《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

奪うのではなく、この手で どれだけのものを掴めるか。それが人生の価値。

モノクロ少年少女 9 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第09巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

私は呉羽と結婚する──。右京のもの全てを奪おうとする黄苑の企みによって捕らえられ、監禁されてしまった呉羽。翌日には式を行う準備が着々と進められる中、右京は式当日に呉羽を攫いに行くと黄苑に宣言! 茅や蝶々も駆けつけ、波乱必至の第9巻!!

簡潔完結感想文

  • お見合いも結婚式も台無しにするのがケモノの流儀。gone girl.
  • トラウマからの脱出。奪った物は ちゃんと返す。等倍返しだッ!
  • 当て馬に当て馬が現れて、焦りにも似た新しい淡い心は一体…?

をとりあって。Let Us Cling Together、の 9巻。

『9巻』は その手で何を掴むのか、包むのか というのが一つのテーマである。
手で包む様子を表すと、抱きしめるという漢字になります。
『9巻』で何回か出てきた抱擁の場面が忘れられない。
年月の差はあれど、ずっとこうしたかった、こうすればよかったという抱擁が続く。
まさに大団円である。

少女漫画における男性のトラウマ設定に辟易する私ではあるが、
やっぱり物語に起伏が生まれ、それを乗り越えたカタルシスが、一件落着感を醸す。

本書の場合は、トラウマ以外の重大な問題が残っているため、舞台が学園に戻る。
それは分かるのだが、トラウマ編が終了しても主人公たちの恋愛が一歩も進まない事態に嫌気がさし、
重要とはいえ、ここからしばらく脇キャラの恋愛を見せられることになりそうなのは残念である。

特に茅(ちがや)は人が好きなものを好きになるようにしか見えない。
人のものを羨ましくなってしまう性格は、黄苑(きおん)と大差がないのではないか。
茅の恋で本物があるのか疑いたくなる。
当て馬に新キャラの当て馬が出てきても戸惑ってしまう。

『9巻』後半の展開は全て物語のクライマックスに必要だとは分かるものの、
期待とは別方向に物語が進められていることに少し失望してしまった。


書におけるトラウマの持ち主・黄苑は荒れている。
彼のトラウマを消去するのは、彼だけの聖母。
存在感だけはずっとあった先代の「ラビット」ウサギ、伊織(いおり)が本格的に動き出す。

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伊織の連続カミングアウト。彼女もまた期間限定の恋で、延長するために呉羽と右京を利用した。

だが、黄苑は伊織の制止を無視して、義弟・右京(うきょう)への嫌がらせのためだけに呉羽(くれは)との結婚式を画策する。
更に右京と伊織を結婚させることで、右京に一生 背負い続ける罪悪感を与えようとしていた。

にしても、王位継承者の結婚だというのに身元調査などせず、
黄苑の言うままに結婚式を挙げようとする流れはどうなのだろうか。
国王(黄苑の実父)が「遊び」として認識していれば それでいいのか。

そして変身用の粉(パウダー)を使用して外見を偽れば、結婚相手は誰でも良くなる。
こんなことが許されるのなら、単一種族による王族支配が崩れ、国家 はたまた世界の危機が訪れてしまうのに。

またまた価値観が謎すぎる。
なら種族の違う蝶々(ちょうちょう)と右京だって結婚できるのではないか。
ここ最近の流れ(種族を固定化する薬、変身による結婚が可能)は、
これまでの蝶々の期間限定の恋という切なさを台無しにするものである。

結婚式を巡る この話はドラマティックだと思うが、
勢いで全てを有耶無耶にする本書のダメな部分が出てしまっている。


婚式までの呉羽の監視に出てくるのが、
黄苑の双子の弟で、右京の2人の義兄となる升麻(しょうま)と実栗(みくり)。
初顔出しです。

彼らには右京にまつわる情報も偏見もないので、協力者として動いてくれる。
…はずだったが、呉羽と仲良くなりすぎて、お役御免。
彼らの登場は黄苑の人生を変えるための伏線でしょう。

結婚式を阻止可能な手法として考えられたのが、右京と王妃の対面。
実の息子3人を不治の病に侵され心が乱れ、
黄苑を右京として認識することで精神を保っている、この王妃。

少女漫画では、母の愛を十分に受けられないとドSになるようです。
これからはドSが出てきたら、胸キュンしないで可哀想な目で見てあげましょう。

ただし本書の場合は、母は黄苑を余りにも愛していった。
辛い現実から目を背けるために、右京という存在にすがった。

だから彼女の前に、ずっと会わなかった本物の右京が現れ、
記憶をリセットしようというのが伊織と右京の作戦だった。
黄苑に帰る場所を作ることで、彼の横暴を終了させようという試みだったが、
王妃は記憶の改変を継続してしまった。作戦失敗。
彼女もまたトラウマの持ち主。
現実で息子を失う前に、記憶から消すことで悲しみを和らげようとした。
このトラウマの解除方法は一体…。


