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少女漫画と小説の感想ブログです

イケメン無罪 ならぬ ヒロイン無罪なので人の恋路を邪魔しても嘘をついても問題ないさ~。

ちっちゃいときから好きだけど(1) (別冊フレンドコミックス)
春木 さき(はるき さき)
ちっちゃいときから好きだけど(ちっちゃいときからすきだけど)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

「あたしはこんなにドキドキしてるのに……」幼稚園のときから幼なじみの翔(しょう)のことが大好きなつばさ。ずーっといっしょにいたんだし、きっと両想い! ……なんて思ってたら、なんと翔にはほかに好きな人がいるみたい!? 近すぎるから伝わらないこの気持ち。キュンっともどかしい、幼なじみラブ!!

簡潔完結感想文

  • 3話で終わるような話を41話まで引っ張り続けると、ヒーローは物語に邪魔。
  • 辛い恋をするヒロインに共感したが、恋愛成就後は どこに共感すればいいのか。
  • 累計100万部以上売れて良かったね、と素直に思う。内容や実力以上に(嫌味)。

こで読者の支持を得たのか、私には分からないさー、の 1巻。

出版社や掲載誌の情報を隠されても講談社別冊フレンドの作品だと分かる内容である。
決して褒めていない。むしろ貶(けな)している。「幼なじみ」という一点集中突破を狙ったシチュエーション、大きなコマと大雑把な展開、ヒロインが恋愛のことしか考えていない視野の狭さ、おそらく3話または6話短期連載から構想のないまま延長して話の密度が薄くなる感じなどなど、私が「別冊フレンド」に対して苦手に感じる点が全部 出ている。雑誌の色なのか編集者のセンスなのか、本当に相性が合わない。本書も「累計100万部突破の大人気幼なじみラブ」(『10巻』次巻予告)らしいが、誰に刺さったのか、どこに刺さったのか本当に謎である。

中でも辟易したのが、『1巻』の本編と読切短編のヒロインの態度である。この2作品の2人のヒロインは自分の恋心を優先するために、他者のことを傷つけてもいいと思っているような行動をしている。本編のヒロイン・つばさ は、幼なじみの翔(しょう)が美術部の先輩を好きだと知ると、彼と先輩女性の接近をさせないために間に割って入る。もし先輩女性が幼なじみを好きで接近するなら まだ行動は理解できる。どうにか翔が先輩を好きにならないように阻止したい気持ちは分からないではない。
だが つばさ は、自分の好きな翔が好きな人と接近する機会を奪う。幼なじみで大切な存在の翔の幸福を奪うような行動は首を傾げる。せめて先輩には彼氏がいるという事実が分かってから翔の先輩への接近を阻止するのであれば彼が無駄に傷つくような不幸の回避が つばさ の動機となる。だが つばさ はその事実を知る前に、自分の恋心のためだけに翔にとっては嫌がらせのような行動をする。しかも つばさ は翔と先輩の接近を阻止するためだけに興味のない美術部に入り、そして すぐに先輩の彼氏情報を知るから、早くも美術部にいる意味が無くなって、大して活動をしない。入った部活動に熱中しない、夏休みの宿題をしないなど、ヒロインを嫌いになる要素ばかりが散りばめられていて、一般的な読者に彼女を好きになる部分を作品が用意してくれないのが気になった。よほど読者が作品に没入して、幼なじみと言う関係性や叶わないかもしれない恋に共振しない限り、ちょっと読むのが辛い内容になっている。

また読切短編のヒロイン・なお もまた幼なじみの男性が好きなのだが、彼に好意を持って接近するライバル女性に対して平気で嘘をつく。しかも その嘘を幼なじみ本人に聞かれ、彼からの評価が落ちるはずなのだが、ページの関係もありヒロインの嘘は不問にされ、彼女だけが幸せになるという とんでもない結末になる。まるでヒロインは童話の中の意地悪な お姉さん役であり、その人が意地悪をしながらも幸せになるというカタルシスの存在しない物語が完成している。

