白石 ユキ(しらいし ユキ)
あのコの、トリコ。
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
頼&雫がハネムーンへ!波瀾万丈の完結巻。「オレと結婚してくれてありがとう雫」。ヒミツの結婚式から早半年。NYで俳優として活躍する頼(より)のもとへ、雫(しずく)がやってくる!遅めのハネムーンとしてNYを満喫する雫と頼だったけど、路地裏で銃口をつきつけられて―!?大ピンチ! 昴(すばる)の新たな恋のお話も…?波瀾万丈の完結巻!本誌&増刊で大好評「ザンネンな佐々木さん」も収録!
簡潔完結感想文
- アメリカ新婚旅行で、久々にメガネの頼が変身ヒーローとして立ち上がる。
- 連載の都合上、期間限定の当て馬だった昴は成仏できずに芸能界を彷徨う。
- 手フェチの彼女とのキスもしない清く淫靡な交際模様。相手も目覚めちゃう!?
どんなトラブルが起きても欲求不満は必ず解消する性欲強めの 最終6巻。
実写映画化が発表された際に相乗効果を見込んで発売された『5巻』に続き、映画の公開に合わせて発売されたのが この『6巻』。『5巻』と同じく番外編集となっており、読まなくても大丈夫。『6巻』が今のところの完結巻だが、もし再びメディアミックスする機会に恵まれたら続きが描かれそうな予感がする。
映画公開と話を合わせたのか、内容は主人公・頼(より)が ちょっと変わった映画との関わり方をする、というもの。しかし『あのコの、トリコ。』としての最終話は幼なじみの昴(すばる)がメインの話で、これで完結という印象が薄い。やっぱり性行為や結婚を描き終わっているから到達感がない。改めてキャリアを重ねた幼なじみ3人でトリプル主演の映画に挑む という話で良かったんではないか。
頼の話は17歳での渡米以降、遠距離恋愛が続いて、雫と たまにしか会えず、その貴重な機会を仕事や事件が巻き起こり奪われるという『5巻』と ほぼ同じ展開を見せるのも良くなかった。オチもトラブルに ぐったりした2人だが、久々の再会で その夜は燃え上がったという重複がある。
面白かったのは頼と雫が巻き込まれた事件の真相。まさか前後半の2話構成の前半に伏線があったとは思わなかった。そして狂気を感じたのは その際の頼の行動。銃大国アメリカで銃で脅された頼たち夫婦なのだが、いつもの通り 雫のために頼は変身ヒーローとなって彼女を危険から守る。そうして暴漢から銃を奪ったのだが、彼は その引き金を引いた。作中の描写だと人に当たるような弾道ではなかったようだが、自分の行動の結果、たとえ人が死んだとしても頼は後悔しないだろう。怪我一つなくても雫に震える恐怖を味わわせた輩は万死に値すると本気で思っているだろう。
本編から繰り返し頼は雫に男性が触ることすら邪魔していたが、この溺愛を超えた狂気は果たして女性として嬉しいのか疑問に思う。頼と一緒にいる時の雫は段々と息苦しさを覚えるような気がする。そして2人の間に生まれた子供は娘だったが(『5巻』)、息子だった場合、頼は本気でライバル心を燃やしそうで怖い。
その割に子供だったとはいえ雫の前から黙っていなくなるし、戻ってきても雫に会わないままでいようとした。役者の世界に入るつもりはなかったが、一瞬で雫のキャリアを超える活躍を見せる。よくよく考えると、自分勝手な言い分をしているのが頼で、そのことを無視する頼も作品も あんまり好きになれない。ヒーローとして役者として頼を輝かせてはいるけれど、私には魅力的に映らなかった。
頼が作品内で格好つけていれば それなりに見えるように、本書が映画化したのは俳優をアイドルのように売り出すには打ってつけの場面が多かったからではないか、と思ってしまう。
「あのコの、トリコ。 第1話」…
結婚式から半年、新婚旅行も兼ねて雫がアメリカの頼を訪ねる。ブロードウェイで お芝居を堪能した2人は その後、小劇場に入る。その お芝居は観客参加型の舞台で、雫が指名されて舞台に上がる。だが雫が舞台上でセクハラをされていると判明すると、頼は変身ヒーローとして悪を成敗する。まぁ いつものパターンである。
しかし その帰り道、2人は銃を向けられてしまい…。
「あのコの、トリコ。 第2話」…
銃を向けられた2人は とある建物の一室に監禁されてしまう。何とか脱出の手立てを考える頼だったが、スマホを触っているのに気づかれ暴力を振るわれる。そして雫が性暴力を受けかねない事態となって、いよいよ頼のヒーロー属性が覚醒する。頼は役作りでアメリカでも体術の訓練を受けていて、こういう事態への対処法、そして身を守る力を身につけていた。そして雫に恐怖を与えた罰として頼は相手に発砲する…。
