《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

最愛の人以外は目の前から排除して、勝手に彼らの生き方を決定する鬼のような自己満足。

百鬼恋乱(7) (なかよしコミックス)
鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第07巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

ついに天界にやってきたココたち3人をまちうけていたのは、おそろしすぎる敵・ゼウスだった。激しい戦いの末、なんと零(れお)がまさかの……! ココはついに、花嫁としての決断をくだすのか――!? 最後まで目が離せない、ドラマチックラブファンタジーついに完結!

簡潔完結感想文

  • 伏線も張らずに飛び出す重要人物。鬼は女性の前で別の女性への愛を語る。
  • ラスボス戦でヒロインが覚醒。ヒロインの力は「鬼の花嫁」と無関係です。
  • ハッピーエンド感を出しているが、零以外いらないという非情な結論??

氏と同棲するから鬼は外 の 最終7巻。

鬼が天使や花嫁の力によって天界に向かうように、作者も編集者に導かれて どうにか話を まとめられた最終巻。三角関係など様々なフラグを立てたものの それが ちゃんと回収されないまま終わったのは残念だけれど。

気になるのは この素敵なハッピーエンドがヒロインの幸せでしかない点。意地悪な見方をすれば本命の彼氏以外を全部 切り捨てたってことでしょ?

ヒロイン・ココが相思相愛になった零(れお)は鬼や神など5種族の力を合わせて復活させたけれど、その彼氏との これからの日々に邪魔になるから、義弟を捨て、ペットの飼育を放棄する。そういう結論にも見える。もはやココは伝説の存在ではなく、父親の帰宅しない家での16歳での同棲生活を楽しもうとする恋愛脳ヒロインでしかない。

しかも狡(ずる)いのは能力の突発的な発動という設定を利用して、彼らとの別れを割愛していること。ココは無意識に十(とあ)と飼い犬・ムクを天界に送ることで、自分が彼らとの生活を望んでいないという願望を見せないまま。涙の別れも、彼らの恨みがましい目も見ないで、遠くから見守ってねッ☆という一番 自分が美しく見えるポジションに収まっている。

エピローグでは鬼を天界に入れた ゆのん も何も罰を受けていないみたいだし、さらに天界に戻ることも出来ない中途半端な蜜(みつ)の存在は都合よく無視する。蜜は既に消滅危機から救ってしまっているので最後の浄化パワーで神になることも出来ないと思われる。消えることも神に戻ることも出来ず蜜は地上を さまよう。これが彼にとって幸せかは微妙なところ。望みのない世界を生きるのは苦痛かもしれない。だからなのか表面上のハッピーエンドに水を差すような蜜は後日談に登場しない。

ココ、鬼の花嫁ならないってよ。えっ、今までの伏線や不幸の演出は無意味ってこと!?

のような乱暴なハッピーエンドに辟易するが、前述の通り、設定やフラグを丸投げしているのも気になる。

最も不満なのは、作品内で「鬼の花嫁」の力による鬼の神への復帰の正式ルートを1回も発表しなかったこと。鬼が神になる時、花嫁はどうなるのかを描かずに、ココは花嫁になろうとするし、事情を知っているらしい零たち桐生(きりゅう)兄弟も匂わすだけで、肝心なことは言葉を濁す。まずしっかり1回、鬼の花嫁の概要を語って、ココの運命や神に戻る奇跡の代償などを示すべきなのに本書は一度も それをしない。

過去例を1回も描かずに、本書は常にイレギュラーな展開で進む。だからずっと行き当たりばったりな印象を受けるし、読者は何が起きているのか分からなくてフラストレーションが溜まる。

本書は徹頭徹尾、ココが過酷な運命を背負っていると思わせて、それを回避するだけの薄っぺらい話である。恋愛的には零に想いが届かないという切なさが繰り返し描かれるが、結局 彼女は何も失わない。その代表例が蜜だろう。本来、ココは蜜の運命に少しも関与していないのに、目の前で消滅するのが嫌で彼の宿命を改変する。
同じようにココは その絶大な力で本来のルールを捻じ曲げ続ける。これで読者は特別なヒロインと自分を重ねる自己満足を得るのかもしれないが、ルールが機能しないのであれば、真面目に読む必要もない。

最後までココが「鬼の花嫁」にならないという展開も逃げの一手にしか思えない。あれだけ話を引っ張っといて、結局ならんのかい!とツッコんだ読者も多いだろう。ここまで読者は無駄な設定を延々と読ませられたのだ。前半どころか終盤に入って時折 説明される内容を全く使わないまま終わった。少なくとも2回は出てきた「羽衣」も結局 使わないまま。これから本書を読む奇特な方がいるのなら、鬼の花嫁の情報は一切 読まなくていいことをお知らせしたい。

そして最終『7巻』で言えばゼウスって何? 彼の立ち位置も しっかり示さないから、天界の組織図が全く頭に浮かばない。そもそも本書って「和風ファンタジー」じゃなかったの?? なのにゼウスって…。このゼウスの存在は作者が世界観を構築できていない証拠である。

また三角関係モノとしても微妙な出来である。明らかに十が当て馬で、何回か そこから脱却を目指していたけど無理だった。ってか十の存在そのものが中途半端で、かぐや との因縁もないし、罪を犯したわけでもないのに、兄に付随して行動しているだけ。本当に作者は彼に愛を注いだのだろうかと、最後の処置を見ても不憫に思う。

編集者の力によって話が空中分解せずに済んだが、作者単独だと話が組み立てられないのだろう。リアルな読者層は その空想力で脳内補完してくれるだろうけど、それ以外の人が読むと粗ばかり目立つ。この悪癖が第三の長編では修正されることを願うばかり。でも それは奇跡でも起きないと無理かな…?