ヒロインが意地悪な性格を自覚している作品でもなく、両想いでヒロインの罪は勝手に浄化される。

2つのヒロインを通して、作者はヒロインのことしか考えていない/考えられないのだろうと思わざるを得なかった。この狭い世界しか作れない感じは長編になっても変わらず、ヒロインが恋や当て馬に振り回されているだけの話が続く。そして当て馬が前面に出るとヒーローは邪魔になり、翔の活躍どころか登場が激減する。私の体感では当て馬の出番10に対して翔の出番が1ぐらいの比率まで下がったのではないかと思った。連載の延長で2人の関係性の深化を描くどころか、交際する意味を奪っていくのが大きな構想のない凡作の末路となる。

『1巻』で事あるごとにキスを持ち出すのは、読者に興味を持ってもらえる即効性の高いシーンだからだろう。これ以後も特に中盤までは2人の肉体関係を匂わせて読者を釣っているのが残念である。それ以外の面白さを用意できないから、こういうネタに頼るのだろう。

ヒロインも作者も恋愛以外に大きな視野を持てなかったな、というのが完読した感想だ。

早起きしない自分を反省せず、幼なじみをトラブルに巻き込む迷惑系ヒロイン。長所どこ??

稚園で出会った友利(ともり)つばさ と伊佐川 翔(いさがわ しょう)。その頃から つばさ は ずっと翔が好き。
現在、高校1年生になった彼らの関係は つばさ が翔に猛アタックしている状態。小さいときから翔はモテて、何度も告白はされているが彼女を作らない。だから つばさ は翔は自分を好きなんじゃないかと期待している。ただし つばさ は翔は距離が近すぎて お互いの恋愛の話は出来ない。幼なじみとしての役得は多いが、決定打に欠けることを つばさ は気にしていた。

だが、ある日 学校内で翔が中学校時代の先輩で、その中学の「ミス」にも選ばれた結奈(ゆな)が、中学時代と同じく翔を美術部に入らないかと話を持ち掛けた。彼女に対する翔の顔を見て、つばさ は彼が誰を好きかを分かってしまう。

こうして間接的に失恋した つばさ は夕飯時まで家に帰らずにいた。つばさ の弟から その情報を聞いて捜しに来てくれたのは翔だった。つばさ を発見し、手を差し伸べる翔だったが、間接的に失恋した つばさ は その手を取れない。だが翔は つばさ のことを迷惑だと思っていないと言ってくれ、つばさ の手を取り歩き出す。

こうして つばさ は翔が誰を好きでも自分が彼を好きな気持ちは止められないと思い知る。なので つばさ は翔より先回りして美術部に入部する。この入部は彼女のガッツの表れなのだろうが、上述の通り真面目に活動しないから、恋愛脳の思いつきでしかなくなる…。


術部で つばさ は、翔と結奈先輩の邪魔を第一目的にする。だが間もなく結奈先輩には彼氏がいることが判明する。上述の通り、この事実があるなら、つばさ を嫌な風に描かなくていいのに、と思う。

ある日、翔が描いた絵が お祭りの広告ポスターに選ばれる(1話から かなり時間が経過していないと こんな展開にはならない気がするが…)。つばさ は張り切って そのポスターを校内に貼るが翔の人気や態度に嫉妬した男子生徒が故意に破る。それを目撃した つばさ が怒り心頭に発し、そんな彼女を翔が目撃し なだめる。自分のために怒る つばさ に翔は感じ入るところがあったようだ。なので帰り道、翔が いつもは乗せてくれない自転車の後ろに つばさ を乗せてくれる。肉体的な接触に恋心を刺激された つばさ は翔を お祭りに誘う。

だが彼は結奈先輩と約束があるという。翔の恋は叶わないことを知っている つばさ は、ここで自分の好意を口にして自分を見て欲しいと訴える。それに対し翔は「じゃあ キスする?」と つばさ に壁ドンをする。少女漫画的な意味不明な行動かと思いきや、翔は つばさ がキスを拒絶するのを見て、彼女の口にしたことが冗談だと判断する。幼なじみが恋をする訳ない、と彼は思っているらしい。昔から翔を見続けてきた つばさ だが、幼なじみと言う間柄が今は足枷になっている。


