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少女漫画と小説の感想ブログです

世の中には いっぱい いい人いるから、もうちょっと俺のこと考えてくれる彼女がいいのかな…?

ちっちゃいときから好きだけど(3) (別冊フレンドコミックス)
春木 さき(はるき さき)
ちっちゃいときから好きだけど(ちっちゃいときからすきだけど)
第03巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

高校2年生になったつばさと翔(しょう)。つき合い始めて半年たつけど、まだキス止まりのふたり。いつもいいフンイキにはなるんだけど……!? すっごくラブラブって言いたいのに正直、翔からの愛が全然足りないよー! 振り回されてばっかりだけど…でもでもやっぱり、翔なんか大好きだ! ドキドキ☆キュートな幼なじみラブ♪

簡潔完結感想文

  • 部員と部費獲得のために生徒に嘘をつかせる顧問と4月で引退する美術部3年生。
  • 自分の価値を高めるために恋人に嘘をついたり着飾ったりする『2巻』の再放送。
  • ずっと好きな幼なじみに恋人がいたかどうかも知らない、という無理のある設定。

『2巻』と同じことを堂々と繰り返す厚顔無恥、の 3巻。

冗談でも何でもなく内容が『2巻』の繰り返しなので、当然 感想も『2巻』と同じことしか浮かばない。短期連載から長期連載に移行して(推測)、こんなにも堂々と再放送をしてしまう作者の引き出しの少なさが露呈した分、『2巻』よりも評価を低くしたい気持ちでいっぱいになる。

『2巻』で全く同じシーン見た。作者もヒロインも1mmも成長しないまま人気は上がるの謎。

毎回毎回、「やっぱり翔(しょう)が好き」「頭の中は今日も翔でいっぱい」「きっとなにがあっても翔が好き」というヒロイン・つばさ が幼なじみで恋人の翔が好き、という同じような結論しか出てこなくて頭が痛い。本書から学べるのは、おそらく この先も同じことが繰り返されるのだろうという絶望である。長編なのに読切作品が4つ並んでいる印象で、読み飛ばしても何一つ困らない『3巻』という辛辣な評価をせざるを得ない。

そして これまでも書いてきたが、つばさ にとって翔は「彼氏」という偶像で、彼女は翔の本質を何も理解してない/理解しようとしない所にどうしようもなく苛立ってしまう。そして翔は こんな つばさ のどこに好きになったのかが全く描かれないまま交際編に突入しているから、2人が惹かれ合っているという両想いの喜びが伝わってこない。むしろ「別れてみたら きっと楽だよ すりへらす日々 君はいらない『コスモスに君と』」と思うばかり。連載の形態が変わったことは2人の関係性に もう一度 焦点を合わせられる機会だったのに、堂々と再放送をする作者に幻滅した。

何作品も長編を送り出しているような作家さんは、こういう望外の長編化にも想像・創造の翼を広げて、交際後でも様々なバリエーションが用意できるが、作者は それが出来ているとは言い難い。長編作家としての最初の壁にぶつかっているように見える。ヒロインが愛されるだけでなく、もっと日常の、幼なじみならではの切なさを考えられるような力があればよかったのだが…。


期連載が終わり、本格的に長期連載が始まり、つばさ たちの環境も変わり高校2年生になる。
でも相変わらず つばさ は翔に自分の理想とする彼氏像を押しつけるが、翔は そういうタイプではないことを学ばない。それを「正直 翔からの愛が全然足りません」なんて言ってしまう、頭の足らない残念な子である。「つき合っているのに片想いしてる気分」というのが目下の悩みで、それが満たされる話が用意される。ヒロインが勝手に悩み満足するだけの お話が続く。

2年生に進級したことで彼らが所属する美術部にも後輩が出来る。だが あからさまに翔を狙う子が多くて つばさ は頭を抱える。だが部活の顧問から新入部員獲得のために翔との交際を秘密にするよう懇願される。教師による横暴が目に余るが、この学校は3年生は受験で4月で引退という あまり聞いたことのない設定が持ち出され、新入部員が入らないと部活経費が下りなくて活動に支障が出るという。だから新入部員を騙してでも引き入れようとする。その後に彼女たちが ショックを受けようと どうでもいいらしい。本当に この世界の人たちは自分勝手で人を思い遣る心が感じられない。そもそも現実的に舞台であろう沖縄は大学進学率が高いとはいえず、3年生が受験する可能性も低いのに受験を理由に4月で引退というのも気になる。つばさ が入学している時点で この学校が とても進学校には思えないし。

