《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

早くも2巻でヒーローが黒歴史やトラウマ・欠点を曝け出し、彼は もう丸裸だよ☆

恋わずらいのエリー(2) (デザートコミックス)
藤もも(ふじもも)
恋わずらいのエリー(こいわずらいのエリー)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

地味で目立たない高校生活を送る女子高生の市村恵莉子(いちむら・えりこ)は、校内の人気者・近江章(おうみ・あきら)を妄想したつぶやきが彼にバレてしまう。でもオミくんはそんなエリーを「変態」とおもしろがってくれたうえに急接近! 2人きりでお祭りに出かけたけど、最終バスを逃してしまい…。変態地味女子×ウラオモテ男子のアブノーマルLOVE!

簡潔完結感想文

  • イケメンサンドイッチという三角関係かと思いきや、男同士の愛憎劇が開幕する。
  • 勝手に用意されたステージに上がるため、彼は階段を上り続けなければならない。
  • 少女漫画において男性のトラウマ克服は恋愛解禁の合図。頑張れよ、クソガキ!

いたいことを言うだけ言って逃亡する 男と女のWヒロイン、の 2巻。

本書の面白いところの一つに、読者の予想を裏切る展開があると思う。例えば『1巻』ではヒロイン・恵莉子(えりこ)に近づいてきた同級生の紗羅(さら)は近江(おうみ)を狙う狡猾な女性なのか…、という真相が見えない展開が面白かった。そして この『2巻』では第2の男が登場して「イケメンサンドイッチ(この言葉が秀逸)」の「具」となった恵莉子は2人の男に食べられちゃうの!?という、ハイハイ それね、と読者に先読みさせてからの話が意外な方向に展開していく。

ここで恵莉子の妄想が またも現実になったら余りにも夢物語で読者も冷めたかも。話の塩梅が上手い。

そうやって読者を自由自在に誘導していく手腕は、本当に これが作者初の長期連載なの!?と驚かされる部分である。話の作り方や全体的なペースが落ち着いていて、作者は冷静だなぁと思う。ネタに困って ありきたりな展開でお茶を濁している様子もないし、作画が乱れたりもしない。全てが作者のコントロール下にある感じが心地いい。頭の良さや容量の大きさを感じる。

また、更に大きなところで言えば、少女漫画では最終盤に配置されるヒーローのトラウマを この時点で持ってきている、というのが意外な構成である。もしかしたら これは いつ終わるか分からない新人作家の連載だから、後悔のないように近江の問題を先に描いてしまおうという現実的な問題もあったかもしれない。『2巻』の内容は全体を俯瞰してみると もしかしたら一番 暗くて重い話なのだが、先に この話をやったことで、この後がラブコメに徹底できているのではないか。もし最終盤に この話を読んだら、今更ヒーローにトラウマを後付けしなくても、と思っただろう。お弁当を嫌いな物から食べる、ではないけど、この後は楽しい未来が待っている。

そして この展開は少女漫画の お作法的に理に適っていると思う。ヒーローのトラウマ解消は恋愛解禁の合図、というのが私の持論で、ここで近江がトラウマや心残りを解決することで、彼は恵莉子への愛をストレートに表現できる道が拓けた。まだまだ近江は「クソガキ」で、連載延長が決まってからは恵莉子がなぜか鈍感設定になっている気がするので先は長いかもしれないが、この話を先にやる意味は大いに感じた。

近江は格好悪いところを見せることで、更に格好良く見える不思議な人である。横暴なところも照れちゃうところも全部を好きになれる。段々と恵莉子の方が肝が据わっていて、近江の方が振り回されていく、という関係性の変化もニヤニヤと眺めていられる。悩んだり怒ったり落ち込んだり、感情の振り幅が大きいから近江は男ヒロインのようにも見えるし。恵莉子と同じぐらい赤面しているのも個人的には とても好き。赤面男子、通称「赤メン」の他のメンバーについては、赤メンでブログ内検索して頂きたい。

少し残念なのは近江にとって大事な人間である青葉(あおば)が この後に ほとんど登場しない点である。近江が青葉と復縁して、彼だけは近江の恋愛相談に乗ってあげられるとか、連絡を頻繁に取り合うとか、この2人の恋愛の観察者 兼 ツッコミ役として明るい青葉は使える気がするのだが、学校が違うためか これ以降の登場は ほぼない。2人の未成熟な恋愛を見守るのは近江の叔父・汐田(しおた)先生がいるからなのかなぁ…。


江と行った秋祭りで迷子になり、彼との合流に時間がかかったら家に帰る交通手段を失った恵莉子。そこで彼らは近くのラブホテルに向かい歩き出す。色々と好奇心旺盛な恵莉子は鼻息が荒くなり、父からの連絡を黙殺する。

