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少女漫画と小説の感想ブログです

素直じゃない性格の男性キャラが「変なヤツ」と認める女性は、おそらく運命の人。

ビーナスは片想い 8 (花とゆめコミックス)
なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ビーナスは片想い(ビーナスはかたおもい)
第08巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

英知の弟・知巳に頼まれて、ヘアコンテストのモデルを引き受けた紗菜。知巳は見事特別賞に!そんなある日、英知のママに自宅に招待された紗菜は…!? 一方由樹にも新たな出会いの予感が…!? 深見&穂花編にも注目だよ!!

簡潔完結感想文

  • 勉強している様子のない大学生よりも、専門学生の方が漫画のネタが豊富。
  • ようやく交際したから2年半以上を経て英知の親が初登場。そして ご挨拶に。
  • 近々予想される由樹の失恋の慰め役が先に登場。変なヤツは 好きってことさ。

際によって同じことのループから抜け出した 8巻。

気の置けない友達から始まった恋愛なので、紗菜(すずな)と英知(えいち)は めでたくカップルになったからと言って急に女と男になる訳もなく、仲良く毎日を過ごしている。彼氏が出来たからと言って紗菜が英知に遠慮して、他の男性と距離を置いたりせず、由樹(ゆき)を筆頭に紗菜に好意を持つ男性は絶えず、ヘラヘラしながら本書で最強のモテ女性の地位を確保している。

交際の前後で大きく変わった点はないが、交際をしたから拓かれる道もある。
1つが紗菜の英知の両親との対面。息子が1人暮らしを始めて2年半、1度も顔を見せなかった英知の母親が急に顔を出すのは、紗菜が英知の「彼女」として家族に関われるようになったからだろう。英知の家族にも温かく迎えられ、将来の結婚も約束されたも同然である。ただし後述することになるが、英知の亡くなった姉・静は、紗菜を英知の魚住(うおずみ)家における唯一の女性にするためなのかとか、紗菜が静に挨拶をしなかったとか、静は紗菜の善性を演出するために存在するのかとか、静の死に対する疑問が再び顔を出す。なぜ静を死なせたのか、という意味が、紗菜をヒロインに仕立てるため意外に、相変わらず見い出せない。

少なくとも倍以上は年齢差があるが、それを感じさせない英知の母の若さ(と作者の画力)。

そして2人の交際によって、本書に残されたのは由樹の「片想い」だけである。 しかも由樹は失恋が確定的になっているので、その前に新キャラによって作中に「片想い」を確保する。片想いがあれば作品は継続できるし、新キャラは由樹を想っているので、誰もが幸せになるハッピーエンドが用意できる。こうして主要登場人物が全員 片想いから両想いになる = 物語を畳む準備が整えられていく。

すなわち由樹と新キャラ・洵(まこと)の恋愛成就が物語の最終目標となる。よって紗菜と英知の恋愛模様は、先に幸せになった深見(ふかみ)・穂花(ほのか)ペア、陽奈子(ひなこ)・保刈(ほかり)ペア同様に、思い出した時に描かれるぐらいになるかもしれない…。作者の中でカップルの成立=安泰なので作中で放置されてしまうのだ。もうちょっと群像劇として同時進行で3~4組のカップルの それぞれの事情が描かれれば良かったのだが、どうも全員を同時に動かす余裕は作者と作品に無いらしい。複数人を同時に動かすという点は3組6人の男女の恋愛模様を描いた過去作『ハッスルで行こう』の方が優れていたような気がする。


際が始まっても2人の関係は それ以前と大きく変わらない。特定の男性と交際しても紗菜は、英知の弟・知巳(ともき)の友達に好かれたり、由樹に愛されたり、作品の姫ポジションを失わない。

相変わらず大学生は暇なので、美容師の専門学校に行っている知巳の学内コンテスト挑戦で2話分を確保する。過去作『ハッスルで行こう』は調理師の専門学校の話で学内外で色々なことが起きていたが、作者は その道のプロになる人を描く方が向いているのではないか。

紗菜は そのコンテスト会場で、それとは知らず英知・知巳兄弟の両親と出会った。


日、紗菜は偶然に英知の母親と再会する。どうやら母親は英知のアパートに生活物資を運ぶ途中だったようである。これまでの2年半、一度もアパートに現れなかった親が顔を出すのは紗菜と英知の交際を待ってのことだろう。紗菜が彼女というステータスを得たから正式に挨拶が出来る。

