《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

どうしても連想される類似作品との重複を回避した構成が たいへんよくできています。

たいへんよくできました。 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
たいへんよくできました。
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

9年間ひきこもりだった主人公ぼたんが高校デビューを目指す第2巻。一匹狼な甘藤君が友達なんかいらないって言うようになったのって、実は中学校のときの親友の裏切りが原因。その解決に自分のぼっちそっちのけで勇気ふりしぼるぼたんを見て甘藤君の心にも恋の火が…!?

簡潔完結感想文

  • 簡単に復活しない友情は、作者のキャラへの敬意のように思える。
  • 友情が そこそこ簡単に復活するのは1年以上の時間の経過があるから。
  • 彼の世界が広がり始める気配を見せたので邪魔者は隠遁生活を開始。

性キャラがトラウマを払拭したので恋愛解禁の 2巻。

作者はリアル路線での話の作り方が上手い。
例えばヒロイン・ぼたん の友達作りの難しさ。『1巻』で生まれて初めて自分を友達だと言ってくれた苺香(いちか)にハブられた ぼたん。彼女は念願の友達作りのために卑屈な生き方も考えるが、それを厳しくも優しいクラスメイトの男子・甘藤(あまとう)は許さない。面白いのは甘藤の存在によって ぼたん の境遇が改善する訳ではないということ。一般的な作品なら甘藤の指導によって ぼたん に友達が出来るという流れだろう。だが本書はそれをしない。そこがリアル。そして甘藤が救ったのは ぼたん の尊厳なのが良い。友達作りよりも もっと大切なものを甘藤は守ってくれている。だからこそ彼はヒーローなのだろう。

私が大変気に入ったのは苺香と仲良くならないという今回の騒動の結末。勝手に ぼたん が立ち上がって前へ進むことで苺香との本物の友情が築かれるのだろうと思っていたので良い意味で裏切りにあった。そういう構成でも話は成立したと思うが、そうすると ただでさえ共通点の多い椎名軽穂さん『君に届け』の本筋を追うだけになってしまうので、ここでの友情の成立は回避したのだろう。

ここで苺香が簡単に ぼたん を受け入れないことが彼女の、恐怖を含めた思いの強さとなっている。作品的には苺香は悪役ポジションだけれど、作者が彼女の事情をちゃんと考えているからこそ、安易に和解の道が開かれないという展開は自然に思える。イジメを主導する苺香も人と触れ合うことに恐怖を覚えており、やっと見つけた安息の関係に不確定要素である ぼたん を入れたくない。強く意地悪に見えた苺香も ぼたん と同じく不器用で未熟。だから苺香は全力で ぼたん を排除する。その必死さが彼女の味わった苦しみや孤独の深さで、自分の方針を簡単に撤回できない。苺香も、彼女の意向を受け止めて別離を選ぶ ぼたん も芯が強い。

苺香が改心して泣きながら ぼたん に謝罪し、ぼたん も泣いて喜ぶシーンを作ればドラマは成立する。私は作者が それをしなかった点が大好きだ。画力の方は難ありで、隔週連載と言うこともあって気を抜くと いつも通りの手癖で描いてしまうところが見受けられるが、話の作り方が抜群に上手い。作品を通じての苺香の立ち位置が作者ならではだと思った。

苺香は「友達」だから彼女の嫌がることはしたくない。だから自分より相手の願望を優先する。

して もう一つ驚いたのが通常ならクライマックスとなるヒーローのトラウマの払拭が早くも『2巻』で到来すること。甘藤のトラウマ(と言うほどでもないが)もリアル。家庭環境や事件・事故など壮大な物でなく、身近な問題だからこそ一番 傷つく種類のもの。そして友人とのトラブルが発生した時の甘藤の行動に彼の優しさと弱さが見え隠れしているのも良い。

実は甘藤の抱えていた問題も容姿の美しさが原因である。ぼたん は異性からモテるから不登校になったが、甘藤もモテることで生き辛さに繋がっている。決して相手の外見に惹かれている訳ではないが、2人は容姿端麗であるからこその生き辛さが共通点があるから、その魂が惹かれ合うのだろう。

また ぼたん と苺香とは違い、甘藤の方は早々に解決を見せるのもリアル。それは ぼたん側の問題とは違い、発生から1年以上の月日が経っていることが影響しているだろう。おそらく この間に、お互いに意地を張っていた自分に気づき、反省したことで、問題に向き合う勇気さえ持てれば解決までの道筋は簡単に見つかる。なぜなら両者には最初から和解の意思があるのだから。

