《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

身長の小さい人には衣装を特別に用意するのに、大きい人には作らないという差別。

ハル×キヨ 7 (マーガレットコミックスDIGITAL)
オザキ アキラ
ハル×キヨ
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

峯田が英国に留学してインテリメガネに!? 戸惑う小春。そして現れる恋敵…!! 一体どうなる凸凹コンビ! 峯田はおじいさんのお見舞いのため、単身英国に。帰ってきたかと思ったら、何と峯田が英国留学すると聞かされた小春。一体、ふたりはこのピンチをどう乗り切るのか…!? そして近づく体育祭。ただでさえ留学まで時間が無いのに、小春の前に小さな恋敵が…!?

簡潔完結感想文

  • 留学による遠距離恋愛問題は現実になることが決定。なら この騒動いる??
  • 2人の学校での最後の思い出になりそうな体育祭準備&初の女性ライバル登場。
  • どうも ところどころで高身長女性に配慮が足りないような描写が気になる。

唱婦随の前時代的な価値観が見え隠れする 7巻。

失礼を承知で言えば、この辺から飽きた。遠距離恋愛の確定や初の女性ライバルによる小春(こはる)の戦いなど、色々と飽きられないような工夫は見られるが、表面上のドタバタ以上の深みが全くない。作者自身が どうにか2人を一緒にいられなくなるように、関係が悪くなるようにすることに注力していて、展開に既視感を感じざるを得ない。

留学問題についても峯田(みねた)が結婚を匂わせて小春をキュンとさせることで万事解決みたいな展開になっているが、今回のイギリス行きでも峯田は自分が勉学に熱中するあまり小春を放置しているし、その放置から小春に帰国日時を伝えるのも人づてなのが気になる。「弱くなった」ことが峯田の成長のように描かれていたが、弱くなり過ぎて卑怯になっている。この1週間の遠距離恋愛も上手くいかなかった人が、どうして5年の遠距離を成功させられると思うのか(小春も含めて)。

峯田は両親が それぞれ別の場所で能力を発揮し、家庭が分解した中で成長していた。ただ両親は家庭の絶対的な崩壊には至らなかったから、それが立場ある人の家庭の保持の仕方だと思っているのではないか。
ただ それを全く価値観が違う小春との今後の生活に当てはめようとするのは間違いだろう。彼女の性格を考慮していないし、我慢を強いる。その意味では当て馬の志村(しむら)との恋愛の方が幸せになれるのではないか、と初めて思った。

今回、小春は峯田から別れ話を聞かされなければいい、と最低限の譲歩ラインを設けていたから留学を許容した。だが研究生活に没頭してしまうであろう峯田は自分の性格を全く熟知していない。この作品に峯田の父母が登場しないように、小春や もしかしたら生まれる子供を放置する未来が見えている。仲直りはしたものの、全く幸せになる予感がしない この展開である。

そして単純に遠距離恋愛問題を何度も利用するのに飽きた。前回の感想文でも書いたが、これは1回でいい。距離を感じるが、将来を約束する、でハッピーエンドでいいじゃないか。


して以前から感じていたが、身長差カップルに偏見を持たせないような心の繋がりを描いている作品なのに、身長、特に小春の側の描写に首を傾げるものが多い。

それが顕著に出ているのが、今回の体育祭の準備における峯田との差である。この体育祭で小春は本来、チアを希望していた。だが その恵まれた容姿を見込まれ応援団旗を持つ旗手に指名される。
一方で峯田は留学前の最後の体育祭ということもあり自分から応援団に立候補し、そして その かわいい容姿を売りにする目的で応援団長になる。こうして2人は、その性別や身長では珍しい役割を担うことになる。

作者も「心優しき巨人」の小春になら どんな不幸を押しつけても構わない、という考えなのか??

だが気になるのは、身長の小さい峯田は応援団の学ランが特注されるのに、大きい小春は衣装がないという理由で旗手に選ばれるのだ。この小春への周囲の態度は明らかに差別だし、そして見た目によって職業選択(?)の自由を制限している。志村が その小春の窮地を救うべく旗手に立候補したのだが、いつの間にかに その願いが特に理由もなく取り下げられているのも気になる。ここは もう少し理由が欲しかったところ。

そして もう1つ気になるの新キャラの女性ライバルの設定である。その女性・稲葉(いなば)は153cmの峯田よりも小さい。要するに作者は男性の隣には 彼よりも小さい女性がいるのが普通であって、男性は そういう基準で女性を選ぶから稲葉は強力な女性ライバルになる、と言いたいのかと疑いたくなる。

本書の序盤は身長からの解放とも言えるような、小さいけれど態度が大きい峯田と、大きいけれど小心者の小春という凹凸コンビによるコメディだった。なのに結局、身長問題を暗に匂わせ、しかも大きい女性の権利を奪っていく。
読者それぞれに抱えている悩みの中には小春と同じ悩みを抱えている人もいるだろう。それなのに作品側が女性の高身長をデメリットのように扱うことに疑問を持つ。