祭りの夜、つばさ は結奈先輩を発見するが彼女の隣に翔はいなかった。理由を問うと結奈先輩側が彼氏とダブルブッキングになってしまい、事情を知った翔が約束を自分から破棄してくれたという。つばさ は翔が悲嘆に暮れていると思い彼を捜す。慣れない下駄で足を痛めた時、翔が登場する。翔は自分の失恋について語り、事情を知っていた つばさ のお節介な告白でショックが和らいだと言ってくれる。翔の頭の中が つばさ でいっぱいだったから、と聞こえなくもない。

翔の失恋で希望が見えてきた つばさ。あっという間に2学期になり、学園祭の準備に入る。実行委員になった つばさ は実績を上げるために翔にコスプレを依頼するが却下される。翔が結奈先輩と部活で普通に話しているのを見届け、つばさ は改めて翔にアタックする。翔の描いた絵を見る際の接近に乗じて つばさ は彼に再度 告白し、今度は自分からキスをする。

だが翌日、翔は顔を合わせても平然としていた。だから初回の告白のように冗談だと受け取られた可能性を考える。実際、その通りで翔は つばさ のキスを小さいときのキスと同じに考えていた。自分が本気だったと伝え、つばさ は逃亡し涙を流す。気持ちを押しつけるばかりで、相手の反応が自分の思い通りにならないと涙を流し、悲劇のヒロインを演じる感じが苦手だ。


園祭当日、客の入りが悪く つばさ の責任問題が問われかねない。
せめてチラシを配ろうと校内を放浪しながら、つばさ は翔と あれ以来 話していない疎遠になれば苦しさから解放されると考え始める。だが美術部の展示の中に翔が描いた自分の姿を見つけ、そして彼が一度は拒否したコスプレをしてくれていることで、つばさ は翔を諦められないことを痛感する。
せめて幼なじみでもいいと つばさが言うと、翔は満更でもない対応をする。つばさ は これからも一生をかけて翔の側にいるのだろう。この明るい未来を予感させる終わり方が3話の短期連載の結末なのだろうか。翔の態度が煮え切らないのは、さすがに先輩への恋心の直後で完全に つばさ を好きになる心理は不自然と言うストッパーが作者に働いたからか。

(左上)は予想外の喜びよりも、自分が盗撮された写真を見た絶望の表情の方が合っているような…。

「スイートな彼」…
幼なじみのバスケ部・伊波 太地(いなみ たいじ)に懇願されてマネージャーをすることになった新垣(あらがき)なお。マネージャー業務は想像以上に大変で苦労するが、太地の意外な顔を見られて なお は満足する。そこでマネージャーとしてのスキルを磨く努力をしたが、太地が新しいマネージャーを連れて来た。自分よりも可愛い その子は、部員たちからも人気で早くも なお は用済みの気配となる。しかも新マネに太地との恋の相談をされて なお のプライドは滅茶苦茶。なので太地には彼女がいると嘘をつき、甘い動機でマネージャーをする彼女に辞めることを勧める。だが その嘘を太地本人に聞かれ、なお はバスケ部と距離を置こうとする。
だが翌日の練習試合が どうしても気になって体育館を覗くと、太地が怪我をしてしまった。そこで なお は学習したテーピングを実践する。その帰り道、2人は並んで帰る。太地が新マネを引き入れたのは なお の仕事量を減らすためだった。彼が本当にマネージャをして欲しかったのは なお1人だけ、というハッピーエンドである。

だが上述の通り、童話の中の意地悪な姉が幸せになる結末にも読める。あとは2人が年の差のある大人の男女で、新人社員の太地と お局化している なお と若い女性社員(新マネの子)との三角関係で、太地のピンチを経験豊富な なお が手助けすることから始まる お仕事恋愛漫画、の方が しっくりくるようなシチュエーションだと思った。