だが それはクレイジーな映画監督のオーディションだった。1話のオーディション話は頼のアメリカでの活躍を表すだけではなく伏線だったようだ。頼の実力を認めた監督が現れるが、頼は雫を震えるほど怖がらせた今回の件を許さない。そんな頼のメンタルの強さも監督は気に入り、頼は有名監督の作品のオファーを受けることになる。
頼はハネムーンの予定を壊され ご立腹だが、頼のアメリカ行きに背中を押した雫は彼の活躍は自分のことのように嬉しい。役のためなら何でもOKというスタンスなのか。不倫ドラマや濡れ場も雫は許可するだろうが、逆は どうだろう。頼は雫のキャリアや仕事内容に いちいち口を出しそうである。
それにしても時系列的には、この有名監督との仕事の後で、頼は『5巻』の朝ドラ出演になるのか。やっぱり格落ち感があるなぁ。
「あのコの、トリコ。 最終話」…
本編では完全に忘れ去られた昴のメイン回。20代半ばの昴は国内の人気ランキングを総ナメする存在になっていた。だが その反面、彼女いない歴を更新し続けている。昴は連載の形態の不規則さもあって当て馬として大して活躍させてもらえなかったのに、まだ雫への気持ちを引きずっているらしい。頼と雫は遠距離結婚状態だからワンチャンあると、かつて共演した女優・山田 華(やまだ はな)に囁かれるが、昴は それをしない。ってか どうして華が そんな昴のトップシークレットの情報を知っているのだろうか。そこは謎。でも『5巻』の高校の創立祭で昴は頼にキスをし、そこに動揺していなかったから、彼女こそいたことがないが、適度に遊んでいるのだろうか。華も再登場するが結局、海外で活躍するという伶(れい)は再登場しなかった。頼をトップスターにするために伶は出禁なのかな。
昴は雫とのCM撮影に臨むが、その現場でスタッフのミスから雫がピンチとなる。それを昴は優しくフォローする。撮影で身体を密着させても情動に身を任せないのは昴の良いところだが、だからこそ決定的な破滅もなく、ズルズルと雫への気持ちを引きずってしまっている。そんな彼を救うのは もう一人の不器用な恋に悩んでいる女性だった。なんだか簡単に恋に落ちすぎるような気もするが、昴の長年の気持ちを成仏させるためにも、次の恋が必要なのだろう。しかし なんで20代半ばの時代の話にしたのだろう。頼がアメリカに行った直後に昴を成仏させてあげても よかったのではないか。
「ザンネンな佐々木さん 第1話」…
清楚で評判の佐々木 雨美(ささき うみ)には聖人のような彼氏・佐々木 一花(ささき いちか)がいるが、彼女は好みの手に触れられると発情してしまう病的な「手フェチ」という秘密があった。雨美は一花の手に魅了された直後、幸運にも彼から すぐに告白されたのだが、自分の「病」を言えない雨美は彼に嫌われたくないから発情する自分を抑え続けなければならなかった。
もはや男性向け成人漫画のような設定と悦楽の表情である。
雨美にとっては どうにか一花に嫌われないことが最優先の交際となり、その上 欲求不満は溜まるばかりで疲労困憊する。だがデートの終盤で油断した雨美は喫茶店でクリームがついた一花の指を舐めてしまった。この時の絵のインパクト凄いなぁ。汚れた人間から見ると完全に狙ってませんか?という描写である。
自分の失態に逃亡する雨美。だが一花に追いつかれ、そして手を握られたことで脱力して捕まる。そこで ついに真実を白状する雨美だったが、賢い一花は交際前から雨美の手への執着心に勘づいていたという。その上で一花は この日一日、雨美の欲求不満を募らせ彼女が我慢できなくなるよう仕向けていた。こっちの佐々木さんも色々とヤバい。
こうして触られれば少しのことで発情してしまう雨美と、そんな雨美の様子に一花が発情するという連鎖が起きる。ただし この作品では2人はキスをしない。通常の漫画ならばキスが一番の身体的接触と最高の幸福ということになるが、本書はキスせずに幸せとエクスタシーを描写する。通常の恋人たちがする行為などフェチの前では無力なのだ。
「ザンネンな佐々木さん 第2話」…
普通の恋人みたいに手を繋げるようになるまで雨美のリハビリ・社会復帰を目指すのが一花の方針。だが それは雨美に一花の前で醜態を晒すことを意味して苦痛の種となっていた。だから嫌じゃないけど一花を避けてしまう今の状態は2人の危機となりかねない。
バレンタインデーに改めて好きと伝えるはずの雨美だったが当日 風邪を引く。一花は見舞いに来てくれるが、寝込んでいる小汚い姿を見せたくない雨美は布団に隠れる。その後も一花の手を意識し過ぎて失敗を重ねる雨美。
手フェチが原因で自分の本性が丸出しになり、好きな人の前で かわいくいられないことに雨美は号泣する。でも一花の方は そんな雨美のことを かわいく思うたびに触りたくなる。そんな彼の心情を改めて知り、雨美は彼の彼女として頑張ることを誓う。これからも やや意地悪な一花の言動に振り回されながらも、2人は関係を深めていくだろう。