満井 春香（みつい はるか）
放課後、恋した。（ほうかご、こいした。）
第04巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★☆（7点）
夏休みになりバレー部合宿や夏祭りで、夏生は渚と急接近！！ ますます想いが募る夏生にお盆休み中、渚から突然誘いの電話が…！？ デートだと思って向かうと、カフェバイトの助っ人を頼まれる。恋人のフリをしたり、少しずつ気持ちが近づく2人だけど、久世くんはカフェの店員の美姫さんと何やらワケありのようで…？ 大ヒット「あたし、キスした。」の満井春香が描く、まぶしすぎる恋と放課後！ ハラハラドキドキの第４巻！
簡潔完結感想文
- 三角関係の1人の男子に内緒で男女がバイト。その代わりに疑似三角関係が発生する。
- 読者にだけ明かされる久世の もう一つの過去の傷。これがあるから恋愛禁止なのか？
- あっちの男性との関係が気まずくなったので、こっちの男性を呼びつけるでビッチ。
自意識過剰な被害者であり、無自覚な加害者でもある 4巻。
あぁ 夏休み早く終わんないかなー、と現実では絶対に思わないことを思ってしまう。『4巻』は夏休み中だからこそ完成するイレギュラーな三角関係や、その三角関係が成立したことで あぶれた男性が最後に接触してヒロインに優しくする機会を得るなど、大きな視点で見れば工夫された構成となっている。ただし部活をしないと作品の個性が消える。ヒロインも作品も その個性のために早々に部活に戻って欲しい。
ただ細かい所を つつくとヒロインがビッチにしか見えなくなる。少女漫画的には正しいが、周囲の女子生徒が狙っていることを知りながら夏祭りを女1男2で行ってしまう点や、1人の男と気まずくなったら もう一方を呼びつける思考は決して好きになれるものではなかった。
そして物語も現状維持ばかりを優先しているように見える。早々に、相手の どこで好きになったかも いまいち分からないまま三角関係が成立した本書だが、その膠着状態が いよいよ長すぎるように感じられた。これは ちょっぴり恋に奥手な僕らのラブストーリーなんだぞ☆ ってことなのか。でも その割には男性からのスキンシップが過剰だったり思わせぶりな発言が多かったりでチグハグさを感じる。ここに 人気獲得のためにスキンシップや裸は満載にするけど、出来るだけ恋愛に決着はつけたくないという作者側の意図が透けて見える。
まだヒーローの久世（くぜ）が告白に至らない理由は分かる。彼には試合のトラウマ以外にも もう一つ克服すべき問題があって、それを乗り越えなければ恋愛や交際の解禁にはならないのだろう。
だが残りの2人はどうだろう。彼らは三角関係の継続のために告白を曖昧にしているだけのように見える。夏生（かお）が桐生（きりゅう）どちらかに告白をしてもらって、物語に弾みをつけないと、ただ いたずらに話を引き延ばしているだけに見えてしまう。定番の展開だけど、夏生が一度 告白をするが、久世が受け入れられないという展開にして、その傷を桐生が癒すという中盤で良かったように思う。鋭いスパイクやサーブを決める彼らは どこに行ってしまったのか。
最初の文章にも書いたが、このままでは夏生は久世に想いを伝えないままなのに、彼の行動一つで一喜一憂する資格だけを有しているアンバランスさを感じる、彼と別の女性の抱擁にだけ一丁前に傷ついて まるで自分が被害者のような心境になるのは いかがなものか。
更に悪いのが、久世との間に出来た距離を自分で解決せず、桐生に寄りかかっているように見えるところ。夏生としては道に迷ったから桐生を呼んだだけだろうが、男で出来た傷を別の男に埋めてもらっているだけのように見える。自力で家に帰れよ！と夏生の じっとりした厭らしさを感じて嫌いになってしまった。
道に迷ったのならスマホで地図を見る、人に聞く、家族や友達に来てもらうなどの手段があるのに、彼女が取ったのは桐生という異性に頼るというもの。そして夏生は桐生が自分を好きなことには とことん無自覚で、彼の好意を利用していることは知らない。自分が桐生の前で久世の話をするのは、久世が新キャラ・美姫（みき）と親しげに話しているぐらいの心の傷を負わせることを彼女は理解しない。加害者である自分は無知だから理解しないが、自分が被害者であることは声高に叫ぶ。そういう自分本位なところが夏生にはある。当初は もう少し自分で努力できる子だと思ったが、視野が狭く自分の事しか考えられない。
以前も書いたが掲載誌「デザート」は もう一段階 精神年齢や知性が高い作品が望ましい。少女漫画としては及第点、というか悪く言えば普通の展開なのだが、当初の良い意味でのスポコン路線が消えてしまっている。
久世と一緒の期間限定アルバイトが始まる。