女性は自分のことしか考えられない という偏見を広めたいのか、と思うような悲しい内容。

こうして つばさ の前途多難は演出されるけど、そこからの結末は簡単に予想できる。つばさ は自分にとって長い2週間と、翔の中の2週間の価値が一致しないことで「翔のバカ」と彼に八つ当たりをする。もう既視感を覚える中盤のシーンである。この価値観の違いは一生 埋まらないのだから、さっさと別の人を見つければいいのでは、と2人の交際に何の興味も持てない私は冷めた意見を持つ。

喧嘩の後は仲直りが待っていて、翔が遅れて本音を話すことで つばさ の心は満たされる。つばさ も問題だが翔の愛情表現の遅さも成長が感じられない。同じパターンの話を繰り返されても読者は困る。


8話から つばさ の中学時代の友達が登場し、これ以降 彼女たちは一応 つばさ の親友役として作品に顔を出していく。そこで『2巻』で繰り返された性行為の話を再び この友達から吹き込まれ、つばさ が挑戦するという絶望的な展開が始まる。

合コンに行くと嘘をついて やきもち を やかせようという女性の小悪魔テクニック。いや普通に悪辣な嘘をつくヒロイン。そうして今回も翔が自分の想像通りに動かなかったら腹を立てるバカ女が爆誕する。

そして合コンと嘘をついた日、翔はカラオケ店で友人たちといた つばさ のもとに駆けつける。これは つばさ と通話中だった翔が、電話先で悲鳴を上げる彼女の声を聞いたから。この声はカラオケ店で店員からジュースをこぼされ、スマホが不通になった際の悲鳴だった。しかし なぜ個室からグラスを下げる店員のコップに、あんなにも飲み物が入っているのかが謎だ。

駆けつけた翔に つばさ は合コンが捏造であることを話すが、正直に やきもち をやいて欲しかったと伝えれば翔も甘い態度に変わる。でも何度も翔を試すようなことをする つばさ は また同じ不安に取り憑かれるのは必至で、少しも成長を感じられないので読んでいて徒労感ばかり増す。


一応、合コンの捏造した嘘は翔によって断罪され、つばさ は翔の雑用を任される。身の回りの世話をして男女の雰囲気から遠ざかったと考えた つばさ は雑誌で見た「モテテク」を駆使して翔をトリコにしようとする。それも『2巻』で ほぼ同じ内容見たってば…。

今回、翔から初めてデートに誘われて つばさ はモテコーデで全身を着飾る。褒めて欲しい服を着ても褒めてくれない翔にガッカリし、そして履きなれない靴で足を痛めるという少女漫画の王道展開がある。この靴のトラブルで つばさ のテンションが落ち、それを翔に彼とのデートに飽きたと思われてしまう。

必死に弁解する つばさ を振り切り翔の方が先に帰ろうとし、つばさ は孤独になる。だが今回も翔は最後の最後で事態を察し、仲直り。つばさ のモテへの努力も報われて、どちらも未熟なカップルの騒動は終わる。


縄では早い梅雨明けが近づく6月、つばさ は少しでも翔と一緒にいるために勉強を教えてもらう。そこで2人きりでいい感じになりキスをして盛り上がるのだが、つばさ は翔がキスに慣れている気がして元カノ疑惑を浮上させる。

こうして再び中学時代の友人たちに吹き込まれ、つばさ は翔のケータイから元カノ画像を発見しようと企む。美術室に翔のケータイが放置され、それを見ようか見まいか逡巡している時、その場面を翔に見つかってしまう。こうして信用を失った つばさ は前回に続いて必死に弁解するが翔の機嫌は直らない。

気まずい雰囲気が漂う帰り道、突然の土砂降りの雨で2人は並んで雨宿りをし そこで翔がケータイを差し出してくれる。翔は隠し事はないが、勝手に見られるのは流石に気分が悪いという考えだった。そこで つばさ はケータイが見たいのではなく元カノ情報が知りたいと彼に正直に伝える。翔にとって つばさ が初カノ。キスが上手いのは才能というオチ。まぁ幼なじみの つばさ が知らないなんて可能性は低く、この設定で元カノ問題を持ち出す方が変なのである。

もうちょっと幼なじみという設定を重視して、彼らの空気感を丁寧に伝えるような話は作れないのだろうか。まぁ 作れないんだろうな…。