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少女漫画と小説の感想ブログです

バレンタインデーは被害者になって恋愛が終わった日。文化祭は加害者になって恋愛を終えた日。

マイルノビッチ 9 (マーガレットコミックスDIGITAL)
佐藤 ざくり(さとう ざくり)
マイルノビッチ
第09巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

どブスなまいるが綺麗に変身して恋に突き進む! 幼馴染・未来からの告白の返事をするまいる。答えは「私とつきあってください!」 これで幸せになる!と思った矢先、まいるの前に元カレ成が再登場!! 人生初の修羅場勃発!

簡潔完結感想文

  • 主人公の取る行動は酷いが、内容的には面白い結論。これで名実ともにビッチやで。
  • 2人の男性 どちらを選んでも幸せになれる。と同時に、幸せになれないという二律背反。
  • いよいよ「最後の恋」が始まる。だが その前に周到にも恋の障害が用意されている。

の日、語られなかった浮気キスの真相を身をもって再現する 9巻。

主人公・まいる の赤面は当てにならないことがわかった。
まさに前代未聞(未読?)。これまで少女漫画の感想文を100作品以上 書いてきましたが、本書に似ている作品は なかなかない。そして ここまで読者に「ビッチ」と思われる主人公も珍しい。私ですら まいる の行動は好きにはなれないし、ここのところ ろくに努力をしないまま恋愛脳思考で生きているのが苦手に思えてきた。

だが それでも本書は面白い。中でも今回 面白かったのは、主人公・まいる を恋愛の加害者にしたこと。そして そのことで『5巻』で省略された当時の恋人・成太朗(なるたろう)の浮気キスの補完が出来るという点である。
『5巻』では浮気された被害者として、成太朗とバイト仲間の女性のキスを目撃した まいる。彼女の主観では なぜ成太朗がキスをしたのかは分からない。それが まいる が恋愛不信になった強烈な場面だった。だが今回、まいる は自分が その成太朗とキスをしている所を、この時点で「彼氏」となっていた未来(みらい)に目撃される。

失恋したから生まれる「元カレ」という存在。確かに愛した事実は簡単に胸の中から消えない…。

そして今回の まいる の浮気の描写が『5巻』での成太朗の心の動き そのものなのではないかと思われる。恋人でもない人からキスを迫られ、表面上は断る。だが その人に惹かれる部分を否定できない自分がいるから本気で拒絶できないままキスをしてしまう。自分が その立場になったことで浮気をする心理が分かった まいる。好きという気持ちを同時に複数の人間に持つことは可能なのである。ここまで圧倒的な被害者だったから読者の同情を集めた まいる さんだが、今回 絶対的な加害者となり未来も読者も裏切る。
ここで問題なのは『8巻』で成太朗の女友達・リカラから、成太朗の浮気は事故みたいなもので二度と繰り返さないと言われていて まいる もその論理に納得した。成太朗の浮気は、2人に距離が出来ていて、更に彼は高熱で朦朧とした意識だった。寂しさを抱える成太朗の前にキスをして欲しいという女性がいたから事故のように浮気をしたのかもしれない。

…が、まいる はどうだ。体調は万全、そして彼女は この日 未来の彼女になったばかり。この事実からするに、まいる の浮気は事故ではない。まいる は、いくら未来への「好き」の度合いが低いからといって、この日に元カレとキスをするような人間となってしまった。展開や構図としては面白いのだが、これによって今後の彼女の恋愛が純粋なものではなくなってしまったような気がする。いよいよ この後「最後の恋」が始まるらしいが、その恋が本物で、これだけ揺らぎやすい まいる の心が確定するような説得力を持ち出せるのかは甚だ疑問である。


いる の恋愛の仕方、恋愛脳も残念な所だが、彼女が何の努力もしなくなったのも残念な所である。『9巻』で恋を終わらせた まいる。それから3か月の時間経過が、まいる の禊ぎの時間になり、次の恋への自然な移行を可能にする。だが、それは まいる がモテなかった結果でもある。この間、彼女は次の恋が来るのを学校のベランダで待ち続けていた。そこに努力が見られないのが残念だった。自分から恋愛をしようと動くとロクな結果になってないが、それでも ただ待っているだけというのは残念な姿勢である。これまでメイクを頑張ったり自分を磨いてきた彼女だが、失恋後にversion3になって以降の努力が全く見られない。これによって彼女が ただの謎のモテを発揮する少女漫画のヒロインになってしまったように思える。ある種、下品なほどにガツガツしていたから応援できたのに、失恋で更に綺麗になったら待ちの姿勢で王子様に選ばれる自分を夢想している。同級生の綾乃(あやの)が自分磨きに勤しみ、恋も体当たりしている中、まいる だけが取り残されているような気がした。それなのに酷い事をした未来とも良好な関係を維持し、彼女の本性も本質も知っている友達・天佑(てんゆう)からは生き方を肯定される。何だか ここにきて悪い意味でのヒロインになっていることに辟易とした。

