《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

御曹司が初めてバイトで稼いだ「一万円の使いかた」。ヒーローになる費用なら安いもの。

甘くない彼らの日常は。(3) (デザートコミックス)
野切 耀子(のぎり ようこ)
甘くない彼らの日常は。(あまくないかれらのにちじょうは。)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

お泊まりで屋台のバイト!? みんなと過ごす、はじめての熱い夏がやってくるーーー! 校則で禁止のバイトを見つかったことがきっかけで一条礼、家入雪之丞、そして五嶋千尋の問題児3人組のお世話係をしている女子高生の七海緑。緑の頑張りがあって、3人は登校するようになるなか、緑は自分を助けてくれる礼に恋心を抱きはじめる。宿泊研修期間で距離が縮まった礼への想いが募る緑。一方、千尋も緑のことが気になって…!? 好きばっかりが 増えていく。イケメン問題児3人組と緑の三角関係から目が離せない!ドキドキスクールデイズ第3巻!

簡潔完結感想文

  • お泊り回からの勉強回からの お泊り回。女1男3の逆ハーレム イベントの花火が連発。
  • 序盤は男女が2人きりになると身の上話が始まったが、中盤からは恋バナをし始める!?
  • 困窮ヒロインが浴衣を着るためにスポンサー登場。季節イベントへの執着が すごい…。

角関係が始まりそうな気配はヒロインの自爆テロで霧散する、の 3巻。

本書における個性とは、=(イコール)家の問題である。例えばヒロイン・緑(みどり)は父親の借金により苦学生になり家族のために献身的な働きをしている。そうして読者や作中の男性から偉いと思われることで、3人の男性を侍(はべ)らせても何一つ疑問に思われない地位を手に入れる。

いや変だって。それこそ緑に敵対的な態度を取る雪之丞(ゆきのじょう)じゃないが、既に緑は この3人の こじらせ男子たちに関わる理由を消失している。3人は もう緑が何も言わなくても学校に来るだろう。そうして不登校が終わった男子たちに緑は保護者のように つかず離れずの距離でいるのなら いいのだが、彼女は恋のために自分の特権的な地位を手放さない。その鼻息の粗さは少女漫画における女性ライバルの それである。言い方は悪いが貧乏を免罪符にして生きている彼女だが、冷静に見た時、女1男3で ずっと行動している不自然さと厚かましさは常に存在している。私は本書の そういうバランス感覚の欠如が あまり好きではない。

以前の感想文で緑は「サークルクラッシャー」だと書いたが、もう一つサークルを例に出せば「オタサーの姫」だろう。作中で3人の男性がイケメンだと言う設定になっているから その様子は夢のように映るが、これが現実のマイナー部活動・サークルだったら地獄絵図だろう(マイナー=アレな人々という事では決してないよ☆(炎上防止))。

どこへ行くにも何をしても男を3人引き連れないと行動できないのか、と緑の心理状態が理解できない。緑の立場は少女漫画的には憧れの状況だが、彼女が身近にいたら嫌な人間だ。本書の他の女性の描き方にも悪意を感じる。イケメン3人と写真が撮りたいと どれだけ他の女性が願っても緑以外は許されない。研修合宿で同じ班になりたくても、夏休みに一緒に遊びたくても それは同じ。モブ女性と緑の格差に唖然とする。緑は借金苦を抱える庶民なのに、まるで上級国民が庶民をバカにするような絶対的な地位の違いを作品が見せつけている。本書が女性の多くは「オタサーの姫」の地位に憧れているという事実を炙り出しているのなら面白いが、「オタサーの姫」を侮蔑的な言葉として使用しているような女性が本書に耽溺しているようなダブルスタンダードが見え隠れする。


して個性=家といえば千尋ちひろ)の問題である。彼の実家はヤクザの五嶋(ごしま)組という設定である。

緑は千尋に偏見を持たないが、恋心も持たない。なぜならヤクザ問題に踏み込むと ややこしいから!