だが近江がラブホテルに入ったのは そこで恵莉子の足の擦傷を手当てするためだった。それが終わると近江は教師で叔父の汐田先生を呼びつけ、帰る手段を確保する。見事に読者のモンモンとした読者の期待を瓦解させる少女漫画的な展開であった。気になるのは ここで近江が自分の親ではなく汐田先生を呼ぶ点。この時点では設定にないかもしれないが、汐田先生は既婚者で家庭がある。そんな人を自分の親よりも先に呼ぼうとするところに近江の家庭に問題があるのではと深読みしてしまう。この回で近江の両親は放任主義という言葉があるが、それは仕事が忙しいという意味で、だから車を呼べなかったと理解すればいいのかな。

帰りの車中、近江は黙ったままで恵莉子は自分の妄想と性的興味の強さを反省する。

しかし近江は恵莉子の自宅前で誠実に自分が前に出て恵莉子の父親に事情を説明しようとしてくれた。近江の顔面偏差値の高さを見て父親は動揺し、娘が不良になったと大騒ぎして話を聞いてもらえないけど。恵莉子が勝手に暴走するのは父親の血筋みたいだ。ようやく頭を下げた近江だったが、恵莉子の母親と妹が出てきて近江に熱狂し、格好良い場面なのに格好がつかない。しかし近江の謝罪で彼の誠実さを知った恵莉子。迷子になった原因でもある連絡先を交換し、また2人の距離が近くなるのであった。


る日、近江がテニス部のヘルプで試合に出場することを知った恵莉子は、彼のテニス姿を見に行く。ジャージに続き、テニスウェアにも無限の可能性が見え隠れしているのが笑える。

その試合の相手が お祭りで会った近江の中学時代の同級生・青葉だった。そこに近江も現れ、恵莉子は「イケメンサンドイッチ」の具になる。もう この言葉だけで笑える。

青葉の登場を過剰に意識しているのは近江。青葉が恵莉子のことを「エリー」と呼ぶことさえ許さない。そういえば友人の紗羅は恵莉子のことを「えりつぃん」と呼ぶが、それによってエリー呼びが近江の専売特許になっているのか。今後の登場人物たちも恵莉子をエリーと呼ぶ人は いないのかな。

青葉は近江との試合の実現に意欲を見せるが、それに対し近江は八方美人モードで対応。それは青葉が見たことのない近江だった。どうやら近江は中学時代とはキャラが違うらしい。中学時代の近江は完璧でカリスマ性が高かった。今と違うのは態度が悪くて敵も多かったことらしい。毒舌で尊大な彼だったから、地味側の青葉は どうして自分が友達なのかと不思議に思っていたと話す。
そんな青葉も高校デビューをした人で、中学時代は地味で恵莉子側の人だった。そんな共通点も青葉が当て馬っぽいと思う設定である。


が近江は試合の相手が本当に青葉だと確定したら、体調不良で棄権してしまう。

青葉は それが近江の仮病だと断定する。彼からすると飽きた、めんどくさいと物事を放り投げてしまうのが近江という人らしい。ただ恵莉子には近江が そういう人は見えない。そこで意見が食い違い、青葉は恵莉子に近江が試合に出ない理由についての賭けを提案する。

それを確かめるために近江のを探す恵莉子。近江が保健室ではなく国語科準備室にいるのは、他の人を寄せ付けないためだろ。
しかし近江の体調に異変はなかった。助っ人で呼ばれたが それを投げ出す近江は他人なんて どーでもいい、と無責任な発言を繰り返す。

ここは恵莉子が失望する場面だが、やっぱり彼女の反応は独特で近江に「クソガキ!」と叱咤する。勝手に理想化した近江に対して自分が失望したから彼を責めるのではなく、嘘をつくことに怒った、という方向性は間違っていないが、言葉選びは間違えたかもしれない。


莉子が自分の行動に呆然としている間に試合は終了しており、恵莉子は青葉に近江の看病用に借りたアイスバッグを返却するため彼を探す。

近江が仮病だったため恵莉子は青葉との賭けに負ける。そして恵莉子は青葉の願いを聞き彼と一緒にスイーツ店に並ぶ。そこで青葉は女性にモテるためなら努力を惜しまない男という、一種の行き過ぎた人であることが判明する。自分の偏向を隠さない彼を恵莉子は羨ましく思う。恵莉子も紗羅も、そして青葉も自分の欲望に忠実に生きているから毎日が充実しているように見える。その健全さが本書の爽快感に繋がっている、のかもしれない。

