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少女漫画と小説の感想ブログです

放り込まれた牢獄に穴が開いているように、設定や描写に穴があり面白さが逃げていく。

黎明のアルカナ(3) (フラワーコミックス)
藤間 麗(とうま れい)
黎明のアルカナ(れいめいのアルカナ)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

シーザに心を許し始めるナカバ。もどかしい関係を見守る従者・ロキ。幼い頃(ころ)から見守ってくれていたロキの敵は…シーザ?そんな中、ナカバの力「刻(とき)のアルカナ」の秘密が明らかになる…?ロマンスファンタジー第3巻!!

簡潔完結感想文

  • 意に沿わない髪色を切り捨てる誇り。でも隣国の王女としては0点の行動。
  • 第3の男性は女性嫌いにすることで、モテモテ漫画という偏見をギリギリで回避。
  • 過去のアルカナ発動時の条件を考えず、無理→男に頼ろう という流れに幻滅。

王に刃向かうより、女性の恨みの方が重罪、の 3巻。

『3巻』は あらら、と思うような場面が多かった。まず 何と言っても気になるのが この国の警備体制。その気になれば主人公ナカバと従者・ロキは、敵国の王も王子も順に殺せるのではないか というぐらい警備が甘い。人間よりも身体的能力が高い半獣半人の亜人のロキであれば、その場を制圧できそうな気配すらある。いくら今回、シーザがロキを騎士格に身分を上げたとはいえ、そういう心配から謁見の場に亜人の入出は許されない ぐらいのルールがあってしかるべきなのに…。

隣国に攻め入らせる口実を与えてはいけない立場なのに挑発する輩(やから)のようなメンタル。

そして他国からの使者との謁見の際に、亜人がサービスを行っているのも首を傾げざるを得ない。この国の厳然とした身分制度からすれば、王族の目に亜人が入ることは忌避されて然るべきなのに、亜人を他国の使者の前に出す。ナカバの髪色に こだわる王族が なぜ亜人を許可するのか矛盾を感じる。しかも この亜人のリトはナカバの国から送られた者なのである。それをなぜ王族が彼に仕事を与えたのか、その経緯が全く想像できない。物語としては使者との謁見に参加できないロキが情報を得るためにリトを使っているが、ロキの思惑が なぜ通じるのか。こういう ご都合主義が まかり通るから作品の質が下がる。しかも再読するとロキがリトを利用する理由が一層 無いように感じられる。再読して面白い部分もあるが、その反面 物語の完成度が高くないことも露見してしまう。


述の通り、ナカバやロキは それぞれ国王や王子の前で刃物を取り出している。だが彼らは死罪どころか重い罰も なぜか回避し、一番 重い処分で謹慎ぐらいなものだった。それなのに『3巻』では第1王子の婚約者から、謹慎中の外出と言動に反省が無いということで投獄させられる。国王の前での刃傷沙汰は不問なのに、女性のプライドを傷つけたら投獄。このバランスの悪さよ…。そして その牢は穴が開いている始末。全ては作者の考える話にするための一本道に過ぎず、作者が視る物語に合わせて現状が改変されていく。そういう感覚が私の熱を冷ましていった。

そして本書の肝である特殊能力「アルカナ」についても その描写に疑問がある。ナカバが「刻(とき)のアルカナ」によって過去・未来を見るのはいいが、ナカバに見えるヴィジョンの中に、その人の その時の心情まで説明できてしまっているのが残念だった。これは説明ゼリフにんってしまってもいいから、せめて聞こえてくる音に変換してもらいたい。こういうルールや描写がいい加減なところも、本書が その程度の作品と思われても仕方のない部分である。

またナカバのアルカナに対する理解・推理力の無さにも幻滅した。『3巻』のラストでナカバはアルカナの発動を願うのだが、それは叶わない。しかし直近の2回のアルカナ発動では血が発動の条件になっていた。当然 ナカバに普通以上の思考力があれば、自分の血を見て発動させるのが自然なのだが、彼女は それをしない。そして そこに説明はない。ここでナカバは自分で出来る最善をしないまま、夫であるシーザに頼ってしまう。ここでナカバが死力を尽くせば彼女の自己犠牲の精神が演出できたのに。ここでナカバにシーザを頼る選択肢が出てくることが、彼らの関係性の進展の象徴とは考えられる。でも結局 ナカバの能力不足で男性を頼るような描写にも なってしまってマイナスの方が大きい。

全体的に「ザル」の設定や展開が、作品の評価を下げてしまっている。全体的な試みは悪くないのに、詰めが甘くて、全面的に薦めることが出来なくなっているのが非常に惜しい。


ルカナの影響ではあったものの、ナカバは誘われた通りに夜の庭にシーザと密会をしたことになった。そこで2人は お互いの心が近付きあることを感じる。シーザはナカバの中の葛藤も感じ取るが、それでも彼女の態度が柔らかくなったことを実感する。

古井戸に落ちた2人を助けたのはロキだった。毒蛇の件に続き、ロキはシーザを連続して助けることで騎士の身分を与えられる。こうしてロキの思惑通り信頼を勝ち取り、彼は亜人結集の第一歩を踏み出す。


