藤もも（ふじもも）
恋わずらいのエリー（こいわずらいのエリー）
第12巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
＃妄想フォーエバー。つ、ついに２人にその時がーーーー！ 地味だけど妄想が趣味の女子高生・エリーと学年一のイケメン・オミくんは、色々あったけど仲直りをしてラブラブ全開中。でもまさかのDKコンテストの決勝と体育祭が同じ日に…!! 迎えた体育祭で大ピンチのエリーにまさかのオミくんが決勝を棄権して駆けつけてくれる！ 無事体育祭を終えたエリーは、オミくんから家に誘われて…！！！！！
LOVEがいっぱい詰まった番外編２編も収録！ エリーの欲望は止まらなーーい。変態地味女子のアブノーマルLOVE ついに完結！！！！
簡潔完結感想文
- 最後の恋愛イベントも無事に達成。だけど まだ1回目。恵莉子の欲望は無限。
- ライバル関係だった2人が一定期間を置いて友情成立。共通の趣味はゲーム？
- 約束の遊園地デート。こじらせ女子たちの素直な気持ちが男性の心を撃ち抜く。
きっと君は大切な人を看取れる、の 最終12巻。
辛いことが多かった『10巻』・『11巻』とは違い、この『12巻』は幸せ一色。残された最後の恋愛イベントも ちゃんと描かれている。
最後まで恵莉子（えりこ）や近江（おうみ）が未完成なことが、完結後も物語が続いていくという余韻を残す。当初は学校生活でヒエラルキーが下の方で、友達もいないから妄想ツイートに逃げ込んでいたかと思われた恵莉子だったが、彼女は学校で一番どころか、もしかしたら日本の男子高校生の中で一番の近江という彼氏がいても決してツイートの手を止めない。それにより彼女は現実逃避にツイートをしていたのではないことが分かる。
恵莉子にとってツイートとは生きる力そのものなのではないか。実際、作品内で恵莉子がツイートを止めたのは、近江と別れた期間だけ。それは彼女の心が病んだ時といって いいだろう。もう二度と あの頃が戻らないことを願うばかりである。
そして最後の恋愛イベントを終えても恵莉子のツイートは止まらない。1回だけでは満足しない強欲さが彼女の魅力である。日々 湧き上がる近江への愛が彼女のツイートの源泉。序盤の何光年も先にいた近江を見ていただけの頃のツイートも実は恵莉子の「熱烈なラブレター」だったのではないか。ぜひ近江には これから一生をかけて恵莉子のツイートを守ってほしい。
恵莉子の欲望は無限だからツイートは これからも続く という予想が、物語を永遠にしている。
また近江の方も完璧じゃないのが良かった。『12巻』では本編完結後の2つの番外編が収録されているが、そこでの近江は恵莉子と一緒にいたいという自分の願望が叶わなくて苛々して、時には人に八つ当たりしてしまっている。
まだ「クソガキ」っぽいとか人として未熟だとか確かに欠点ではあるのだけれど、近江に関しては この方が健全だとも思う。最初の近江は八方美人の仮面を被って、自分の気持ちを誰にも伝えられずにおり、その仮面を被った息苦しさを覚えていたはずだ。だけど近江は恵莉子と出会うことで、周囲に本当の素顔を見せる勇気を持った。だから 苛立ちであったとしても彼が周囲の人に自分の感情を伝えることは彼が素顔を隠していないという証明でもある。
彼はニコニコしていない方が安心である。友達のために誰かに大声で怒ったり、裸を見られて膝を抱えたり、そんな近江の豊かな表情が これからも引き出されていくのだろう。
最終的に近江は恵莉子に自分も彼女に負けないぐらいの妄想をしており、欲望を持て余していることを物語は伝えている。恵莉子に格好つけず恥ずかしい部分まで見せている。そうやって2人は お互いの欲望や願いを見せ合って生きていくのだろう。本編の最終回では2人の愛や欲望が同じレベルであることが分かって安心した。
また恵莉子＝女性の欲望や性欲を隠さずに描いている点も良かった。生物の自然な欲求として男女平等に欲望があることを描いていて、恵莉子たちは それを隠さないことで裸の自分たちを見せ合っていた。その赤裸々さと近江の裸のサービスシーンが読者に受けたに違いない。
それぞれに大変だった体育祭終了後、近江は恵莉子を自宅に誘う。この日、両親は旅行中でいない。身体的には疲れているだろうが、心と場所は整っている。
