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少女漫画と小説の感想ブログです

俺が手に触れたら お前が どんな顔すんのかなって思ったんだよな…。でもドン引きかよッ!

消えた初恋 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
原作:ひねくれ 渡・作画:アルコ(ひねくれ わたる・アルコ)
消えた初恋(きえたはつこい)
第05巻評価:★★★★★(10点)
 総合評価:★★★★☆(9点)
 

「付き合ったら 手つなぎたいとかさ――」 ついに両想いだと確認し合った青木と井田。浮かれる青木だが、成績がピンチ過ぎて塾に行くことに。そこで出会った講師・岡野からなぜか恋のレッスンを受け…!? そして、橋下さんはあっくんにバレンタインチョコを用意し…? 初心者同士の「男男交際」次のステージへ…?

簡潔完結感想文

  • 学校外に現れた悪魔の囁きに乗り、青木は大事故を起こし心的外傷を追う。
  • 橋下さんの頑張りが実って、1年前とは違い カップケーキは彼の手に渡る。
  • 井田17歳直前の初めての やきもち。お前の照れてる顔、可愛くて苦しい!

分が辛い時には泣かない青木の姿に涙が止まらない 5巻。

作品が大好きすぎて各巻の内容を覚えているような私ですが、もしかしたら『5巻』が一番 好きかもしれない。その理由は青木(あおき)と井田(いだ)の意外な姿が見られるからだろうか。

特に今回の温厚な青木が自分と井田の世界を守るために 世間の「普通」に対して声を上げる場面は毎回 泣いてしまう。こういう本当に悲しい時に泣かない青木は強いな、と彼をまた好きになる。青木が ずっと頑張っているから、私たちは青木のことが大好きなんだよ と彼にエールを送りたくなる。

自分の大事にしている人を、その人との思い出を穢されて、青木は「普通」に対して声を上げる。

私が涙を流すのは、岡野(おかの)くん という「偏見ヤバ男」による差別が悲しくて ではない。そうではなくて彼に青木が声を上げたことに対して涙が出る。これまで書いてきた通り、青木は小学3年生で自分の「好き」を嘲笑され、加えて当時は太っていた体型や能力について揶揄されたことで大粒の涙を流した経験がある(『6巻』)。だからずっと「好き」を封印してきた。その封印の蓋を井田が開けてくれたことによって、青木の自己肯定感も回復していった。その終着地点のように、自己肯定感の低かった青木が声を上げた、という成長が見られるから どうしても泣いてしまう。

ずっと周囲の空気を読み、自分が泣きそうな事態でも周囲との衝突を避けるために我慢してきた青木が(『1巻』文化祭の打ち上げ)変わった。もしかしたら これは『4巻』ラストで井田が青木を好きと言ってくれたことで、青木の中に自信が生まれたから可能だったのではないか。それが青木の言う「自分を大事にしてくれる人を大事にしたい」という気持ちなのだろう。もし井田からの告白や、岡野の登場が1話でも前後にズレていたら、青木は自分への差別に対して沈黙してしまったかもしれない。
青木が声を上げるのは、自分だけでなく井田の自分への想いや行動も否定されたからだろう。俺だけでなく「俺たち」という単位で守るべきものがあるから青木は反論した。青木の成長の裏に井田がいることが目頭を熱くさせる。


れも以前に書いたが、青木にとって学校は聖域である。『5巻』での描写で分かる通り、少なくとも青木のクラスでは見た目で人を差別するような人はいない。これは青木が努力して偏見だらけの世界から この学校に入ったからだ。本書は努力した人に優しい。

だが今回、塾という初めて学校外の領域が出現し、そこには岡野くんという悪魔がいた。そして彼の囁きによって、青木は一時的に堕落し、学校内で井田との接触を試みた。だが その聖域での禁忌が学校の怒りに触れたからなのか、青木の試みは失敗に終わり、彼は心に大怪我を負う。
岡野くんという人は外界に登場する悪魔であり「偏見ヤバ男」であるという損な役回りを担うキャラである。もちろん好きなキャラではないが、彼がいることで この世界が甘いだけじゃないことが分かって物語が引き締まっているのも確かである。岡野くんの「普通」のリアクションは私だって しかねない。そういう「共感」してしまう部分が少しでもあるから、彼のことも憎めない。そして そんな岡野くんとも、うまく やっていけるのが青木という人の人間力が この後に描かれる。


