《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋人との険悪な雰囲気からの逃亡だけでなく、任された看護からも逃げ出す無責任ヒロイン。

微熱少女〔小学館文庫〕 (3) (小学館文庫 みC 6)
宮坂 香帆(みやさか かほ)
微熱少女(びねつしょうじょ)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

検査入院をすることになった里菜。忙しいヒロとは気持ちもすれ違いがちで、気分はすっかりブルーです。おまけに、入院先の病院は有馬の実家!有馬に迫られているところを運悪くヒロに見られてしまい、ヒロとの仲が超ピンチに!!しかも、イライラの募ったヒロがライブ中に有馬を殴ってしまい…!?

簡潔完結感想文

  • 2連続で大勢の前でキスをすることで戦意を削ぎ、ライバルが自然消滅という消化不良。
  • 少女漫画の中盤を支えるのは親族。親代わりの人に認めてもらって結婚の準備は万端!?
  • 新学期は新キャラ参入の季節。1年前と同じく男女各1名が、同じ役割を果たす再放送。

ロインだけじゃなく、ヒーローもなかなかに狭量だと疑わざるを得ない 3巻(文庫版)。

『3巻』は比較的 平和な巻である。序盤と終盤を除いては2人の交際の様子が しっかりと見られる。
ヒロの祖父が登場する中盤は、作風もコメディとなり作者の工夫を感じた。この間はヒロインの里菜(りな)が一人で勝手に不機嫌を募らせて泣き喚いたりしない分、読者の心も穏やかさを保てる。このコメディ回では里菜が久しぶりに努力をしている様子が見られたことが良かった。里菜の性格と相性が良いのは同性ライバルではなくて、自分の恋に反対する親や親族を何とか認めさせようとする展開なのだろう。これなら彼女の大暴走が好意的に受け入れられた。

動けない祖父を看護するはずが、看護ストレスで里菜は祖父がピクリとも動かなくなるまで斬る!?

ただ問題なのはコメディ回であっても、ヒロインの里菜の逃亡癖が抜けないこと。ヒロから頼まれた祖父の看護を放置したのには彼女の無責任さと幼稚さが表れていた。そして気になるのはコメディ回では里菜の体調が すこぶる良好なこと。全速力で逃亡しても、大立ち回りを演じても倒れる気配どころか体調に異変が起きない。これは いちいち里菜の体調に気を遣うとコメディに振り切れないからだと推測するが、これまで逃亡と同じように場面転換に体調悪化を便利に使ってきたのに、それを無いことにするような ご都合主義な展開は笑えない。マンネリ展開から抜け出すために新しい活路を見い出そうとしたのだろうが、残念ながらコメディと本書の相性は悪かったか。シリアスになると急に倒れだすのには失笑してしまった。

あと気になるのはヒロインの視野の狭さと、ヒーローであるはずのヒロの心の狭さ。2人のケンカは ほとんど里菜が悪いかと思いきや、ヒロも自分の想いが伝わらなかったり、思い通りにならないと不機嫌になる場面が散見される。これによって双方とも悪くなるし、仲直りしても同じようなことで また喧嘩をするから進歩が見られない。交際を通じて阿吽の呼吸を会得するとか、歩み寄る様子が一切見られないから、読者が交際を見つめ続ける喜びに欠ける。

ただ、里菜が高校1年生の時に出会ったライバル2人、百合(ゆり)と有馬(ありま)に関しては、そのライバルの攻略法を見つける際、里菜の両親がそれぞれに関わっていた。もしかしたら これは年長者が導いてやらないと まだまだ未熟な恋であることの表現かもしれない。
『3巻』では里菜が高校2年生になり、新年度では新たに2人のライバルが加入するのだが、この2人のライバルをどう退けるかで里菜とヒロの成長が描かれるのかもしれない。1年時の再放送のような同じ展開が続くが、少しは成長した所を見せてほしいものだ。


頭は有馬編の続き。ヒロが心無い発言をしてしまったことを反省し、仲直りをしようと思った矢先、里菜には有馬が近づいていた。有馬の挑発にヒロは応えなかったが、里菜も無視する。ヒロはそこまで臨機応変な対応が出来ないのだ。里菜はヒロの対応がただただショック。

失意の中、里菜は検査入院を終える。「とくに異常はみられない」が、予防のためには検査は定期的に受ける、そして身体に無理な行動はさけるよう言われる。有馬としてはヒロとの交際で悲しんでばかりの里菜を救いたいという気持ちがあるのだろう。これは後半に登場する也汰(なりた)も同じ心境である。

退院後、勇気を出してヒロに会って仲直りのキッカケを探そうとする里菜。だが この2人はお互いに他人の話を聞いたり、自分の反省を述べる前に、相手の欠けた部分を指摘するようなところがあり、それでは亀裂を深めるだけ。こういう点が、この交際がちっとも上手くいっていないと思う点で、1つの章のラストで仲直りしても、その期間が短いため、すれ違いやケンカのシーンばかりになる。幼過ぎる面があるから謝ったり譲歩したりもしない強情さばかりが目につく。

