《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

竜神の呪いと出版社の制限で、恋人とその先に進めないなら、全てを終わらせてやるッ!!

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樋野 まつり(ひの まつり)
とらわれの身の上(とらわれのみのうえ)
第03巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

黒石恵は、先祖が受けた竜神の呪いにより、昂上鈴花と目が合うと「下僕発作」が起きてしまう体質。両想いの仲なのに主人と下僕の二人には、どんな運命が待ち受けているの…!? 「ヴァンパイア騎士」の樋野まつり、最初のヒットシリーズが愛蔵版で登場♪ 描き下ろしカバーをはじめ、カラーイラストたっぷりの永久保存版。全3巻。 2013年2月刊。

簡潔完結感想文

  • ほぼ1巻丸々中国冒険編。RPG風の要素を採り入れた作風に。呪いの村の話がいまいち。
  • 鈴花お嬢様の原動力は身体目的⁉ 自分から動いて、戦って、勝ち取りに行くのが鈴花。
  • 大団円。これで本当に恵は遺産を貰い損ねた。呪いは消えたが、玉の輿を狙う男が一人…。

と その下僕が竜神の呪いを解く冒険の旅に出るRPG風の 3巻。

『3巻』は ほぼ全て冒険譚ですね。
主従関係を強制する「竜神の呪い」を解くのも、
広義には恋愛のためではあるのですが、恋愛要素は少なめ。

意地の悪い見方をすれば、連載のネタとして、
恵(めぐみ)の両親の過去編、恵と鈴花(すずか)の先祖編も描いてしまったので、
行き詰まった現状を打破するために現代パートの話を
連載何回分にも亘って描くことにしたのかな、と勘ぐってしまう。

といっても今回も竜神の過去編と言えなくもないのですが…。

過去の遺産を掘り当てて食いつないでいるのは、
現在の権利関係で生計を立てている鈴花の昂上(こうがみ)家に似ていると言えなくもない。

過去編連発で便利なのは、新たな登場人物の創出が出来る点と、
そして彼らは ご先祖様たちなので、鈴花と瓜二つでも問題がないという点だろう。

これまた意地悪く言えば、同じ顔をした違う名前の人たちが何人出てきたことやら。
見事に省エネ設計ですね。

連載を続けることで作者や作品の短所も露呈してきたかな、という印象です。

絵は綺麗だけど、顔立ちが同じタイプのキャラが多い。
好きなタイプの顔以外も描けると良いかもしれない。

そして「下僕発作」も初回は面白いけど、再放送と見紛う同じ展開ばかり。
まぁ、これに関しては連載を念頭に置いてたら違う展開を見せていたでしょうが…。


書のメインは、呪いの本場・中国への冒険である。

その前に明らかになるのは、恵と鈴花、恋人同士である2人の仲は、
竜神の呪いによって制限されているという事実。

2人きりで夜を過ごそうとしたけれど、
一歩手前で恵が「下僕発作」を起こしてしまい、ことに至らず。

呪いによる実害が出たことが、2人を中国に誘うのであった…。


実は当夜、屋敷にいる もう一人の人物、メイドの留衣(るい)を部屋に閉じ込めた犯人は鈴花。
鈴花は覚悟を持って恵との関係を進めようとしたのだ。

これは少女漫画ではなかなか凄いことですね。
しかもヒーローに憧れる留衣の立場の人が罠を張り巡らして、という展開ではなく、
ヒロイン自身が覚悟を持って肉体関係を持とうとした。

何に関しても待ちの姿勢ではなく、
自分から動くことが多かった鈴花ですが、
まさか恵の両親が不在の時に、関係を一歩進めようとしていたとは。
斬新なヒロイン像です。

そして品のない言い方をすれば、鈴花の呪いを解こうとする原動力は、
恵の精神的な自由とかではなく、自分の性的欲求かもしれない…。


国に行って呪い情報を集めていた恵の父・嘉(よしみ)が、
昂上家の竜神の掛け軸は近くにあることを突き止める。

意外なところで、鷹司(たかつかさ)家の当主が購入。
当主が孫の比流(ひりゅう)坊っちゃんが所持。

比流坊っちゃんは本編最後の登場でしょうか。

恵の友人・相楽(さがら)や比流など面白いキャラが、
もっと動いて活躍してくれてたらなぁ、と残念に思わずにいられない。

恵と鈴花の関係に終始するだけでなく、
横の連帯で本書の世界の広がりを出して欲しかった。


にしても、この掛け軸は数百年経っても劣化しないな…、
と思っていたら、どうやら これは竜神のご加護みたいですね。

そして掛け軸の封を開けたことによって、竜神が降臨。
恵の身体に…。

竜神の言葉を頼りに、今度は鈴花と2人で中国へ(1回目は恵と相良組で失敗)。

にしても出発する鈴花は まるで恵の母・恵都(けいと)のように
積極的に愛情を示す大はしゃぎっぷりだ。
「私が無理矢理 恵を襲っちゃったりして…」という発言まで飛び出す。