田に関しては『4巻』の感想文でも書いた通り、彼の恋愛精神年齢の成長が随所に見られて楽しい。

もしかしたら青木が強くなった一方で、井田は少し弱くなったと言えるかもしれない。だが それは悪いことではない。『4巻』の井田の台詞じゃないが、私は井田が「照れたり焦ったりしてんの可愛い」と思ってしまう。可愛いのは青木だけじゃなかった、という意外な実態が見えてきて嬉しい限りだ。

今回は両想い後に初めて青木に近づく異性・西園寺(さいおんじ)に対する感情で、井田がマイペースを崩しているのが見られるのが貴重で、人生を達観しているように見える「じいちゃん系男子」の井田も、恋をすると年相応の反応をするのかと微笑ましく思う。まさか あの井田が、少女漫画の鈍感ヒロインと同じ心の動きをするのが見られるとは思わなかった。

井田はマイペースで青木と違って世間の「普通」からの圧力は感じないが、青木と同じなのは思わぬ恋心の発生に悩んだり翻弄される部分だろう。そう考えると ここ2巻の井田は初期の青木を追走しているように見える。『1巻』で青木が同性の井田への恋心に悩む描写は、井田にとって『4巻』の青木への想いが本当に「好き」なのかを悩み抜く場面と呼応しているように見える。そして青木が『2巻』でココロという異性の女性が井田の周辺に出現したことに焦燥する場面が、今回の『5巻』の西園寺と対応している。青木に対しての様々な感情は井田のマイペースを崩す。それは序盤の青木の心の動きに似ている。「もっと悩めばいいんだ 俺と同じくらい!」と『2巻』で青木に言われていたが、最初から悟りを開いているような、もしくは開き直っているようだった井田も人並みに恋愛について悩むターンが始まっている。井田は恋愛を通して他者への関心や執着という問題に初めて直面する。

青木のターンでは彼の一生懸命な恋路が描かれ、井田のターンでは無表情・無感情に見えた井田の意外な一面が見られる。その両輪が話に幅を与えている。まだ知らない青木たちの表情を たくさん引き出してくれるから楽しい。そこに。青木・井田、橋下さん・あっくん、という2組のカップルという両輪と合わせれば4輪である。その「4輪駆動」の部分が本書が徹頭徹尾 面白い理由であろう。


三者面談で大学に進学するには学力が足りないと担任から指摘されて青木は、その翌日から週3で数学を塾で教わる(学校の役割とは?)。いよいよ彼らにも進路を考える時期がきた。青木は井田と3年生も一緒のクラスでいるためにも苦手な数学を頑張る。

塾で出会ったのが大学2年生の塾講師・岡野。高校の先輩でもある岡野とは すぐに打ち解け、岡野が好きな恋バナにも花を咲かせる。ここでは叙述トリックが発動していて青木の話す恋人像は、岡野の中で勝手に女性として変換されていく。青木が井田の似ている芸能人を挙げなかったのも岡野の誤解を継続させるためだろう。

そして恋バナ大好きな岡野は下世話なお兄さんでもあって、奥手な青木に関係の進展を吹き込む。青木は敢えて井田との そういう関係を考えないようにしているが、岡野という悪魔の囁きによって、自分たちの関係の進展を試みる。

お昼ご飯を並んで食べている際に、青木は井田の手に触れようと手を伸ばす。だが井田が過剰な反応をして手を引っ込めたことで青木は自分が事故ったことを自覚する。「あっぶねぇぇぇ」と言っているが、心的外傷のイメージ映像は瀕死である。その前の「嫌がられたら …へこむし」は死亡フラグだったのか…。


田からの拒絶で青木は落ち込む。だが塾内のテストで好成績を取って束の間の充実感に浸る。『2巻』の勉強回でも効果が すぐに出ていたし、青木の地頭は かなり良いのだろうか。

そんな時、部活帰りの井田と歩道橋で遭遇する。青木の塾は学校の最寄り駅にあるということか。この時、井田から一緒に帰ろうと彼から提案してくれているのが良いなぁ。さすが「両想い」状態である。
2人は歩道橋の上で少し語らう。井田は最近 青木が元気ないことに気が付いていた。青木の性格が分かりやすいのだろうけど、マイペースな井田がそこに気づくのは、やはり青木が特別だからと思いたい。