界への道を進むココと零。そんな彼らに妖(あやかし)の飼い犬・ムクを届けに来たのが久々に登場した鬼の蜜(みつ)。彼はココが人間のまま天界に行くことの危険性を伝えるが、ココの決意は固い。それを確かめ蜜は地上で祈ってると、彼らを見送る。蜜の髪の色が黒一色ではなくなっているが、これはココの力によるものなのか。

その後、ココたちは十と合流する。ココの力によって、天界の空気に触れて調子が悪かった十も回復。わー、鬼の花嫁って何でも出来るんだねー。

そしてココの力で乗り込む天界の中枢。鬼の花嫁っていうぐらいだから鬼側の能力であって、天界と敵対する存在だと思うのだけれど、なぜか入れてしまうんだねー。天界では鬼とムクは呼吸を荒くするが、ココは平気なまま。これは彼女が正式な鬼の花嫁ではないからなのか、説明は一切ない。


らを待ち受けていたのは、ゆのん と かつて神だった桐生兄弟と同じ立場の同僚(?)たち。建物も人も完全に西洋風で、和風ファンタジーなんて設定を忘れ去ったらしい。

多勢に無勢な上に鬼の力が弱まる天界では彼ら聖なる者たちに勝ち目はない。さらにゼウスが現れ、ゼウスはムクを消去してしまう。

『1巻』で和風ファンタジーって書いてあったんだけど、そんな設定、宇宙へポーイ!

その現実を前にココは呆然自失となり、攻撃に巻き込まれ意識を失う。そして自分の意識の中に潜ったココが、自分の意識の中から見たのは、ココを守るためにボロボロになった桐生兄弟の姿だった。

兄弟のピンチに現れたのは かぐや。なぜ急に現れたかというとココは かぐや の生まれかわりだから。ココの意識が無くなって、かぐや が目を覚ましたらしい。ずっと会いたかった かぐや を前にして零は今の本音を告げる。それは かぐや の復讐よりもココと一緒に帰る約束を守りたいという彼の気持ちだった。それだけ零にとってココは大切な人なのである。

うーん、ココの前では かぐや が大事だと言い続け、かぐや に会えたらココが大事だという。零の心の動きも分からなくはないが、女性を悲しませる言動ばかりしている。零は神や鬼というより天邪鬼(あまのじゃく)なのではないだろうか。


ぐや によって零の気持ちを聞き出せたココは本当の力に目覚める。

だが この時すでに零は視覚を失っていた。そのため攻撃に対処しきれずダメージが蓄積。そんな状態で自分を守る桐生兄弟に、わたしに守らせてよ!とココは訴える。その言葉に桐生兄弟はココを鬼の花嫁にさせないで、人間のままココと帰ると彼女に誓う。いよいよ作品が鬼の花嫁という設定を放棄した瞬間である。分かりづらい設定を読んできた読者の苦労は徒労に変わる。

そして桐生兄弟とゼウスの最終対決が始まる。
このバトル中のゼウスの回想によって、桐生兄弟の神であった時の名が太陽ノ神 天照(あまてらす)と月ノ神 月読(つくよみ)であることが明かされる。ゼウスは彼らの圧倒的な力と、兄弟で陽と陰の対の神となっている姿に注目していた。だが かぐや に出会い彼らは堕落したようにゼウスには見えた。

ゼウスの最強技を前にして絶体絶命の兄弟。だがココの無垢な祈りが彼らを照らし、再起を促す。こうして久々に登場した「乱れちまえ!!」という一声とともに、零はゼウスにパンチを一撃を食らわせる。

するとゼウスは余力を残しながらも彼ら3人の力を認め、敗北を認める。それは彼が人間という存在を認めた瞬間だったのだろう。こうして あれだけ復讐に燃えていたはずの零も彼への憎悪を抑制して、天界を去ろうとする。恋愛面でもそうだが零の心変わりが早すぎて追いつけない。

だが地上に戻る直前で零に限界がきて消滅が始まる。ココを十に託して、零は消える。最後にココに想いを伝え、キスを交わそうとするが現実を認めたくないヒロインが拒絶。こうして零の最後の願いを聞かないまま、彼は消滅する。


覚めた時には自宅の庭にいたココは日常生活に戻る。ただし ゆのん の転校の際とは逆で、周囲の人たちは いたはずの桐生兄弟の記憶がない。

そしてココ自身にも傍で自分を見守っていてくれる十の姿は見えない。ゆのん は十にココが零消滅のショックで能力を失い、妖も見えないフツーの人間になった、と説明している。ココの手元にあるのは零の形見となった耳飾りと、十が生み出した刀だけ。それが確かに桐生兄弟がいた証となる。

能力が発動しないのはココも承知しているが、彼女は天に向かって かつて教えられた自分の力を動作を繰り返し、零の実体化を切望する。

必死のココに十が見えないながらも手を貸し、そこに ゆのん、蜜、そして蜜が連れて来た妖の力を掛け合わせる。人と鬼、妖と天使の力は上手く統合しないが、そこに天界から神・ゼウスが手を加える。5種族の力が合わさり、ココは零を導き始める。

こうして零は実体を持つ。その再会を涙して喜ぶココ。そこから なぜか能力が全開放され、十とムクを神と神獣に新生させる。ココには鬼の花嫁の能力はないはずなのだが、愛の力という奇跡で こうなったらしい。ハイハイ、すごいすごい。

一方でココは十とムクの姿を最後まで認識しない。これは彼女の瞳には零しか映っていないからか。だから十とムクは黙って天界に拠点を移しかない。ヒロインは悲しい場面に立ち会うことなく、素敵な彼氏をゲットして一人勝ち、という お話なのかもしれない。