これこそ この設定が使いたいだけで、千尋や緑にヤクザについて深く考えさせたりしない。千尋は幼い弟妹を実家がヤクザであることから守ろうと必死の優しい人間として、設定を利用しているが、では彼が実家の稼業について どう思っているかなどは描かれない。高校生にもなれば、千尋が この先 組を継ぐとか そういう問題も視野に入ってくる頃だが、千尋に関してはノータッチで終わる。

そして千尋の家問題についてノータッチで終わらせるためにも、作品は彼が緑に告白することも許さなかったのだろうか。緑は作中で かなり有名らしい五嶋組のことを全く知らない。無知であるから偏見も持たない聖母として彼女は描かれるが、もし千尋が緑に告白し、そして もしも彼女が交際するとなったら千尋の家のことを考えずにはいられなくなる。

でも本書が欲しいのは ただヤクザの息子という個性。緑は千尋の家庭環境を決して恋の決定打にしないが、その反面、作品は最初から千尋との交際を考慮していない。千尋の恋心は生まれる前から消滅することが運命づけられているのだ。しかも緑にヤクザについて考えさせないために、告白することすら許されていない状況になる。

偏見を持たないみたいな表面上の態度は見せつつも、結局 千尋は その行動が制限されている。千尋の設定は親が犯罪歴があるとかではダメだったのだろうか。暴力行為ではなく横領とか窃盗とかをして逮捕されたが、今は真面目に働いているとか。それだと金銭的余裕がなくて緑が玉の輿に乗れないのか。結局、金と顔という最低な恋人の選び方である…。

何も考えずに読める内容にしている作品に文句を言うのは筋違いかもしれないが、真面目に読もうとすると腹が立ってくる作品である。講談社「デザート」作品なのに、白泉社のような選民思想がある。あちらは意識的に そして戯画的にしているが、こちらは作者も読者も選民思想に気づいているのか怪しいところだ。


宿泊研修の次は勉強回。千尋が期末テストで補習の危機なので皆で勉強。学校イベントを駆使して3人との距離を縮める意図は分かるが、イベントに頼り過ぎという気もする。

千尋の5歳の双子の弟妹が駄々をこねたので、開催場所が千尋の家になる。ヤクザの五嶋組の家に入ってきても緑は偏見を持たない。天然ヒロインなんだろうけど、ここまでくると ただ常識がないように見えてくる。
それでも家の中で いかにもな風体の男性たちを見たりはする。しかし それはチンピラ役としての役割。彼らに千尋の彼女だと勘違いされて困っている所に登場するのが礼(れい)。ヒーロー的登場だが、礼には きっぱりと高校の友達と認定されて緑は落ち込む。本来は友達と言われるだけでも進歩したと思うぐらいの最初の関係性だったのに。

千尋は幼い弟妹が世間から後ろ指を差されないように幼稚園の送迎や行事などで自分が先頭に立って参加しているという。それが千尋の「優しさ」なのだろう。弟妹を大事にするヒーロー候補といえば里中実華さん『雛鳥のワルツ』を思い出す。あちらも自分の個性として弟妹をダシにしてたなぁ…(失礼) 大きく括れば緑と千尋は家庭環境に悩むが家族のために自分の出来ることをしている者同士だろう。それは父親から逃避する礼とは問題の向き合い方が違う。


末テストの次は夏休み。勉強回で4人での お出掛けの約束済み。
4人が緑のバイト先のイタリア料理屋で会議をしていると、男性陣も懇意の そこのオーナー女性から2泊3日で海でのアルバイトを打診される。お泊り回である。学校はバイト禁止だが緑が理事長に話を通す。つくづく緑は この作品内で ワガママ放題しているなぁ。緑は間違いなく偉いと思うが、作品内の彼女だけが「女性」という地位を与えら、男を侍らすことを許されているのが疑問。

緑はバイトが終わった その日の夜、犬の散歩中の礼に遭遇する。2人きりになると身の上話が始まるのが本書。今回は、飼い犬が母親から息子が1人きりにならないように間接に送られた大切な存在だと言うことを話す。意地悪過ぎる物の見方だとは思うが、こうして自己憐憫をしてると母の死すら装飾品のような扱いだなぁ。

こうして お泊り回を前に、緑・礼・千尋の3人の恋愛ゲージがマックスになる。何かが起こりそうな予感をさせて、いよいよ夏休みが始まる。


4人が担当するのは屋台のカキ氷の売り子。バイトが初めての男性陣はミスが多く、接客の心構えがなっていない。そこで緑が適材適所で3人に仕事を割り振る。ここで礼と自分を一緒の仕事にしたら読者から総スカンだっただろうが、接客担当に人当たりの良い自分と雪之丞を選んでいてホッとした。

