《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お近づきになった人に逃亡される不運なヒロインが縋るのは結局イマジナリーフレンド。

たいへんよくできました。 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
たいへんよくできました。
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

9年間ひきこもりだった主人公ぼたんが高校で友情に! 恋に! がんばる物語の3巻目!! …2巻の最後で孤高のイケメン甘藤くんが突然デレたの覚えてます!? そのデレ、この巻で爆発します! 親友と仲直りさせてもらったお礼は何がいい?と甘藤くんに聞かれたぼたんは反射的に「デートしてください!」って答えて!?

簡潔完結感想文

  • 甘藤は地元でトラウマと向き合うが、ぼたん は学校でトラウマと強制対面。
  • 過去の半生から成長した男性が潤滑油となり、全てが好転していく初体育祭。
  • 一方的に縁を切られる痛みを知るはずのヒーローが二重に間違えて絶交宣言。

数巻で明るい学校生活が暗転する物語の 3巻。

失敗は成功の基だから、『2巻』の担任教師の言葉ではないが、若い人達は「爆死」することが成長の種になる。

でも この失敗は誰にとっても痛い。『1巻』でも作者はヒロイン・ぼたん が掴みかけた苺香(いちか)との友情を奪っていたが、同じく奇数巻の『3巻』ラストでも ぼたん から明るい展望を容赦なく強奪した。傷つくことを恐れずに一歩ずつ前進している ぼたん に何と言う仕打ちだろうか。しかも今回の裏切りは一番 信頼を寄せていた甘藤(あまとう)が起こしたもの。『1巻』では どんなに傷ついても甘藤が助けてくれたから学校生活やクラス内で何とか やっていけた。でも今回ぼたん は その甘藤を失う。その欠落を埋めるのは新たに ぼたん の指南役・潤滑油になってくれる気配がある先輩・桜(さくら)なのだろうか。お約束通り『3巻』からはじまった三角関係だが、その関係が崩壊し、いよいよ高校生活で初めて ぼっち になった ぼたん が どんな行動を取るのか気になって仕方がない。

『3巻』は甘藤のアシストで ぼたん の世界は広がった。これは『2巻』で ぼたん が甘藤の過去のトラウマを払拭させたのと同じ構図だ。この『3巻』では ぼたん が不登校時に心の友にしていた ぬいぐるみん というオリジナルキャラクターが大活躍する。彼女は ぬいぐるみん をイマジナリーフレンドにすることで日々を乗り越えてきた。その ぬいぐるみん が人との交流のきっかけになり、青春に輝きを増幅させていることに感動した。ぬいぐるみん がイマジナリーとリアルの架け橋になった。なのにラストの ぼたん は ぼっち で、親との通話で現実とは違う順風満帆な学校生活を偽る。ぬいぐるみん という白くて曖昧模糊としたものから、甘藤や苺香という実在するけれど現実ではないイマジナリーな友情を語る ぼたん の姿は胸が締め付けられる。
過去最高に他者と接近できたからこそ彼女の受ける痛みは何倍にも膨らむ。

ぬいぐるみん と違って本当に手が届きそうだった現実の存在。理想の学校生活は近くて遠い。

たん が不憫でならないから この怒りは自然と甘藤に向かう。確かに甘藤は身勝手だ。特に自分が一方的に疎遠になる痛みを知っているのに、自分の都合で ぼたん の手を放してしまうのは未熟で愚かだ。

でも甘藤の受けたダメージが大きいことも よく読めば分かる。彼はライバルである桜への対抗心から余裕をなくし、そのなくした余裕で ぼたん の幸せを奪ってしまったのだから。甘藤が ぼたん を突き放す直前に お揃いのミサンガを なくしているのは事態を象徴しているだろう。

ぼたん は自分のミサンガに甘藤の願望の成就を願った。自分と ぼたん の2人の願いが合わさったからか甘藤は過去の因縁から すぐに解放された。でも甘藤は桜に指摘され、自分が ぼたん の幸せを優先できなかったことを痛感し、自分に絶望する。個人的な欲望で ぼたん の未来を奪ってしまった。そして甘藤はミサンガを なくすことで、ぼたん と自分の器の違いを まざまざと見せつけられる。まるで自分には ぼたん と お揃いのミサンガをつける資格がないと訴えるかのようにミサンガは甘藤の腕から いつの間にかに抜け落ちていた。少女漫画においてアクセサリは愛の象徴。それが甘藤の腕になくなったから彼の愛がなくなったのではなく、甘藤が ぼたん に釣り合わない人間になったからミサンガは彼の腕から消えた。

