《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

転生ならぬ、転校したら世界最強になるヒロインが「運命の人」という言葉を武器に無双状態。

恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~(1) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
恋降るカラフル(こいふるからふる)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

小学生のころ出会った男の子・青人(はると)に恋をした麻白。転校した東京で、彼と全く同じ名前の結城青人と出会うけど、彼は「人違いだ」となぜか麻白に冷たくて・・・。けれど、クールに見えて本当は優しい青人に麻白はどんどん惹かれていって・・・!? 迷子になった初恋の行方はどうなるの!?「ハチミツにはつこい」「なみだうさぎ」のヒットメーカー・水瀬藍が贈る等身大初恋ストーリー!
<同時収録>「ハチミツにはつこい」番外編・・・新婚生活を贈る小春となっちゃん。ラブラブな生活にあるハプニングが・・・!?

簡潔完結感想文

  • 本来なら★5でも良いが、3作目・10周年でも成長を感じない作者に幻滅し★4。
  • 初・少女漫画の人にはお勧め。だが他作品どころか同じ作者の作品で既視感あり。
  • 運命の友達の友達なら自然に仲良くなる。男性の友達の3人目って必要なのかな…。

しかしてカンストして これ以上レベルアップしないの? の 1巻。

私が初めて読んだ水瀬作品『なみだうさぎ』から同じことを言っていますが、初めて少女漫画を読む小中学生の人に薦めたい漫画である。恋をする喜びや楽しさ、その反対に悩んでしまう辛さや悲しさが描かれていて、ヒロインを応援したくなる。過激な描写もないし、憎らしい行動を取る人もいないので、誰が読んでも安心・安全の健全な作品である。ちなみに書名に「カラフル」とあるのは、キャラの名前に色が入っていることに由来するのだろう。

…が、水瀬作品に接するのが3作目の私は色々と苦言を呈したくなった。作者は本書の連載中に作家生活も10周年を迎えたらしいが、この3作品で成長を感じられるところが全くないことに幻滅した。メイン読者である小中学生向けに分かりやすい物語にしているのかもしれないが、本書には工夫が感じられなかった。同じような比較的低年齢向けの作品でも構成に工夫がある作品は面白いが、本書は出会い以外はノープランで始めたのかな、というぐらい底が浅かった。そして全てにおいて既視感がある。しかも その既視感が作者の過去作品によるものも少なくない。ヒロインの精神年齢が とても高校生に思えないのも既視感が生まれる一つ。独白・モノローグの言葉の甘ったるさ も『なみだうさぎ』と変わらず、自己陶酔度が高く、そして言葉選びがワンパターンに感じた。簡単な言葉でも使い方や並べ方で深みが出るはずなのに、小学生のヒロインも高校生のヒロインも変化のない言葉の選び方で恋を表現している。

「初恋が迷子」という迷言に頭がクラクラする。糖度が高くても虫歯や胃もたれしない人向け。

本書のキーワードは「運命の人」。だが この言葉は強すぎて、あらゆる困難を一発で乗り越えさせてしまった。逆風が吹いても、恋のライバルがいてもヒロインが「運命~!!」と浄化技のように唱えれば、それらは全て消滅してしまう。
ヒロインが自信を持てないタイプだから勝手に落ち込んでいて、何でもないことが一大事のように思えているだけで、実際には純愛を守るヒロインは無敵というのが本書のパターンである。純愛の前には全ての事象がザコ扱いなので、余程ヒロインと同化しない限り、心配する気も起きない。
私は このイージーな展開が、転生したら あらゆる能力がカンストしている、すなわち最初から最強で これ以上強くなれない作品みたいに思えた。瀬戸内海の島育ちのヒロインが東京に転校、ならぬ転生をしたら、この世界で一番の魅力を備えてしまったという無自覚に能力獲得する漫画である。自分の分身=主人公は無敵というのは世間の流行り、すなわち こういう現代人が求めているのだろうか。嫌な事ばかりの現実を忘れさせてくれるのがフィクションに与えられた役目で、読者を不快にさせないように嫌な人間も鳴りを潜め、皆が友達のアハハ・ウフフの世界が広がっていく。

作品、そして作者の2つでカンストを感じた本書。作品は運命を武器にしたヒロイン無双になってしまっていて、恋愛の障害がとても低くなってしまっていることが問題。そして作者は、残念ながら これ以上成長しないのではないか、という悪い意味での限界が見えてしまった。同工異曲の現状から打破しない限り、未来は先細るばかりではないか。(などと申しておりますが、2022年現在も人気作家として君臨しているのだから余計なお世話なのだろう)。


らすじ にある通り、4年前 生まれ育った瀬戸内海の島で偶然 出会った結城 青人(ゆうき はると)と、転校先の東京の電車内で出会った小川 麻白(おがわ ましろ)。4年前、小学校ながらに2人はキスを交わし、次の日に再会することを約束したが、青人は現れなかった。あの日から青人は麻白にとって「運命の人」。だから麻白は再会を喜ぶが、青人から「あんた誰?」と言われてしまい「初恋が迷子になる」。同じ学校、同じクラス、隣の席になっても青人は麻白を無視し続けて…。
ちなみに『ハチミツにはつこい』の最終12巻では、運命的な再会を描いた かきおろし番外編が収録されていた。

