杉山 美和子（すぎやま みわこ）
花にけだもの（はなにけだもの）
第04巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★（4点）
壊れちゃいそうなくらい幸せ
好きになった人は学校一のプレーボーイ。そんな豹のことをどうしても思うことがやめられなくて、「苦しくても、切なくても、豹くんに好きだと伝えたい」とまっすぐに、豹にぶつかったキューちゃん。
キューちゃんの告白に豹の返事は…！？
思いが届くって奇跡。「大好き」って思える人に出会えるってすごいこと！
そんな胸がぎゅっとなる瞬間をたくさん閉じ込めた4巻です！
簡潔完結感想文
- 祝・両想い。恋する豹は けだもの ではなく もはや乙女にか見えない。
- 勉強回はお泊り回。交際の楽しさと苦しさを早くも味わう2人。駆け足。
- 修学旅行出発前の空港で明かされる衝撃の事実。早くも涙の予感…。
訳ありな過去を匂わせるだけ匂わせる 4巻。
作者の頭の中に登場人物たちの過去だけはしっかり構築されている。
ただ、それが現在に上手く活用されるかというと疑問が残る。
たとえば主人公の久実（くみ）の複雑な過去と、それ故にクラスメイトと距離を取る姿勢。
『1巻』1話で使われた この設定はいつの間にか無くなっている。
久実が簡単に心を許したクラスメイト・カンナも同じ。
私と一緒にいるとイジメられると自分で警告する割に、久実の身に危険はない。
ただし カンナの過去はまだ詳細に語られてないので、今度こそ意味のある設定にしてほしいところ。
ヒーローの豹（ひょう）も複雑な家庭事情を匂わせるものの、特に描写はない。
三角関係になりかけた千隼（ちはや）も元カノを写真で登場させたが、特に意味はない。
登場人物にある複雑な過去は、彼らを際立たせるコントラストとして影の部分が欲しいだけで、
それが物語に深く影響したりしない。
久実の過去なんて相当な悲しみの中にあるのに、
東京に出てきた途端、彼女は穏やかな毎日を送って、遊びまわっている。
現在は「おばさん」の家で育ててもらっているらしいが、
簡単に外泊はするし、ショッピングも お金持ちのお嬢さんと同じ店を利用している。
ヒロイン像に立体感がなく、ヒーローはそんな彼女を狂信するだけ。
豹が自分の表層しか見てくれないと嘆いていたが、
この作品は表層しかないから、奥深さを楽しめない。
両想いになっても物語は続く。
ただし連載継続で物語を無駄に伸ばしている訳ではなく、この先の修学旅行回までは作者の当初の構想の範囲内。
努力するところを間違っているんじゃないかというほど巧妙に仕組まれた もう一つの「すれ違い」が明らかになります。
さて、本編は久実と豹の1巻分のすれ違いが解消される。
待ち合わせもしていないのに、学校内の豹の隠れ家で出会えた2人。
運命性の演出らしい。
ただし、お互いの共通項は学校ぐらいしかないんだけど…。
そうして出会えた2人だが、精神的な緊張が身体にも影響したのか久実は声が出ない（またかよ…）。
押し黙る久実に代わって、豹がこれまでの経緯や自分の背景を説明する。
年の近い兄がいて、ずっと入院していること。
文化祭の日も、容態が急に変わって病院に行ってたこと。
このたった2行を言えないから『3巻』の すれ違いが生まれた。
そして改めて久実と同じ気持ちの「好き」で告白をする豹。
嫌われても、ほかの誰かを好きでも、気持ちを伝えずにはいられない。
これは『2巻』で千隼の前から逃げ回っていた時とは違う勇気を持っているという意味でしょう。
久実が声を出せないのは、豹に喋らせ彼の方から告白させる意図の演出なんだろうけど、どうなんだろう。
最後に久実が自分から行動して物事を打開したのはいつだろう、というほど、相手に何かをしてもらうのがデフォルトになっている。
そして豹に告白させてから、千隼との偽装交際の事実を久実に喋らせる。
後出しの久実は、豹との両想いが確定してから、千隼の記憶を捨てたようにも思えてしまう。
言葉が足りなくて すれ違ったのに、この経験から学ばず、同じ過ちを繰り返すのが久実という愛されヒロインである。
晴れて両想いの学校生活が始まる。
が、恋愛経験値のない久実は、豹との適切な距離を測れずにいた。
両想い初の学校イベントは修学旅行。
1年生なのに修学旅行。
まぁ 学校によるでしょうけど、ちょっと不自然。
修学旅行という非日常で、悲劇性（！）を高めたかったのか。
と、その前に勉強回。
平均70点以下の者は修学旅行には参加不可というお達しが出たため、久実は勉強に集中する。
そんな久実に豹は自宅で一緒に勉強することを提案。
こうして交際した後、その夜に久実を家に送り届け、翌日は豹の家に久実が訪問することで、互いの家を知ることになる。
