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少女漫画と小説の感想ブログです

身長180cmの小心者ヒロイン × 150cm台の上から目線ヒーロー = 極上の青春ラブコメ!

ハル×キヨ 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
オザキ アキラ
ハル×キヨ
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

身長180cmの「心優しき巨人」宮本小春と身長15?cmの「上からメガネ」峯田清志郎。そんな2人の恋の行方は? 超ヘタレで恋とは無縁の女・宮本小春。しかし、ある日、学園のプリンス・氷川くんとなぜか付き合うことになります。それを知った高飛車メガネの峯田くんに、小春はある忠告を受けるのですが…!? 注目のネガティブ系ラブコメ

簡潔完結感想文

  • 巨神兵だって恋愛・青春したいから、この想いよ君に届け。…ん、届いていない⁉
  • 「上からメガネ」にもトラウマあり。それを克服してこそ一回り大きくなる(精神)
  • 本を読んでいると思わせて各地で情報収集をしてるから峯田は先読みが可能となる。

初にトラウマ(格好悪いところ)を共有しておけば、あとは好きになるだけ、の 1巻。

タイトルにした通り、身長180cmの小心者ヒロイン・ハルこと宮本 小春(みやもと こはる)と、身長150cm台の「上からメガネ」ヒーローのキヨこと峯田 清志郎(みねた きよしろう)の2人による「清」々しい青「春」ラブコメである。清々しくは、ないかも…(笑)

女性が男性を抱え上げる時は「王子様抱っこ」だろうか。効用は同じで胸キュンである。

いや、間違いなく清々しい。本書は身長差カップルを中心とした作品だが、作品内では決して身長差が恋愛の障害にはならない。自分より大きい女性を忌避しがちな男性は少なくないと思うが、本書で小春に恋愛感情を抱く男性たちは彼女の身長を理由にして その恋心を消そうとはしない。誰もが自然な感情として自分の小春への恋心を受け止める。
反対に峯田の場合は、女性が慎重による逆差別をしない。それどころか峯田は学年で2番目ぐらいにモテるだろう。学年1位という頭脳がそうさせるのか、よほど顔が整った造形なのか、フェロモンが強いのか。女性からの好意を一顧だにしないのが峯田だが、モテているという実績で彼は自分の身長に固執するようなコンプレックスを持たない。
2人とも、大きいから、小さいから ということを言い訳にしないし、作品側も それを理由に恋が始まらないという差別や偏見を排除している。読者の中には当事者がいるから この配慮は21世紀的なコンプライアンスである。

でも峯田を女性が慎重で差別しないのはいいが、根拠が薄弱なのは確かである。これは ちょっと少女漫画的にヒーローを持ち上げようという演出に見える。読者の中にも一定数いるであろう身長による足切りを、どうにか回避するために、作品世界では峯田は価値がある、モテるということにして読者の離脱を防いでいるのではないか。この辺は連載作品としての難しいところなのだと考える。


白いのは『1巻』全体が、2人のトラウマ発表会のようになっている部分ではないか。1話から考えると小春は初めての彼氏に初めての失恋、そして2話は、完璧に見えた峯田の側の過去の失敗と失恋が描かれている。そして3話も また自分を追い込み過ぎる峯田の失敗と言え、最後の4話も小春の幼稚園以来の天敵によるトラウマと嫌がらせが用意されている。

ハッキリ言って彼らは みっともない。でも みっともない所を見せることは相手のことを知っていくことでもある。その人が悲しい時に一番近くにいて何気なく支えてあげる。友情でも恋愛でも強い関係性が構築される時は こういう経験が必要なのである。『1巻』終了時には ほんのちょっとしか見られない恋愛フラグであるが、お互いに一番 格好悪い所を見られている彼らは同時に相手の良い所を見ていると言えよう。そういう実に人間らしい二つの側面を見られることが本書では楽しい。

例えば小春なら自分から終わらせたくない恋を終わらせた点は褒められるべきだし、峯田が常に先回りして小春を助けている点も随所で見られる。そして峯田自身は常に自分に負荷をかけ続け、時には失敗してしまうこともあるけれど、その基礎訓練が彼を強い男にしているのは間違いがない。
そうして見た目に特徴のある2人は、それぞれに相手の外見だけでなく内面も知っていく。それは彼らだけじゃなく、読者も2人を知っていくことに繋がる。このまま2人が なかなか恋に落ちなくても、2人の様子を見られるだけで幸せ、という状態まで既に多くの読者は作品に魅了されるているだろう。

