《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

渡したタオルを使わないで腹チラさせてTシャツで顔を拭く性的挑発は むしろ ごほうび。

恋わずらいのエリー(3) (デザートコミックス)
藤もも(ふじもも)
恋わずらいのエリー(こいわずらいのエリー)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

地味で目立たない市村恵莉子は、爽やかなイケメン・近江章の素のクソガキな部分を知っていくうち、恋心も妄想も膨らみ中。そんななか、オミくんの中学時代の同級生・青葉くんの登場で素のオミくんに触れて、エリーは大興奮。しかも、一緒にテスト勉強をした帰り道に「続きはテストでいい点とったらね」と、これってご褒美の予告――!?

簡潔完結感想文

  • 身分違いの恋のように見えるが実は共通点の多い2人。恋愛経験値も同じ。
  • 両想いの翌日からSNSで画像が拡散。大切な人を守るための男たちの奮闘。
  • 一番 格差があるのはヒロインとモブの間。モブの願いは絶対に叶わない現実。

レたりバレなかったりする基準が曖昧な 3巻。

ヒーロー・近江(おうみ)が『2巻』で自分の黒歴史やトラウマと向き合ったことで彼は成長した。そしてヒーローのトラウマの解消は恋愛解禁の合図でもあるから、その直後の話で彼は想いを伝えている。

そんな交際編が始まった『3巻』だが、学校の人気者・近江との交際が自然と秘密になっていく話の持っていき方に感心した。両想い直後のデコちゅーが写真に撮られ、翌日から それがSNSに拡散されてしまう。近江の背中側から撮られた写真で、女子生徒の顔は分からない。そこで偶然、翌朝に近江と一緒に登校してきた紗羅(さら)が近江の彼女として扱われてしまう。そして紗羅が女子生徒に嫌がらせをされることで、近江は自分の「彼女」という立場にリスクが多いことを理解する。こうして近江はヒロイン・恵莉子(えりこ)との交際を、彼女を守るためにも秘匿するようになる。

恵莉子が集団生活の中で透明人間化している、というのが本書の根幹にある設定だから、作品的に交際をしたからといって恵莉子に注目が集まる展開を避けたかったのだろう。そこで近江の仮想彼女として紗羅が投入され、その反応で近江は周囲の反応を疑似体験させる。こうして目立たないまま学校の王子と交際するという目指すべき形に落ち着くように話が展開されていく。


の話の運びは悪くないし、そうする必要性も理解できる。でも再読してみると近江が身勝手だなぁ と思う部分も少なくない。

恵莉子の存在を作品内容的に周囲に暴露できないから、近江の態度が優柔不断に見える。そして恵莉子の身代わり状態となっている紗羅が自分のせいで迷惑を被っていることに対しての謝罪の言葉がないのも残念だ。ここで素直に紗羅に頭を下げることで紗羅が彼を恵莉子の彼氏として認め始める、みたいな展開があってもよかった。
また『3巻』のラストも すれ違いが解消して めでたしめでたし みたいな空気を出しているが、結局 2人が恋愛に のぼせているだけで問題が何も解決していないのが気になる。2人の交際の形について取り決めるとか、相互理解のために話し合う必要があるのに、不安にさせてごめんね、というレベルで問題を片付けているからモヤモヤした。

近江が完璧な彼氏ではなく、彼も恋愛初心者だからこそ甘酸っぱい雰囲気になる。そこは十分 楽しめたが、どうも近江がクソガキのまま、ちうか 以前よりもスペックが落ちているような気がする。特に近江は これまで八方美人スキルを身につけてきたのだから、恵莉子を含めた周囲に対する配慮や広い視野が もう少しあるべきなのではないか。それもこれも話の都合なんだろうけど。


めの交際は嬉しい誤算だが、交際はするけど公にしないという作品の姿勢は矛盾を生み続ける。

出会いの場所である国語科準備室は2人だけの聖域で、ここは守られるべき場所だろう。だが今回、近江も舞い上がって学校内の別の場所でイチャついていたから写真が拡散した。やはり学校内で安全な場所は少ない、ということになる。その割にラストは また公共の場でイチャついている。近江を探す女子生徒がいるという設定の中で、今回はバレない。国語科準備室でしか話も出来ないと閉塞感を生むだろうけど、都合よく近江の監視網がキツくなったり緩くなったりするのが気になる。
その騒動の前には2人は一緒に並んで歩き、電車に乗って、恵莉子の家に近江が入っている。これも近江の「彼女」騒動の最中であり、彼への注目は一層 集まっているのにである。交際直後の1回きりの放課後デートは貴重な体験が守られて良かった、と心から思うが、近江の関心度が作為的に変動している。

