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少女漫画と小説の感想ブログです

俺様アンドロイドの お眼鏡に適うのは 打てば響く会話の出来る知性と性能を持つヤツ。

カラクリオデット 5 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
カラクリオデット
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

近頃、学校ではオデットの怪力ぶりが噂に!? 自分の”人と違う力”をからかわれ、もう強い力を使わないと心に決めたオデット。そんな”か弱くて可愛い女の子”になりたいオデットは、朝生と一緒に体育倉庫に閉じ込められても、扉が開けられないと言い張って――!?

簡潔完結感想文

  • か弱いは可愛い ではなく強いはカッコイイが本書の美学。ヒロインだけどハイスペック。
  • オデットの第3の彼氏候補登場!? アンドロイドは無表情に捨てられる恐怖に怯えている。
  • 終盤まで新キャラを続々と投入しているけど、使いきれてないキャラの多さが気になる…。

ヒーローではなく、ヒロインが この世界のトップ オブ トップ 5巻。

白泉社作品ではヒーローが御曹司だったり学年1位だったり皇帝だったりすることが多い。それは作品世界で地位や能力が1位の男性しかヒーローになれないという厳しい世界である。
ただし本書の場合、男性、もくしくは男性アンドロイドに世界1位の者は存在しない。強いて言えばオデットの生みの親・吉沢(よしざわ)博士が そうなのかもしれないが、彼は恋愛対象外であろう。

本書が特殊なのは一応のヒロインであるオデットの方が世界1位であることではないだろうか。この世に生まれて1年とちょっとなので、ヒトの道は教わっている/学んでいる最中だから まだ人の機微に対して未熟な部分もあるが、オデットはロボット(またはアンドロイド)から見ても すぐにロボットだとは分からないぐらいの性能を発揮している。アンドロイド部門ではあるが、男性側も女性側も その世界のトップというのは少女漫画には珍しい現象に思える。

作者も創造主ならキャラに性格や役割を しっかり持たせて欲しい。キャラ数だけ増やしても…。

人になりたいが なりきれない、反対に同じロボットでも人情を理解しない行動に苛立ちや怒りを覚えるという どちらでもなく、どちらでもあるのがオデットのような気がする。これは自分のルーツに悩む人たちと共通の悩みにも思える。例えば人種であったり、ファンタジー作品であれば妖怪と人間の子の半妖などが挙げられよう。

だが世界最高峰でも、能力的にオデットより低くても彼らの悩みは共通であることが この『5巻』では読み取れた。それは創造主との関係である。上述の混血や半妖でも親子の関係は確かに見えるのが人間の血の繋がりである。ただしオデットたちロボットには その確かな繋がりを感じる ものはない。だから常に不安がつきまとう。
携帯電話の所有を巡る博士との、父と年頃の娘のような親子喧嘩をしたことは もしかしたらロボット史上初の喧嘩の内容だったかもしれないが、オデットは その時に博士に暴言を吐いたことを後に悔いる。主人の機嫌を損ねたこと、そして主人には自分の代替はすぐに用意できることなど、一度 不安になってしまうと それが尽きることはない。

ただし今回の博士の、どれだけ莫大な お金と天秤にかけても揺るがなかった気持ちはオデットを安心させるのではないか。それは博士がロボットと人の間に愛情の差を感じさせない、ある意味で変人だから成立することなのかもしれない。だが この愛情がオデットの心の部分を より一層 成長させることも間違いない。
実は時代の最高峰であり最先端であるオデット。彼女が獲得するものが、今後の世界の変化を占う大きな要素なのではないか。


ういう部分は面白く感じられるが、内容的には新キャラ投入の連続で何がしたいのかが見えてこなくて、長編としての面白さを感じられない。新キャラが出てくると、これまでのキャラクタに動きがなくなるのが残念だ。既存のキャラ同士の組み合わせでも面白い話が作れそうなのに、新キャラに集中した後は音沙汰が無くなってしまう。柚木村(ゆきむら)なんて1ページも出てこなかったのではないか。白雪(しらゆき)も朝生(あさお)やクリスと交流することがなくて残念に思う。オデットの可愛さ頼りの展開も そろそろ限界か。

内容的にも以前と重複する部分が感じられる。オデットの悩みや失敗も以前の焼き直しに感じられるし、久々に再登場したクリスも冴えない感じだった。もう少し成長を、不可逆に、そして細かく段階的に描けたら良かったと思うが、おそらく それは とっても難しいのだろうということは私にもわかる。


24話。学校内で怪力が噂されたオデットは「ゴリラ女」とあだ名されてしまったことに悩む。そして白雪から男は女に力で負けるのは あまり好まないもの、か弱いほど守ってあげたくなるものと教えられて、女性として弱くあろうとする。

そんな時、充電中のオデットは朝生と一緒に体育倉庫に閉じ込められてしまう。朝生はオデットの力で扉を壊してもらいたいが、オデットは拒否。それは可愛く思われたい乙女心であろう。夜遅くになるまで朝生の要請を拒否し続けたオデットだったが、彼にとって強いはカッコイイであることを知り、他者の価値観ではなく自分の考えや価値観のもとに動くことを決める。
マイノリティーであることや、既存の価値観の破壊など、自分らしくいるというテーマに合致した話だった。


