オザキ アキラ
ハル×キヨ
第08巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
峯田の留学も近づいているのに、ふたりが大ゲンカ!? ついに小春が、上から目線で峯田にキレる!? 体育祭で峯田と小春は、応援合戦の団長を務めることに。しかし、張り切った小春は足に怪我を…。それがきっかけでふたりはケンカをしてしまいます。さらに恋敵・ほたるがその機を狙って峯田に迫り!? 果たしてふたりはどうなるのか!?
簡潔完結感想文
- 不平等な扱いを受けても、置かれた場所で咲く一輪の花。ライバルとは格が違う。
- 頑張ったはずなのに心配するあまり彼氏の言葉がキツくなり、喧嘩が勃発する。
- 貴方が見せてくれた私の頭上にだけ咲く花火や、水着姿、優しい言葉を私は忘れない。
留学に出発する前にガス抜きをしておく 8巻。
『8巻』を読んで『7巻』で書いたような不満点の全部に意味があったことに気づかされた。基本、私は再読して感想を書いているので、先の展開が分かっているはずなのに、まるで初読の人の怒りのような内容になっていて恥ずかしいばかり。
感想文では留学=遠距離恋愛を勝手に決めた峯田(みねた)に対する怒りを書きましたが、今回、小春(こはる)は私が抱いたような不満を峯田に ぶつけている。自分の抱えている不満を小春が表明するのは初めてで驚いたが、今回の大きな喧嘩の経験が、おそらく これからの2人の人生でも起こるであろう些細な言い争いや不平・不満・愚痴への対処法となっていくのだろう。大きな喧嘩をすることで、それを未然に防ぐには どうしたらいいかを学ぶ。それは相手に対する要望だけではなく、自分が我慢できない点はどこなのか、爆発させることなく鎮火させるには どうすればいいのか、という自分の性格の癖を知ることも大事である。
峯田の勝手な進路決定や、稲葉(いなば)という初の女性ライバルの存在は全て小春のストレスに変換されていった。これまでは峯田が小春の精神状態を見極められたが、今回は彼自身がストレスの原因になっており、小春を救えない。
そして2人が それぞれに間違った言葉選びや行動の選択を してしまうことで2人の仲は9か月の交際期間の中で最悪になる。峯田が留学は決定しており、2人で一緒に同じ時間を過ごせる残りが少なくなっていく中での喧嘩で、不幸の連鎖のように思えた。
そんな出口のない苦しみだが、大きな視点で見れば、ここで喧嘩することは決して悪いことではないだろう。上述の通り、仲直りの仕方や回避方法が判明するからだ。これが峯田の遠距離恋愛中に起こったら、と思うとゾッとする。ただでさえ峯田の留学に小春が不安や不満を抱えているところに、峯田がナチュラル上から目線を爆発させたりしたら、小春は彼と将来もずっと一緒にいるという未来を描けなくなっただろう。今回、出発で お互いに触れ合うことが出来るし、簡単に気持ちを歩み寄らせることで大きな危機を回避できた。そして それが遠距離恋愛をしても崩れない自分たちの気持ちの土台となるだろう。不安や不満といった身体に蓄積される毒を先にデトックスしたことで彼らは きっと遠距離恋愛に耐えられるはずだ。
喧嘩が起きてしまったことを悲しむのではなく、喧嘩できる関係になったことを喜ぼうではないか、ということか。
体育祭前に足を負傷してしまう小春。それでも体育祭に参加し、役目を果たそうとするのが小春らしい生真面目さである。これは運動が苦手なこともあり体育祭を自分が汚れるイベントだと思っている稲葉とは正反対で、小春には珍しく彼女を「部外者」と呼び、峯田の彼女としての存在を見せつけている。この女性2人は身体的だけではなく精神的にも大きさが違うようだ。
峯田も応援団長として立派に務め上げ、そして志村(しむら)の挑発に乗り、彼らしくないほど どの競技にも全力を出す。そういえば峯田は運動は得意な方なんでしたね。実力者であるらしいテニス姿は1度きりしか見てみませんが。
小春は皆の期待を背負った旗手の役目を果たす前に更に怪我を悪化させてしまうが、怪我に気づいた志村のサポートもあり、何とか最後まで やり遂げる。熱や怪我といった その人の体調の悪化を気づくのは、その時点での愛が一番大きい人の役目と言える。今は峯田が応援団長にリソースを割いていることもあり、ここでは心理的に余裕のある志村が小春の異変に気づく、ということだろうか。
小春は峯田が団長として輝くことで学校中の話題を(主に女性)攫うと思っているが、両目を出した小春にも注目が集まることになる。それに峯田が焦るのを小春は知らない。ただ実際に小春が その後 モテ期到来という訳でもない。小春を鈍感にしておくためにも、そして峯田の出発前に彼の心配を具体化させないためにも この件はアンタッチャブルにしたのだろう。