織・右京がそれぞれに結婚式でトラブルを起こそうとしている中、
実際に動いたのは呉羽。さすが行動派ヒロインである。

元々伊織が使おうとしていたウサギ粉(パウダー)を彼女の手から奪い、
自らを2つの意味でエサにして、結婚式会場から逃亡。

列席者の中にいた右京の手を取って、花嫁は駆け抜ける。
これ、本物の式で起きたら新郎に手酷いトラウマを残すヤツである。

本書における ケモノの縁談は破談になるのが通例らしい。
これは『3巻』での茅のお見合いの一件と裏表の構図になっている。
あの時は右京が、茅の交際相手(仮)の呉羽を攫っていったが、今回はその逆。
どちらも偽装だったとはいえ、この奪還行為が愛の告白に思えてならない。
その人の隣にいるのは自分だ、と行動が言っている。


の結婚式の騒動を通して、収まるところに収まった2組の男女。

これまで呉羽に意地悪なキャラだった伊織が、見事に聖母に転生しています。
孤独なケモノの王子を救うのは、人間の女性みたいです。

そして王子たちが似ているように、聖母たちも似ている。
彼女たちは孤独だった。
その孤独が彼女たちを「ケダ高」に導き、そして その後に居場所を与えた。
王子たちよりも一足先に成長することで、彼らの手を取る包容力を身に付けた。


そうして自分の一番身近に聖母がいると気付いた2人の王子たちは、過去を清算する。
互いに互いを憎んだ過去があったから、最愛の人に出会えた。
それが分かったから、その手は奪うためでも殴るためでもなく、赦すために使われる。

右京と黄苑の2人だけのシーンは、2人とも背が高くて映えるからスタイリッシュな仕様になっている。

黄苑は完全に自己を回復して、母の前でも他者の振りをしなくなる。
彼が愛を注ぎ続ければ、きっと母の精神も回復するだろう。
だってトラウマの解消は最愛の人の愛が鍵だから。

こうして生徒会の4人は手を繋いで、日常に戻っていくのであった…。
黄苑に比べて右京は、この騒動に経ての劇的な変化がない。
やはり彼の個人的なトラウマでなかったからなのか。
通常ならヒーローのトラウマ解消が恋愛解禁の合図になるのに、そうはならない。
態度に変わりがなく、本当に これまで通りの日常が戻ってきただけ。
右京の恋愛解禁がいつなのか楽しみである。


こうして王族内の長年の兄弟喧嘩は幕を閉じる。
いやー、作品としても長かった。
トラウマ解消を失敗すること3回。
しかもトラウマがヒーロー本人にはないという難手術。
呉羽が居なかったら、伊織は人生をかけて黄苑の側にいることで彼を救ったのだろうか。

にしても少しだけ顔を出した国王(黄苑の実父)。
あいつは何をしていたのだろうか。
イケオジの雰囲気と威厳だけは出していたが、家庭内の問題をガン無視してる人。
妻も頭がおかしくなってしまって、愛人にでも逃げていたのではないかと思ってしまう。
少女漫画の男性はどんな年齢でも弱いものなのです。

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奪われた名前を取り戻して元の世界に戻っていく 第4と右京の神隠し。

ロヒョウ国の問題が解決した途端、黄苑のスパイだった黒蘭(こくらん)が退場。
生徒会選挙5位の黒蘭は、生徒会メンバーではなく補佐。
彼の父は過去の生徒会メンバーという設定から、
呉羽が居なければ自分も2代続けて生徒会になれるはずだったと、
個人的な逆恨みがあるはずで、長期休養から戻ったら一暴れしてくれる、はず。

そんな黒蘭の抜けた生徒会補佐を務めるのが転校生の雛菊(ひなぎく)。
彼は小学校までケダ高に在籍して、このタイミングで戻ってきたらしい。

ここにきて新キャラである。
編入、即、生徒会補佐というのも おかしな話。
編入試験を受けたのは彼1人であって、他の生徒には機会すら与えられてないのではないか。
まぁ、細かいことは ご都合主義な本書であるが…。

しかし茅と雛菊が似すぎていて判別に困る。
服装とか色々と違いはあるんだろうけど、似ている。
作者は白泉社漫画らしく多数のキャラを出す割に、描き分けに難がある。

この雛菊の登場によって変わるのが茅の心境。
当て馬に当て馬があてがわれて、また三角関係に足を突っ込む。

茅の移り気は、実は彼に隠された負けん気の強さなのだろうか。
自分が「ライバル」だと思った人には負けたくない。
奪われそうになると惜しくなる。
だから三角関係からしか恋が始まらない。
フラフラと浮ついた人にしか見えないが…。

でも、茅と蝶々の恋は、幼なじみの関係が、恋に変わっていく過程ともいえる。
幼なじみ漫画で言えば、1巻終盤で、幼なじみを好きな人が現れて、嫉妬を覚えるみたいな。
これは初めての恋ではないけど、異性として初めて意識し出すという甘酸っぱい感覚でもある。
読者としては初々しい恋の始まり、として読んだ方が良いのかも。

まぁ、もう『10巻』に差し掛かろうとする遅すぎるタイミングではあるが…。
これもまた最終回にむけての必要な要素なのでしょう。
ただの内輪でカップルにしたがる少女漫画の悪癖だとは思いたくない。