甘藤は確かに ぼたん を奈落に突き落としたが、その前に甘藤も自分の過失の大きさに絶望している。自分が指南してきた彼女が自分よりも遥かに出来た人間だから甘藤は その手を取ることが出来ない、という皮肉すぎる結末が泣ける。甘藤は自分の未熟さも含めて ぼたん に打ち明けられれば良かったが、未熟だからこそ身勝手な行動しか取れない。それが過去の自分が受けた痛みと同種のものであることにも気づかない。桜が中2で失敗したように、甘藤もまた今回 手痛い失敗をするのだった。


たん は甘藤から「かわいい」と言われて舞い上がると同時に その意味を考える。
更に ぼたん が贈ったミサンガによって願いが叶った甘藤から お礼をしたいと言われ、ぼたん はデートを申し込む。拒否されると思ったが甘藤は快諾。連絡先を交換して彼と四六時中 繋がれることになった。

ぼたん が望む行き先は遊園地。当日は甘藤受けを狙って いつもより女性らしい格好をする。甘藤がノーリアクションなのは少女漫画あるある。この後の展開も あるある。ぼっち系ヒロインは容姿・性格が陰気なことが多いけれど ぼたん は天然美人で前向き。だから甘藤は今日の ぼたん に絶句したし、彼女が他の男から ちょっかいを出されれば無防備だからだと不機嫌になる。

最後は お約束の観覧車。ゴンドラが上がるにつれ景色が広がる。その中の小さな一点が彼らの世界の ほぼ全て。そのことに感慨を覚える2人。そして甘藤は学校内で好きな人に出会ったと匂わせ発言をする。そして ぼたん が大変な体育祭の係を全うしたら話があると伝える。体育祭が人生初の ぼたん は雑用係に興味を示し、それを察知した甘藤は ぼたん の背中を押したのだった(一緒には やらない)。


休み中に心の武装を解除したので、甘藤はクラスメイトたちとの距離が接近。元々 地元では勝手に友達が出来るタイプだったので甘藤側の態度一つで友達は出来る。そしてキャラ変とも言える態度の軟化によって女子生徒からも人気が上昇中。

甘藤の変化に目を細めていた ぼたん の視界に1人の男性が入る。その男性は中学で不登校になる原因となった自分に告白してきた人だった。彼の方も ぼたん に気づき、全速力で近づき対話を求める。

先輩の名は桜 怜一郎(さくら れいいちろう)。サッカー部で女子生徒の人気の的。桜は まず土下座する。彼は自分の行動が ぼたん に不利益をもたらしたことを知ったのは卒業間際。事態を察知してからは ぼたん の実家に謝罪を繰り返したが父親が ぼたん との接触を拒絶した。だから ぼたん本人に謝るのは今日が初めて。

まぁ 冷静に考えてみれば、桜が告白したのは彼が2年生の時の5月ぐらいだろう(体育祭の前だし)。でも彼は そこから2年弱も ぼたん の姿がないことに気づかなかったのは少し変である。彼が自分が振られた事実から目を背けていたということか。一応、当時の桜が女子と交流が全くなくて、女子の動きを察知できなかったことや、交流がないからこそ女子生徒が特別扱いされた ぼたん に過剰な反応をしたと言えるだろう。そして桜は その反省から誰にでも人当たりの良い自分に努めている。そうすれば噂も入るし、誰も困らない。

桜が完璧に見えるのは3年の時間の経過と爆死経験による成長。そこが甘藤との違い。

は高校で ぼたん と出会った時に話し掛けたいと願う。反省しきりの桜を見て、ぼたん は自分が逃げたことで桜に余計な心労をかけたことを反省する。だから彼が少しも悪くないことを不器用に伝える。桜は罪悪感が薄まり、2人は2人の方法で会話を続けられている。
ぼたん と会話する男性の出現を甘藤は快く思わない。だが彼らは体育祭の準備で かなりの接点を持つことが発覚し不機嫌になる(未熟者め)。

