満井 春香(みつい はるか)
放課後、恋した。(ほうかご、こいした。)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
初めての夏合宿。日中のマネ業でクタクタの夏生は、二日目の朝、目を覚ますとなぜか久世くんと同じ布団の中に!? 余裕の久世くんがかばってくれて皆にはバレなかったけど、心臓バクバク…! そんな中、女バレの子から、「桐生くんに好きな人はいるのか聞いてほしい」と頼まれた夏生は…。大ヒット「あたし、キスした。」の満井春香が描く、まぶしすぎる恋と放課後! 久世くんも桐生くんも動く、体温きゅーんと急上昇の第3巻!
簡潔完結感想文
- 無自覚ヒロインは男性たちのナイーブな恋心を傷つけまくる無神経ヒロイン。
- アイツが好きだよ、お前に負けないぐらい。男性たちが三角関係を認識する。
- 1週間 部活がなくて会えないなら1週間 会える理由を作ってしまえばいい。
自分から行動せずともイケメンは あっちから寄ってくる 3巻。
なぜだろう『2巻』に引き続き『3巻』も感想文を書くために読み返したら、あまり面白いと感じられなかった。そして なんか内容が薄い。
その原因を私なりに考えてみると、本書は少女漫画というよりも乙女ゲームのようだからなのではないか、という考えに行き着いた。乙女ゲームをプレイしたことないので完全に想像だが、乙女ゲームの主人公に求められるのは無個性と無反応なのではないかと思う。男性キャラ全員に平等に接し、男性側からのアプローチを受けて嬉しくも戸惑うが、そこに自分の感情を滲ませない。その連続。ここで大事なのは主人公に自発的な行動はなく、飽くまで恋愛は男性側から仕掛けるものという鉄則だろう。無条件で愛されるからプレイヤーは傷つくことなく その世界観を堪能できる。
本書では まさに それと同じことが起こってはいまいか。本書では乙女ゲームほどの複数の選択肢はなく、選べるのはイケメンバレーボール部員の中でも最も輝く久世(くぜ)と桐生(きりゅう)の2人だけ。そして内容は基本的に2人の男性に交互に愛されるのみ。結末まで分かった上で読み返してみると、この面が悪目立ちしている。特に人の配置に工夫がある訳でもなく、ただイベントが発生し、思わず期待しちゃうような言動に続けざまに遭遇する。
でも その真意を聞いては いけないし、ヒロイン側も自分の気持ちを出したりしてはいけない。なぜなら三角関係の維持こそ本書の生命線だから。『3巻』では男性2人は同じ人を好きになり、互いがライバルであることを認識したが、ヒロインの夏生(かお)は彼らからの好意を確信するには至らない。それぞれ決定打は打たない互角の勝負が繰り広げられることが この恋愛ゲームの楽しさなのだろう。
夏生の心は既に決まっているのだが、彼女の方から好意を滲ませることは許されない。『2巻』でもあったが、部活が休みだとマネージャーの夏生は久世との接点が まるでなくなる。そんな時には都合よく向こうから夏生に会う機会が設けられるというのも お約束になっている。ここで間違っても夏生の方から彼に連絡を取ってはいけない。飽くまで彼女は巻き込まれ続けなければならない。そういえばマネージャーを始めたのも兄先生の指示に従っただけで、紅一点の座を狙ったわけではない。何もしないけど結果的に愛されていることが大事なのだ。
このようにヒロインが意志を持てないから、全てが受動態で、それがまるで乙女ゲームの自発性のない主人公のように思えてしまう。『3巻』で夏生が意思を見せたり勇気を見せる場面はあっただろうか。『3巻』は決められた合宿や誘われるがままの夏の恋愛イベントばかりで夏生に積極性は見られない。もっとヒロインに思考させ、行動させて欲しい。
個性がないことが悩みだった夏生だが、まさか意志までないとは思わなかった。意思がないから読者が彼女を好きになるポイントもないし、その上、不用意に久世や桐生の心を波立たせるような言動をしてしまったりするからマイナスポイントばかりが目立つ。私が読みたい内容は乙女ゲームではなく少女漫画なのだと改めて確認した『3巻』だった。
慣れない合宿所で疲弊して、間違えて救護室で1人眠る久世の布団に入り込んで寝てしまった夏生。翌朝、起きて自分の しでかしたことに驚くが、そこにキャプテンが久世の見舞いに来て、事を荒だてたくない2人は布団の中で密着して やりすごす。これは修学旅行回における先生の監視から逃げるベタなイベントと同じだ。
合宿中に女子バレー部の部員から桐生の恋について聞かれ、それを探ることになった夏生。でも桐生が好きなのは夏生というヒロインの特権が発揮される。