この、出会いから数年後の再会は少女漫画では よく使われる運命の演出。私が感想文を書いた中でも山田南平さん『空色海岸』(2006年)、咲坂伊緒さん『アオハライド』(2011年)が同じパターン。特に前者とは「シーグラス」を小道具にしている点が同じで、類似性を指摘されたら2015年スタートの本書は分が悪い。そして後者は待ち合わせに男性が現れないという点が同じ。それぞれ小6(本書)と中1という細かい違いはあるが、再会は高1というのも同じ。だが似たような設定だからこそ、その精神性や思考力の差が如実に表れる。雑誌の対象年齢が少し違うのだろうが、本書は小6からメンタルが全く成長していない。そして本書はピュアであることと物を考えないことを混同し、少し頭が悪い方が可愛いとしている節がある。ヒロインは無垢で家庭的なタイプ、そしてヒーローは無口だけど実は情が深いタイプ(嫉妬深い)という主役の造形は、作者の過去作の複合体で新鮮味がない。3作品を通じて作品の幅を感じられない。


4年前、青人から貰ったシーグラスで麻白はブレスレットを作っていた。青人に無視され、そして東京の生活やクラスメイトと馴染めない麻白はブレスレットを紛失する。少女漫画におけるアクセサリは恋の象徴。麻白は2話目にして早くもそれを失くし、慌てて探そうとするが、それを拾い、広い大都会で偶然出会うのはヒーローの青人。ヒロインのピンチを助けたことで青人は4年後の この世界でも麻白のヒーローになる。高校で出会った青人が、4年前の青人かどうかは分からないが、麻白は目の前の青人に惹かれていく。
ただ、青人は あまりにも偶然、ブレスレットを発見し、偶然、良いタイミングで彼女の前に現れるが、それは深く考えてはいけない。少女漫画時空の話だし、作者が背景を考えているとは思えない。学期の途中で麻白が転校してきた理由も よく分からないが、これは後々 明かされるのかなぁ。色々と心配な作品である。

愛の象徴を手渡されたことによりブレスレットの思い出が小学生ハルトから高校生ハルトに上書きされた。

金の切れ目が縁の切れ目で、麻白は毎日 豪遊するクラスメイトとは疎遠になる。その代わりに友人枠として交流するのが「さぼり魔さん」の桜居 姫乃(さくらい ひめの)。彼らは、ご飯を食べたら即お友達になる。そこにエピソードはない。作者が決めた人とは すぐに仲良くなるが、それ以外の都会の人は冷たいという分かりやすい対比(差別)がされる。もしかして麻白のいう「運命」とは作者の選別なのではないだろうか。姫乃と仲良くなったために、麻白はクラスメイトの男性3人とも トントン拍子に仲良くなる。それが青人と大也(だいや)・自由(みゆ)の3人である。麻白の性格からすれば男性に慣れてなく緊張しそうなもんだが、友達の友達は皆 友達で、さしたるエピソードもなく仲良し5人組が誕生する。友達たちの外見も既視感があるが、特に男性側3人は『なみだうさぎ』の3人と被っている点が多い。この中で当て馬になるのも、やっぱりね、という人で、作者の好みは一貫していることが分かる。

そして この男女5~6人グループも作者が好きな手法である。すぐに仲良くなるから、端っこにいる人との距離の縮め方などが まるで描かれていない。本書なら麻白と大也はタイプが違い過ぎて、麻白は戸惑うような人間であるはずなのに、麻白は青人しか見ていないから、大也に目もくれないまま仲良しグループという既成事実だけが独り歩きする。ほんの少し、大也が転校生である自分に何度も話し掛けてくれる、という優しさに麻白が気づく、などのエピソードを入れるだけで、グループの結束を読者も実感できるのに、作者は青人以外のエピソードを作らないで、役割だけをキャラクタに押しつける。


乃とも大したエピソードが無いまま、恋バナをする仲にまで急速 接近。不登校の常習犯で気難しそうな姫乃が、麻白のどこに惹かれて再び学校に来たのかも謎。作中の事実を疑わずに受け入れる広い度量や素直さを持つ読者だけが楽しめる作品なのだろう。

仲良しグループになったことで一緒の空間にいるが、相変わらず青人は麻白に素っ気ない。ただし嫉妬や 焼きもちはするようで、麻白は無自覚なまま愛されている。上述の通り、作者の中ではピュア=おバカなようで、麻白は定期テストで追試になってしまう。その勉強中、麻白は青人に無視され続けることが悲しくて泣きだす。そんな精神的ピンチに現れるのは、もちろん青人。正直に青人に嫌われたかと思って泣いていたと話す麻白に、青人は「別に嫌う理由ないでしょ」と この時点では最大限の優しさを見せる。

ヒロインは、赤ちゃんと一緒で泣くのが仕事。泣けば誰かが手助けしてくれるが、それで成長しない。

この落として上げる、分かりやすい胸キュンの展開もそうだが、本書では大体において麻白が勝手に落ち込んで、その不安を払拭していくパターンが多い。結局、麻白の精神状態で世界をカラフルにするかモノクロにするかが決まって、客観的に見た事件はそれほど起きないのが残念。今回も麻白が青人に向かって精いっぱい努力して、それが伝わらないのなら泣くのも分かるが、中途半端に関わって、何も自分で解決しようとしないまま泣いているのが気になる。そして それを青人に助けられるヒロインへの親切設計。結局、麻白に優しい世界が広がっているからカラフルな世界が白けてしまう。

そして早くも『1巻』のラストで青人が過去を話し始める。めでたし めでたし。


「ハチミツにはつこい 番外編」…
1周年の結婚記念日を迎えた小春(こはる)。夫の夏生(なつき)はプロサッカー選手になって大活躍。子宝にも恵まれ、そして次世代の幼なじみカップルが誕生する。

うん、それだけの話。完全に200万部売れた前作の お客様を誘導するだけの作品ですね。