あと相変わらずモブとヒロインの格差がえげつなくて、むしろモブに同情してしまう。恵莉子の分身である読者が喜ぶ展開なのだが、作品側が恵莉子にだけ過剰にサービスをし過ぎて、むしろモブ側の私のような人間は読んでいて悲しくなってくる。オミくんと××したい、という切なる1人の女性の願いを、恵莉子が横取りしている感覚がなくもない。
ヒロインだけが正義、という嫌な君臨のさせ方ではないものの、恵莉子だけが得をする展開は辟易する。徐々に近江が八方美人モードをやめて、周囲の女性を諦めさせるとかいう展開が欲しいところ。そうでなくては、近江は期待させるだけさせておいて、裏で交際しているアイドル気取りになってしまう。

なんだか作品への注文がずらずら出てきてしまったので最後に好きなところを。以前も書いたが新キャラの登場のさせ方が好き。今回のレオ先輩など事前に少し顔を出して、その後に本格参戦という流れが良い。そして新キャラではあるが、昔から その世界にいると思えるように設定されているので後付け設定や後発という印象を受けない。連載中に連載の延長決定が繰り返されただろうに、その大変さを感じさせないシームレスな構造に感嘆する。


江との勉強会の お陰でテストが平均点を越えた恵莉子。恵莉子は 早速その「ごほうび」を頂こうと鼻息を荒くする。近江も恵莉子とキスをするのは やぶさかではないから、2人は緊張しながらも始まりの地である国語科準備室で顔を近づける。

だが外から聞こえてきた紗羅の声に我に返り、しかも紗羅はゴリゴリのヤンキーに絡まれているから その救出が最優先になる。恵莉子の機転によって紗羅は窮地を脱したが、水を差された形の近江は意気消沈して帰宅する。

この展開に恵莉子はガッカリした反面、緊張から解放され安堵する。だがキスの相性が悪くて別れたという話を小耳にはさみ、恵莉子はキスに興味より恐怖を覚える。
そんな恵莉子の感情を知った近江は、恵莉子の中でキスが目的化していることに苦言を呈す。ただし近江は もはやトラウマを克服した立派な人間なので、ここで自分の感情に流されない。ちゃんと恵莉子にも分かるように自分の苛立ちを説明する。自分は恵莉子が好きだからキスをしたい、と彼女に初めて素直な行為を伝える。彼にとってはテストの「ごほうび」は良い口実なのだ。

こうして恵莉子も(偏った)知識やリップに惑わされることを止め、近江を大好きという気持ちに従順になる。それを彼に伝えた先に、近江もキスが初めてであるというプレミアな告白が待っていた。
それに安堵と歓喜する恵莉子の表情を見て、近江は恵莉子に思わずデコちゅーをする。だが誰かに その場面を撮られてしまう…。

恵莉子はもちろん、近江が好意を口にしたり、キス未経験であることを発表したり、やっぱり素直になっているのが これまでとは違う点である。


想いである現実を前に それぞれ寝付けなかった2人。
だが翌朝 登校すると、SNSでデコちゅーの画像が拡散されており、その相手が紗羅だという噂が広まっていた。そして『2巻』の紗羅も含めた3人で勉強会を開いたことが噂を補強していく。しかも その朝、近江と紗羅が偶然 一緒に登校したことで周囲は一気に ざわめく。恵莉子は その噂が嘘であることを分かっているから誤解はしないが、両想い後のロマンティックな朝を壊されたことに落胆する。

紗羅と近江の噂は もはや真実として扱われ、紗羅は女子生徒たちからの嫌がらせを受け始める。それに動揺する恵莉子だったが、紗羅は同性に嫌われることに慣れており、そして その手の嫌がらせが長続きしない経験からタフに過ごす。
そんな女性2人の会話を聞いていたのが、2年生の先輩男性・高城 礼雄(たかぎ れお)。紗羅からレオと呼ばれる その人は彼女の幼なじみだった。レオは紗羅の噂が嘘であることに安堵の涙を流し、そして隠された紗羅の うわばきを「偶然」見つける。どうやらレオは紗羅のことが好きでたまらないらしい。だが紗羅はレオのことが世界で一番 嫌だと つれない態度を取る。しかし彼を思う紗羅の その顔は赤面している。

早々にメインの2人が交際し始めたので、新たな片想いを用意して物語内の恋愛を動かし続ける。

江に彼女が出来た、という噂が駆け巡る学校では球技大会が近づく。
女子生徒たちにとって、近江の彼女の存在は「みんなのオミくん」という共通認識を壊す大事件で、今後は個人が積極的に近江を狙う戦国時代に突入する。

そんな肉食女子たちに遅れを取り、頼まれごとを こなした恵莉子だけが近江に会えるという展開は、またもモブとヒロインの格差を感じる。球技大会の練習で怪我をした近江の手を治療しながら2人は朝から話せなかった互いの気持ちや、両想い後の面映ゆい感情を共有する。
ここでも素直な近江は可愛い。保健室で手を取り合っているところに、クラスメイトの男子が入って来るが、それを見ても男子生徒は何も思わない。それだけ恵莉子が近江の恋人として想像しない人間像だからだろう(容姿を含め)。