桐生に話を聞くつもりが久世と またも思い出を作ったり、夏生は この合宿中 恋愛イベントばかりである。ただし久世が夏生に真剣な顔をしているのに、夏生は照れで話を逸らすために桐生の名前を出す。偵察任務という前振りがあるとはいえ、自分の好きな人の前で他の男性の名前を出すなんてマナー違反だ。これで久世は機嫌が悪くなるのは当然だろう。
久世との距離が出来てしまったら、今度は それを桐生のスキンシップで慰めてもらう。男性2人の距離感の縮め方が異常だけど、夏生も彼らに甘えた部分があるような気がしてならない。
抱き寄せたり着替えを手伝わせたり、イケメン無罪でなければ完全にセクハラで、ドキドキよりも疑問の方が先に立つ。講談社だったら低年齢向けの「なかよし」、または胸キュン特化の「別冊フレンド」なら こういう読者の読みたい場面を描かざるを得ない事情も分かるが、本書は「デザート」連載である。私はそこに こういう わざとらしい場面を望んでいない。読んでないので内容や作風の違いは分からないけど、作者の次作が「なかよし」になったのは適切な判断なように思われる。
合宿中に卒業生たちが顔を出す。OBたちは部員の特訓をし、そして夏生は去年までマネージャーを務めた女性からマネ業を学ぶ。先輩女性の姿を見て夏生は自分に不足しているものを痛感する。でも先輩から厳しく指導されたりせず、仕事が出来る先輩というだけで、夏生の仕事の出来に彼女は評価しなかった。いつの間にかに誰も夏生を怒らない世界が出来上がっている。
一時的な夏生の落ち込みは胸キュンの前振り。先輩女性の姿を見て、コートの中で部員と自分との違いを思い知った夏生は落ち込む。しかも部員から遠ざけられているようで、孤独を感じる。しかし それは部員たちがサプライズで夏生への感謝を計画してたから。こうして夏生は合宿を通して部員からの信頼を得て、初めてバレー部の一員となった実感を得る。
マネージャーとして部員に認められても女性としては半人前の夏生は、久世の前で桐生の名前を出したのと同じように、桐生の前で恋愛話を切り出す時に、自分は興味ないけど女子に聞いとけと言われたから、と余計な話をして彼の機嫌を損ねる。ただし簡単に へそを曲げた久世とは違い、桐生は そこで夏生への熱意が湧く。名前こそ出さないが好きな人がいること、その人は自分じゃない誰かを好きで片想いであることを告げる。「いるよ 好きな人」という言葉は「(目の前に)いるよ 好きな人」という意味だろう。
でも この後も夏生は桐生君は優しいから協力するよ、的なことを言って桐生に何度も言葉の暴力を振るう。この場面で完全に桐生の恋心は溢れているのだが、夏生は その彼の雰囲気に気づいただろうか。桐生は勇気を出して夏生を夏祭りに誘うのだが、ヘタレな彼は久世の名前を出して夏生から断られないようにしてしまう。
合宿が終わると すぐに夏祭り回となる。夏生は桐生の母親の厚意で浴衣を着るが、桐生は素直に褒め、久世は浴衣を褒める。だが夏生が気になるのは久世の反応。夏生の世界では桐生こそ、世界の端っこにいる端役なのではないだろうか…。しかし この3人は ずっと一緒に行動しているなぁ。女子バレー部員たちに3人での行動を目撃されても夏生への嫉妬は生まれないのが謎。中には桐生が好きな女子生徒だっているのだ。夏生も久世というエサに釣られてないで、桐生への遠慮を見せてもいいだろう。
途中で久世が桐生を女子バレ―部員に押しつけて、夏生は本命男子の久世と2人きりという展開になる。デートのような時間に夏生の胸は高鳴り、久世もまた夏生に対する興味や独占欲を隠さない。
そして この夏祭りの終わりには男性2人は お互いに同じ人を好きになったことを確かめ合い、1人のヒロインを巡って切磋琢磨することを誓う。
夏休みも中盤の お盆前後は部活も1週間休み。『2巻』のテスト期間と同じように久世との接点が無くなる期間となる可能性があった。だが夏生が久世を心の中で望めば、彼の方から近づいてくるのは、テスト前と同じ。
部室の掃除で夏生と久世の荷物が混同し、夏生の生徒手帳が久世の手元に渡ったことで、彼から連絡が入る。この生徒手帳には夏生の夏休みの目標が書いてあり、その中には「Kくんを遊びに誘う」という項目もあった。それを本人に見られたわけだが、「Kくん」なので久世か桐生かは断定できない。このためだけにイニシャルを同じにしたのか。読者は名前が似ていて混同してしまうのだけど…。
生徒手帳をキッカケに久世は夏生を呼び出す。今度こそ2人きりのデートかと思いきや、彼は知り合いのカフェのバイト要員として夏生を招集しただけだった。ここでは久世もバイトをしていた。相変わらずモブ女性たちはイケメンに色目を使うばかりで嘆息する。
こうして部員も桐生もいない2人だけの、夏の第二章が始まる。