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もしかしたら俺は母によく似た女性を好きになってしまったのかもしれない。父の姿は未来の俺⁉

うん、姫はやっぱり、己の欲望のために動いていらっしゃる…。


うして、ここからRPGロールプレイングゲーム)のような冒険譚が始まります。

様々な苦難が待ち受けていますが、基本的に一本道の展開。
特に謎解きをするわけでもなく、流されていったら正解だったという感じ。

道中で出会ったのは、恵とは違う種類の竜神の呪いに掛かった人たち。
彼らに出会ったことで、いよいよ流されるままに話は進む。

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中国で夜になると動物に変化する村人。これは、らんま何分の何でしょうか…(笑)?

ここはギャグにもシリアスにも振り切れてなくて、特に引っ掛かる箇所がない。

むしろ、時々格好をつける恵が滑稽に思えるぐらい。

それでいて人の騒動や事件に巻き込まれなきゃいけないから、
自力じゃ何も解決していないのに、矜持だけは一人前に持っているだけに見えてしまう。


前述した通り、冒険はRPG風で、
シナリオ的にはドラクエとかFFとか聖剣伝説とか、
その手の有名ゲームに似たような話がありそうな雰囲気だ。

そんな既視感の上に、漫画では自分ではキャラを動かせないから、
ただただ受動的に物語が推移していくのを見ているだけ。

解決に向けて動いているのか、動いていないのか進展度も分からないので、
呪いの村の内外で右往左往している場面が全く面白くない。

お話としては最後の場面だけあれば いいわけで、
数回分の連載を使って、クライマックスを演出できたかは微妙なところ。

恵のあの展開も、室町時代と同じ構造を採り入れたのは理解できるが、
鈴花を守るためではなく、背中を向けている最中に事が起こるのは、ちょっと間抜けな気がする。


この冒険に必要だったもの、
鈴花という存在、掛け軸、宝玉が、
全て恵たちの手の中に転がり込んできたことも欠点か。

どれか一つぐらい自分たちの力で探し出して欲しかったなぁ。

呪いの村の人の行動原理もいまいちよく分からないし。

ちゃんと読み返す、読み込む気力も起きないというのが正直なところです。
私は再読なのですが、どうりで前半の記憶しかない訳だ…、という印象の薄い内容です。


竜神としては掛け軸の形態で中国国内を渡り歩いて、あの村に行けば想いを果たせたのかな?
それとも、掛け軸の封印を解くために必要な昂上家の人間がいる必要があったのか?

折角、中国に渡ったのに鷹司家のせいで日本に帰ってきたのは不幸だったのかも。
まぁ、そのお陰で昂上家の末裔にすぐに発見されたけど。

でも、恵たち黒石(くろいし)家が中国で鈴花を見つけて日本に来させなければ、
中国国内で掛け軸の封印が解けていたのかもしれないのか。

もしかしたら恵たちは一番の遠回りをしたのかもしれませんね。


して物語は真のハッピーエンドへ。

ご都合主義もいいところだが、鈴花のためにはこれが最良の結末でしょう。

恵の一家、特に母・恵都を含めて、2家族6人での会話なども見たかったなぁ。

恵都は破格だが、結局、第1話から登場していた恵・鈴花・嘉の3人しかキャラが立っていないなぁ。
白泉社らしい、多人数の てんややんわ も読んでみたかったなぁ。
本来、騒がし過ぎるのは あんまり好きではないけど、キャラの使い捨てが激しいのも悲しい物だ。

そしてお屋敷が完全復活した後の彼らの生活の様子も見てみたかった。
主人が帰還して、屋敷で働く人数も増え、恵の部屋がどんどん狭くなったりしたのだろうか。


そういえば、当主の帰還で黒石家は完全に遺産を手に入れ損ねることが決定したのですね。

呪いが消えた恵は元に戻り、『1巻』で鈴花に会う前の状態に戻ったのだろうか。

その頃の彼は皮算用で遺産が手に入ることを望んでいたが、
元来の彼に戻ったのならば、本当のお嬢様となった鈴花がお金に見えてもおかしくない。

鈴花との恋愛に呪いはなくなったが、玉の輿が浮上する。
黒石の人間が、名実ともに昂上を乗っ取るチャンスである。

これは、どうやっても、恵と鈴花の間には
純粋な恋愛感情だけが存在することは出来ないというオチだろうか…⁉


にしても『3巻』の表紙の父・嘉(よしみ)ちゃん。
顔が小さすぎて怖い。
中年の小顔ってなんだかブキミ。