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少女漫画と小説の感想ブログです

その子の腕を一本ずつ持ち、それを引っ張り合いなさい。 勝った方を親友と認めよう。

青春しょんぼりクラブ 10 (プリンセス・コミックス)
アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第10巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

日御崎が好きなのは、にま。その事実に傷つく依子だったが…。一方、新たな恋の刺客・六日市は、ついににまと接触隠岐島をめぐる戦いの行方は……!!? 新世代ざんねんラブコメディー、想・恋・乱・舞の第10巻!!

簡潔完結感想文

  • にま が お騒がせな強気女性キャラに振り回されるのは恒例行事。3人目の刺客。
  • キャラはモノマネだが、恋心は本物⁉ クローゼットの中の少女霊を成仏させよ。
  • 日御崎が遂に始動。…が、予想外の方向。これじゃ当て馬の発動条件が整わない。

・恋・成・仏であって初・恋・成・就ではない 10巻。

麗亜が「れいあ」なのか「れあ」なのか、それが問題だ。
『10巻』に君臨するのは六日市 麗亜(むいかいち れあ)。
ただし私が持っている初版本だと彼女は12ページで従姉妹の美保(みほ)から「れいあ」と呼ばれている。
「れいあ」は この1回のみで、自分でも名前を レア と名乗っているから れいあ が間違いなのだろう。
もしくは性格に難のある美保のことだから、
間違って名前を呼ぶという意地悪だった可能性も捨てきれない。


日市は、これまで登場してきた香菜(かな)や さおり に続く3人目の恋の刺客。
彼女の容姿は隠岐島(おきのしま)の初恋の人・美保とそっくりで、
隠岐島の前で美保と同じ立場と言動を取ることで、彼を意のままに操るパシリにするのが六日市の計画。

それを阻止するために主人公・にまが選んだのは、パシリへの立候補。
好きな人の哀れな姿を見るぐらいなら自分が哀れになるという、自己犠牲の精神で挑む。
こうやって面倒臭い事情に呑み込まれていくのが3回繰り返される にま のパターンである。

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初対面から10分で 天然物のアホだと分かる にま に衝撃を受ける六日市の図。

ただし三度目の正直で、六日市は前の2人の刺客と違って隠岐島への好意を本当に持っている。
美保になり代わりとして隠岐島に近づき、ずっと美保として行動してきたが、
その心の扉の奥には「麗亜」の初恋が取り残されていた。


の意味では前の2人と同様に、初恋をこじらせた結果の面倒臭さと言える。
初恋をこじらせると 対して好きでもない隠岐島に接近するのが世の理(ことわり)らしい。
にまが当て馬ならば、隠岐島は かませ犬だろう。
六日市が隠岐島に執着するのは、かつて自分の上位存在だった美保の王子役だったから。

そして小さいことではあるが、六日市にとって隠岐島はピンチを救ってくれた本物の王子様でもある。
だが幼き日は、美保という圧倒的な女王の前では自分は人権すら与えられなかった。

転校を機に、隠岐島と同級生になれると知った時、
彼女は美保の仮面をつけることで、あの日 演じられなかった華やかな役を演じようとしたのではないか。
そうして彼女は主役に躍り出て、あの頃の屈辱を晴らそうとした。
だが、それも美保が自分から舞台を降りたから演じられることになった代役にすぎない。
彼女も それを分かっているから美保へのコンプレックスは消えることはない。

このところずっと感想文で「偶像」という言葉を使っているが、
偶像を追っていた初恋であった簸川や さおり とは違い、
六日市の場合は、進んで自分が偶像になった人と言える。
自分が王子の憧れのアイコンになることで、王子を掌中に収めようとした。

だが、王子は既に初恋の幻想を払拭していた。
それは本物(美保)との通話でも明らか。
美保が苛立つほどに、隠岐島は彼女の影響下から離れている。
その再確認が六日市の役割なのだろう。
両想いの準備は整いすぎているぐらいなのだが…。

六日市の登場は遅きに失した。
もし隠岐島が美保に失恋した直後から にま に告白されるまでの間に六日市が現れていたら、
隠岐島は美保の幻影を追ってしまったかもしれない。
にま は遅い彼女の転校と、告白した あの日の自分に感謝すべきである。


んな六日市の仮面を徐々にずらして、麗亜の素顔を見せようとするのが偶像破壊の神・にま である。
もしかしたら彼女のパシリ役は、六日市が六日市である時間を長くするリハビリをしているのではないか。
隠岐島の前で「美保」を演じるのではなく、
にま の前で傲慢で高飛車な ありのままの生き方をすることが、美保の重力から逃れる第一歩と考えたのかも。


今回の にま は六日市の初恋に気づいていない(多分)。
隠岐島を恋の代役に立てていた香菜たちとの争奪戦と違って、今回は本気の勝負になる要素はあったが、
にま は六日市の言いなりになることによって、彼女の闘争心を消沈させることに成功している。
こういう自分の忍耐と引き換えに、他者の心に無血革命が起こすのが にま の怖いところである。
関わった人全員が絶対に彼女を嫌いになれない、そんな無敵のスキルなのだ。