この甘藤が勇気を持てたことには ぼたん が深く関わっている。ヒロイン特有の お節介もそうだが、ぼたん が苺香に対して逃げなかったことが甘藤の心に強く影響した。この連鎖が心地よい。ぼたん は勇気を出しても友情方面は上手くいかなかったが、彼女の出した勇気は決して無駄になっていない。そこに救いが生まれている。


香の主導でハブられた ぼたん を甘藤が救出することで ぼたん は現実を認め涙を流すことが出来た。そして甘藤は いじめてる方が完全に悪いと言い切り、ぼたん に胸を張って生きるように助言する。

堂々とすることを教えられた ぼたん は翌日、教室の ど真ん中で苺香の行いを咎め、皮肉を言われても堂々と言葉を紡ぐ。甘藤が ぼたん の勇気を称えたことで苺香は教室内で悪者になり、その空気に居た堪れなくなった彼女は逃亡する。甘藤の指示で ぼたん は追いかける。彼女を捕まえ嫌な所の改善をすると誓うが、苺香の行動は ぼたん に対する不満ではないことが発覚する。

苺香は中学時代オタクであることを友達間で揶揄され、自分の属性を偽ってきた。しかし部屋で ぼたん に漫画を描いていることを発見され、中学のトラウマが再発して怖くなった。だから ぼたん を排除することで自分を守ろうとした。4人グループの他の友達を失いたくないから ぼたん に出て行ってもらう。苺香は ぼたん加入前から3人グループで いられるよう気を張っていた。だから ぼたん という不安材料を受け入れる余裕がない。

その苺香の痛切な願いを理解した ぼたん はグループの脱退を承諾する。笑顔で卒業していく ぼたん の背中に向かって苺香は仲間の証であるシュシュを餞別代わりに投げつける。苺香は身勝手だが、こうすることしか出来ない彼女の葛藤が見え隠れするエピソードである。

翌日、そのシュシュをつけて ぼたん は登校する。苺香の意向に従って学校で話しかけないが、ぼたん にとって彼女は一番最初の友達なのである。ここでも自分の想いを伝える ぼたん の成長が見える。


室内の騒動により、ぼたん はクラス内の腫れ物となる。普通の少女漫画なら ぼたん の強さを実感して誰かしら近づいてくるだろうに。でも そうはならないから夏休みを前にして ぼっち に逆戻り。ただ甘藤の お陰で卑屈さは払拭された。その感謝として ぼたん は手作りのミサンガを編む。

ぼたん に話しかけられるのが自分しかいないことを知っている甘藤は何だかんだで優しい。甘藤は自分が趣味としている天体観測への参加を許す。星空の下、甘藤への感謝が止まらず、一度は渡すには重すぎるから断念したミサンガを贈呈する。そして甘藤は自分のために作られた品を拒否しない。そして早速つけようとする。ミサンガは願い事を込めると、それが切れた時に願いが叶う。だから ぼたん が緊張しながら甘藤の腕につける時、彼は願い事をしていた。

この場面では ぼたん の甘藤への気持ちが爆発していますが、私が甘藤を好きなのは人の厚意を自分の気持ちで傷つけないところ。彼の性格からして嫌なものは嫌といいそうだが、今回やや重めのプレゼントを受け取った。それは甘藤の根底にある ぼたん への気持ちが含まれているだろう。ただ それに加えて不器用だからこそ傷ついている ぼたん の気持ちを丁寧に扱おうという気持ちがあるように思う。色々あって性格が歪んでいるが、甘藤の根幹は とても優しい人なのだろう。

いよいよ甘藤への気持ちが抑えきれず、ぼたん は甘藤への品と一緒に作った自分用のミサンガを腕につける。勿論あからさまな匂わせは甘藤への迷惑にもなるので、ミサンガを隠すようにシュシュを装着する。でも こういう痛々しい自分の秘密でさえ ぼたん は密かな楽しみとする。


んな時、ぼたん の前に甘藤の中学時代の友達という男性が現れる。彼は甘藤に会いに男子寮を探していた。そこへ甘藤本人が登場するのだが彼は その男性を認めると ぼたん を引き剥がし、男性に拒絶の態度を示す。

どうやら甘藤が その友達や地元を捨てたことを察した ぼたん は お節介を焼こうとする。甘藤は それをお見通し。『1巻』の勉強回と同じように、踏み込んでこられるのが嫌で強い拒絶を見せるが、ぼたん が傷ついたことを見て すぐに態度を軟化させる。甘藤の成長が見られる。しかし、この時の会話で ぼたん の装着したミサンガが露出して、甘藤は改めて友達はいらない宣言を彼女いらない宣言と同時に表明する。

こうして間接的に ぼたん は振られる。学校に行く気はしなかったが翌日が1学期の最終日ということで何とか登校(またもや不登校危機だった)。そして甘藤の腕にミサンガが まだついていることに安堵する。