この一週間は桐生が排除される代わりに、美姫という久世の知り合いの年上女性がいて疑似三角関係の様相を呈する。ちなみに桐生は一大決心をして かけた電話は久世に先を越されるし、2人が一緒にバイトしている事実も知らず、悶々と一人で家で過ごしている。桐生のターンも ちゃんとあるんだろうか。彼の当て馬、というか噛ませ犬人生だと省略されそうで怖い。
夏生はマネージャー業と同じで不慣れだったカフェのバイトも すぐに順応して楽しさを見い出す。
海の近くで季節は夏、それ すなわちナンパのシーズン。夏生も男性に声を掛けられるが、そこに久世がナイトとして駆けつける。夏生は その際に久世が自分を「彼女」として、ナンパ男たちを牽制したのが気になって仕方がない。久世が自分の名前を呼んだ時のように、彼女の胸は高鳴り、そして気持ちとは裏腹に久世を遠ざけてしまう。だから久世に自分を好きかと言われても「好きなわけないじゃん」と可愛くない反応をしてしまう夏生。反発してしまう夏生の気持ちは分からなくないし、物語的にも久世の過去が整理されてからじゃないと恋愛に発展しないんだろう。でも もう素直になれないターンは終わってもいいと思う。
作者も さすがに このまま夏生が受け身では問題だと感じたのか、『2巻』の電車内と同じく、夏生は眠っている久世に話し掛け、そこから目を覚ました彼に言えなかった大切な気持ちを伝え始める。ただし使ったのは「好き」という言葉ではなく「気になってる」。直前のキス未遂とは逆で今度は その意味を久世が知りたいと思うのだが、スタッフルームに美姫が入ってきたため、会話は流れる。
久世と美姫の会話の中で どうやら美姫が、話には出てきた久世の兄・渉（わたる）の「大切な人」だということが判明する。ただし美姫は その人と3年前に別れているような口ぶり。どうしても久世の中に渉の面影を重ねてしまう美姫だが、久世は美姫の寂しさを埋めてあげることは出来ない。彼女が それを望んでも「キスは好きな人としかしない」。では この前に夏生にキスをしようとしたのは、なぜなのか。こういう後出しの種明かしは好き。
3年前、大学生だった渉は恋人の美姫を残して亡くなった。久世は渉を忘れられない美姫のことが心配だが、同時に渉を忘れないでいてくれる彼女に感謝の気持ちを抱く。渉を思い出して泣き崩れる美姫を抱き寄せて慰める久世。その場面を夏生が目撃してしまい誤解が発生する。
雨の中、駆け出した夏生を追って久世は夏生の自宅まで歩く。しかし夏生は まだ家に帰ってなかった。そこで出会うのが夏生の兄で部活の顧問である葉山（はやま）先生。葉山先生は久世の兄とは大学のバレー部仲間だった人で、渉の葬儀の時に初めて久世と顔を合わせている。久世が美姫のことを気にするように、葉山先生は久世のことを気にしていた。なぜなら彼は葬儀でも泣かずに気丈に振る舞っていたから。そんな葉山先生からすると、自分の気持ちに素直になれない久世が、雨の中 必死な顔して夏生を探していたことは意外な発見だった。
こうして葉山先生に一段ギアを上げられる形となった久世は再び雨の中、夏生を捜しに出る。
しかし夏生の前に現れたのは桐生。フラフラと歩いて道の分からなくなった夏生は桐生に助けを求めたらしい。男に誘われる分にはいいけど、自分から男に頼るのは ちょっと違う気がする。
夏生にかかってきた久世からの連絡は桐生が取り上げる。彼は久世が黙って夏生とバイトをしていたことを怒り、そして自分が夏生を送るから心配するなと話を切り上げる。
そして桐生は夏生を送り届けず、自宅の食堂に招く。ここで夏生は また桐生の前で久世の話ばかりするというデリカシーの無さを見せる。この際、桐生の口から渉にまつわる全てを聞くことも出来たが、夏生は知らないことは知らないこととして置いておく。作者は過度に男性側に介入する お節介ヒロインには したくないようだ。
雨に打たれたため、『2巻』の久世の風邪回に続いて今度は夏生の風邪回となる。次は桐生の番か？ それとも当て馬には そんなチャンスも与えられないか？
久世はバイト先に断って、夏生の見舞いに現れる。窓から侵入したみたいに見えなくもないが、これは夏生が起きた瞬間に窓辺にいるだけなんだよね？ 久世は夏生を一通り からかった後、久世は自分と美姫の関係について話す。それは彼女が抱いている誤解を解きたいという気持ちからだろう。それでいて兄たちカップルのその後を話さないのは まだ話すには久世の中で消化し切れておらず時期尚早だからなのか。
『4巻』だけで、夏生は桐生の家、久世は夏生の家や自室に行っている。桐生は いつか夏生の家に入れるだろうか。そして夏生が久世の家に入らないのは兄の話を知らないためだろう。自室というプライベートな空間に入れるのは、それだけ距離が近づいた、近づけたい人だけなのである。夏生が どちらかの男性の家、そして彼の部屋に入る時は全ての決着がついた後だろうか。