にま が六日市の初恋を知らないままなのは、
彼女の恋を知ると、初めての本気のライバルキャラとなり、
にま に遠慮が生まれるなど変な優しさを持たせないようにでしょうか。


本人登場よろしく本物の美保がモノマネ芸人・六日市の前に現れた。
その美保から逃亡するために六日市が にま の家に上がり込んでいる際に、
美保の忠告もあり隠岐島が にま宅を訪問する。
そうして あの初恋の日の再現が成されたのも、彼女の初恋が成仏される要因となった。

あの日、人として扱われない美保の家で起きた彼女にとって大切な思い出。
そして その交流を王子が覚えていてくれた。
だから嫌な記憶と嬉しい思い出の複合体(コンプレックス)は一緒に浄化された。

長い年月を経て、彼女は仮面を被らずキャラを作らない「レア」として生まれ変わる。
その象徴的な特徴が さっぱりとした新しい髪型だろう。

本書の厄介な女性の中で、初めて恋心が成仏という一つの結末を迎え、こじらせ が解消された。
しかも その初恋は関係者のみで情報共有され、
三者に漏れなかったという点も彼女の体面を守った。
もし、にま に恋心がバレたら、彼女は自分のプライドを守るために隠岐島を独占しようと更に こじらせてしまったかもしれない。


上の面倒臭い強気女子に にまが てこずっている場合に参入してくれるのが香菜。
今回も隠岐島が女子同士の友情と思い込んでいたパシリに、
香菜はガツンと物申してくれる。
香菜は いつも登場すると物語を引き締めてくれる。
にま が言いくるめられる屁理屈もしっかりと論破してくれるし、
何よりも にま の味方はいるんだよ、というメッセージになる。
隠岐島じゃダメです。役に立ちません(笑)

そうして似た者同士が竜虎相まみえる。
キュンときたのは、にまを巡って、香菜と六日市が両側から にま の手を引っ張り合う場面。
腕を引っ張ることで痛がる にまを見た香菜が、先に手を離している。

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香菜と簸川は どうやっても おいしくなるポジション。あとアニ研部長も(笑)

どちらが愛情をもって その人に接しているか分かる大岡裁きの一例である。
香菜は いい子だなぁ。

ただキャラとして万能過ぎるから、
にまが ある程度 苦しんでからの遅い登場しか出来ないのが残念。
常に にま の側にいると、他の強気キャラが近づけませんからね。


本的に異性の問題には首を突っ込まないのが青心研。
だからなのか、六日市の問題に対して隠岐島も、
そして ここのところ慧眼を発揮していた簸川(ひかわ)も今回は大人しい。

残るは同性の依子だが、彼女は彼女で別問題を抱えている。
惹かれ始めている日御崎(ひのみさき)は にま のことが好きだと判明してしまうし、
更には にま に依子の好きな人を知られてしまう。

にま に対して冷静な対応が出来ないと判断した依子は青心研を閉鎖し続け、にま から逃げ回る。
なので にま の六日市問題にも基本はノータッチとなってしまう。

以前も書いたが、にま にとって、ずっとイジられる強気な女性キャラよりも、
依子のような気を遣える優しさを持つ者同士の方が かえって互いを傷つけそうで怖い。

そんな時に起きる重大事件は日御崎が依子に交際を申し込んだこと。
これは予想の斜め上をいく展開だ。
日御崎の思考が全く読めない。
日御崎も こじらせてしまったか。


が、依子には申し訳ないが、ここで大事なのは隠岐島が日御崎の好きな人を知ったということである。
これによって、日御崎が当て馬ポジションに正式にセットされたと言える。

私の考察では、日御崎は現時点における本書の当て馬である。

かつての にま のように、彼が好意を持って にま に接近することが彼の当て馬体質発動の条件だと思っている。
逆に言えば、彼が告白など あからさまなアプローチをしないことには、にま と隠岐島は両想いにならないと踏んでいる。

だから私としては日御崎にガンガン にま にアタックして欲しいのだが、
日御崎は、まるで自分の当て馬体質発動を遠ざけるかのように、依子に接近した。

まさか何でも情報を収集している彼が自分の立場を理解して、
自分の絶望を回避するために、世界を書き換えているのではないか(中二的発想)⁉

依子と日御崎、そして部室に残された にま と隠岐島の今後が気になって仕方ない。


ちなみに『10巻』にして にま の兄弟構成が明らかに。
大学生の兄が近くで下宿しているらしい。

そういえば青心研メンバーも依子以外は家庭の事情に踏み込んでませんね。
男子たちは ひとりっ子だろうか。
白泉社漫画なら絶対に隠岐島の家庭環境に問題とトラウマがあるところだが、そんな様子もない(最後までない)。

教師といい大人たちが極力 排除されているのも本書の特徴ですね。