青木 琴美(あおき ことみ)
僕は妹に恋をする(ぼくはいもうとにこいをする)
第04巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
頼と離れてしまった郁に、頼の親友・矢野が大接近!矢野は頼に会いに行き、郁を好きになったことを告白する。そして、「頼から」とウソをつき、郁に犬ヨリに似たストラップをプレゼント。郁への気持ちを募らせた矢野は、思わず郁にキスマークを…!?
簡潔完結感想文
- 誕生日、お互いの会いたい気持ちが募って行き違い。頼は豊富な資金力をもって東奔西走。
- 新学期。それぞれの学校に転入・編入してきた者は物語に何をもたらすのか。作為的配置。
- 宣戦布告。親友の妹を守るはずのナイトが、ミイラ取りがミイラになって親友の前に現れた。
ずっと矢野(やの)くんのターン の4巻。
『4巻』で一番登場シーンが多いのは矢野くんでしょうね。
双子の兄妹・頼(より)と郁(いく)、2人の共通の友達として、
離れて暮らす兄妹の間を行き来して、それぞれの秘匿情報を伝えるダブルスパイ。
しかしその真実の姿は、一人のただの男。
スパイとして郁に近づいていたはずが、いつの間にかに郁を好きになってしまった。
そうして頼に反旗を翻して宣戦布告をするまでが『4巻』です。
郁の傍にずっと矢野がいるように、頼の学校には かつての同級生・友華(ともか)が現れた。
何かしらのお店を経営している友華のパパに、頼の学校のある関東への支店の出店を唆(そそのか)して、引っ越してきたらしい。
なんと編入試験では頼だけしか採らなかった超難関校に無試験で転入してきたという友華。
なんという作為的な展開でしょう…。
この友華、『4巻』は矢野のターンだと場の空気を読んだのか今回は再登場の挨拶だけで おとなしめ。
そして もう一人、こちらは初登場の森 杏沙(もり あずさ)。
郁と矢野の通う学校に編入してきた女性。
顔のパーツが郁と同じもので出来ている人です。
本書の内容をテーマにするなら、最低限の描き分けが出来てて欲しいですね。話がブレる。
そして羅川真里茂さんの漫画の登場人物で、こんな人がいたような気がする。
兄妹間という禁断の関係さえなければ今巻は普通の高校生カップルの遠距離恋愛模様として読める。
一定層の読者の人気を獲得した自信からか性描写もないので、普遍的な恋愛っぽさが より前面に出ている。
郁の過剰な幼さを除けば、一秒でも長く好きな人と一緒にいたい切実な気持ちや、
好きな人が毎日 動く原動力になっていることが伝わってくる。
それぞれに誕生日プレゼントを用意して恋人のいる街に向かったために、行き違いになってしまった。
2人ともが相手を想う気持ちが強すぎたという良いエピソードですね。
ただ新幹線を使った頼が、ページにすると たった2ページで寮と実家を移動してしまっていて、
2人を隔てる時間や距離感が出ていないことが残念だ。
妹・郁と一緒にいると判明した矢野が手を出さないかと焦燥に駆られる帰路は、
ちゃんと長い移動時間の3時間だったことが分かるのだが。
そして、移動に新幹線と在来線を使う、この手段や速度の違いが2人のアプローチの違いとも言えるのか。
もちろん資金力の差もあるけれど。
脇目も振らず一目散に郁だけを見ている頼と、自分なりの速度ゆっくり着実に進む郁。
郁が時間をかけて終着駅にたどり着いた時、
彼女の胸にも、頼が一足早く予感した罪悪感や絶望が去来するのだろうか。
新幹線の往復代と指輪、果たして頼は一日で幾ら使ったのだろうかと考え、
頼の財布は、打ち出の小槌のように資金が無限なのかと思っていたら、現実的なアルバイトに奮闘する2人の姿がありました。
汗をかきたくない頼も、汗をかいて自分で稼いだお金を手にする、
この自分たちの恋を自分たちで切り拓く姿勢は清く正しく見えます。
高校生になった利点としてアルバイトという選択肢が増えたことが、
親元にいなければならなかったなど禁止事項の多かった中学生との違いを鮮明にしている。
禁断の関係が露見して家庭を壊さないよう破滅フラグを回避して、一人 寮に入ること、
そうして世間の目を気にせず自由な恋愛を手にすること。
それを実現するために必要な資金は自分の手で稼ぎ出すこと、少しだけ大人になった頼が見える。
ただ繰り返しになりますが、ホント、これが普通の高校生の恋愛モノなら良かったのに。
そんなの頼と郁が誰よりも痛切に思ってることでしょうが…。
頼はガソリンスタンドで働き、
郁は何度かの失敗を経てファミレスでのバイトが継続中。
ようやく仕事にも慣れ、初給料が手に入る直前に事件が起きる。
作者の中で描き分けの2つ目の引き出しは、こんな感じなんですかね。極端すぎる。
この郁のアルバイト奮闘日記は、犬ヨリ目線から語られる 。
郁自身が語るよりも自己愛やヒロイン感が中和されて読みやすい。
そして間接的に第三者の目線から見ることで、郁の寂しさや苦悩が増幅して伝わってくる。
ただ、「そういって やのくんは いくちゃんを だきしめた」
犬ヨリが知らないことまで語られるのが気になります。
地の文で嘘をついてはいけません。
そうした2人のそれぞれの奮闘を見てきたのが今巻の主役・矢野くんである。
矢野くんが郁に惹かれるのは、ハッキリ言って郁がよりに惹かれるのよりかは自然に映る。
頼の方はまだ郁が好きで仕方がないということが伝わるが、郁からの感情は ただ流されるがままという印象が拭えない。
だから郁の奮闘や不器用さを見てきた矢野くんが、郁に好意を持つのは過程を知っているだけに共感できる。
多分、矢野支持派・応援派というのは一定数以上いるはずだ。
その理由は様々だろう。
私のように彼の心の動きに共感した人も多いだろう。
そう思えるよう作者がしっかりと描いた証拠でもあり、
頼と郁の恋愛関係の描写不足でもあると思う。
そして矢野が活躍すれば、
本書最大の特徴であり嫌悪感の源である近親相姦から物語を救えると思う人もいるはず。
ただきっと、頼が一度 別の女性・友華と接近して結局、郁でなければ駄目だったように、
郁にとっても頼以外の男性、端的に言えば矢野は当て馬でしょうね。
ホテルで一人、ブランデーグラスにジュース(に違いない)を注いで、タバコをふかしているような高校1年生が、今後、どんな素直さを見せるのか気になるんデスよ。
以前も書きましたが、矢野の敬語はオタクっぽいですよね。
実は矢野の素顔って、↑ のファミレスでの男みたいに典型的なキモオタだったりして…。
しかし、全体的にキャラのデフォルメが目に余りますね。
作品がコミカルになったり、描くのが楽だったりするでしょうが、
本来、インモラルな物語が軽々しくなってしまう悪影響の方が大きいと感じる。
特に作者は郁かわいさで、多用しているようだが、
幼稚性が増して、彼女の切実な想いが帳消しにされる気がする。