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少女漫画と小説の感想ブログです

悪魔の所業 その3。186歳年下の子供への嫉妬に無自覚のまま、周囲に八つ当たり。

花と悪魔 3 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
花と悪魔(はなとあくま)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

魔界でビビ200歳の生誕祭の準備が進められる中、クラウスが猫男爵ミヒェルと共にビビを連れ戻しにやって来た。猫耳を生やす呪いをかけられ、更に、はなを人質に取られてしまったビビたちは、仕方なく魔界に帰ることに。そして開かれた生誕祭で、はなが目にしたものは──!?

簡潔完結感想文

  • 屋敷限定コメディに限界が来たのか魔界や下界など世界を広げる試み。
  • 相変わらず はな の望むものを最後にビビが与える親バカ構造で辟易する。
  • 2人の誕生回や それぞれのライバルの登場など対称性があって良かった。

めて見る魔界、初めて出来る友達、初めて湧き上がる嫉妬、の 3巻。

この『3巻』は作者の成長が感じられて とても好きだった。
中でも『2巻』・『3巻』と続いた はな・ビビの誕生回での2人の心情の対称性は切なさを感じられて良かった。誕生回は2人が違う速度で生きるという種族の違いを目の当たりにする回として描かれていたのが印象的。

『2巻』の はな の誕生日では、悪魔のビビが誕生日が来ること=彼女の余命が少なくなっていくことを恐れるあまり、誕生日を祝えず結果的に はな を悲しませた。だが彼は はな の人生という砂時計に於いて、上部の砂が少なくなっていくことを嘆くよりも、下部に砂が積もっていくことに価値を見い出す。その堆積こそが2人の過ごした人生の長さであり、その量が増えるということは幸福が増えていったことと ほぼ同義なのである。

そして今回のビビの200回目の生誕祭では はな が初めて魔界に立ち、そこで自分の知らないビビの姿を見て彼と距離を感じ、そして彼の人生の長さにおける自分の占める割合の小ささを悲嘆する。だが その悲しみは魔界で出会った少年によって反転する。はな はビビの人生の中で自分が見られない・見届けられない長さばかり気にしていた。しかし この14年間に関して言えば はな は誰も知らないビビの姿を独占できていると言える。一緒にいられない時間ではなく、一緒にいる時間に価値を見い出すのは、はな の誕生回におけるビビの発想の転換と同じであった。

2回の誕生回を通して、作者は双方に「今」を大事にさせている点が優しいと思った。

誕生日を祝いたい純粋な心に、人生の長さや種族・立場の違いが混入して、心が乱される。

た『3巻』では はな とビビそれぞれに同性ライバルが出現する。同性ライバルだけなら他の少女漫画でも見られるが、本書では彼らが相手と「同種」であることが問題となる。

悪魔のビビに発覚するローゼマリーという婚約者は、人間の はな にとってビビの人生の一部でしかないという悲しみを乗り越える権利を持っている人として認識される。そして人間の はな と仲良くなる桃(もも)という少年は、はな にとって初めての人間の友達で、同じような長さの人生を過ごし、ビビには出来ない花に触れるという行為が出来る者だからビビは苛立ちを覚える。
はな にとってのローゼマリーが、ビビにとっての桃という対称性が綺麗だ。

おそらく この14年間はビビにとって赤ちゃんが成長していく様子を見るだけの時間で、想像だが それは悪魔も同じような成長経過を見せるのだろう。だが はな の成長限界が近づくと、今度は人間から見れば成人後 成長が止まったような悪魔と違い、はな は成長から短い成熟を迎え、そして老いていく。
ビビが自分が触れることで花が枯れるのを極端に嫌がるのも、それが満開の「はな」が枯れていくのを見届けることが そう遠くないと直感しているからなのではないだろうか。

『3巻』は誕生日や種族の違いによって、2人の人生の速度の違いが一層 露わになっている点が残酷で美しかった。


敷内では黒猫騒動に続いて、今度は猫耳騒動が起こる。
ある朝、魔界の住人だけに猫耳が生える。その犯人はクラウスとミヒェルという男性。ミヒェルは猫使いで有名な通称・猫男爵。彼はビビとは正反対に猫好き。ちなみに この猫耳が生えても、通常の耳もある。2つとも機能しているのか、それとも猫耳は完全に飾りなのか気になるところ。
ミヒェルはクラウスを使って この屋敷に魔術を施した。クラウスの動機はビビの魔界への帰還という宿願を果たすため。

苦手な猫を屋敷内に放たれ、ビビのピンチ。はな はクラウスからビビの猫トラウマの話を聞き、自分が彼を助けると動き出す。はな がミヒェルに体当たりして気絶させたことで事態は収束に向かう。珍しく はな が自発的な行動をし役にっている。こういうヒロインの動きが見たい。