誰にも噂されない安心感と、彼女なのに惨めという複雑な感情が恵莉子に渦巻く。だが確かに近江は自分を選んでくれたという自信が、恵莉子を前向きにさせる。まだ恵莉子の視界に入っている近江にメールを送り、一緒に帰ることを提案する。了解の意思を示すため近江が立てた親指には恵莉子が巻いた絆創膏が見えるのだった…。地球上で一番 幸せなのに自分が(近江以外からは)女性として見られない悲しみを描いているが、過度にウジウジしないのが本書の良いところ。

こうして一緒に下校した恵莉子は近江に家まで送ってもらう。父親が不在なため母と妹に歓待され、近江は恵莉子の部屋に入る。その状況に恵莉子はムラムラと緊張するが、それは近江も同じ。女性側だけでなく男性側も初々しいから読んでいて楽しい。恵莉子に性欲や欲望があるように、近江にもそれがある、というのが本書のバランス感覚の素晴らしさである。


江は女子生徒との余計な接触を減らすため朝の通学が とても早い。そんな彼は紗羅のうわばきの安全を死守するレオと遭遇する。そこで近江は初めて紗羅が嫌がらせを受けていることを知る。そして近江は誤解の無いようレオに他に好きな人がいることを告げる。だが近江の大切な人への女性からの嫌がらせの可能性をレオに指摘され近江の顔は曇る。

その日から近江は恵莉子と一緒に帰らなくなる。前回の一緒の下校は近江も無警戒だったから実現したのだった。幸せいっぱいの『3巻』のはずだが、2人で気兼ねなく過ごせたのは この1日限りとなった。本当にアイドルとの交際のようだ。

ただし近江の配慮を知らない恵莉子は すれ違いに落ち込む。
そんな状況の中、球技大会が始まる。女子生徒の中では この日、近江にタオルを渡そうという動きが見える。だが今回もタオルを渡すチャンスに恵まれるのは我らがヒロイン。だが近江は そのタオルを使わない。大変ショックな場面ではあるが、Tシャツで顔を拭って、おへそ とか腹筋とか細い腰を露出するなんて、むしろ読者のごほうびですけどね! そこにキャーとなるから恵莉子の落ち込みなんて感じてられない。

近江は恵莉子を守るために すぐに距離を置こうとする。しかし恵莉子は離れていく彼のTシャツを掴む。また すぐに近江は距離を取ってしまうが彼女は落ち込むよりも、自分の中に湧いた独占欲に驚いていた。

普段の恵莉子なら興奮するところだが、今は彼の身体より心を求めているので反応せず。

羅は恵莉子の異変に勘づき、近江を呼び出して理由を探る。近江は紗羅のために彼女とも距離を取ろうとするが、それで紗羅は近江が何をしようとしているのか理解する。紗羅は近江の情けない姿勢に噛みつくが、近江は恵莉子の生活の全部を守れる自信はないから それは言えない。そして この考えに至った過程もキャラじゃないから言えない。素直になったと思ったけれど、まだまだ不器用な部分もあるようだ。

2人の交流を知る汐田(しおた)先生のアシストもあり、球技大会の自分の試合の前に近江の姿を見に行く恵莉子。そこで大勢の女性たちに注目される近江を見て、それでも気後れすることなく近江を独り占めしたいと思う。
試合中、近江が怪我をし、汐田から救急箱を渡されていた恵莉子は彼の手当てを任される。だが皆に注目されていることもあり、近江はまた恵莉子と距離を置こうとする。その言葉は独占欲でいっぱいになっていた恵莉子の心を傷つける。だから近江に自分の存在が近江を困らせているのか、と嫌味を言ってしまう。

そんな自分の勝手な行動に落ち込む恵莉子は自分の試合に臨む。その試合中、近江が駆けつけ、恵莉子に向けて口を動かす。彼は確かに自分のために走り、しかも一度は拒否した恵莉子のタオルを使っている。すれ違い、落ち込みからの回復は胸キュンを発生させる。しかも恵莉子は卓球のシングルス、という個人種目に出場していて、近江は自分の応援に駆け付けたという意味合いが強いのが良い。

試合後、恵莉子は近江のもとに走る。ライバルよりも早く彼を見つけたい。そんな願望が今の恵莉子の胸には湧き上がる。こうして巡り合った2人は、互いに自分の間違いを改める。間違いながら修正していくのが恋愛初心者同士のスタイルだろう。

でも なんかいい感じにまとめているが、近江が人気者なのは変わらない事実で、彼との交際の難しさが低減した訳ではない。これからも近江が恵莉子を守りきれないのも事実だろうし。普通の交際が出来ないのは可哀想だなぁ。