オザキ アキラ
ハル×キヨ
第05巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
まさかのモジャ夫の恋心はブレーキ知らずで発展中。イジメっ子でデリカシーゼロなのに甘さ糖質ぐいぐいアップ! まさに逆グリーンラベル!! 16歳の誕生日を迎えて、なんだかラブラブな小春と峯田。そんな中、事もあろうにモジャ夫こと志村が恋に落ちた!? 実は小春の誕生日にプレゼントを用意していた志村。それが原因で事態はさらにややこしく!! 【同時収録】番外編 コタ×ハル
簡潔完結感想文
- 個性的な親族に、別荘でのお泊り回、女性は無自覚の三角関係。ほぼ白泉社作品では。
- 志村視点で考えれば、峯田は比較対象の男性で、幼なじみとの純愛という利点がある。
- 志村との比較で劣等感をこじらせた「できそこないの彼氏」が暴走しませんように…。
ヒーローの持ち味を出し切って出涸らしになったら、当て馬で味変、の 5巻。
少女漫画の中盤戦を支えるのは当て馬である。『4巻』は志村(しむら)がヒロイン・小春(こはる)への恋心を明確にしていく内容だったが、この『5巻』は、恋心に気づいても相手は彼氏持ちで彼に夢中だから、そこから一歩も動けない彼の様子を動く。
当て馬が少女漫画にとって便利なのは、性別こそ逆だが叶わぬ恋を描ける部分であって、しかも読者の分身=ヒロインではないから、読者もダメージが少ない部分だろう。完全に出遅れた恋愛戦線であり、そして志村には過去に小春をイジメていた黒歴史も存在して、自分から想いを伝えるのは無視が良すぎる。その上、小春は彼氏の峯田(みねた)のことした眼中にないのが痛いほど伝わり、志村は彼らの関係に いちいち傷つく。そんな不憫な描写が続けば続くほど、読者は志村に肩入れし続けていく。不思議なもので いつも少女漫画読者は弱い者の味方なのである。
しかも志村には一応、幼なじみ属性があり、そして峯田よりも先に小春の良さに気づき、惹かれていたというアドバンテージもある。初恋の純愛度で恋に落ちるシステムであれば、志村の方が純愛度は高いとも言える。こういう想いを告げた時、大逆転が起きる!…可能性は低いが、彼の奮闘に期待したい。
そして現段階では三角関係が成立していることを認識しているのは峯田と志村、男性陣だけである。小春は無自覚なヒロインとして存在し、だからこそ峯田への心からの愛情を示すことで志村を傷つけてしまっている部分もある。
一つ心配なのは、やや精神年齢が低い小春が、この三角関係を受け止めきれるのか、ということ。無自覚ヒロインの代表格と言えば白泉社作品だが、白泉社では最後までヒロインが三角関係の存在に気づかなかったりする。それは つまり当て馬が告白しないということだ。どれだけ当て馬の存在に作品を引っ張ってもらっても、ヒロインの心の清らかさを守るために当て馬に告白を許さないこともあるのが白泉社作品だ。もしかして個性的な親族・金持ち所有の別荘での お泊り回、そしてヒロインが知らない三角関係など白泉社作品のような展開になっている本書も、志村が この気持ちを胸に仕舞ってしまわないか危惧するところである。
ただ志村の悲哀を描くために、主役たちがパワーダウンしているように見える。この三角関係は面白いが、基本的に見たいのは序盤のような2人の特殊な関係性と会話であって、ベタな少女漫画展開ではない。既に2人は交際をしていて邪魔者の峯田兄、志村の台頭と、第三者が物語を動かすしかないのは分かるが、もっとパワフルな小春が見たいし、峯田の どこを根拠にしているのか分からない自信家の部分も見たい。峯田が「できそこないの彼氏」と思うほど彼が変わっていく展開も嫌いではないが、もうちょっと小春に対して舌鋒鋭くツッコんで欲しいとも思ってしまう。
元々 学校をサボり気味だった志村だが、小春への恋心を自覚してからは彼女を避けるように学校に来なくなった。ヘタレである。そんな彼は小春の誕生日でプレゼントを用意していて、志村に忘れ物を小春が届けに来た際に彼は忘れ物の中の一つが自分からの小春へのプレゼントであることを白状する。
そんな中、一同は2年制へ進級する。この学校はクラス替えがないらしく3年間 同じメンバーで学校生活を送る。ちなみに進級時の身体測定で峯田の身長が153.6cmであることが発表される。思った以上に小さかった。