全体の構成もそうだが、どうも終盤にかけて工夫や配慮が足りないように思う。


父を見舞いに峯田がイギリスに行って1週間。峯田は過労の祖父のために論文の手伝いをしていた。

その間、峯田からの連絡はなく、小春は峯田家の家政夫の江戸川(えどがわ)との交流ばかり。どうでもいいが、江戸川が峯田がいないのに高級食材を買い、そして料理して峯田家の中で食すのは職務でも何でもない。賑やかなキャラを出してラブコメの雰囲気を損ないたくないのだろうが、家に帰れ、と言いたい。
江戸川にはもう一つ役目があって、小春を放置して上手く かける言葉が見つからない2人の間の伝書鳩になる。でも お互いに不器用なのは分かっているし、それを2人が独力で乗り越えるのが本書だったはず。なのに峯田に逃げ道を作っているのが気になる。

峯田は祖父の頼みとはいえ論文の作成など頭を使うことが楽しかったのではないか、と兄に指摘される。それは峯田も認める所で、そして彼は いつかはイギリスに戻って勉学に励むことを決めていた。

ちなみに この時に峯田の母は京都で研究をしていて、父は法曹関係者であることが匂わされる。利害が一致しているから結婚生活が成立しているらしいが、一体、どこで出会ったのか。そして自分の息子(特に弟の峯田)が未成年かつ、一人暮らし状態になっても それを放置することが親として正しいのかは疑問だ。エリート一家なのだろうが、家庭を持つ意味を考えていない。


の後、峯田は日本に帰る。ようやく誕生日プレゼントを渡せて、来年はステキな日にしようと提案する小春だったが、峯田は来年のことを約束できないという。

どうやら峯田の中では留学の意思は固まっているらしい。あちらでの進学準備のための留学が1年、大学が4年、そして大学院に進学すれば5年以上 離れることになる。だが その話を いきなり聞かされた小春は思考停止する。こうして彼が戻ってきても幸福は戻らない。

結局、少女漫画に安定的な幸福は似合わないのだ。2人に危機が訪れればネタ切れは回避できる。

気の抜けた小春は電車を乗り過ごし、気づけば海の見える駅に降り立っていた。これは『1巻』で峯田が中学時代に憧れていた女性からフラれて 辿り着いた場所と同じですかね。小春の絶望もそのぐらい深いようだ。

峯田は小春が海にいることを志村経由で聞く。それに対し落ち着き払う峯田に業を煮やした志村は自分が小春のいる場所に向かおうとするが、峯田から小春が待っているのは お前じゃないと言われる始末。悪い意味で空気が読めない上から目線で、初めて峯田より志村を応援したくなってきた。

江戸川の運転によって小春に会いに来た峯田だったが、小春は てっきり峯田から別れを切り出されると思い逃亡する。分かれないで済むなら5年でも10年でも待つほどに小春は峯田を想っている。

峯田にとっての海外や留学は普通の人との感覚が違う。距離があってもサクッと戻ってこられると思っているのは、峯田一族のグローバルな部分で、その財力も充分にあるからだ。だから小春が10年待てる、というのは峯田にとって嬉しい情報なのである。両親の生き方を見ているから、離れたって夫婦生活は継続できる。そういう考えで峯田は動いているらしい。

峯田が再び機械的な思考になっているように思えてならない。離れるにしても もう少し峯田の側の誠心誠意を見せるべきなのではないか。


程は未定だが峯田の留学は予告される中、学校イベント・体育祭の準備となる。この学校での日々が少なくなっている峯田は積極的に行事に参加しようと応援チームのリーダーに立候補する。

この体育祭編で登場するのが新キャラ。1年生の稲葉(いなば)ほたる。どうやら彼女は峯田に好意を抱いているらしく、峯田の彼女に小春は相応しくないと思っている。そして稲葉は手段を選ばず2人を引き離そうとする。初の女性ライバルの登場だが、またも第三者によって掻き回される展開である。

彼女は中学時代の峯田の後輩で、今よりもずっと尖っていて、女性からの告白に対して冷酷だった峯田を目撃して峯田に告白できなかった女性である。稲葉の登場が、新年度すぐではなく、このタイミングで彼女が登場するのは、小春の身辺調査が終わったからなのか。稲葉の方が峯田を好きな期間が長いというアドバンテージが用意されているが、いかにも後付けの設定であるから根拠としては弱すぎる。彼女によって2人の関係が壊れるとは とても思えない。インパクトに欠けるし、性格的に可愛げもない、早く去ってくれないかなぁと思ってしまうのが残念である。

それに女性ライバルはヒロインに嫌がらせをしたら追放される運命。小春を騙して密室に閉じ込めた時点で彼女の勝ちはない。というか稲葉の存在は志村が得をするためだけにあるような気がする。動かない志村に代わって稲葉は志村を間接的にサポートするためだけに存在するのか。

小春は卑怯な手段に出る稲葉を叱るが、稲葉には そんな説教は通用しない。本性がバレても彼女の嫌がらせは続くらしい…。もう いいって。