最後にクラウスがビビの魔界帰還を もう一度願う。なぜなら この日がビビの200歳の誕生日だから。魔界で開かれるパーティーに招待するためにクラウスは来訪した。本来なら『2巻』のラストで登場した黒猫が死んだ際に、猫にかけられた呪(まじな)いが発動し書状の内容が読めるようになっていた。しかし はな が猫の命を守ったため、書状を無視する形になったようだ。


かし書状の宛名はビビではなく はな だった。
クラウスはビビの誕生日を祝いたいという はな の気持ちを利用して彼女を魔界に連れて行ってしまう。作者なりに はな が魔界行きの恐怖を乗り越える理由を用意しているが、普通の思考回路を持つ14歳なら絶対に行かない。ここはクラウスが周到というよりも、はな が幼稚だから誘拐されてしまっているだけ。このレベルの人が言う「恋」を読んでも楽しくない。読者は小学生向けではないという確約があって「花とゆめ」を読んでいるのに、この幼すぎるヒロイン像には幻滅しただろう。

ここから本書で初の魔界の描写となるが、至って普通(既視感があるという意味)。そこには広大な土地と広大な城があるだけ。

ビビを誘い出す餌という役割を果たした はな は牢に閉じ込められる。そして大悪魔のビビを従順にさせるため、クラウスは魔力封じの腕輪を彼に装着させ、それを外すための鍵はビビの嫌いな黒猫に持たせる。


ビの誕生日を祝いたいという はな の願いは叶えられる方向に動く。
エリノアがクラウスを連れてきて牢の鍵を開けてくれた。なんと この2人は双子という後付け設定が発表される。だからといってエリノアやクラウスにキャラ付けが成功した訳でもなく、初期レギュラーの割に何となく地味な双子として作品にいるだけなんだけど…。

はな はエリノアに「人間臭」を消す液体をかけてもらい屋敷の地上部に出る。だがビビの姿を発見した はな が見たのは、彼の婚約者・ローゼマリーとのキスの瞬間だった。はな はビビの婚約者の存在に意気消沈するが、ローゼマリーが大悪魔というビビの立場を欲する政略結婚目的であることは はな には聞き取れない。

場違いにならないように成長薬を使い17歳の容姿になった「はな弐號(にごう)」として生誕祭会場に潜入する。ここで、ビビに もう使わないと誓った薬を使ってしまうのが はな の心の弱さが出ていて嫌だなぁ。はな は どの方面の読者層から好かれているんだろうか、と本当に謎だ。


誕祭ではのビビは大悪魔だけあって威厳がある(ように振る舞っている)。はな は そこに彼との距離を感じる。
しかし はな がビビとローゼマリーのダンスを見て、涙を流すと、ビビが彼女を発見し飛んできてくれる。いつものパターンで辟易するが、更に今回もビビはローゼマリーという女性を放置して、はな に駆け寄るのが残念すぎる。たとえ政略結婚でも、はな の幸福が女性を惨めの上に成立しているのには変わりはない。

しかも はな はビビに顔向けできない状況なのでクラウスにビビを遠ざけてもらう形になる。はな は本当に何もしない人間だ。自分のしたいことをするが、したくないことは しない。果たさなければいけない説明を放棄して腹が立つ。どれだけの人を心配させて、労力を使わせているのか考えられないほど自己中心的で幼い。

拒絶される形になったが、ビビにとって魔界で贈られるプレゼントは、地上での はな との暮らしの中の毎日の花に比べ価値がない。彼女を思うビビは、クラウスに はな の無事の帰還を頼む。ビビがクラウスに頼みごとをするなど前代未聞で、クラウスは目を丸くする。


を冷やしに会場を出た はな が中庭で出会ったのは謎の少年。はな の正体や年齢詐称を一目で見分ける能力を持っている偉そうな口調の その少年は、ビビのことを小さい頃から見てきたという。そして はな にビビの知らない彼の一面を悲しむより、はな だけが知っているビビの顔を大切にしろ、と諭す。
これは はな の誕生回でビビが残された時間ではなく積み上がった時間を大切にするという発想の転換と同じこと。2つの誕生回で彼らの意識を変えるという手腕に舌を巻いた。

そうして人生の助言をして少年は風のように消えてしまう。


頭が切り替わった はな は地上の帰還を提案するクラウスに、もう一度 会場に入って、ビビに お祝いの言葉を述べたいと願う。
再び はな の姿を発見したビビは彼女に駆け寄る。そしてビビは彼女の一緒に帰りたいという願いを聞き入れるために、苦手な猫を捕まえる決意を固める。ちょうど猫は はな が連れて来てくれており、ビビは会場を脱出する。

