《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーローの家族問題に一切タッチできないヒロインは、耐えて耐えて初めて嫁になれる。

ハル×キヨ 9 (マーガレットコミックスDIGITAL)
オザキ アキラ
ハル×キヨ
第09巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

遠距離(日本と英国)になってしまった清志郎と小春!! 志村も大活躍!? 突如、清志郎・母から呼び出された清志郎と小春は京都に! 留学へのやる気を疑う母に対抗するため、清志郎は英国へ。いきなり遠恋になってしまったふたり。清志郎と小春の関係はどうなるのか!? 感動のフィナーレをお見逃し無く!

簡潔完結感想文

  • ヒーロー家族との対決でガン無視されるヒロイン。高身長でも低学力には興味なし!?
  • 峯田一族の悪癖が出て、前回の1週間に続いて3か月連絡なし。交際する意味とは…。
  • 内助の功、糟糠の妻こそ美徳で、結婚を約束すれば全て許される感じが いまいち。

田一族の理想の嫁は こんな人、の 最終9巻。

『3巻』辺りから3回ほど繰り返された、ヒーロー・峯田(みねた)の留学による小春(こはる)との遠距離恋愛が描かれる最終巻。交際歴は1年弱なのに、峯田は一度 研究に没頭すると相手のことを忘れるという性格的欠点が再び持ち上がる。疑似的な短期留学となった前回の1週間は まだ分かるが、3か月も一切 連絡がないなんて非現実的すぎる。これは相手の心には自分の居場所がないと宣言されているも同然である。だがヒロイン・小春は それに耐える。

本書の「心優しき巨人」は、自分からは一切 連絡をしない仕事人間の男性に都合が良い女性を意味する。

最終巻が微妙なのは、女性側が一方的に耐えることを美徳としているように感じられる点である。峯田は事あるごとに小春との出会いによって自分は変わった、と何度も同じ内容を繰り返しているが、その割に何度も悪癖を爆発させて何も変わっていないように思うのが残念。最後の最後では小春に教育されて改めたみたいだが、約1年間の交際描写が全て無駄になるような3か月の放置には小春よりも読者が絶望した。

本書は男女の身長差が約30cm、しかも女性の方が大きいという既存の男女観を逆転させるような内容でありながら、男女交際としては前時代的な価値観のままなのが違和感として残った。最終巻でも小春は進路について悩んだ様子もなく、峯田と一緒にいるというニコイチの考え方しか示されていないのも その1つ。

少女漫画ではヒーローの家庭の事情にヒロインが介入・干渉することが最後にヒロインの大仕事になる。これによってヒロインの努力が描かれ、ハッピーエンドのカタルシスに変換される。全ての作品が そうあるべき ではないのは分かるが、本書は小春がヒロインとしての仕事を果たしていないという不満もある。彼女にあるのは忍耐力だけで、峯田が勝手に留学しても、連絡を一切とらなくても、小春は我慢するしかない。留学期間の途中で峯田の方が心が折れそうになっても、その背中を押すのが彼女の役割。いわゆる内助の功とか糟糠の妻という役割しか小春には与えられていないことが違和感の正体だろう。
せめて小春が進路を選ぶ際に、自分も自立していられるような職業を目標に進む などという描写があれば良かったが、結局 具体的な進路は明かされず短大を選んだということしか分からない。峯田が留学、当て馬の志村(しむら)が超一流私大に入ったのとは違いが鮮明である。

結局、小春が峯田側の家族から認められるのは、ある程度の時間経過があってのことである。例えば峯田の兄は交際に反対し続けていたが、難しい性格をしている峯田と小春が交際を継続させている事実から小春を認める。そしてラスボスかと思われた峯田の母親も最初の対面では小春は眼中になく、峯田が留学先で結果を出し、そして遠距離恋愛を貫いている事実を経て初めて、小春と息子の交際相手、または将来の嫁として会おうとする。要するに最初の対面(『9巻』の冒頭)では小春は峯田家から人権を与えられていないのだ。無視をされ、そして一族の都合に振り回され、耐えて耐えた所で初めて小春という人格が認められる。こういう失礼な点が最終巻の清々しさを帳消しにしているように思え、また そういう事情の一切無さそうな志村への読者人気が偏る原因なのではないだろうか。

体育祭の感想(『7巻』)でも書いたが、テーマの割に作者自身が小春を軽視しているような展開になっているのには首を傾げざるを得ない。そして2人の別れの危機こそ本題、というような展開の連続に辟易した。この辺のバランス感覚を修正すれば、もっと心から笑える名作になっていたと思うのに。


だ視野を広くすれば、こういう小春の性格だからこそ峯田一族の過ちが修正されていくのではないか、と思う。峯田家は能力主義個人主義が行き過ぎている。

てっきり海外、または出張暮らしだと思われた母親は京都で教授をしていることが判明する。なら未成年の息子と かの地で同居をすればいいのに、それをしない。法曹関係者らしい父親は作品に一切 顔を出さず、どこで暮らしているかも不明。もはや峯田の暮らしている実家がある必要もなく、家族の現状も あやふやである。