青木の意気消沈は、自分が井田の手に触れて以降、まるで井田が手を隠すようにポケットに手を入れているから。それが自分への拒絶の意志に見えたからだ。だから青木は あの日の行動を謝罪する。しかし青木の勘違いを訂正するように、井田は青木の手を取り、彼の手を自分のポケットの中に入れる。そこに入っていたのはカイロだった。井田だって冬は寒いのである。

そして井田が青木の手に驚いたのは、青木の手が冷たすぎたから。何だか『2巻』の「勘違いでよかった」発言を巡る青木の勘違いと同じで、井田の言動にネガティブ青木が過剰反応している。
こうして井田が自分を「きもい」と思っている訳ではないと知り、青木は安堵する。そんな後ろ向きな青木に井田は再び彼の手を取り指を絡ませる。井田は行動を伴って自分が青木のことを「気持ちわるいなんて思うわけない」ことを証明する。両想い後の井田って、もはや世界最強なのではないか?

勝手にスローモーションになって勝手に良い音楽が流れる場面。アルコさんの漫画支配能力が凄い。

このシーン、私は本書の中でも屈指の名場面だと思っている。井田の優しさが溢れているだけでなく、手を繋ぐという行為が こんなにも神秘的で想いを繋げる行為であることを改めて思い知らされた。そして神秘だけじゃなく、淫靡なところも好きだ。青木の手の上を井田の手が這うように動いていてエロい。そして井田って好きな人を こういう風に少し大人びた表情で見つめるんだ、と彼の性的な魅力が引き出されている。ネットの記事で、このシーンは作画担当のアルコさんがページを割いて強調したと読んだけれど、本当に感謝しかない。心の底から ありがとうございます。

この騒動でも2人は たくさん話して互いの認識を埋めていく作業の重要性を理解する。喧嘩やすれ違いがあった分、2人の距離が着実に縮まっていることを描けているのが本書の秀逸な点。1巻につき1つ以上の恋愛イベントや関係性の進展があって読み応えがある。恋愛や交際の階段を一歩一歩上っていく感じとか、相手への気持ちが強くなるグラデーションが繊細に描かれているから、ずっと2人の気持ちに寄り添える。


が歩道橋の2人の光景を岡野くんが目撃し、愕然とする。

翌日、塾で青木に会った岡野くんは隣にいる男性が同性愛者であることに混乱していた。そして自分が青木から やたら慕われているのは狙われているからだと思い込み、距離感の近づける青木を遠ざけてしまう。青木とのラーメンを一緒に食べる約束も一方的に反故にして、青木と一線を引こうとする。これは青木に期待されても困るというモテ男の思考によるもの。

だが岡野に差別された青木は分かりやすく落ち込む。相談相手は井田・橋下さん・あっくん の3人。気の抜けた青木の様子を見て3人は彼の異変を感じていた。そこで青木は敢えて明るく振る舞って塾での一件を皆に話す。この場面、青木が明るくあろうとするほど涙が出そうになる。でも今の彼には青木の悲しみを受け止めてくれる恋人がいて友人がいる。橋下さんが青木に対して過保護を通り越してモンペ気質を爆発させているのが笑える。

井田も部活よりも青木の事情を優先し、岡野という人間に話をつけに行こうとしてくれる。明るく振る舞っても青木が凹んでいる限り、問題は解決していない、というのが井田の考え方。そんな優しい人の存在を大事にするため、青木は井田とラーメンを食べる約束をする。


活の関係で井田が待ち合わせに遅れることになり、青木は街で岡野くんに遭遇する。この時、岡野くんは誤解から青木に対して偏見を もう一つ爆発させる。しかも青木の井田との関係も揶揄しようとするので、青木は怒る。
冒頭でも書いたが、青木の怒りに私は泣いてしまう。青木は自分が誰を好きかで線引きされたこと、そして岡野に対して何もしていないのに、態度を変えられることを悲しむ。たった一つ、人と違う点があると、それが人格の全否定に繋がる。その暴力に青木は晒された。

この場面、私も岡野の態度の変化は身につまされる部分がある。嫌な言い方だが、異性からモテるとは決して思わない私も、もし身近な同性の人が同性愛者だと判明したら、なぜか その人は自分が好きなんじゃないか、自分は狙われるんじゃないかと岡野と同じ心の推移をするだろうと予想する。これは同性愛者は誰にでも欲情する、という偏見が根底にあるからだろうか。
また男性にとって男性に狙われる、という想像は大雑把に言えば、捕食者から被捕食者の地位の転換があるのではないかと推測する。それが混乱を生じさせ、岡野のように身を守るのために過剰に距離を取ろうとするのではないか。