25話はサイドストーリーで、クリスの兄弟の お話。自爆テロのためだけに作られたのがクリスシリーズたち。その中のクリス10号はイタリアに派遣される。だが目標である博士は不在で、その娘のニコレッタと家政婦しか在宅していなかった。そこで博士の帰宅を待つ10号。この辺りは『1巻』2話のクリスとオデットの話と同じである。

だが博士は家に帰ることなく旅先で死亡したという情報を知り、存在意義を失った10号。生きる気力を失っているのは娘・ニコレッタも同様。だから10号はニコレッタの元気を守るために生活する。
それは自分の生活を優先して守ろうとする人間の浅ましさとの戦いでもあった。それにしても概念上の「毒」でいいはずのものを わざわざ「ヒ素」と特定するのには何か意味があるのだろうか。私は現実の事件を連想して少し暗い気持ちになった。

そして10号は自分が誕生した意味と、この旅の目的を見つける。クリスや その兄弟たちが同時期に出発したのならば、最後の数ページは本書の10年後ぐらいの話になるのだろうか。


26話。ある日、オデットは天才科学者オーウェン博士の最高傑作アンドロイド・トラヴィスと会う。プライドの高い「俺様ロボット」であるトラヴィスにオデットは自分からロボットであることを話す。だがトラヴィスは それを信じない。ロボットというにはオデットは あまりに表情が豊かだからだ。それにしても以前からそうだったが、ロボット⇔アンドロイドの用語の不統一が気になるなぁ。

オデットは心音の有無で人かそうじゃないかを判断しているが、トラヴィスはオデットが名乗るまでオデットがロボットである可能性を考えてもいない様子。これは能力の差なのか。

ラヴィスの目的は花嫁探し。朝生・柚木村に続くオデットの相手候補なのだろうか。そうなると一番 オデットに相応しい相手と言える。

なんとトラヴィスは いわゆる「ロボット三原則」を搭載していないので人を暴力的に傷つけることも厭わない。国際条約とかないのだろうか。だがトラヴィスはオデットが身を挺して人間を守る姿を見て、彼女がロボットであることを初めて理解する。そしてオデットも出会ったロボットの中でトラヴィスが一番 人に近いと感じていた。自分に匹敵するトラヴィスがオデットのお気に入りになるのだろうか。


27話から久しぶりにクリスの帰還する。そして この頃、オデットに再び携帯電話の所有欲が湧いてきていた。

吉沢博士は友人の博士の研究所で修理をしていたクリスを迎えに行く。自力で修理せず、友人の所へ持っていく理由は不明。その友人がクリスを作ったのなら別なのだが、なぜ博士が出来ないことを友人博士が出来るのだろうか。

その研究所で出会ったのがオーウェン博士。そして彼こそがクリスの製作者だった。ただしクリスを自爆テロの道具として使ったのは別の組織だという。オーウェン博士はオデットを自分に譲るよう吉沢博士に提案する。用意した金額は100億。

オデットは高性能で市場価値がある。人が お金のために動くのはクリス10号の話で描かれた。

その話をオデットは物陰から聞いており、博士に捨てられる予感に震える。なぜなら自分は携帯電話を巡って博士に暴言を吐き、そして博士からも我儘だと叱責されたから。上述の通り、ロボットたちは自分の存在の肯定感が薄弱。人に廃棄されるかもしれないという恐怖が常にある。

しかし博士は その話を蹴ってくれた。こうしてクリスも戻り、3人での生活が再開する。オデットは博士に作られたことや、そしてクリスは博士を標的としたことは幸運という他ないだろう。相手がロボットであるから人の場合と態度を変えたりしないという点では博士と朝生は似ているのかもしれない。


28話オーウェン博士はトラヴィスとオデットの融合を試みて、究極の人工生命体を生み出すのが夢だという。オーウェンは吉沢博士にも私淑しているみたいだし、ストーカーのようになるのだろうか。

一方、吉沢博士の家出は、クリスが人の心を理解できずオデットが腹を立てる。クリスは初期化したのか、というぐらい『1巻』のような言動である。そして この時のオデットは幼い弟の行動に業を煮やす姉のような感じである。だが仲直りのための買い物に行ったが、クリスは問題の本質を理解していない。その理解の及び方の違いが2人の問題になる。

そんな2人の心の距離が出来た時に現れるのがトラヴィスだった…。


29話。オデットと一緒に入った喫茶店で、トラヴィスはオデットの食事機能に驚く。対抗意識から しなくてもいい食事を試みるが、トラヴィスは不具合を起こす。オデットが看病する手も、自分と渡り合える性能も、そして独創的な会話もトラヴィスはこれまで感じたことがなかったもの。

オデットに先に帰れと言われたクリスは その命令を果たすために家路を急ぐ。途中で車に轢かれても家に帰ろうとするクリス。それを目撃した朝生にクリスはタクシーで帰され、そして朝生はオデットがクリスを見放したことを、そしてクリスを放置してトラヴィスと遊ぶオデットを非難する。

朝生のキツい言葉にオデットは涙目になる。オデットは再び相手の立場に立つことを忘れていた。これは『3巻』の遊園地回で学んだことではなかったか。なんか同じ話題が繰り返されている気がしてならない。面白くなりそうで それほど面白くなりきらないのが本書の大きな欠点か。