《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

十五、十六と私の人生 暗かった。でも十七から先の人生が明るく あるために…。

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末次由紀(すえつぐゆき)
エデンの花(えでんのはな)
第11巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

禁断の兄妹愛、最高のクライマックスへ!
――もう涙が止まらない。
実の父親・五島が、みどりを誘拐した犯人だった!!恐怖と憤りに震え、抵抗するみどり。だが五島は“13年前の火事は、自分と一緒にみどりが放火した。”と、さらに残酷な真実を告げる。その直後、時緒と正宗が助けにきて――。
事件の根底に潜む憎しみは、2人が求める楽園(エデン)をも壊していく…。運命の愛の伝説、戦慄の第11章。

簡潔完結感想文

  • 救出劇。自分を正当化する復讐のロボットに拉致監禁された みどり を救いに来る兄たち。
  • エピローグ。事件解決。ただ犯人側も被害者側も後味の悪さを残すことに。愛の試練は続く。
  • 交換条件。二階堂家の人間はディールが大好き。自分たちが有利に立つためには冷酷になる。

暗い人生から光を求めてきた数か月。だが明るすぎる炎は光を奪う 11巻。

『11巻』は誘拐事件編と、その顛末が全てなので、恋愛要素としては ほぼない。
なので再び感想文に書くことがあまりない。

事件の内容が内容のために ページをめくる手は止まらないが、
やはり内容が重すぎて、私の好みではない。

また事件解決後の展開も、またか、という辟易する内容。

兄・時緒(ときお)を育ててくれた二階堂家(にかいどう)の
「ディール(取引)」好きには、もう飽き飽きです。

みどり には時緒との恋愛の中で常に罪悪感があるから、
その心理を利用すれば、簡単に愛の障害が創出できるんでしょうけど、
最後の最後まで、この手法を使うのには納得できない。

やはり本書全体が みどり を不幸にする装置にしか思えなくなったのが残念だ。

無駄に愛の障害を乱立させただけに思えてしまう。

自らの行いを反省しても、想いを貫き通しても八方塞がりになる
救われない みどり の様子は息苦しいだけだった。

後半はサスペンスとして面白かったが、
特殊な環境が多すぎて、恋愛漫画としては楽しめないなぁ…。


をまたいで、拉致監禁され続ける みどり。

しかも犯人は実の父親で、
彼は自分の手で、みどり と妻との家庭を壊しながらも、
妻が時緒の父と家庭を営み始めたことを激しく憎んでいた。

幸せに暮らしていた みどり たち一家から両親を奪っていった放火事件。
その犯人として13年に亘り収監されていたが、刑期を終え出所。

そんな時に、偶然 テレビに みどり が映し出される。
自分の娘の姿を見た喜びから一転、
自分の妻と子を奪った男とそっくりな息子の存在。
彼の中の憎しみの炎が再燃した瞬間だろうか。

もし、テレビに映ったのが、みどり一人ならば父親は犯行に及ばなかっただろうか。

『9巻』で、時緒が関わるプロジェクトの人々が、
余計なこと(みどりの誕生日を祝福する動画に時緒の動画も加える)しなければ、
2人の幸せな時間はもう少し続いたかもしれない。

転校や引っ越しなどは不可避だが、黒い影に怯えて暮らす日々はなかっただろう。


犯人と対峙し、みどり の救出をする時緒。

この時、犯人に見えているのは時緒は時緒ではなく、彼の父の姿なのかもしれない。
もう一度、彼を殺すことで復讐は遂げられる。

だが次に彼が見たのは、みどり と心を通わす一人の男の姿。
一瞬で、彼らの間にある絆や特別な関係性を感じ取ったのだろう。

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絶望的な状況の中でも、愛する者たちの姿は美しく、だからこそ嫉妬を買う。

妻に続いて、娘まで奪われることを悟ったことが、
彼の中の憎しみの炎を最大に燃え上がらせる。
若月の男たちへの絶えることのない憎しみ。

その炎で、時緒を手に掛けようとした時、
二手に分かれていた正宗(まさむね)によって、犯人に打撃が加えられ、事件は収束しかけた。

だが、みどり の髪と頬を切り裂いたナイフが正宗に何度も刺さり…。

この事態に、時緒は「これ以上 おれから奪っていかないでくれ」と切なる願いを声にする。

この言葉に対して犯人は後に、
「なにを言ってるんだろうね なんでも もってて」と解釈する。

ここがこの人の壊れている部分だろう。

私たち読者は知っている。
時緒が「なんでも も」てるようになるまでに、どれだけの労力を費やしたか。
妹のために動く「ロボット」であり続けるためにどれだけ時間をかけたか。
育ててもらった恩との両立を図るために、どれだけのハードルをクリアしたか。

そして、最大限・最短時間での努力をしても、
その間に妹に不幸が訪れていたことを後悔してきたか。

時緒をあの男と似ているという外見や、現在のステータスでしか判断せずに、
自分が復讐のロボットに成り果てていることも気づかない男は何も見えてなぞいない。
自分の奪われたものにか勘定できないのだろう。


かし、娘である みどり との2人きりの会話の中で、
本来あったかもしれない未来の姿をみどりに示され、感情を取り戻す。

そして自分の過ちに気づき、清算することを選んだ。
ロボから人へ。そして復讐から後悔へ。

これは彼なりの罪との向き合い方だったのだろう。

あぁ、時緒とみどりの兄妹は、2人とも実の父親が炎にまかれるところ、
もっと言えば焼かれて死ぬところを見たこのになるのか…。

この二重写しの構成は悲しくも、良く出来ている。


人の死をもって事件は終結する。

何度も刺された正宗も無事。

ちなみに時緒が復讐のロボットにならずに済んだのは彼のお陰。
人間らしい暮らしをさせようとしてくれた、兄弟のように育った人の言葉が届いたのだ。


だが、犯人が「ひとつくらい 奪わないとね……」と奪ったのは正宗の命ではなかった。
そのコマで描かれていたのは、右目を強打した時緒だったもんね…。
このミスリードは上手いなぁと素直に感心します。

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全身全霊の憎悪をもって、彼らの大切なものを奪っていく。まさに悪魔の所業。

そんな時緒の現状に混乱する周囲の人々。
みどり はもちろんだが、時緒のことが好きな面々は様々な反応を見せる。

そして、みどり と対面した、時緒の育ての親である二階堂の おじさん は
ここにきて彼女に条件を付きつける。

おじさん は権力の使い方をまざまざと見せてくれます。

二階堂家の人々は情に厚いんだけど長続きしないのが難点ですね。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、というか、身内びいきが酷く、外様に冷た過ぎる。

もちろん、この条件も(本人の希望は無視してるが)、
時緒を実の息子のように思っているから出すのだろう。


この提案が、最後の大きな展開だということは分かりますが、
これまで何回も繰り返されたことをするのか、という落胆がありますね。

そしてラストの みどり は、また同じ過ちを繰り返そうとしているように思える。
成長しているようで成長していない。

同じ手法でしか話を繋げなかったことと、
強気だけど周囲の見えていない みどり は本書の瑕疵かなぁと思う。