問題解決の契機は、ヒロと里菜の父親の会話。そういえば第3の刺客・百合の時は、里菜の母親が普段はさせないような無理をさせて愛を守っていた(『2巻』)。里菜の両親は、危なげな2人の恋愛を正しい方向に導いてくれる良き年長者である。裏を返せば、この2人には自分たちで自分たちの問題を解決できるような能力がないということだ。


うしてヒロは、正々堂々 有馬に立ち向かう。里菜の誕生日でもある体育祭の開催日に、彼は奮闘を誓う。しかしヒロは空回るばかりで、競技で活躍も出来なければ2人での話し合いも上手くいかない。

ヒロがアンカーを務める部活対抗リレーで彼は疾走中に、里菜と有馬を認め、コースを離れる。全生徒が見守る中、ヒロは里菜への想いを改めて言葉にする。その素直で嬉しい言葉に里菜は、彼に恋した最初のキモチを思い出す。
観衆の目の前でキスを交わし、恋愛がうまくいくジンクスのあるハチマキを交換するのであった…。

有馬もまた百合と同じように、衆人環視の中での2人の熱烈なキスの前に自然に敗北していく。百聞は一見に如かず、というか、2人のキスを見て入り込む余地がないと諦めるのだろうか。しかし有馬に関しては もっと話を膨らませて複雑に出来たのではないか、と思う。有馬の胸にある傷は、里菜と同じく心臓を患い、そして手術した痕だろう。そういう同じ境遇を用意したにもかかわらず描き切れずに終わったのは作者の力量不足だろう。風呂敷を広げようとして急に畳んだ感じを受ける。


節は足早に過ぎ、早くも年末で2回目のクリスマス回となる。
1年前はヒロが里菜の両親に交際の許可をお願いした日。交際1周年ということもあり、里菜は2人きりを期待するが、ヒロは家の大事な用があるということで会えないらしい。けれど年末を前にクリスマスに病院に検査に向かった里菜が病院から出るとヒロが待っていた。どうやら家の大事な用は、2人のゴシップを求める周囲の目を欺くための嘘だったらしい。それなら後でフォローすればいいのに、そうしないのは親の許可なく自由に連絡を取れない仲だからか??

だが2人きりのデートは失敗続き。夏に行けなかった海では飛んできたゴミに里菜の服が汚れる。そのことをヒロに知られないように行動が不自然になった上、次に行った遊園地もクリスマス当日ということもあり大混雑。順番待ちにコーヒーを買うが、互いに遠慮をしていたら里菜が汚れてしまった。
そこでヒロは里菜の服が海で汚れたことも悟り、自分の行動が裏目に出たこと、そして里菜が自分を立てようと我慢していることを知る。その気遣いがヒロには恥のように思え、彼は里菜に棘のある言葉を投げつけてしまう。ケンカになる度にヒロの器の小ささが露呈していく。

里菜は里菜で鋭い言葉に対して、逃亡するしか能がない。しかし雨が雪に変わると、ヒロが里菜を探し出して仲直りする。クリスマス回は大きな事件が終わって、順調な交際を描写する目的なのだが、2人の欠点が目立つ。


いては初詣回。これも2年連続の行事となる。悲しいことに里菜の両親と一緒になるというのも2年連続。
人混みの中、両親からワザと離れて2人きりでお参りをする2人だったが、やがて里菜はヒロとも離れてしまう。更には自分の後ろを男が追尾していることに気づき里菜大ピンチ!!

身体や心臓が弱い、無理をしてはいけない、なんてことは忘れて全力疾走。そんな娘のピンチを両親が見つけ一家総出で痴漢を撃退する。今回はヒロはヒーロー的行動をせず遅れて合流する。

これには訳があった。後日 招待されたヒロの家から出てきたのは、その痴漢! その人物はヒロの祖父であった…。

ヒロが里菜一家に認められる一方、里菜はヒロの家から否定される。順調な交際は一転、2人はロミオとジュリエットとなる。ヒロの家は男系家族なので、その頂点に君臨する祖父の反対は絶対的。そして祖父はヒロの弓道の師匠でもある人だから、ヒロは頭が上がらない。里菜はヒロインらしく、ヒロの祖父を攻略しようとするが…。

里菜は持ち前の空回り力で、祖父の機嫌を損ねるばかり。祖父の目を逃れて里菜の家にやって来たヒロは、自分と祖父の特別な交流を話す。ヒロは「小さいときから高校に入るときくらいまで ほとんど毎日じーちゃんと一緒にいた」らしい。つまりは里菜と出会う直前までということ。これまでで一番ヒロの人生に影響を与えた人だということが分かる。これが百合みたいなライバルだったら、自分の知らないヒロの過去を知っている人は妬ましいが、親同然の親族なので、里菜は心を通わさなければいけない相手である。少女漫画において親族と会うのは結婚への関門と同義であろう。里菜はヒロの家の「嫁」になれるよう努力することを誓う。