応援合戦が終わった後、小春は足を踏まれ気絶。保健室で峯田からの尋問を受ける。彼も小春の不調には気づいていたようだ。そして小春が意地になるのは稲葉の存在があるからで、それは意地ではなく見栄だと峯田は論破する。峯田が小春に厳しいのは、2人が離れた後に小春が無茶をしないように教育しているのだろう。
だが その峯田の愛が分からず、小春は しばらく落ち込む(峯田も心配な気持ちが勝って言葉の選び方が雑だし)。こうして本来はチアをやりたかった小春は望まない旗手の役割であっても頑張ったのに2人に距離が出来るという微妙な展開となる。こうして小春のストレスは徐々に溜まっていくのである。
しかも小春は峯田が間接的に誘ってくれた夏祭りも意地になって彼とは行かないと宣言してしまう。さすがの峯田も自分の勝手(留学)を反省する頃となる。2人にとって絶対的に避けたい状態は、相手から別れを切り出される、という世界の終わりである。
結局、小春は友人や弟・小太郎(こたろう)たちと一緒に祭りを回る。その小春を峯田が尾行し、その彼を稲葉がつきまとう という構図となる。
しかし友人たちが恋の季節を迎えて、小春は弟と一緒に行動する。小太郎から峯田がなぜいないかと聞かれ、小春は自分の心の動きを正直に彼に話す。自分の見栄が峯田を激怒させ、そして これ以上 嫌われるかもしれない恐怖で一緒に回らないという結果になってしまった。
その話を聞いて峯田は安堵する。だが一緒に聞いていた稲葉が暴走しかけ、それを止めたいならキスをしろと峯田を脅す。だが恋愛初心者の稲葉は峯田からの壁ドンだけで震える状態。しかし その場面を小春に目撃されてしまう…。
小春は冷静に峯田からの弁解を拒絶し、そして絶望する。それは峯田との将来像が見えなくなるまでに。
週明け、2人は話し合いの機会を持つ。小春が悲しいのは稲葉との浮気疑惑だけではなく、これまでの経緯だろう。やや夫唱婦随のアンバランスな関係になっていることが小春は不満なんだ。
それに対して峯田は、ここまで来れたんなら最後まで頑張れ、と上から目線で物申す。訂正し、頑張ってくださいという峯田に対しても、小春は自分は峯田ほど強くないと、彼の自分基準の勝手を責める。そして謝罪の言葉ではなく誠意が見たいと彼に要求する。あの峯田を黙らせ、小春は彼が自分で答えを見つけるように宿題を課す。小春最大の激ギレである。普段 怒らない分、怒り方が激しい。
そんな混乱の中、峯田は稲葉に会い告白される。もちろん峯田は断る。だが これまでの女性に対して一顧だにしない峯田の拒絶よりは いくぶん和らいだ言葉がかけられていたと思う。これは彼が人の心を学んだからだろうか。だが あまりのショックで稲葉は記憶喪失になり、簡単に諦めなさそうなのが怖いが。
小春がキレキレの自分の態度を深く反省している中、峯田から花火大会の お誘いがある。だが小春が町の人たちに親切にしている間に、雨が降り出し花火大会の開催が見合わせられる。
随分、遅れて小春が到着した時は雨は上がっていたが、花火大会は中止となった。それでも峯田は待っていてくれたこと、自分に花火を見せてくれたことに小春は感動を覚える。峯田なりの距離の詰め方を示してくれて、将来もやっていけそうな手ごたえを感じたのだろう。
そんな中、峯田に母からの夏休み中に参上するように命令が下される。
その夏休みは峯田が夏期講習に行ってしまい、小春は暇。だが夏期講習は1週間だけで終わり、峯田は小春をプールに誘う。久々のデート回となるが、これは この後の波乱の展開の前の小康状態と言えるだろう。雨の日と晴れの日は交互にやって来て、雨の日の方が多いのが本書である。
小春の水着姿に動揺を隠せない峯田が可愛い。その動揺を小春は不機嫌と捉えるのは鈍感だから仕方ない。
峯田がメガネを落とし、2人は常に密着・接触した状態で過ごす。小春は もっと くっつきたい(端的にはキスがしたい)が、峯田は平常心なことが小春に自己嫌悪を覚えさせる。様子のおかしい小春を峯田が尋問し、変な空気が流れ始めるが、小春は自分の気持ちを正直に伝える。しかし2人の間に色恋もしくは性欲や肉欲を持ち出すと妙な空気になってしまう。
そのままプールを出るが、峯田は小春に恥ずかしいことを言わせたこと、そして自分も邪なことを考えていることを正直に伝える。そして峯田はキスをすればするほど別れが辛くなるから、キスを「当たり前」にしたくなかった。峯田が夏期講習に行ったのも、勉強で小春に会えなくなる これからの日々の悩みを紛らわせったかったからだという。相手の気持ちを考えずに自分の都合を優先してしまうのは いつまでも変わらない彼の欠点であろう。
でも彼が想像以上に自分を想っていることを知り、小春は安心する。相手を想い過ぎて失敗してきた2人だが、気持ちは重なった。だが そこに絶対権力者である母親からの招集がかかり…。