英知の母親は とても若い。そして長女を亡くしたとは思えない明るさだ。別に子供を亡くした親が全員 暗くなきゃいけない訳じゃないが、辛い経験をした人に見えない。

そんな明るく活動的な母親に、息子の彼女である紗菜が家に招待される。少女漫画的には相手の家に行くということは婚約の成立である。基本的に嫌なことが起きない作者の作品なので紗菜は英知の家族に歓待される。英知の母親は、料理の下手な紗菜と亡き娘を重ねたようだが、静が登場するのは その場面だけ。

私としては紗菜が静の写真や位牌の前などで手を合わせて挨拶するシーンが欲しかったが、紗菜は静のことを思い出さない。この辺が死や命の危機をヒロインが聖女であることの演出に使っているような気がする部分である。静の話を聞いた紗菜は英知の前で泣き、彼を抱きしめ、由樹の母親の事故の際にも同じことをして、男性たちを魅了している。
今回も静の思い出を語る英知を優しく包み込むことで紗菜は聖女としての役割を果たすだけである。静がいない魚住家では唯一の若い女性の紗菜が大事に扱われるし、静の不在が紗菜の得になっているという見方のは意地が悪すぎるか。


菜と英知の恋愛成就によって、物語における「片想い」は由樹だけだが、この片想いを成仏させ、そして いずれ由樹を両想いにさせるための「つがい」が登場する。

それが由樹と同学年の女子バレーボール部所属の稲葉 洵(いなば まこと)だった。洵は高校時代にバレーボール界で有名だった由樹に目を惹かれ、そして同じ大学・学部という機会を逃したまま約3年の片想いをしているという設定。こうして新キャラだけど誰よりも長く想っているという背景が作られていく。

外見は綺麗な男の子に間違われる洵だが、彼女もまた紗菜と同じく、あまり女性っぽくないのが由樹の好みとなるのだろうか。

3回目の学園祭で、紗菜のサークルは お化け屋敷を出店する。そこに洵が女友達と入り、1人置いていかれた際に、お化け役だった由樹が腰の抜けた彼女をお姫様抱っこする展開となる。
その接触で勇気を得たのか、これまで3年、何もアプローチをしてこなかった洵が、次に由樹と会った時に交際を申し込む。すぐに断られてしまったが、由樹は洵の名前を聞き出し、「変なヤツ」として覚えておくことにした。

これまで女性からの告白に冷淡だった由樹だが、紗菜の教育もあって、女性に対して優しい対応が出来るようになったということか。そして少女漫画における「変なヤツ」は、ほぼ「気に入った」と同義であって、どこでそう思ったのか多々疑問はあるが、へそ曲がりの由樹が そういう感情を抱いたのならば、洵の恋の未来は明るいだろう。

でも洵が急に告白する勇気を持てた根拠が薄弱だ。彼の優しさに2回連続 触れて想いが溢れ出したということなのか。

作中に登場する最後の「片想い」。外見は女っぽくない洵だが由樹に対しては それが有用。

ストは1年以上前の深見と穂花カップルの話。『7巻』の陽奈子に続き、放置されたキャラの恋愛譚を巻末に配置したらしい。深見なんて序盤のキーパーソンで、彼を目当てに作品を読んでいた人も多いだろうに、この扱いの悪さは いかがなものかと思う。英知にとって友人として大事な人になったはずなのに、その友情も見えてこないし。

短大生だった穂花は就職を機に一人暮らしを始めた。だが その家を覗く不審者を見かけた深見は、睡眠時間を削って彼女の警備をする。これは紗菜がコンビニバイトをしていた際の英知の行動と全く同じである(『5巻』)。女性の方が無防備で、男性が警戒心が強いのは、愛の強さにも男女差があるということか。

深見に無理をして欲しくない穂花は彼を気遣うが、深見は そんな穂花の扱いの中に1歳の年の差や学生と社会人という立場の差を どうしても感じてしまう。
だが泥酔した穂花が深見と同じ学生でいたかったと本音を漏らしたことで深見は彼女も同じ気持ちであることを確認する。そして不審者騒動も解決し、2人は ますます強い絆で結ばれていく。