《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画あるある。トラウマは後付け可能。物語に深みを与えたい時のオプションです。

親指からロマンス 4 (花とゆめCOMICS)
椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第04巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

三姫たちのお陰で、無事に超多忙期を乗り切った千愛たち部員一同。そのお疲れ会の流れて急遽、学校で合宿をすることに!! 夜の校内…陽介とのますますの急接近で、千愛のハートはドッキドキ…!? 部長・春海&豪腕会計・夏江の特別編も収録!

簡潔完結感想文

  • 少女漫画連載の中盤における三要素。多発する日常回、脇役の恋、終盤への伏線の『4巻』。
  • 進展しない恋の裏にはそんな深い事情が⁉ 完全無欠のヒーロー陽介に何やらトラウマ発覚。
  • 晴海部長の絶対に好きになってはいけない高校生活。好きと言ったらキツい罰が待ち受ける。

封印されていた過去を解き放ったり、解き放たなかったりする 4巻。

良くも悪くも中学生カップルのような主人公たちだけでは お話が続かないからなのか、
他校の学校の生徒たちがレギュラーメンバーに昇格したり、
2年半に亘る脇役の恋を過去から振り返ってみたり、
ヒーローに封印された過去があることを匂わせたりしています。

マッサージ少女漫画という他の少女漫画とは一線を画す本書ですが、
良くも悪くも少女漫画の中盤に よく見られる展開を見せております。

序盤はあれだけ濃かったマッサージ成分も、
『4巻』では特に お飾り程度の知識と設定になっているように思う。
(その代わり『5巻』は濃そうな予感)。

高校生マッサージ師(資格なし)たちの日常と騒動を描いたのが『4巻』なのではないでしょうか。


『4巻』の内容は、

高校生マッサージ師たち と カラオケ、
高校生マッサージ師たち と 校内 肝試し、
    (略)     と 過去と恋(2組)
    (略)     と ファッション、

といった内容でしょうか。

前半の2編は、お隣の公立高校・山茶花(さざんか)高校を含めたメンバーで、
日常回を繰り広げたら こうなりました、という明るい雰囲気。

個性的な面々がカラオケで何を歌うのか、
この2人が会話をしたらどんなことを話すのか など、
ファンなら どこを切り取っても楽しい内容になっているのではないか。

反対に作中の登場人物やテンションについていけない人には、
本筋がなくて脱落しそうになるかもしれません。

まぁ、本書は最初から最後までこんな感じの本ですが…。
私としては恋愛漫画としての弱さはあるものの、苦痛を感じることはありませんでした。

カラオケ回の読みどころとしては、
ヒーローの陽介(ようすけ)には、山茶花高校の三姫(みひめ)の低音美声(ボイス)は
効かないらしい、という事実が判明。

三姫は気づいてないが、恋のライバルでもあるこの2人。
能力対決でも陽介に軍配が上がるそうです。
まぁ、陽介はヒーローとしてチートキャラだからねぇ…。


…と、思っていたら、陽介には何らかの封印されし過去があることが示唆される。

以前、陽介が、彼の体ではなく本気で彼自身のことが好きになり始めた恋人・千愛(ちあき)の気持ちを
口八丁で丸め込んでいたが、実はそれには彼自身の防衛本能が働いているらしい。

これまでの中学生カップルのような初々しい交際も、
それ以上は踏み込めない陽介側の事情もあったようだ。

意地の悪い見方をすれば、浅い恋愛描写しか描けないで もがく作者の言い訳として、
陽介の後付け設定を乗っけているような気がしてならないが…。

交際が順調すぎて同じようなネタ・オチしか出来ない硬直化した漫画に、
一大イベントを巻き起こし、物語に深みがあると錯覚させるのが、「過去のトラウマ」ですね。
(ちなみに私はトラウマが出てくる少女漫画はあまり好きではない)。

ここにきて陽介にトラウマを後付けするのは、
序盤に合った千愛のトラウマ(双子の姉・明佳(さやか)が原因)を取り外す代わりなんでしょうか。
千愛がトラウマ担当だとお話が暗くなるので陽介に、といった感じでしょうか。


本人も忘れていたトラウマ(最初の設定に そんなもんはなかったから)
を思い出して、千愛との恋愛にこれ以上踏み込めないのではと悩む陽介。

そんな恋の相談をするのは、三姫。
同じく千愛を愛する三姫だった。

前述の通り、三姫は陽介と千愛の交際を知らないので親身になって相談に乗る。
この道化師ぶりが三姫らしいですね。
本書らしさを一番 体現しているのが三姫なんじゃないでしょうか。

そして、もう一つ発覚する陽介の衝撃の過去は、
これまで付き合ってた彼女がいないということ。

学校一のモテ男、百戦錬磨、そんな『1巻』で彼を形容する言葉が全て無意味になりました。
なんだかとっても後付け臭いですね。

ただ、これには「たった一人の大切な人」という、
少女漫画として恋愛の純度を高める意味もあったのかな。

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完全無欠のヒーロの初心なお悩み相談。もうちょっと経験値高そうな人に相談したら…?

2学年上の先輩たちの大人の恋、と見せかけて、同じく全く進展しない抑止力がかかっているのが、
千愛の所属する不陶花(ふとうか)高校マッサージ研究会の部長・晴海 千歳(はるみ ちとせ)と、
会計・阿部 夏江(あべ なつえ)の2人の恋模様。

実は部長の晴海の家は「世に言う億万長者」。
父親は大手薬品会社の社長で、母親は専務。

父親の厳格な管理の元で育った晴海。
小学校の頃、好意を持った女子生徒の話を父親にしただけで、
その女子生徒を転校させられてしまった過去を持つ。

そのことが原因で彼は、例え女性に好意を持っても、
絶対にそれを伝えてはならないという強い決意を持って生きていくことになった。

実は この話も過去のトラウマが原因で恋が出来なくなった話と言えます。

自分の家の管理が異常だと分かっていながらも反発しないのが晴海の処世術なのか。

設定以上の意味がないと分かっていても、晴海の父の管理は現実味がない。

息子の女子への好意を感じ取っただけで転校させるし、恋も父親が管理する。
その割に自由に選ばせた高校は共学だし、お手伝いさんは女性ばかり。

まるで息子の過ちを願っているかのようなトラップ満載である。
もしかして、父への反抗が一人前と認められる第一歩なのか⁉


そんな中、ストレートに感情や好意を示す夏江に対して、
強い自制心をもって、複雑な感情を胸に秘めながらも
笑顔で接する晴海の強さが読みどころ。
2人とも好きになっちゃう お話です。

ただ、こちらも長い戦いになりそうで、恋の進展は期待できない。

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こんな関係が2年間続いている様子。マッサージ研究会は部員同士の交際が禁じられてるのか??

千愛と陽介、千愛の兄の武(たけし)と優奈(ゆうな)の かつての読切短編の主人公たち、
そして晴海と夏江、不陶花のマッサージ部員たちだけでも、3組のカップルがいるが、
どれもこれも両想いだけど、進展性のない恋である。

この くすぐったい距離感が好きという人は多いだろうが(私も含めて)、
恋愛漫画のバリエーションとしては1組ぐらい普通に交際してもらいたいものだ。

結局、ベタな惚れた腫れたの恋物語は作者自身が気恥ずかしくて描けない というオチか。

ちなみに、この話にマッサージ要素は ゼロ。
坊っちゃんの晴海がマッサージ部に入部した経緯などもなし。

マッサージ要素が限りなく薄まったところで、
次巻は濃いマッサージ談議が聞ける予感です。