の先生と生徒という立場が決裂しかけた2人の前に現れるのは井田。彼は見知らぬ男性が岡野だということを知り、彼をラーメンに誘う。空気の読めない発言だが、青木は岡野とラーメンを食べるのを楽しみにしていたから、青木の願いを叶えるためだろう。井田にとって これが全てを丸く収める方法なのだろう。

井田の提案もあり、岡野は当初の約束通り青木にラーメンを奢り、同席する。井田が手洗いに行った後、2人きりになって岡野は自分の正直な気持ちを述べ、間違えていた部分を謝罪する。そして青木も男性なら誰でもいい訳でなく、井田が好きだと岡野に伝える。青木の純朴な性格を少なからず見てきた岡野だから、その言葉は信じられるだろう。そして当たり前だが普通の高校生のように美味しそうにラーメンを食べる2人を見て、岡野くんは偏見を少し無くす。

ビールで泥酔した岡野は青木に謝罪を繰り返す。そんな岡野くんを運ぶのは井田の役目。そして青木は今日一日の井田の働きに感謝する。井田もまた「偏見ヤバ男」の岡野に対しても優しい青木を改めて良いと思う。でも ここで井田が評価しているのは今回の青木の行動の どの部分なんだろう。もしかしてラーメン屋の前の騒動を井田は少し前から見ていたのでは、と妄想する。罪を憎んで人を憎まず、で、岡野の偏見には怒るが、岡野自身の本質「変わってない」部分を憎まない青木が優しいと思ったのかな、と考えるが、嘘のつけない井田に、ちょうど今 来たみないな演技が出来るとは思えないので、それはないのか。

ちなみに岡野くんは、塾バイト仲間の女性が車で送る。そういえば珍しく井田が岡野に対してはブラックな部分を見せているが、もちろん これは青木を傷つけうる存在としての危険性もあるだろうが、岡野が青木のことを馴れ馴れしく「想太(そうた)」と呼び捨てるのが井田の気に障っていたりするのだろうか。恋を知った井田なら、そんな嫉妬も あり得る!?


の帰り道、青木は我慢し過ぎる彼を心配して電話をかけてくれた橋下さんと話す。今回、青木は「俺なんか」「しょうがない」と思うのではなく、岡野くんにも言いたいことを ちゃんと言えた。自分への害意や悪意に対して強くなったことを青木は実感していた。それは恋心を嘘にしたくないという井田に対する誠実さも根底にあるだろう。

青木の成長を感じて橋下さんは今度は自分の成長を誓う。
そんな時に近づくバレンタインデー。橋下さんは あっくん のリクエストで家庭科部で作るお菓子をカップケーキにする。この教室でのシーン、橋下さん と あっくん の間にかつてないほど親密な空気が流れているのだが、それをアホ丸出しの青木が邪魔しているのが笑える。

橋下さんは あっくん に渡すためにカップケーキを作り、その場にいた青木にも お裾分けする。青木にとっては2年連続2回目の橋下さんからのカップケーキである。昨年は余り物だったが、今年は熱心な応援団・青木に対しての感謝の印となる。


が当日、あっくん はクラスの女子生徒の手作りケーキを「手作りは ちょっと!」といって拒否する。この発言に愕然とする女子生徒と橋下さん。ただし2人の女子生徒には救いが用意されている。あっくん に直接拒否された女子生徒のお菓子は他の男子生徒によって大量消費され、彼女は その男子生徒に好感を持つ。ちなみに男子生徒は ふくよかなのだが、青木の小学校時代と違って、この高校では見た目による差別はない。

そして間接的に拒否された橋下さんだったが、あっくん は橋下さんが机の中に入れたカップケーキに気づいていないだけ。そして彼は「テキトー」に橋下さんにリクエストしたのではなく、彼女の気持ちを踏まえた上で お願いしていた。だから橋下さん以外の女子生徒の手作りは断った。デリカシーがないのかと思いきや、優先順位をちゃんと付けての行動だった。