小春たち2人は いつもと変わらない日常だが、恋に気づいた志村だけが敏感になっている。峯田に対して言い訳めいたことを言ってみたり、彼をライバルだと思ってみたり。そして小春が誕生日プレゼントとして渡したヘアゴムをつけているのをみて舞い上がってみたりしている。
体力測定中にヘアゴムを落としていることに小春は気づき、学校中を探し回る。それを知った志村は自分の恋心がロストしてしまった錯覚に陥る。だが小春が必死になってヘアゴムを探しているので、志村には それが小春にとって自分が大事な人なのではないかと思えてくる。だから彼は恋心を諦めず、当て馬として正式に立候補する宣言をする(告白ではない)。
雨が酷いので志村は学校内の自分の隠れ家に小春を連れていく。だが小春は警戒心ゼロ。それが2人の現時点の関係なのだろう。志村が男として意識してもらおうとした刹那に現れるのは、志村の友人筋から情報を得て ここに来た峯田だった。彼は明確に志村に敵意を持っている。折角、友人関係として距離を縮めてきたのに、ここで成績が学年1位と2位の男たちの争いが勃発する。
この雨の日の騒動で、小春は風邪を引く。『1巻』の峯田の熱中症とは逆の風邪回である。そして昨日の峯田の態度を見て、男性と2人きりになった危機意識の低さも学んだ。
小春を保健室に送り届ける途中、峯田は志村と遭遇し、屋上に連れ立って2人男同士の会話をする。それは小春という1人の女性を同時に愛してしまった者同士の対話でもある。志村は虚勢を張って小春を落とすことなど容易である余裕を見せようとするが、生真面目な峯田には そんな論理は通用しない。誠実さがないこと、本気で何かを手にしたいと欲していないことを見抜かれ、口頭弁論では峯田の勝利になる。
だが2人を心配した小春が倒れていたため、すぐに峯田は志村に助けを求める。この辺は男としての情けなさを峯田は感じただろう。志村は そこを突こうとするが、峯田は動じない。峯田は完全に志村を運搬係としての役目だけに終わらせ、つけいる隙を見せない。そうして2人の攻防が正式に始まる。
峯田は小春の部屋で彼女を看病する中で自分ができそこないであるという認識の話題になる。だが小春は峯田が完璧じゃないからこそ、自分がいる余地があると思っている。だから格好悪い峯田のままでいてほしい。1人で生きるのではなく、2人でいる意義を見つける小春を峯田は素直に尊敬する。その思いは彼女への好意に繋がり、峯田は初めて小春に「大好きだ」と告げる。これは交際前から小春が ずっと峯田の口から聞きたかった言葉である。彼女の熱が上がってしまうのも無理はない。
小春は幸せ絶頂だが、男同士はライバル関係が続く。志村が手強そうなことを知り、峯田は少しずつ自信が揺らぐ。
その対決の舞台は、クラスメイトの井上(いのうえ)の父親が所有する別荘。そこから お泊り回となる。集団行動や お泊りを渋る峯田を、小春は彼女の特権のワガママを使って動かす。小春のやりたいことを やらせてあげてしまうのが峯田の愛である。
ただし条件として2日間自分から離れないことを提示する。志村対策である。独占欲も一種の愛だろうが、小春が思っているような純粋な気持ちではない。この お泊り回が いまいちロマンティックにならないのは、常に峯田に警戒心があるからだろう。
井上は志村も誘って、バトルを見学する予定である。もしかしたら本書で一番 高い位置にいるのは井上なんじゃないか。貴族の遊戯のように、男2人を争わせることに悦びを覚えている。
志村は自分が惨めになることを予測して最初は別荘に行かないつもりだった。これは誕生回と同じメンタルである。だが志村が小春に惹かれるキッカケとなった小学校の時の思い出がよみがえり、小春を諦めきれない(完全なる後付けの記憶である)。
幼なじみで初恋。恋愛成就の要素は いっぱいある。どちらかというと峯田が後発で、彼に勝てる要素がないのが志村視点での恋愛物語である。
志村は峯田を挑発することで彼にダメージを与える。小春に直接 好意を伝えない所が彼らしい卑怯さである(笑) そんな彼の様子は周囲にも伝わり、小春以外は全員 志村の好意を知ることとなる。
2人は対抗意識で立て続けに小春を呼び捨てにするが、彼女が反応を示すのは峯田だけ。そんな不憫な志村に読者は応援したくなる気持ちを抑えられない。読者たちの方が一歩先に、男を乗り換えているのではないか(笑)