カバは再び王の御前に召喚される。そこでナカバは強制的に赤髪を黒く染められてしまう。同盟国からの使者に赤髪の嫁と知られては国家の面子(メンツ)に関わるという考えからだった。国王にとって赤が消えればナカバの生死は関係ないらしい。彼もまた国同士のこと、国民のことを考えず、私怨だけで動く人間に見える。
そうしてナカバの人権が蹂躙されるのを見てシーザは、自分の周囲の世界の歪みを見る。だから彼は長く伸びた後ろ髪を切り、その世界との決別を表明する。そしてナカバを守る自分でいること、そして国を変えることを決意する。

また自分のために涙を流す従者・ロキの姿を見て、ナカバもまた行動する。国王の目の前で彼が染色を命じた黒髪を切り落とす。この時から赤髪はナカバにとっての自己証明の一つとなる。

ナカバ、シーザ、ロキの3人は現在の価値観を壊すという面で同じ志を持ったことになる。中でもシーザは王になる決意を生まれて初めて持ったようだ。ナカバへの恋が彼を変えたのか。その意味ではナカバの国は女性によって次世代の王を骨抜きにしたとも言える。この政略結婚においての勝者はナカバの国だろう。
そしてシーザはナカバに嫌われていないだけで良いと考えるような人だから、ナカバは彼への態度を保留にし続けることが出来る。シーザを取るかロキを取るか、三角関係のような状態も保留となる。


を渡った国・リトアネルからの使者と国王の面会で、この国が和平後にも功績を頻繁に輸入していることが判明する。それはシーザの知らないこと。

リトアネルからの使者は第5王子・アーキルという。身分は王子であっても王位継承権がないため学者として身を立てているようだ。その知識からナカバの国の内情に詳しく、そして「刻のアルカナ」の情報まで持っていた。
そしてアーキルが髪で指を切り、流血したことでナカバのアルカナが発動してしまう。発動時には瞳の色が赤く変わるという情報を持つアーキルに その場面を見られてしまい、ナカバがアルカナ保持者であることは実証されてしまった。アーキルはナカバの その力を自国のために貸せと彼女に迫る。

翌日、ナカバはアーキルに口止めを要請する。それにしても差別意識のある この国で亜人や赤髪が自由に他国の使者に接触できるのは どうなんだろう…。面子に執着がある描写があったばかりなのに。ちなみにアーキルが「女嫌い」という設定は、これ以上 ナカバのモテモテ漫画には なりませんよ、という間接的なエクスキューズだろうか。だがシーザがナカバの「刻のアルカナ」の能力を知らないように男性陣はアーキルの女嫌いを知らない。だからナカバは男性陣の嫉妬を買い、シーザはナカバへの独占欲を丸出しにする。


カバは その後、ロキにアーキルへのアルカナ情報の漏出を話す。だがロキはナカバがアルカナの知識を持つことを快く思っていないようだ。ロキがナカバと一線を引いていることを感じ取れ、ナカバは苦しむ。

ロキとの距離、そして自分の発言を反省したナカバは謹慎中の部屋から出る。それをシーザの兄の婚約者・ルイスに見つかり、彼女の私怨からナカバと彼女を追ったロキは投獄される。

刃傷沙汰よりも恋愛沙汰の方が重罪になる少女漫画。ナカバに死の恐怖がないから緊迫感もない。

投獄時に乱暴に扱われたためナカバに傷ができ、その出血からアルカナが発動する。そこで見たのは自分を必死で守ってくれたロキの人生。ナカバの母親は王女で ありながら、アルカナの血を濃く保持する一族の男と恋仲になり駆け落ちした。その後、隣国の襲来に遭い幼いナカバを遺して死去する。駆け落ちから死去までは10年の歳月が あったらしい。その日々が幸せなものであったことを願うばかりである。

ナカバの母親の願いの通り、王城へ足を向けたロキだったが、ナカバの出自・髪色を嫌う王、つまりはナカバの祖父から冷遇を受ける。そうしてナカバは自分を人生を懸けて守ってくれたロキの存在の大きさを再確認する。


り込まれた牢獄には穴が開いていて、それは奥へ続く道に繋がっていた(どうなってんだ、この国の設備は)。秘密を守るために配置された警備に発見されるナカバたちだったが、彼女を心配して探し回っていたシーザによって難を逃れる。

そこに現れるのはアーキル。ナカバの投獄から彼女の後を追跡していたらしい。そして彼に導かれるままに地下道を進むと そこには武器生産工場があった。それに使われているのはアーキルの国・リトアネルでしか採れない貴重で頑丈な鉱石だった。

そして その武器は勢力図を一変させるほどの性能を持っていた。どうやらナカバの婚姻による束の間の和平は、この武器の大量生産の時間稼ぎでしかなかったようだ。そして この武器が この国で普及すれば、隣国どころか、能力的に勝る亜人にも人間が勝つ可能性が出るゲームチェンジャーとなってしまう。亜人であるロキは そこに同族の更なる環境の劣悪化を憂う。

それを回避したいナカバはシーザの妻としての立場を使おうと考える…。