個人情報やプライベートを交際後に少しずつ知ることを、交際の感触としているのだろうか。
豹の自宅は普通のアパートで一人暮らし。
交際した翌日に一緒の部屋で勉強しても効率が悪いのは当然。
豹も後ろから久実を腿で挟むように座り、久実は恥ずかしさの余り帰宅してしまう。
純粋な交際の仕方が分からない2人だから、交際3日目で早くもギクシャクする始末。
久実がまたも豹に自分の正直な気持ちや悩みを言わないから、
彼を避けるだけ避けて、自分が他の友達に囲まれて勉強する様子を豹に見せてしまった。
それで豹は深く傷ついたと思ったが、
豹は久実が勉強中の たった数時間で久実に送る何冊もの勉強ノートを完成させ、久実を応援する。
これも これまでとは違う豹の強さと誠実さの証だろうか。
ここで久実は自分で選んだ学校生徒のベストメンバーに囲まれる。
恋人も友達も簡単にできる愛されヒロインが、リア充生活を送っているだけ。
ノートを発見した久実は、一番大事なのは、豹との関係を改善すること、と彼に会いに行く。
急に降り出した雨にノートを濡らしながら、豹の家へと走る。
何が何でもノートは死守しろよ、と思わざるを得ない。
そうして謝罪する久実に対し「オレがキューちゃん（久実）を嫌いになるわけない 絶対」と言葉を掛ける豹。
こういう甘いこと言われても豹に説得力がないのが、本書の最も残念なところ。
そして「今夜 オレのそばにいて 修学旅行まで もう待てない」と結局、2日連続 家に上がらせることになる。
うーん、そんな時間が惜しいから勉強しろ、と言いたくなる。
彼らは刹那的な関係を結んでいるようにしか思えない。
交際3日目で無理を言っているのは承知だが、もっと長期的な視点で物事を見て欲しいし、
本当に豹が久実を想っている証拠を見せて欲しい。
心配するおばさんに、お友達のところに泊まります、と自分から申告する久実。
このように久実も久実で、軽はずみな行動ばかりで好きになれない。
結果的に勉強をして、健全にお泊りになったけれど、最初のキスのように何をされても受け入れただろう。
この後に予定されている修学旅行って、1日中好きな人の姿を見られる楽しみがあるのに、
その前に、一夜を一緒に過ごして、眠る前も起きた時も、好きな人がそばにいる喜びを味わってしまった。
もしかして波乱の修学旅行だから、その前に同じ喜びを用意したのかもしれないが、
恋愛で一歩一歩関係が近づくような甘酸っぱさはない。
ただただ主人公に都合よく甘いだけ。
テストをクリアして修学旅行を前に、カンナと準備をする久実。
この買い物でカンナの元カレの話が出てくる。
徐々に近づく関係よりも、引き離す話ばかりに力を入れている印象を受ける。
そして出発。
修学旅行にも男子3人は全員、スクールバッグにクマをつけている異様な光景が広がる。
豹以外の2人は自宅に置いておけばいいのでは…？
しかし何と、出発直前の空港にて。
学校の風紀と名誉を守るため、豹に修学旅行禁止を言い渡される。
だが、豹は それに食い下がって教師とずっと一緒にいることを条件に、参加を許可された。
わー、波乱。
監視の目が合って、自由時間がない中で会うなんて、芸能人との恋みたい。
わー、ドキドキするー。
「人に拘束されるのが大嫌いな」豹が、久実と一緒に過ごすために どうしても修学旅行に行きたいなんて～。
でも既に家で一夜を過ごしてるから目新しさが半減する。
千隼は、そんな豹の態度を見て、久実との偽装交際の完全終了を宣言する。
やはり交換していたらしいスクールリングを久実に返却する。
でもこれで久実が流されるままスクールリング＝愛の証を、他の誰かと交換したことが事実となりました。
これは大変 残念なことです。
誰一人、久実のクマを否定しないように、スクールリングも神聖さを失わないで欲しかったなぁ。
久実が最優先といって、教師の目を盗み彼女に会いにくる豹。
だが出発前にそんな行動しても、修学旅行に行けなくなる可能性が高くなるだけ。
それに久実は今、別に困ってないし、豹に会いたくてたまらない訳でもない。
ここも刹那的な行動にしか見えない。
そんな豹は出発前に、ケータイを購入（どんだけ出発前に時間があったのか…）。
久実以外には連絡をしないという彼の覚悟の表れだろう。
まぁ、極端というか、やはり狂気すら感じる。
これで2人はいつでも連絡を取れる。
すれ違うこともない。
これまでとは違う確かな愛のカタチなのだろう。
そんな空港で、豹は中学の同級生に出会う。
うん？ ということは この学校は中高一貫校じゃなくて、高校はそれぞれが志望して受験したってこと？
その割には、1年生の豹が文化祭に参加しないことは有名な話になってたけど。
意味が分からん。
いや、分かっていたはずだ。
この漫画は どこまでも表層的で、その奥には何もないということを。