橋下さん以外のものはいらない、という あっくん の誠意を知り、橋下さんは去年とは違い、カップケーキを あっくん に届けることが出来た。同じカップケーキでの再挑戦と達成が、1年前とは違う橋下さんの頑張りと幸福を際立たせる。

ここで一方的に橋下さんが喜ぶ胸キュン展開ではなくて、橋下さんは自分の期待とは違う展開になったからといって あっくん に八つ当たりのような行動をしたことや、潔癖という事実を確かめなかった自分を恥じているのが良い。一般的な少女漫画だったらヒロインばかりが優遇されて彼女は反省しないだろう。だけど本書では自分を客観視できている人たちが多いから、嫌な気持ちや行動への疑問が少しも残らない。手作り拒否の女子生徒へのフォローも ちゃんとあるから本書は優しい。

また、好きな人からの呼び方(『4巻』)と同じく、バレンタイン回の青木バージョンがコンパクトに用意されているのが良い。井田は青木のためにコンビニに行った「ついで」にチョコを買ってきてくれた。井田は青木が ずっとバレンタイン話ばかりしているので、彼にチョコを渡そうと思い立ったのだ。市販の物であっても何でも「チョコより何より その気持ちが うれしい」のだから青木は最高の表情を見せる。そんな彼の表情に、おそらく井田が「可愛っ」と思っているのが見えて、ご馳走様と言いたい。


くの波乱を起こした「冬の3大イベント」も無事に終わり、続いては井田の誕生回となる。
バレー部仲間と井田との会話から、彼がもうすぐ誕生日であることを知った青木。イベント好きの青木は祝う気まんまん。「冬の3大イベント」はグダグダだったので、誕生日は気合いを入れたいが、資本金がない。

そこで青木は回転寿司屋での短期アルバイトを始める。初日はバイトリーダーの西園寺(さいおんじ)さんに厳しく指導されるばかり。西園寺さんは温厚な店長に代わってバイトに仕事を叩き込む役目を担っている。そんな彼女の態度に反発する人も多いが、青木はただ自分の仕事の出来なさだけを反省していた。逆に西園寺さんが忙しいのに青木に気を配り、仕事を教える様子を尊敬したと青木は店長に伝える。

その話を扉の外で聞いていた西園寺は自分が認められたことを密かに喜び、青木のことを これまで以上に目をかける。ツンデレを具現化したような西園寺さんは素直ではないが、青木をしっかりと認めている。初日の帰り道の会話で西園寺さんは同じ学校の同学年であることが発覚する。


日の放課後、井田は部活、青木はアルバイトで彼らは校舎内で別れる。西園寺は青木を待っていて、彼のために作った仕事のメモを渡す。青木が西園寺に懐く様子、そして西園寺の青木へのツンデレ具合を見ていた井田は、一度は別れた青木に もう一度声を掛ける。どうして この時、自分が青木に声を掛けたのか、井田は まだ分析できない。

その後のバレー部の打ち上げ会場も「頭に ふと浮かん」だ井田の提案で回転寿司に決定する。こうして井田は青木のアルバイト姿を初めて見る。しかし それは青木と西園寺の接近と、西園寺が青木を認めている様子を見るということでもあった。周囲の「青木 デレデレして」いた、「恋が生まれたり?」という声を聞き、井田は、善良な人間である青木を好きになる奴がいる可能性に思い当たる。そうして彼の「胸が むかむかして」くる。すげーな、井田。完全に鈍感ヒロインじゃないか(笑)

バレー部員たちが会計を済ませて店を出る際、青木も仕事を終え、井田は一緒に帰ろうと提案される。そこで井田は店舗裏口で青木を待つ。自分の心の動きに異変を感じていた井田だが、青木の顔を見たら一瞬で落ち着く。

そして井田は青木が店に馴染んでいたこと、青木なら どこでも誰とでも上手くやっていけると遠い目をして彼を褒める。その様子を見た青木は井田が「寂しがってる」ことを指摘する。希望的観測も含めた茶化しだったが、井田はその指摘に納得する。井田くん、初めての やきもち というエピソードでした。

そして青木はアルバイトが短期で、もうすぐ辞めることを井田に伝える。それを聞いた井田は素直に安心する。この時の井田の顔は青木じゃなくても全員の心を討ち抜く、純朴で素直な少年のような顔である。こういう魅力も隠し持ってたのか、と まだまだ飛び出す井田の意外な一面に目が離せない。