近江もまた恵莉子と こうなることを何度も妄想していた。この性行為は恵莉子の妄想の実現だけでなく、近江の妄想の実現でもある。妄想というと台無しだが、これを夢と換言すると それがとても幸せなことが分かる。大好きな人と結ばれる夢を彼らは叶えることが出来た。
なかば予想はしていたけれど性描写としては既存の少女漫画と同じレベルである。本書なら大胆な描写も期待できるかと思っていたが、まぁ仕方ない。絵として描写はしなくてもいいから、初心者ならではのハプニングとか恵莉子の生々しい声とか もっと描いて欲しかったなぁ。これじゃ過去の恵莉子が知りたかったような作法とか手順とかが さっぱり知れない。事後の願望ツイートには恵莉子らしい欲深さが出てたけど。あと、日中は体育祭で肉体的にも精神的にも疲労困憊になって、その後に心臓が飛び出しそうな体験をする。近江の家で寝ちゃったりしなくてよかったね、と思う。深夜に帰宅なんてしたら また父親から交際禁止を言い渡されてしまう。
翌日、恵莉子は そのことを紗羅に完遂の報告をする。近江の「第2形態」には笑った。恵莉子は「第1（シャワー室）」も「第2」も しっかり見たんですね（笑） 紗羅はレオが結婚するまでしない宣言をして落ち込んでる。本書は男性が よりピュアだなぁ。女性は ちょっと こじらせた人が多かった。そもそも紗羅たちは交際したばかりなんだけど、紗羅がお願いすればレオはあっさりと信念を曲げる気もする。
弊害と言えば、恵莉子は妄想が現実になったことで現実がピンク色になってしまった。初体験から2日後の週明けに電車内で初めて会う近江を妄想で裸にしているのは笑った。どこの成人映像だよ。相変わらず近江は裸要因である。
しかし反対に近江は妄想を現実にしても現実を妄想で侵食したくないらしい。晴れて「未」が取れて「経験男子」になっても夢見がちなところは変わらず、2回目も特別な日に取っておくと宣言する。恵莉子は彼を欲しているのに、彼は恵莉子に我慢を強いる。女性の方が欲望強め、というのが本書の特徴なのか。
6月15日は恵莉子の誕生日。だが恵莉子は近江に誕生日を伝えていない。それを思い出して、この日こそ近江が望む「とっておき」の日なんじゃないかと気づき、顔面蒼白になる。この絶好の機会を見逃す訳にはいかない、と鼻息を荒くする。
だが近江には誕生日のことを言えずじまいで、近江もバイトなど予定を入れていることが判明する。ちなみに近江がバイトを続けているのはゲーム機が欲しいらしい。そういえば いとこ の さくら が初登場した際にも（『5巻』）、彼女が買ってきたゲームソフトに夢中だった。趣味はゲームなのか。意外と要（かなめ）に似ている部分もあるのかもしれない。
しかも放課後、恵莉子は担任の汐田（しおた）先生から体育祭実行委員としての仕事を言い渡される。体育祭本番が終わっても駆り出されるなんて。期間限定のイベント委員じゃなかったのか。唯一、ツイッター上の画面の変化で恵莉子の誕生日を知った要だけがプレゼントを用意してくれた。要がプレゼントした物は、恵莉子は全く興味がないだろうが、彼の中では価値のある物をあげている気がする。もっと喜ばれると思ったのではないか。まだ好きかどうかは分からないが、要にとって恵莉子は それだけ大切な人なのだろう。
要は恵莉子のリア充っぷりと妄想卒業を祝うが、恵莉子は欲深い。まだまだ恵莉子は近江に言って欲しい言葉、して欲しい行動がある。それが尽きるまで彼女は妄想を止めない。つまりは一生である。
体育祭実行委員のメンバーが恵莉子の誕生日を知り、恵莉子だけ先に雑用を切り上げてくれた。これは恵莉子が体育祭当日に頑張った ご褒美でもあるのだろう。
恵莉子は近江を探す。彼の声は国語科準備室から聞こえてきた。そこは2人にとっての聖域で、始まりの場所である。ジャージといい国語科準備室といい1話を彷彿とさせる小道具が嬉しい。
そこで近江はサプライズパーティーの準備をしていてくれた。近江は汐田先生を監視役として恵莉子の行動を制限していたのだが、委員会のメンバーの厚意が仇になってしまったようだ。
近江としては恰好つかないサプライズになったが、それでも恵莉子に出会ってから これまでの感謝を述べる。恵莉子に素顔を見せたことがきっかけで近江の人生は心から楽しいものになった。それは恵莉子も同じ。そして ここで近江も欲望を精一杯 隠していることが発覚する。もしかしたら「2回目」は この最終回の直後に行われるかもしれない。もう2人は お互いに妄想も欲望も隠す必要は無い。ここから恵莉子の帰宅が遅くなる日が続き、恵莉子の父親は怒り狂うかもしれない。