特に1話は他の少女漫画では見られない構成で、少しも恋愛フラグが立っていないのが最大の特徴だろう。それは小春が別の男性に初めて恋に落ちたからで、その恋が終わったからと言って急激な方向転換をしないことに好感を持った。それでも1話が十分に面白いのはラブコメ作家としての作者の技術が そこここに光るからだろう。あっという間に恋に落ちる小春も面白いし、そんな彼女の恋心を迫害する幼なじみたちの辛辣な言葉も笑える。そして彼女に その恋を終わらせる峯田の優しい態度や、現実とキチンと立ち向かう小春も素晴らしい。1話でグッと読者の心を掴めば、恋愛フラグは必須ではないことを教えてくれた。

モテない女グループから足抜けしようにも、幼なじみとの絆は嫌になるほど強固で足を引っ張りあう。

女の逆身長差カップルを扱った作品で、本書は大きい女性と小さい男性の態度が真逆なのも特徴になっている。大きいのに小心者、小さいのに誰よりも上から目線、そんなチグハグさが妙な おかしみを与えている。

宮本 小春15歳は身長が180。同級生から巨神兵とも揶揄される心優しき巨人。恋愛どころか異性に縁がない彼女は、毒舌の友達やヲタク少女の友達と一緒に学校生活を送っている。
小春は日直の男女ペアになったクラスメイト・氷川(ひかわ)から声を掛けられたのが1年ぶりの男の人との会話だった。学校の王子様というべき氷川は さしずめ椎名軽穂さん『君に届け』の風早(かぜはや)くんであろう。もちろん小春は爽子(さわこ)である。このスクールカーストが違い過ぎる2人の恋愛も きっと作者の手にかかれば面白くなっただろう。

王子の威力は凄まじく、1日一緒に日直をしただけで奥手の恋愛初心者・小春も彼にラブレターを出しそうになる。ちなみに友人たちはアンチ恋愛で、小春が新しい世界に踏み出しそうになると全力で邪魔をする。足の引っ張り合いで人生が終わりそうである(笑)


駄箱前で逡巡する小春にジャマだと声を掛け、驚きのあまり小春が落としたラブレターを拾ったのが峯田だった。峯田は背は小さいが、学力そしてカリスマ性と清潔感なのか女子生徒から不思議とモテる。でも告白してくれた女性にも冷淡な男である。

峯田が小春のラブレターを文字通り、握り潰そうとして小春の気持ちを一過性のもので終わらせようとしたが、2人の会話に氷川が入ってきて、なぜか小春は彼と交際することになる。
その余りにも現実離れした状況を処理できず小春は倒れる。保健室で目を覚ました時に そばに居たのは峯田だった。彼は小春に やめるなら今の内だと忠告をして出ていく。

だが小春は氷川が幼なじみの女性のことを気にかけているのを知り、そして彼らが一緒にいる所を目撃してしまう。これは完全な浮気ではないけれど、峯田からの助言もあり、彼らは急速に男と女になっていることを理解し、自分から別れを申し込む。ちなみに峯田が どうして そう思ったのかは、通学中の電車内で それぞれの気持ちを知っていたから と2話で補強の説明がされる。峯田は いつも本を読んでいるポーズをしているが本当に本を読んでいるのか、という疑惑がある(笑)

峯田としては、彼の優柔不断さを利用して、幼なじみより気になる女性になることも出来たと考えていたが、小春は別れを選ぶ。峯田は自分は恋愛をするつもりはないが、恋の駆け引きに変に詳しい。読んでる本が全部 恋愛小説だったりして…。

ちなみに1話終了の時点で恋愛フラグは互いに全く立っていない。そこが本書の すごいところ。キャラの魅力と話の流れで読ませている。


川との交際により小春にモテ期が到来したかのように、クラスメイトの志村(しむら)から呼び出される。だが これは完全に いたずら だった。この時点では まさか志村がレギュラーキャラになるとは思わなかった。

実は志村よりも先に屋上に到着していた小春が出るに出られずにいると間接的に峯田が助けることになる。そして彼は学年のマドンナに呼び出され告白されるはずだったが、小春と一緒にいる場面を誤解されてしまう。自分のせいで女性の勇気が無駄になると思った小春は峯田の背中を押すが、怪力のせいで彼を押し倒してしまう。