目標を すっかり忘れて恋愛に邁進する まいる。失恋でキレイになるが頭がスカスカに なってない⁉

恋を重ねて自分の至らなさを知るどころか、まいる が高望みし過ぎていると思うのも残念な所。
私は、まいる が成太朗を選んでも未来を選んでも人並みに幸せになれると思う。『8巻』で言及されたように成太朗はもう2度と浮気をしないだろうし、未来はそんな考えすら持たない。それなのに「絶対に この人じゃないとダメだと思える人」というユニコーンのような想像上の生き物を追い続ける様子は滑稽でもある。今回の件に関わらず、これまでの失敗・失態で自分が完璧じゃないと気づいたのだから、身の丈に合う恋愛を選ぶのも現実的な手段だ。それなのに まいる は より恋愛を純化させようとする。愛に生きて、高望みをする。これは全く恋愛経験のない人が人生の一発逆転をかけて、正直 釣り合わないような人に恋をして、自分の中だけで「真実の愛」を育てていくのと似ている。自分の欠点には一切 目を向けず、完璧な相手を探す終わりのない旅に出てしまった感じがする。少女漫画界の中でも有数のビッチとなった まいる が、真実の愛を探すという清濁の差が えげつない。


来との交際が始まった。だが唐突にキスをしようとしてきた未来を避けてしまう。これは ただの反射なのか、それとも まいる の心理状態なのか。

だが未来と後夜祭に参加しようとする まいる に成太朗が接触。そこで成太朗に「まいる はまだ俺の事が好きだよ」と断定され、まいる は それを否定できない。
この時、失恋の辛さを吐露する まいるですが、この中の「バレンタインデーになると どうしても思い出すし」と言っているが、この言い方だと別れてからバレンタインデーが もう1度きたみたいな表現ですが、実際はバレンタインデーに別れてから7~8か月で、まだ2回目のバレンタインデーを迎えていない。作者は時間経過を間違えてはいないか。

そんなまいるに真摯に頭を下げる成太朗は、彼女を抱きしめながら最後のチャンスを懇願する。顔を近づけられ、まいる は顔を背ける。だが「本気で嫌なら殴って。そしたら やめる」という成太朗の言葉に反応せず唇を受け入れる。そして その場面を未来に目撃される…。

うわーーー、これは『5巻』での成太朗との別れの原因の彼の浮気キスの逆バージョンとなる。しかし未来は まいる を責めず、冷静に まいるに説明を求める。だが その説明が未来を傷つける事を まいる は知っている。自分に都合が悪いから逃亡する。浮気のキスを目撃しても、自分がしても逃げる。精神的に弱いのだろう。

被害者意識のあった自分が、加害者になる。つくづく自分がビッチと思ったでしょう。


んな どん底のまいるの精神状態を正すのは天佑。彼の助言で、自分がどうしたいか、2人の男性からどちらかを選ぶかを決めなければならないことを自覚する。

ここで天佑がまいるを責めないのは、自分もまた道ならぬ恋をしたことがあるからだろう。恋人がいても好きになることはあるし、恋人がいる人を好きになることもある。
そんな天佑の心境を理解する手掛かりになるのは、綾乃がした天佑へのインタビュー。そこで天佑が、自分の父親と同じ年齢の女性を好きになった過去があること、そして それが原因で家を勘当されたことが明かされる。ここの天佑の会話は全て後の伏線ですね。


いるの出した答えは第三の道。どちらか迷う時点で、自分の本当にしたい恋ではない。だから未来が、全てを無かった事にしてくれても、それに甘える訳にはいかない。なぜなら きっと『5巻』の別れの際の成太朗と同じで、未来が見せるふとした表情の中に勝手に罪悪感を覚えることになるから。未来は どこまでも まいる の応援団だから彼女の決断を自分から受け入れる。自分には何の落ち度もないのにフラれる。未来の姿は過去の自分と重なる。

そして成太朗にも会いに行く。彼からも最後に熱烈なアプローチを受ける。自分はまだ成太朗の事が好き。遂に それを認める まいる。だが、成太朗とは再びつき合わない。どちらにもトキメいていたが、それはどちらも本気じゃないという証拠。
だから今度こそ本当に成太朗と別れる。成太朗から別れ際に贈られたネックレスは ずっと捨てられなかったが、それを彼に返却する。アクセサリーは愛の象徴。だから、それを手放すことが決意表明でもある。こうして成太朗との交際が本当に終わる。交際こそ あの日に終わっていたが、本当のゲームオーバー画面はここで表示されるのだろう。


うして まいる はversion3へと進化する。彼女曰く「きっと次が最後の恋」だそうだ。煽りとしては最終章開幕!と言ったところか。

1人になったまいるは、天佑だけが友達。彼の頼みごとを聞いたり、一緒に食事をしたり、髪をバッサリ切って、身も心も軽い。

だが3か月経過しても、最後の恋は始まらない。そんな頃、まいる は綾乃から天佑に過去 好きな人がいたこと、そして女の直感で綾乃は天佑が未だその人を好きだということを見抜く。いよいよ天佑への動きが見せるが、その前に しっかり障害の準備をしている所が憎い。

天佑と会った日の帰路で まいる は電車賃がない事に気づき、天佑が働き、住んでいる事務所に向かう。1つしかないベッドをどちらが使うかで揉め、友達として、精神的な父娘として2人で使うことにするが…。以下、次巻。

ちなみに これまで どれだけ容姿や服装にお金をかけても尽きることの無かった まいる が貧乏になっているのが不自然だと思った。


「マイルノビッチ 番外編 美少年 福田アレックスの憂鬱」…
アレックスが ふわり の家に来るまでの話なのかな。なんだろ、アレックス関連は全部いらない。恋愛に関する姿勢が まいる たちとは180°違って独自性はあるのだが。

「マイルノビッチ 番外編 松丸綾乃と玉井リカラの関係」…
同じ中学で反目し合っていた2人の女性同士の戦い。まいる よりも努力し、自分のことを良く知っているので好感度が高くなった2人。この2人から見ると、まいる は美味しい所を持っていくズルい人間に見える。