元を離れて数か月 きちんと独力で登校し続けた ぼたん。この日のホームルームで担任教師が若い内は恥をかけという言葉に感化されて甘藤に一緒に地元に帰ろうと提案する。

ぼたん の覚悟を知って甘藤もまた過去と向き合う覚悟を持つ。甘藤も地元を捨てるように出て、新環境で過ごした1学期の間ずっと考え続け自分を変えたかったのだろう。この学校で辛さと向き合う ぼたん と出会った。それを甘藤は本人に伝え、ぼたん は自分が甘藤に影響を与えたことに嬉しくなる。

地元へ向かう電車内で甘藤は自分の事情を話し始める。甘藤は地元では友達が たくさんいた。その中でも悠心(ゆうしん)という自分とは正反対の性格の人に甘藤は強い結びつきを感じていた。だが いつの間にか悠心は甘藤を避け始め、それが友達に影響し大人数のグループが二分してしまった。そこで甘藤は揉め事が治まるよう自分の存在を消そうとした。そこで高校は地元を離れたのだ。友人たちが仲違いするのを見たくない甘藤の優しさと、嫌な物から目を背ける彼の弱さが同居しているように思える。


半で甘藤を男子寮まで探しに来てくれた男性を仲介役として、甘藤は悠心と直接 話し合いをすることになる。ぼたん は話し合いの場に同席することはしないが、彼の心の支えになろうとする。

最初に口を開いたのは悠心。だが彼は自分が甘藤を避けていた事実など無かったかのように笑顔で対応する。そこに甘藤は苛立つ。そして率直に悠心が避けていた理由を聞く。その理由は悠心が交際していた女の子が甘藤の事を好きになってしまい悠心と別れたいと言ったからだった(巻末の番外編で悠心側の思いが描かれている)。敗北感と劣等感で悠心は甘藤と上手く接することが出来なくなった。甘藤は自分に八つ当たりしろ、と言うが それは自分が惨めになるだけだ。

そしえ悠心は甘藤の思いを知らず、自分は彼の友達の中で下位に位置すると決めつける。こじらせて ひねくれてしまったようだ。元々 血の気の多い甘藤だから、ウジウジしている悠心にキレて関係性は破綻寸前。そこへ ぼたん が割り込み、甘藤から聞いていた悠心の印象を伝える。甘藤が自分を大切に思っていたことを知り、悠心も本当は分かっていた自分の弱さを認める。悠心が甘藤に劣等感を抱いたように、甘藤も悠心と真逆だからこそ負けていると思う部分や尊敬すべき部分がある。
こうして友情は復活する兆しを見せる。

苺香と同様、悠心も傷ついた事があるから どうしても相手の友情を信用することが出来ない。

し合いが終わり、また2人に戻った ぼたん と甘藤。甘藤は夏休みを地元で過ごすことにしたので、ぼたん を見送る。そこで甘藤はミサンガに込めた願いが悠心との関係の回復だと話す。続いて甘藤が ぼたん の願いを聞くと それは甘藤の願いの成就だった。ぼたん の自分の願いではなく他人を想う心に甘藤は打たれたように思える。

そしてダメ押しのように ぼたん は夏休み中 会えなくなる甘藤に、別れ際に彼の目を見て告白する。自分の言いたいことを言う。小泉(こいずみ)や苺香に対して そういう態度を取れた ぼたん だから、甘藤への告白も その延長線上で あっという間に こなしてしまう。


のまま2学期開始。ぼたん は席替えで甘藤の後ろの席(隣は苺香)。結局 甘藤は夏休み中に悠心と遊ぶことはなかったが連絡を取り合うようになった。地元の友達との交流が復活したという。

こうして甘藤の「友達」に対する意識が変わったこともあり2学期では甘藤の塩対応にも怯まない男子生徒を窓口にしたクラスメイトとの交流が始まる。しかし ぼっち の ぼたん のために甘藤は彼女との時間を優先する。その施しを申し訳なく思った ぼたん は甘藤の視界に入らないようにし、彼の世界の拡張を邪魔しないように努める。夏休み中に心打たれた甘藤からすれば下心もあるのだが、そこに ぼたん は気付かない。

反対に ぼたん の奇行は甘藤はすぐに勘付く。悠心のように黙って自分を避ける ぼたん を彼は許さない。彼の追及に ぼたん は正直に好きな人の邪魔になりたくないと伝える。だが甘藤の動機は好意だ。この辺の自分の好意が届いていない感じは、椎名軽穂さん『君に届け』の風早(かぜはや)くんと同じである。そして即断即決の甘藤は ぼたん への好意を すぐに匂わせる…。