ビビも はな の帰還だけを望んでクラウスに頭を下げたのに、自分が優位になるとクラウスを平気で困らせているのが気になる。これでは とても自分勝手に見える。ここはクラウスへの頼み事で取引が成立したのだから、魔界に留まり、最小限の労力で「長老」たちを黙らせるとかした方がスマートだった。

最後に、はな に話し掛けた あの少年が魔界の王=魔王であることが明かされる。

はな は帰宅後、改めてビビの誕生日を祝う。それに対してビビは彼女の頬にキスをした。これは合法「弐號」の姿だから出来たことなのか。悪魔なりに厳格な基準があるのだろう。


界帰りのビビは魔界のウイルスに やられて高熱で倒れてしまう。ここでフェルテンは医者だということが判明する(後付けされる)。彼だけは人間界でも収入を得る手段があるということか。

魔界のウイルスなので人間の はな は伝染(うつ)らないため、風邪回&看病回が始まる。しかし典型的な少女漫画の不器用ヒロインの はな は、かえってビビに迷惑をかけてばかり。ビビから退去を命じられてしまい、はな は落ち込む。

高熱でうなされるビビの傍に立つのは魔界から来たローゼマリーだった。彼女はキスに紛れてウイルスを伝染させた犯人である。そして今回 彼女が地上に来たのは魔界でビビが しきりに気に掛けていた謎の女性のことを調べるため。だが はな は弐號状態だったため、ローゼマリーと会っても彼女はスルーする。ローゼマリーが はな(弐號)を探しに来たのも、早く結婚を望むのも、はな の存在の焦りを感じたからだった。ここから彼女の本当の心が見える気がする。


な はローゼマリーという存在によって、自分の人生の短さを再確認させられる。
そんな はな の悲しみをビビは上手に癒す。悪魔なら良かった、悪魔に生まれたいという はな に、種族が違わなければ今日こうして看病してもらえなかったという見解を示す。そして決して美味しくない はな の手料理をビビは全て食べてくれていた。ビビにしては優しい言葉だが、これは風邪回特有の朦朧とした意識からの発言で、風邪が治ると そのことを覚えていない、というところまでがセットである。

気分が復調した はな は、帰還する前のローゼマリーにビビは渡さないとライバル宣言をする。ローゼマリーが病気の感染源であることを知っても彼女が特効薬を渡してくれたことで はな は笑顔で礼を言う。魔界からの使者の心を動かすのが はな の大事な お仕事。
ただし それは はな の気持ちが晴れやかな時だけ。自分の精神状態で相手への態度を変えるのは彼女が幼稚だからである。


『2巻』で登場した花屋の息子が、桃という名前を与えられて正式レギュラーになる。姉の命令で花を売り歩く桃は橋の上で、同じ年頃の はな に初めて会い、初対面から彼女に見惚れる。金銭感覚のない はな が桃から花を一本 買おうと何十本相当のお金を渡したことで彼らに交流が生まれる。桃は はな の上等な格好や浮世離れした思考から 彼女が山の上の屋敷の住人だと推測する。

そんな会話中、桃が包んだ花束を川に落としてしまい流される。はな は花を大事にする子だから躊躇なく川に入り、その はな を助けにビビも川に飛び込む。桃も川に入るのだが溺れてしまい、彼が目を覚ました時には桃は噂の洋館の中にいた。こうして桃は屋敷に入る。人間としては菖蒲に続いて2人目で、男性としては初である。

またも屋敷内の はな は無敵で、桃が男なのに花が好きだというコンプレックスを見事に払拭してくれる。こうして桃は自分の名前を恥ずかしいものではないと胸を張ることが出来た。当て馬の覚醒は近い。さすが三角関係が始まる『3巻』である。


にビビとの関係を聞かれた はな はビビを「兄」だと紹介する。はな にとっては これが最も不自然ではない間柄だという考えのもと、そう紹介したのだが、ビビは その関係性に不服。では どう紹介されたかったのか聞きたいところだ。

桃との出会いで はな は世界を広げるが、彼女の手の届かない世界への旅立ちにビビは怯える。

ビビと一緒に屋敷に入ったからか桃は結界を超えられるようになった。こうして はな と桃の交流は続く。
桃は花にとって初めての同年代の友人で、しかも同種であり異性である。そして彼は花に触っても それを枯らすことがない。太陽のもと一緒に笑い合う2人を見たビビは、その眩しさを嫌う。だから はな が桃から花冠を教わって、ビビにあげようとしても、それがすぐ枯れてしまうことを嫌がったビビは拒絶して、はな の心まで傷つけてしまう。

はな が落ち込み、ビビが自分の幼稚さに気づいてから、ビビは彼女を奪還するために動く。これは いつものパターンである。自分たちで隙を作って、自分たちで解決する自作自演は続いていく。桃に生まれている好きが可哀想である。

『3巻』では作者の成長を感じたが、主役の2人の成長は感じられない。