そうして こじれてしまった峯田の心を小春は矯正し続ける。親から放置されたことや、学力偏重の価値観から彼を脱却させたのは小春の功績であろう。そういう意味では家庭内でのトラウマを静かに回復させたとも言え、小春は紛れもなくヒロインだということが分かる。

今回、最初の3か月で峯田は再び峯田家の血に染まりかけるが、小春が連絡を入れ、そして彼に大事なものを思い出させることで、峯田一族の子は設けるが、愛情を注がないという不幸な連鎖を止められたのではないだろうか。結婚=出産ではないものの、この2人に子供が生まれても小春が しっかり愛情を注ぐだろうし、峯田も小春がいる限り、出来るだけ家に帰り、子供の面倒を見るだろう。峯田家の少なくとも祖父から続く3代の悪習は峯田で終わるだろう。小春は静かに峯田家に介入して、そして聖母となるのではないだろうか。
おそらく この道は『1巻』で峯田が恋をしていた元同級生の優秀な女子生徒では進めなかった道だろう。きっと その女性と夫婦になったら、両親と同じ道を辿っていただろう。自分よりも他者を優先できる、心の大きな、大事なことを間違えない小春だからこそ、峯田は真に幸せになることが出来た、と思われる。


春には大した能力を求められない一方、男性は超優秀な人間になっていく本書。
だが そうなると気になるのが、そもそも峯田が どうして高校受験に失敗したのかということ。そこに特別な理由を用意しないまま、途中からは この学校だけでなく、世間一般から見ても超優秀という謎の設定になっていく。
様々な格差の中での出会いがあって、そして その格差(身長や学力)が埋まらないけれど、2人は幸福な日々を過ごす(予定)、という話のようだから、これが正解なのだろうか。

また当て馬で、当初は乱暴者でしかなかった志村も学年2位になって峯田に くらいつくし、成績優秀という価値のある男性に愛されるヒロインという小春の身長以外は、全てが男性から愛されるだけの作品になってしまったのが残念だ。

そして序盤は個性的な発言が光った、小春と志村の各友人たちが終盤では大人しくなったのが残念だった。2人の遠距離問題に口をはさむ余地が無かったのかもしれないが、中盤まであった高校生たちの騒がしい日常の気配が どんどん遠のいてしまった。峯田も志村も そこまで一流の人間ではなく周囲からイジられている頃の方が面白かったような気がする。


子を呼び出した峯田の母は京都で教授をしているらしい。峯田は母とは犬猿の仲というか蛇に睨まれた蛙状態になるから、その防波堤として小春を連れて来ただけ。小春が必要なのは自分のためであって、2人の将来のためとかではないのが峯田の小さい男の部分であろう。それに こうして自分にしか興味がない、相手の都合や気持ちを考えないのは母親と同じ性格である。

その母は未成年の前で煙草をふかすという無礼かつ高飛車な態度を取る。一般的な出来る女性のイメージなんだろうけど、結局 家庭を放棄しているし、そして放任している割に進路には口出しをするという矛盾が見える。
ただ その裏には親子3代に亘る愛憎が見え隠れする。峯田の祖父も変人で、母親は援助や愛情なく自立する他なかった。だが孫である峯田には祖父(父)が甘いのが母親には面白くない。だから祖父に取られるぐらいなら自分の手元に置こうとも考える。

峯田一族の息子は自分の精神を守るために小春を利用し、母親は小春の存在を無視する。

そこで母親は息子の覚悟を示すために、翌日からの留学と、彼女との遠距離恋愛の試練を与える。こうして明日からのイギリス行きが急遽 決定する。前回の祖父の過労からの短期留学っぽいのと同じように、小春の意向などは全く加味されない。峯田はなりたい自分になって小春に見せたいから留学する。ただ話し合いが不十分な気がする。この2人は毎回そうで、2人でいることの成長が感じられないのが残念な所。


の夜、観光をしていたら京都からの新幹線の終電がなくなり、お泊り回になる。小春の両親は この急な お泊りを許したのだろうか。今度こそ別れさせられると思うが、その前に遠距離になるか。
普通なら肉体関係を含めたドキドキの展開が少しはあるのだが、本書は峯田が先にソファで寝てしまい、健全な夜を過ごす。夜、寝る前は小春が峯田を想い、彼のおでこにキスをして、朝は先に起きた峯田が小春の髪をを愛おしく撫でる。会話は不足したままである。


前の1週間の短期留学の時と同じく、峯田からは3か月一切 連絡がない。小春も忙しかろうと連絡をしない。しかも峯田は初回と同じくスマホを忘れる。いくら出発までの準備期間が短かったとしても そんなこと あるわけがないだろうに。しかも日本にいる家政夫・江戸川(えどがわ)経由で連絡なんて どうとでもなる。けれど峯田は1回も小春を思い出さないようだ…。