ちなみに この最終回で近江の友達で『8巻』で登場した まりあ と山田（やまだ）が交際しているが、彼らの姿は2つ目の番外編でも見られる。
「ex.1 #友わずらいのオミー」…
本編終了後の お話。夏休み直前、近江はバイト先のガソリンスタンドが人手不足で働き手を探していた。ちなみに恵莉子は今回も試験で やらかして夏休みは補習になる。恵莉子の父親からすれば、娘が近江と交流し始めてから娘は成績が低下する一方だという心配が再燃しているだろう。上述の心配の通り、2人は快楽に溺れ過ぎたのかもしれない…。
そこで声を掛けたのは汐田先生との交流が続いているらしい要。そして意外にも要はバイトに前向きだった。だが要は その性格から接客は苦手でトラブルも多い。それでも社員さんは彼の接客以外の、人の見ていない部分でも手を抜かない彼の仕事を評価していた。その評価を快く思わない先輩バイトから要は嫌がらせを受けるが、横暴を受け流したり、要求に応えたりして社会で上手くやることを優先する。
しかし ある日、近江のバイト休みの日に問題の2人が喧嘩をし、その穴埋めで近江が呼び出される。近江は恵莉子との電話や彼女に会える機会を棒に振ったことで、要の喧嘩の原因も聞かずに彼に当たるような言動をしてしまう。こうしてバイトを上手くやれないことを責められる形となった要はバイトを辞めようとする。
だが翌日、近江は要の喧嘩の原因が恵莉子と近江の交際を先輩バイトが揶揄したからということを聞かされる。友達の名誉を守り、一歩も引かなかったことで要は一方的に殴られ、喧嘩に発展した。しかも先輩バイトは そのことを更に逆恨みして要をスタッフルームに閉じ込める。部屋にいた近江は その巻き沿いになった上、そこで熱中症で倒れてしまう。その近江の異変を見た要は大声で救助を呼ぶ。身体が弱い彼に無理は禁物なのだが、要は自分の大事な人を守りたいという気持ちが勝る。何とか脱出した2人は先輩バイトと対面し、近江が彼に対して声を荒げる。近江にとって要は「友達」で彼への無礼は自分は許さない。
こうして かつて同じ1人の女性を好きになった2人に友情が芽生えた。おそらく恵莉子を巡るライバル期間やフラれた直後では仲良くなれなかったが、作中で時間が経過して近江の中で要が恵莉子に悪さをする奴じゃないという認識が出来て、2人は仲良くなる。共通の趣味もあるし、本当に仲良くなるのではないか。でも要は相変わらず空気を読まずに、近江の家に押しかけ、恵莉子との時間を邪魔しそうである。
「ex.2 #夢が叶いました」…
近江が頑張ってバイト代を貯め、恵莉子は彼との念願の、東京の遊園地へデートに行く。だが夜行バスには恵莉子たち以外に2組のカップルが乗っていた。2人での旅行は恵莉子の父親の許可が出なかったため、グループ行動となった。近江の中の願望が、紆余曲折を経て遂に実現した。
遊園地内では恵莉子は紗羅との行動が多くなり、夢にまで見た近江の遊園地デートは妄想とは違う現実となってしまう。それでもレオ先輩は紗羅が楽しければいいという境地に達しており、近江は自分の狭量さに悩む。番外編1話目といい近江の子供っぽい部分が出てしまっている。
しかし近江の悩みを察したレオ先輩は紗羅と2人きりで行動して、近江の夢の実現が近い。だが付き合って間もない まりあ と山田のカップルの騒動に近江は巻き込まれてしまう。彼らは交際して2か月なのだが、ずっと友達の延長で まりあ は そのことに悩んでいた。話を聞いた近江は男性側の意見を伝え、自分も まりあ も正直になることにする。そして残された恵莉子と山田も自分の恋人が その人である奇跡を大事にすることで意見が一致していた。
合流した2組は それぞれに自分の中にある気持ちを相手に伝え、そこから甘い時間を過ごす。
思いっきり楽しんだ1日が終わり、彼らはまた夜行バスで帰郷する。そこで恵莉子は これからの人生の中で何度も この遊園地に来る夢を見る。その夢で見るのは子供に恵まれ、孫も生まれた彼らの2人の人生。おそらく近江の最期は恵莉子が看取るのだろう。その恵莉子の夢（妄想）は、きっと叶う。なぜなら本書は恵莉子の妄想が現実になる物語なのだから。