ただし交代で入る休憩は礼と一緒。2人きりになので身の上話が始まるが、今回は緑と出会ってからの話になる。『1巻』1話で7万円を手切れ金のように差し出した礼だったが、こうして働いて金銭を得ることの苦労が身に沁みてわかった。そうして心から無礼な働きの反省をする。これでチャラになり、無礼から無が取れて礼になる。個性的なヒーローが いつの間にかに丸くなるのは少女漫画あるあるで、キスとか暴言とかを撤回しないまま なし崩しなことも多いが、礼は きっちりと謝罪をする。ここからの姿勢が彼の本当の真価になるのか。

緑が寛容に許すことも礼の好印象となる。自分の不幸を こじらせて いつまでも進めない男たちとは違うのだ。


、民宿のベランダで弟・紺(こん)への電話を終えた緑のもとに、千尋が風呂上りに涼みに来た(まるで宿泊客のような満喫ぶりだ)。

男女2人きりだが、もう身の上話は語り尽くしたからなのか ここからは男女が出会うと恋バナが展開されるようになる。彼ら3人とも彼女がいないことが明かされ、緑は内心 喜ぶ。そこで今度は千尋が緑のことも聞き出す。そこで緑は顔を赤らめた上に、自分の礼への恋心を自爆的に千尋に伝えてしまう。緑の自爆行為は千尋の恋心までも巻き込んで成仏させてしまった。千尋は自分の心を押し殺し、礼に緑の恋心はバレていないと彼女を元気づける。冒頭の五嶋家での礼からの友達宣言と同じように、緑は千尋に間接的に お断りしている。でもこれ、無自覚ヒロインが、自分の安全を確保するために先手を打って線引きをしたようにも見える。告白を断る労力すらもヒロインには かけられない、という過保護なのか。


が そんな2人の嬉しそうな会話の様子を礼が目撃し、翌日は調子を崩す。千尋は緑への当て馬というよりも、自分の感情に鈍そうな礼に対する当て馬のようだ。要するに千尋は踏み台なのか…?

3人のイケメンの集客効果もあり、氷の在庫が無くなりバイトは早めに終わる。そこで4人は呉服屋の宣伝も兼ねて浴衣を着せられ、お祭りに参加することになる。緑は家計的な問題から、そして他の3人は興味がないから浴衣イベントが出来ない所を、どうにか実施しようと言う苦肉の策を感じる。作者の仕えるイベントは全部使おうという執念を感じる。

地元から離れて逆ハーレム浴衣イベント開催。モブの女子生徒から憎まれることもありません。

祭りの最中も礼の不調は続き、緑を避けているような行動に出る。礼が避けると自然と千尋との会話の機会が多くなり、それがまた礼の心にモヤモヤを発生させるという悪循環に陥る。
ここで昨晩、緑の恋心を知った千尋が気を利かせ、花火の場所取りを頼み、彼女を礼と2人きりにする。千尋と雪之丞は2人きりになった時に恋バナをする。雪之丞は緑が礼に近づかないために、千尋と緑のカップリングを狙っていたようだ。千尋が緑に対する気持ちを保留、もしくは消滅させるなら再び雪之丞が妨害に出るのだろうか。


して礼は2人きりになった時、千尋との接近について緑に聞く。昨夜の緑の自爆告白を聞かれたのかと思い緑は焦るが、そうではないらしく安堵する。それが礼には自分には聞かせられない千尋との秘密の会話に思え、彼は先に帰ると民宿に戻ろうとする。それを追いかけた緑が男性にぶつかり、その人のTシャツを ほんの少し汚してしまう。そこから因縁をつけられ、緑が男性に強引にナンパされそうになる。そこに現れるのは やっぱり礼。礼が登場すると男性は今度は金銭を要求し始める。そこで礼は今日の自分のバイト代から1万円札を抜いて男性に渡してしまう。

その多すぎる額に緑は自分が肩代わりすることを申し出るが、礼は「大した金じゃない」と1話のような態度を取る。昨日、お金の大事さを語った彼とは まるで違う様子に緑は戸惑う。らしくない、と彼を責めるようなことを言うと「俺の なにを知ってんの」と逆ギレする始末。

この あんまりな冷淡な態度に緑が涙を流すと礼はバックハグで、千尋とのことが気になっての八つ当たりであることを正直に話す…。