こうして季節は過ぎ、1年前に交際が始まり、今年も峯田と一緒に回るはずだった学園祭の季節になる。今回は峯田ではなく その兄が来校する。兄は峯田が祖父の研究に同行して、本来の予定通りに日本に帰れなくことを小春に伝える。学校に復帰せず、本格的に海外生活になるらしい。兄は峯田のためにも、彼の日本への、小春への未練を断ち切り、祖父に同行する迷いを吹っ切って欲しいと小春に頼む。

そして志村は3か月間、何もアプローチをしないまま。だが峯田一族の身勝手さを盗み聞きして堪忍袋の緒が切れる。志村がフラれても ずっと当て馬ポジションなのは、いずれ到来する2人のすれ違いの時のためだろう。

学園祭終わりに、小春は峯田に連絡する。峯田の放置は本当 何様のつもりなのだろうか。結局、自己中心的なマイペースな峯田一族の人間だということしか分からない。
小春は精一杯 平気な振りをするが、会いたいという本音を隠したままの会話は続かない。その通話を聞いていた志村が横から口を出すが、小春は峯田のためを思って、帰国しないように厳命する。小春は しっかり峯田のことを想って毎日を過ごし、そして本当に彼のためになることを自分はしたいと考えている。


分の強い言葉で峯田が自分を嫌いになる=別れることになるのではと落ち込む小春に、志村はずっと側にいてやる、と峯田ではなく自分を選ぶように小春に迫る。小春にとっては志村は友達に戻れたことが嬉しかったが、志村は友達で納まる気はない。

翌日、志村は小春をデートに誘う。これは志村の最後の願いなんだろうけど、以前の誕生日プレゼント選びでも疑似デートをしてましたよね? 内容が重複している。志村は再び、ド直球の告白をして、小春も赤面して戸惑うばかり。

そこへ峯田が帰国する。峯田は24時間ほど前の電話を切ってから、学園祭という日の意味を思い出し、約束の3か月も過ぎていることを認識する。そうして峯田は一度 帰国の途についていた。だが帰国早々に目にしたのは、小春と志村のイチャイチャ。そうして峯田は平静を装い、混乱しながら彼らから離れる。これは『8巻』の夏祭りの際の、峯田と稲葉(いなば)の壁ドンと同じ境遇なのだろう。

それを追いかけようとする小春を志村は離さない。


春がいつまでも追いかけてこないことに峯田は帰国したら別れるという小春の言葉が実行されたのではと憔悴する。2人にとって究極的な恐怖は別れること というのは一致している。だが2人とも相手に歩み寄るスキルを持たない。交際1年が経過しても いつまでも不器用で、いつまでも同じところで堂々巡りしている。

放心の峯田は実家に帰り、江戸川経由で祖父から2,3日の猶予を与えられたことを知る。そんな峯田を訪問するのは志村だった。頭でっかちな峯田の頭を整理してあげる。そういえば志村は、2人の交際前後は良き恋愛相談の相手でしたね。

夜、小春の犬の散歩中に姿を見せた志村は留学の中断を提案する。初めて他者の側にいることの居心地の良さを知った小春と別れて選ぶ道など無いというのが峯田の考えだった。
だが小春は峯田が自分のために将来を捨てることを許さない。それが2人の後悔のない道だと彼女は直感している。だから小春は改めて峯田の背中を押す。けれど連絡を頻繁にするように彼に教え込む。江戸川によって志村も空港の見送りに参加するが、彼は小春と峯田が指輪のサイズの話をしているの聞き撃沈する。これが決定打なのか、志村は その後、当て馬の動きを見せることがなくなった。


うして小春は あっという間に高校3年生になり、明日が本番という入試直前を迎える。そんな時でも2人は連絡を取り合う。

その時期にイギリスの峯田のもとに母が登場し、彼女は峯田の生き方、彼女、勉学の全てを認め始める。上述の通り、当初は無視されていた小春は、交際の継続で ようやく峯田家から人として認められる。どこまでも失礼な一族だ。

小春は短大、志村は一流大学に入学したらしい(首席だからか答辞を読んでいる)。
卒業式の日、峯田は高校に来ていた。卒業式には間に合わなかったが、その後で2人で教室で再会する。学校で始まった恋だから、どうにか学校のシーンが挿めて良かった。

その夜は同級生たちとの打ち上げ後、2人は夜の桜を見ながら語り合う。そして峯田からプロポーズされる。その2年後には一族の長というべく祖父との対面の場が設けられ、小春は峯田家に入る準備を整えていく。
結婚は少女漫画のゴールの定番であるが、上述の理由から本書においては あまり心から喜べない。最後も小春を空港に迎えに行けてないし、多忙を理由に少しずつ すれ違いは続きそうである…。