祖父の飼い犬が匂いを辿り、ヒロを追って祖父が里菜の家に来るが、その際に腰を痛めてしまう…。


ち上がれないヒロの祖父の看病で里菜は自分の株を上げようとする。が、やはり空回る。互いに相手を泥棒だと思い、里菜は日本刀で祖父を叩き切りそうになるなどヒロの家は大混乱。里菜は自分の失態から逃亡し、腰が悪く動けない祖父を放置。内容はコメディでこれまでとは違う展開が見られるが、自分が任された祖父の看護を放置する里菜には開いた口が塞がらない。ヒロに嫌われると思っての逃亡だが、自分がヒロの大切な人を放置している現状は全く考えない。

そんな里菜を正しい道に戻すのが、外出先からのヒロからの電話。里菜の大変さを気遣った電話をもらい、里菜はようやく自分が逃げたことを反省し、冬場に動けない祖父を廊下に放置したことを思い出し、急いでヒロの家に戻る。

だがヒロの家には本物の泥棒が侵入していた。祖父は拘束され、やがて里菜も泥棒に見つかってしまう。それでも身を挺して祖父を庇う里菜の姿を見て、祖父の態度も軟化する。久々に里菜が努力を見せる回だったのではないでしょうか。最初から本物の泥棒が来る展開で、一度、里菜が責任を放棄するターンはいらなかったかな、と思いますが。


くも季節は4月となり新年度を迎える。ヒロは3年生となり一緒にいられる時間も1年弱となる。
えっと、この1年で何か同じ学校で良かった事ってありましたっけ!? 思えば半分以上ライバルとの闘争に明け暮れている。里菜も弓道部に入ったはいいが、上達したなどの進歩が見える部分がなく、相変わらず恋愛脳一色の高校生活である。学校イベントも体育祭ぐらいか。

新年度は新キャラ登場の絶好の機会。そういえば昨年も4月以降に新キャラ3人が続々と参入してきましたね。
新入学生の1年・土井 也汰(つちい なりた)のせいで今年も里菜は入学式に闖入してしまう。彼はヒロと弓道大会を通して顔見知りになった人だという。也汰は憧れの存在であるヒロを追うことで、その周囲に居る里菜と自然と交流が増え、里菜と也汰は姉弟のような気の置けない関係を構築していく。

そして新キャラの もう1人は転校生として里菜のクラスに入る吉川 涼子(よしかわ りょうこ)。転校生で内気な彼女に里菜は面倒を焼き、仲を深める。涼子はヒロやリュウジたち3年生が転校後にも、里菜の高校生活を楽しめるようにするための配置とも言えるのかな。

教室で独りでいる涼子に里菜はヒロが出演するバンドに誘う。外見が地味だから不釣り合いという涼子を里菜が変身させてあげることに。里菜がメイクした涼子は化粧が濃く見えて それほど可愛く見えないが、涼子はここから自分を磨き始める。いずれライバルになる涼子に最初の一歩を踏み出させたのは里菜自身なのである。

ライブを見た涼子が気に入ったのはヒロ。友人同士、気が合うということか…。

里菜は涼子とヒロを引き合わせた張本人。自分のライバルを自分の手で育ててしまったジレンマがある。

菜によるメイクのお陰で、自分に自信がつき、前を向きようになった涼子は、その行動もフットワークが軽くなり、ヒロとの接点を持つ。2人が自分の知らない所で仲良くなっており、里菜はまたヒロや涼子に直接を話を聞かないまま2人の関係を妄想し、一人で勝手に落ち込む。

そして涼子との友情が深まる度に、彼女が憧れるヒロが自分の彼氏だと言うことを言いづらくなる。それを言うと彼女が元通りに戻り、自分と会話をしてくれなくなると思ったからだろう。こうやって現実逃避をして、問題を放置するから状況は悪化する。そして弓道部にて1年前と同じことが繰り返されようとしている。

しかし自分を磨き始めた涼子はますます綺麗になっていき、更にはヒロを追って弓道部に入部したことで里菜は追い込まれる。こうして目立たないはずの涼子は、いつの間にかに かつての百合ポジションになり、里菜の方が劣等感を覚えるようになる。涼子を好きだと思う気持ちと、邪魔だと思う気持ちが里菜の中で共存していく。

こうして出口の見えない問題を前に里菜は倒れる。倒れるのは久々ですね。コメディ回では全力疾走してましたからね…。部活動に出て2人の様子を監視したくても、熱のせいでそれも叶わず、それが里菜の悪い予感を膨らませる。そしてヒロとの関係に安心した直後に、他愛無い口喧嘩が始まり彼から逃亡する。

その逃亡先で出会うのが也汰。里菜の涙を見て彼は里菜を抱擁するのだが…。
地味なはずの涼子はいつの間にかに百合と同じ存在感を発揮し、最初は反発していた有馬と同じように也汰もヒロに振り回される里菜を放っておけなくなる。人の配置が全く同じの再放送が今、始まる!