《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

半同棲生活だけど、交際後 初めてのクリスマスはキスをしたら それぞれ別の家で眠る。

ビーナスは片想い 9 (花とゆめコミックス)
なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ビーナスは片想い(ビーナスはかたおもい)
第09巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

英知と紗菜も今はラブラブカップルに。しかし、紗菜に惹かれていた由樹は複雑…。由樹の気持ちを知る英知、まったく気づいていない紗菜、微妙な三角関係は続く。そんなある日、紗菜は寝ている由樹に駆け寄ろうとして転び、偶然キスしてしまった!?

簡潔完結感想文

  • おとぎ話のような平和な交際だから違う男性との「事故チュー」だって大事件。
  • 男に背中を押されないと勇気の出ないモテモテヒロイン。努力や成長 一切なし。
  • 失恋後の受け皿 または つがい が用意されて、作中最後の片想いの準備が整う。

学生活も恋愛模様もモラトリアムという言葉しか浮かばない 9巻。

作者の作品には絶対に悪意が存在しない。だから好意を抱いていない男性が いきなりヒロインにキスをするような「俺様」は存在しない。それでも作者は交際した紗菜(すずな)と英知(えいち)の間に ほんの少し波乱を起こしたくて、そこで用意されたのが紗菜と由樹(ゆき)の「事故チュー」だった。これにより英知以外の男性とキスをした後ろめたさが紗菜に生まれ、一方で密かに紗菜を思い続けている由樹は彼女との思い出が出来た。

最初のキスから1年以上 その男性と交際しなかったような人が、今更 事故チューで騒いでもねぇ…。

その狙いは分かるのだが、中高生ならともかく大学生の紗菜が事故チューに対して、どうして ここまで罪悪感や背徳感を持ち、そして頑なに英知に話さないのかが全く分からなかった。ましてや彼女は英知との交際前から何度もキスをしている。それは きっちり順序を踏まないと、交際した特別な相手じゃないと、という信念が紗菜にはないことを意味している。相手の気持ちを確かめる前からキスをしていた人が、今更 事故チューして、自分だけが傷ついているような悲劇のヒロインを演じていても白けるだけである。大学3年生、21歳前後の女性が こんなに幼い反応をするのかと幻滅するばかりである。

事故チューによって生じた英知との すれ違いも、結局 由樹の助言によって英知と向き合う覚悟を決めているのも印象が悪い。それで真実を語る訳でもなく、駆け寄って仲直りするだけなのも呆気ない。
作者としては精一杯 波乱を演出しているのは分かるのだが、針小棒大に語っているようにしか思えなかった。この話で3話(この間の半分以上)も消費しているし、結果的に大学生たちがスノボで遊んでいる記憶しか残らなかった。


の事故チューで2人の関係性が一歩進む(性行為に及ぶ)のなら、そこに時間をかけるのも分かる。だが旅行中ということもあって、それは達成されない。そして その後も2人が男女の仲に進展することはない。一人暮らしの隣人同士で、お互いの部屋を行き来する仲なのに、そういう考えは浮かばないらしい。

これには中盤の告白すれば一気に解決する両片想いが意味もなく先延ばしになったのと同じ感覚を覚える。英知は性行為に対して前向きな姿勢を示しているが、作者は これを伝家の宝刀として大事に抱えるつもりらしい。

スノボ旅行では性行為が達成できないのは分かるが、その後のクリスマス回で、2年前の思い出を再現し、両想いになった幸せを噛みしめながらも その後に何もないのは健全すぎる気がした。紗菜が性行為に対して不安を抱えているとか、邪魔者が入るとか定番の展開でも良いから しない理由が欲しいところ。本書は、由樹が紗菜を好きになった理由、彼が英知より紗菜が大事になった理由、そして告白・性行為をしない理由と、全体的に私には よく分からない部分が多すぎる。長編の割に登場人物の心が克明に描かれているとは思えない、大雑把な作品だと思う。

それもこれも由樹の「片想い」があるからなのだろうか。作者としては紗菜が由樹をフッて、全員が幸せになるのを見届けてから、紗菜が英知と一つになることが完璧な幸福だと考えているのだろうか。いやいや、他人の事情なんて知ったことじゃないだろう。スノボ旅行で弾みがついたのなら、その勢いを利用して欲しかった。結果的に性行為が ああいう形になるのなら、ここで達成されていた方が良かったと思う。告白や両想いのタイミングも含め、どうも本書はリズムが悪い気がしてならない。


菜は当然のように英知の部屋に入り浸っているが、彼女の幼稚なムードが災いしてか2人は男女の仲にはならない。2人とも裏表がない性格だからなのか、部屋の中でも公共の場でも基本的に同じように愛情表現をしている。

そんな公共の場でのバカップルな2人を見て胸が苦しくなるのは まだ紗菜に「片想い」をしている由樹。
そして ある日、寝ている由樹に近づいた紗菜が転んで「事故チュー」をしてしまう。

紗菜には それが英知への秘密になってしまう。そんな気まずい雰囲気の中、仲良し6人組はスノボ旅行へ出かける。英知は、紗菜と由樹の間に何かがあったことを勘づいているが、それが何かは分からない。しかも紗菜が寝ている英知に「ごめんね」と囁き、それを英知が聞いていたから事態は混迷を極める。紗菜のドジが発端となり、紗菜の余計な言葉が火に油を注いで炎上させている。ただ、元々 大した事件ではない。


和な世界での一つの事件としては面白いが、作者の作品でドロドロの展開には ならないのは明白だし、2人が別れる未来など絶対にないと断言できるので、事故チューぐらいで何を騒いでいるのかと冷静に作品を見てしまう。

2人にとっては交際後、初めての心の すれ違いで、友情だった頃から一度も感じたことのない本音を話せない状況になっている。そんな紗菜の様子を察知して心配するのが由樹。彼の助言で紗菜は本来の らしさ を取り戻す。

この仲直りの後、2人の関係が進んでも良かったが、旅行先で場所もないため並んで眠るだけ。これだけ(無駄に)ページを浪費しているのだから、それぐらいの進展が欲しいところだが、それは作品として最後の手段なのだろう。今回は由樹と陽奈子を同じ部屋に出来ないのがストッパーになっているのか。でも この2人の場合、アパートでは互いの部屋に入り浸っているので帰宅後すぐに、ということも可能なのだが、そこは雰囲気が消滅してしまったのでリセットされる。


想いが題名に入っているだけあって作品的に本編なのは由樹と洵(まこと)の片想いだろう。クリスマス回に深見の招待でパーティーを開催する一同。ここで洵は由樹と接点を持つ。

この回は紗菜たちにとっては交際後 初めてのクリスマスで、2年前に最初にキスをした大学校内に寄ってキスをする。公私ともに特別な日なのだから、その先に、と思うが、彼らは健全な交際をする。どうやって部屋の前で別れたのかが気になる。

2年前の失恋直後から恋が始まっていた という美談は、深見への恋心を軽視・無視する嫌な見方。

洵と由樹の接点は続き、由樹は洵に対してケガでバレーボールを断念したことなどを人に初めて語る。こうして由樹の中で洵が特別になっていくことが、彼の失恋への準備なのだろうか。

新年となり紗菜は英知の実家に招待され、ますます この家の嫁になる道を進む。この巻では大学の授業も試験もバイト風景もなく、遊んで暮らしているだけの紗菜だが、大学生活も残り1年余りである。