しかも峯田のメガネを小春が割ってしまったため、ナビゲーターとして小春は峯田とメガネ屋に向かう。そこで出会ったのが峯田の中学での同級生の女性。だが峯田は人違いだと彼女を あからさまに遠ざける。
どうやら峯田が受験の失敗で この学校に来たこと、そして昨日の女性だけが合格したことが志村の情報によって発覚する。これは小春にとって氷川がいたように、峯田にとっても初恋は別の人という同等にするための話でもあるのだろう。そして上述の通り、2人が相手に格好悪い所も見せて、それを知った上でも相手に惹かれる恋の不思議を描いていく。


日後、新しいメガネを受け取りに行く際、峯田は事情を大体知っている自分の素直な気持ちを小春に伝える。だが峯田には見えていなかったが、彼の目の前には当該女性がいた。そして出来なかった告白を不本意な形で達成する。

その峯田のピンチを小春は彼を持ち上げて一時撤退を決定する。これも小春と氷川の関係で峯田が お節介を焼いたように、この女性と峯田の関係においては小春がアドバイザーになるという相似形が見られる。

そうしてメガネをかけて、新しい視界で その女性に告白する。だが撃沈。終点の海の近くの駅まで来てしまう。恋愛感情などないのかと思われた峯田だが、傷つくことはあるらしい。この失恋で峯田は(というか読者も)初めて小春の両目を見る。その姿は かなり可愛い。こうして2話目で初めてフラグが立った。

失恋は次の恋の始まり。新しいメガネに飛び込んできたのは、これまで見たことのない彼女の一面。

が峯田の胸の高鳴りとは正反対に小春の方は峯田を子ども扱いしている様子。これは ずっと男性から密かに想われる片想いが長く続きそうである。

高1の夏休みに突入した3話では峯田がハイスペックなことが発表される。どうやら中学の時にはテニスで県大会個人優勝だそうだ(この後テニスなんて1回もしないが…)。この夏休みは高校のテニス部の助っ人として練習に励むようだが、生来の生真面目さが徒となり熱中症で倒れてしまう。

小春は、頑張ってしまう峯田を顧問に代わって自宅に強制送還する役目を担う。そこから風邪回のような看病回になるが、意識が朦朧とした峯田は小春を振られた女性だと思ったりして、未練を感じさせる。これは熱中症でプライドや見栄が消える無意識レベルにならないと出ない本音だろう。
ちなみに この回では両親は出張中という設定。少なくとも母親は出張レベルではなかったと思うが。

正しいが加減を知らない小春の処置により、峯田は回復する。そこで帰り道を知らない小春を峯田が送ることになる。助けてもらったのに上から目線で物を言う峯田の性格に小春は不器用さを感じる。そして小春が相手だとズバズバと言い過ぎることを自覚している峯田は、彼女に礼としてひとつだけ言う事を聞くという。

小春の願いは、もう倒れないこと。それは意識が朦朧とした中での告白が心臓に悪いからだった。小春も峯田を男性として意識し始めたようだ。


村は幼稚園の時に一緒のクラスだったことを小春は知らされる。当時から小春は彼にイジメられてばかり。志村初登場からのタイムラグは、彼が幼稚園時代とは名字が違うという設定で乗り越える。この名字の変更が両親の離婚なのか再婚なのかは最後まで いまいち分からない。

志村によるイジメの再来を予感した小春は、友達を守るため彼女たちを遠ざけ、自分1人に被害を受けようとしていた。それを見抜くのは、学校のどこにでもいる峯田。志村の嫌がらせに対し、2人で協力する。峯田は何だかんだ優しい。そして こんな子供じみたことを小春にしたことを志村は、未来で死ぬほど自己嫌悪するだろう。

そして志村の思考が完全に分かる峯田は彼を先回りして騒動を終わらせる。頭脳明晰で情報収集能力が高いから峯田は探偵のような仕事も出来るのだろう。

志村に刃向かった形になる峯田が今度は志村のターゲットになってしまうのでは、と小春は不安になるが、峯田は強い。そして小春が遠ざけた友達たちも小春のことを思ってくれている。毒舌や辛辣な言葉はあるが、誰もが嘘をつかない優しい世界である。

こうして志村は醜態をさらし、お灸をすえられて大人しくなる。こうして失恋やトラウマを乗り越えた2人は、次の恋に進むのか…⁉