そして青葉は恵莉子が近江のことで落ち込んでいると思い、元気づけるために誘ってくれたようだ。しかし恵莉子が近江を理解したいと言う悩みに対し、青葉は それは無理だと答える。彼にとって近江は「ステージ」が違う人。中学時代、青葉は一緒にいた近江に自分の劣等感が増幅され、爆発してしまった。そして近江は青葉の辛辣な言葉に対しても言い返さず離れていくだけだった。だから青葉は近江にとって自分は 取るに足らない存在だという思いを強くしてしまったようだ。今回のテニスでの不戦勝も、格下の青葉に勝ちを譲る、近江の上から目線の配慮だと青葉は感じていた。
そして青葉が恵莉子を気に掛けるのは、自分と同種の悩みを抱えていると思ったから。ステージの違う近江の近くにいるから疲弊する、と彼は分析していた。

だが恵莉子は その考えを否定する。青葉の語る近江像は恵莉子が見てきた近江とは違う。


日、恵莉子は近江への謝罪を決意するが学校内では近づけず、そのまま放課後になり、恵莉子は先に校門前で彼女を待っていた青葉と話すことになる。彼は昨日の発言を気に掛け、恵莉子に謝罪しに来てくれた。青葉もまた悪い人ではない。

2人が接近する場面を近江は目撃し不機嫌になる。その感情の推移に説明を求める恵莉子に対し、近江は俺だけを見ていろ(意訳)と言い、自分の発言の恥ずかしさに逃亡してしまう。そんな格好悪い近江の本音に恵莉子は興奮する。なぜなら それが彼の素顔だから。例え暴言であっても彼の本音が嬉しい。そして恵莉子にとって近江はステージが違う人ではない。それは『1巻』の感想文で描いたが、2人は自分の心を守るために違う手法を選んだだけで、性格の根幹が とても似ているから そう思うだろう。

メンタルがヒロインの近江は逃げ続けるが恵莉子は彼を捕獲する(近江の足が遅いのか…?)。
そこで観念した近江はようやく本音を話しだす。近江は青葉にヤキモチをやいた。なぜなら青葉は めちゃくちゃいい奴だから。近江が青葉から離れたのは自分が傷つけたと思っていたからで、試合を棄権したのも お互いに気まずいから。自分では仲が良かったつもりの人を傷つけた経験が、誰とでも距離を置く八方美人の近江を誕生させた、という自分のトラウマ・黒歴史を恵莉子に話す。


うして八方美人モードを手にした近江だったが、唯一の例外は恵莉子だった。近江は恵莉子への気持ちが募り、コントロール出来ない自分に戸惑う。

そんな時、恵莉子に留年危機が汐田先生より発表される。恵莉子が成績が悪いのは授業を聞いていないからだろう(笑)

嫌がる振りをしながら助けるツンデレ・近江。勉強回の始まりである。図書館で勉強を始めるが、2人きりではなく紗羅も含めた3人。これが後の展開の伏線になっている。

その図書館には青葉も勉強しており、近江は青葉と再会する。
恵莉子によって青葉は近江の素顔を見られることが出来た。こうして素顔を見せ合った2人の関係は修復していく。青葉は劣等感を募らせるのではなく、恵莉子に振り回される近江を楽しみ、自分が勝手に設けたステージの撤収に務める。『2巻』は青葉が恵莉子に横恋慕する話と見せかけて、友情の話、という意外な着地点が良い。青葉によって近江の過去が語られ、そして彼の存在が近江を未来に進ませていく。

そして恵莉子は近江のノートを見て、彼がコツコツ努力して成績を維持することを発見する。それは また恵莉子が見つけてくれた近江の素顔だった。小さい頃から役割を与えられて、それに合わせて努力してきたが、周囲がそれを正当に評価してくれることはなかった。テニス部を辞めたのも、飽きたのではなく周囲の自分への無理解を知って、周囲に期待することを近江が諦めたからだった。

外見ではなく内面に触れてくれる恵莉子を近江は好きになった。クソガキ!という悪口も本質を突いてるからOK。

中学時代の近江は今の八方美人モードではなく、自然に周囲の人が一定の距離を取るように やさぐれモードで対応していた。それでも青葉は裏表のない近江を認めてくれた。中学時代の近江が唯一、素でいられたのが青葉の前だけ。だが青葉側に失恋など様々な要因が重なって、近江と一緒にいる辛さが爆発してしまった。そして近江は素を見せていた自分が、離れてから初めて青葉の悩みや状況を見ていなかった未熟さに気づかされる。どちらかというと近江の方が依存していたのかもしれない。

そんな苦い経験があって高校では人との対応モードを八方美人に変更した。だが恵莉子との出会いで再び素顔を見せた。そして実にポジティブな恵莉子ならクソガキな自分の態度や性格も受け止めてくれると思えるようになったのだった。

しかしラストのカーテン技とか、その前の話のロッカーとかは少女漫画読者のために用意してくれた場面なのだろうか。私にとっては それがなくても充分 内容は面白いのにと余計なオプションのように思える。物理的な接触はなくても、心の距離の近さや特別性だけで満足できる。