 引きこもっていたことになっ」たようだ。要するに これは陛下が色に溺れた ということで、夕鈴の勝手な行動が陛下の名誉や威厳を傷つけている。陛下は色と欲に溺れた前王とは違うところを見せるために王宮内で「狼陛下」であり続けている。これまでの陛下の努力が夕鈴のせいで水の泡になりかねない危機だったのだ。
けれど夕鈴は(作品は)彼女が引き起こした問題を無視する。なぜなら都合が悪いから。そういう妃びいきのエピソードの作り方に私は疑問を覚える。どうしても夕鈴を聖女にしたいようだが、私には浅はかな女にしか見えない。


用なことに足を突っ込んで、そこで知り合った人に人柄を認められて、最後に起こったピンチを陛下に助けてもらって、2回目の地元もテンプレ展開で終わる。夕鈴は小間使いの働きが几鍔(きがく)の祖母に認められて、孫の嫁に来いとスカウトされる。

拒否を無視する暴走気味な祖母を、陛下が何らかの話をして制する。陛下は祖母が怪我を詐称していることを見抜いていたのだ。怪我は夕鈴を呼び寄せるための難癖で、孫の嫁として目星をつけていた夕鈴と一緒に過ごすことで彼女の資質を観察していた。
夕鈴は結局 人の思惑の上で踊らされていた。陛下に頼れば最短距離で解決する問題を、夕鈴の意地っ張りが長引かせているだけ。一応、夕鈴は頼って堕落しないで、人間的に成長するという目標のもと行動しているようだけど。

几鍔の家との縁談を断るのは自分の役目と夕鈴は考える。ただし これは縁組であって恋愛ではない。私は当て馬の告白を断る場面は、ヒロインの責務の一つで、彼女が誰かを意識的に傷つける勇気と葛藤が好きなのだが、本書は徹底的に夕鈴に甘いから、几鍔は当て馬っぽい人としてしか描かれれないのが残念。

そして陛下からのデコチューは過労で倒れた夕鈴に夢だと判断される。デコチューは事実だろうけど夕鈴の中でリセットされたので現状維持。まだまだ話を進める気は無いらしい。

そして今回、知り合った克右(こくう)は大きい商家の内定をしていて、夕鈴が几鍔の実家の者だと思って警戒していた。だが陛下と懇意にしていることを知り、「下町の悪女」と呼ばれている夕鈴が「後宮の悪女」に負けないよう応援する。どちらの悪女も夕鈴のことなのだが、克右の勘違いは続く。


下が王宮を留守にすると、その後 仕事が立て込み、夕鈴との時間は取れない。しかも今回の騒動後、夕鈴には陛下の演技が淡白になったように思われて不安に思う。おそらく これは離宮から帰ってきた後の放置(『5巻』)と種類が同じ。相手のことを気遣い過ぎて結果、不自然になるのが陛下のパターン。以前と同じことを平然と繰り返す作品は私は嫌いだ。

その夕鈴の不安を解消してくれるのは、予言者のような周宰相。自分で導き出した確率から紡がれる彼の未来予知を信じて夕鈴は陛下を外に誘い出す。張元(ちょうげん)だったり浩大(こうだい)だったり、人の言うことを実行してしまうのが夕鈴なのだ。
周宰相の予言は天気予報。天気が崩れることを見抜いた彼は夫婦を外に出し、雨宿りさせることでコミュニケーションを取らせる。陛下は自分が下町で夕鈴を困らせて、体調を崩させたと責任を感じていたのだった。


(または花)の宴から季節は移ろい夏が到来する。そこで公務として避暑地にある離宮での祭祀に参加することになる。夏のイベント回といった感じか。

今回の離宮では夕鈴は勉強漬け。祭事への理解を深めるため妃教育が施される。いつもは陛下が仕事漬けだが、今回は逆なので全然 違う話に思えるよぉ…。勉強している夕鈴に陛下が話し掛け、夕鈴には それが誘惑に感じられ、2人は別離を李順から言い渡される。このところ陛下が夕鈴との距離感を見失っている。でも夕鈴は陛下の気遣いと強引さに触れてドキドキ。どんな状況でも結局イチャイチャしちゃうのが この2人なのだ。

そして この離宮で幽霊騒ぎが起こる。それに恐怖しながらも誰よりも勇気をもって立ち向かうのがヒロイン様。そして到来する彼女のピンチに現れるのがヒーロー様。今回は久々の刺客回だった(まだ狙われるん回)。


いては癖の強い新キャラの登場。几鍔の祖母は姑的な存在だったが、今回は陛下の叔母で、彼にとっては本物の小姑。
彼女の名前は珀 瑠霞(はく るか)といい陛下の父親の妹で、隣国 蒼玉国(そうぎょくこく)に嫁いだという設定。今回は里帰りに来る。父親の妹といえ、陛下は ずっと王宮暮らしをしていた訳ではないから叔母には小さい頃に会ったきり。

夕鈴は外交の一環を任されて責任重大。そして陛下も狼陛下としての威厳を損なわないように夫婦で演技を徹底しなければならない。基本的に夕鈴は宴で少し会うだけ。この「簡単な お仕事」が いつも簡単ではなくなるのが いつものパターン。挨拶するだけのはずが叔母に ゆっくり話がしたいと言われ、彼女は新キャラと交流することになる。夕鈴はボロを出さないように上っ面の会話に専念することを李順に言い渡される。

夕鈴は1日 会話しただけで叔母が良い人だと感化され、陛下にも仲良くすることを勧める。相手の事情を知らないのに仲良しごっこを勧めるのは夕鈴の悪い癖。白泉社ヒロインらしいが、お節介にも ほどがある。何度も「一線」の存在を確認しているのに、自分から不用意に踏み込んでは傷つく。学習能力が無い人である。

どれだけ一緒にいても陛下の地雷の場所を理解しない無能妃。そーゆーところが嫌い☆

かし夕鈴の居るところに結局 現れるのが陛下。叔母への威圧も含めて、自分が妃を寵愛している場面を見せつける。夕鈴は自分のことで手一杯だけど、他の関係者は政治的な思惑など高度な情報戦をしているのも いつも通り。やっぱり夕鈴だけが間抜けに見える構図で私は嫌いだ。

夕鈴の存在に興味を覚えた叔母は、氾(はん)大臣から派遣された紅珠(こうじゅ)も含めて女子会を開く。叔母は自分がしたいことを何としてでも叶えてしまうのは、さすが陛下の血縁か。そして陛下は夕鈴を心配しつつ、仕事に忙殺され夕鈴を放置しなければならなくなる。

食えない叔母に一人で対処できる訳がないのが無能な妃。現に夕鈴は、叔母の口車に乗って露出の多い格好をさせられ陛下と対面する。陛下が照れ隠しと理性を保つために距離を置こうとする発言をしたことで夕鈴は自分の行動に羞恥を覚え逃亡する。それを陛下に止められて接触した時に夕鈴の髪飾りが陛下の袖に引っ掛かり、慌てた夕鈴が暴れたために2人は…。