桜の推薦で、体育祭のマスコットに ぼたん の自分のオリジナルキャラクター・ぬいぐるみん が選出される。しかも体育祭の準備の人たちは気の良い人ばかりで ぼたん に積極的に話しかけてくれて、彼女の周りに人が集まる。彼女の世界を広げたのは甘藤ではなく、桜となる。ぼたん にとっても自分を支えてくれたキャラクタが日の目を見たことに口から星が出るほど感動する。

ぼたん の心理的負担を桜は上手く分散してくれる。大人数のLINEグループに入り、マスコットの原作者として ひっきりなしに話しかける日々。しかし多忙になると甘藤との距離は広がる。そして甘藤は桜に対する嫉妬と劣等感が募る(どうやらクラスメイトの男子は甘藤の ぼたん への気持ちを察知しているようだ)。

距離を感じたから甘藤も努力をして ぼたん に初電話をかける。そこで ぼたん は甘藤に当日に おにぎりを作ることを約束する。


たん は公私ともに順調。そして甘藤が危惧した通り、桜は3年前と変わらない気持ちを ぼたん に抱いていた。桜は横暴な姉の影響で女性が苦手だった。しかし ぼたん が人との距離を縮める努力を惜しまないのを見て考えが変わった。たとえ自分が傷ついても頑張る「たいへんよくできました。」と褒めてあげたくなる ぼたん に桜は惹かれた。彼にとって初恋だろう。

桜は容姿を含めて ぼたん が好きだと正直に伝える。その俗物っぷりに ぼたん は困惑するが、今の桜のキャラは過去の失敗を繰り返さないための優等生の仮面。改めて ぼたん への変わらない想いを伝えた桜だが、返事は自分から保留させる。なぜなら今の ぼたん は甘藤の存在が大きすぎるから。桜は その牙城を崩せるように長期戦を覚悟していた。なぜなら ぼたん は3年間もずっと想い続けた人なのだ。想いの長さなら負けてはいない。桜は肉食の片鱗を見せる。

ぼたん にとっても桜は人生で初と2回目の告白をしてくれた人。恋を知った今の ぼたん は人に想われる幸せが分かる。甘藤よりも前に桜は自分の努力を見てくれていた。


育祭当日。予期せぬトラブルは当日も発生するため係は忙しい。だから ぼたん は甘藤の応援が出来ない。

その甘藤は欠席者の代わりに応援団に参加することになり、しかも すれ違った桜から間接的な宣戦布告を受けて、体育祭は負けられない戦いとなる。3巻から始まる三角関係。たまりません。

甘藤は急遽 代理の応援団に熱が入る。それは桜の存在だけでなく、ぼたん から約束の おにぎり と手紙の差し入れがあったから。自分が彼女に影響を与えていることを実感した甘藤は、気合いを入れて彼女の初めての体育祭が良い思い出に染まるように努める。自分の恥を捨てて彼女に楽しい思い出を味わわせたい。ここまでは甘藤も良い働きをしている。


育祭終了後に遊園地デートで約束していた話をする機会を模索する甘藤。だが ぼたん は、ここまで一緒に頑張って来た係の皆から打ち上げに誘われていた。しかし桜のアシストもあり ぼたん は誘いを振り切って甘藤を優先する。

こうして2人は気持ちが通じ合いハッピーエンド、…になるはずだったが、甘藤は待ち合わせ場所に行く前に桜と遭遇する。そこで ぼたん の打ち上げ不参加を不審に思った桜が問うと、甘藤が参加を制止したことが発覚する。そのことに桜は激怒。打ち上げは係の達成地点。そこで交流することで ぼたん の世界は広がったかもしれない。なのに甘藤は自分の都合ばかりで彼女の幸せを大局的に見ていない、と甘藤を糾弾する。

その言葉は甘藤の胸を貫く。そして甘藤は自分の腕に ぼたん からのミサンガがないことに気づく。その捜索もあり甘藤は ぼたん に打ち上げへの参加を促す。だが その連絡は ぼたん のスマホの充電切れで届かなかった。返信がないことで異変を察知した甘藤は待ち合わせ場所に ぼたん がいることを確認する。結局、ぼたん を打ち上げに参加させてあげられなかったことに甘藤は負い目を感じ、一連の行動で自分が彼女に相応しくないことを自覚する。だから甘藤は本来 伝えるべき言葉と真逆のことを彼女に言ってしまう。

かつて友達が出来たのに失ったように、甘藤との関係が特別なものだと実感した瞬間、彼女の世界から甘藤は姿を消す…。悲しすぎる。